王牙転生~鬼に転生したゲーマーは流されるままに剣を振るう~

中級中破

文字の大きさ
28 / 99
第二部 聖女

第二十八章 リンセス(挿絵あり)

しおりを挟む
 膠着した街の現状。それはまた豪勢な神官騎士のお出迎えだった。正確には神官騎士達というべきか。
 ヒーラーが多すぎるんだが。
 こんな編成は初めて見るな。ヒーラーなどどこも不足しているイメージだったがここにきて大盤振る舞いだ。俺が散々ディスった近接DPSもこの編成なら相当に強い。これが本来のスタイルか。
 幸いというべきか魔法使いはほとんどいない。シノも今回は髑髏を顕現して火力に回っている。だがやはり手強いな。近接DPSを擁する編成で防御の陣を固めている。つまるところ大量のヒーラーに手が届かない。こちらに致命傷を与えれる近接が常にまとわりついている上にサポートが万全で数が減らせない。シノの魔法は強力だがヒーラーとは相性が悪い。そもそも魔法は神の加護と相性が悪い上にヒーラーは無駄に神の加護が多い。仕留めるなら近接で加護を削るか、爪と牙で加護を抜くしかない。
 しかし手ごわいな。この素手近接、モンクでいいか、も老人以上に完成度が高い個体が居る。数は多くないがオーガを仕留める事が出来るのは脅威だ。幸い俺は交戦経験があるから衝撃を受け流しているがその頻度が高く衝撃を地面に流してもそのダメージが抜けきらない。それもそのはずコイツラはヒーラーの援護で打ち放題だものな。俺も相棒を短く持って対処しているがサブウェポンが欲しい所だ。打ち合うのではなく仕留めるためのショートソード。それに準じた武器が必要だな。
 他の場所を見ても苦戦している。あの大盾もヒーラーの援護下では力を発揮しているようだ。盾というより壁か。それを展開して殴りつけている。あれもある意味近接DPSか。単体では弱いがこの環境下では色々な役割が出来ているようだ。
 唯一の勝機は消耗だな。人間はどうしても疲労が出る。俺が相手にしているモンクも加護が陰ることはないが集中力が落ちている。事モンクの衝撃は集中が必須な領域だ。休息のために下がろうとはしているが俺が下がらせない。こいつはここで仕留める。脅威度はグレートソードに劣らない。追いつ詰めてでも殺す。
 
 この膠着した状態を打開したのが爆炎だった。言葉通りの巨大な火の玉がヒーラーの一群を襲う。生成魔法かと思ったがそれだけではないようだ。銃声が混じっている。それもヒーラーを狙っているようだ
 どういうことだ? この街は交易地で人間が死守するのはわかる。それを邪魔する人間が居るのか?
 流石に神殿騎士たちの動きも慌ただしくなってきた。本来ならこのままこのモンクを仕留めたい所だが、この好機を逃がすわけには行かないか。俺は前衛を潜り抜けるとヒーラーに肉薄する。ここまでくれば剣はいらないか。相棒を鞘に納めて爪と牙に魔素を流す。一方的な蹂躙劇を思い描いていたが中々どうして爪は当てられても牙での死傷は防がれている。腕は食えても首が取れない。このままでは蘇生させられる。やはり生存に特化した構成は強いな。
 俺が諦めに似た変な関心をしていると先ほどの生成火球が飛んでくる。これを発動しているのがエルフか。ゴブリンの方ではないな。確証はないが相方の方だろう。案の定ヘイトを稼いで狙われているな。
 俺は一声咆哮を上げるとエルフに突っ込む。そして手でエルフを掴むと同時に視線を塞ぐ壁を大地の支配で立てる。
「ゴブリンか?」
 一応確認するがやはり違うらしい。何かのジェスチャーをしているが言葉も表情も伝わらない。せめてシノが居れば何か助言があっただろうがどうしたものか。取り合えず下すとついてくるように促してくる。あまり協力関係を見せるのはコイツラの立場が悪くなると考えていたが、もうそういう状況は超えているようだな。俺は頷くとエルフについていく。シノはまだ戦闘中だな。いま髑髏の火力が抜けるのは得策ではない。俺だけで行くか。

 着いたのは石造りの頑丈な建物だった。道中の魔物は俺がリンクで説得し、人間は蹴散らしてここまで来たがあまりいい雰囲気ではないな。拘置所かその類の建物だろう。地下から魔素を感じる。俺は石造りの建物に大地の支配を流すとその建物ごと放り投げた。
 その地下室と思しき場所では変わり果てた姿のゴブリンが居た。
「旦那・・・?」
「生きているか?」
「はー。相変わらず無茶苦茶だな」
 無茶苦茶なのはお前の姿だ。
「でもそっか。こいつを守ってくれたんだな。旦那を信じて良かった」
「その体は奇跡で治るのか?」
「無理だ。俺達に神の奇跡は振り向かない。
でもいいさ。俺はそんなものいらない。俺は魔物だ。ゴブリンだ。俺は望んでこうなったんだ。
良い時間だった。俺のくだらない人生より。何倍も。
ありがとうな旦那。あんたに会えて本当に良かった」
 俺の返事を確認すると加護を展開する。子エルフとの最後の時間に使うのだろう。

「待たせたなダンナ」
 その一声に流石の俺も驚きは隠せない。これはゴブリンの声ではない。女の声だ。子エルフの声か。
「脅かせちまったか。オレはこいつと一つになった。これからは一緒に生きるんだ」
 金色だった髪が水色に、水色だった瞳が金色に輝いている。。エキゾチックな民族衣装は肌の露出が多い。肌の色の白も最初からだったか。
「そうか」
 確かにコアが二つある。機能もしている。
「これからはオレの事はゴブリンプリンセスのリンセスって呼んでくれ」
(あの人がつけてくれた名前だから)
「確かにそのセンスはゴブリンのものだな」
「だろ。こいつはオレの嫁だからな。オレだけのお姫様だ。誰にも渡さねぇ」
(あの人はもう誰とも私以外の誰とも添い遂げない)
「確かにな。一途な所もあった。まさかあの子エルフをここまで守り通すとは思っていなかった」
「なんだよ。オレにだって甲斐性ってもんがあるさ」
(あの時あなたが居てくれたから私たちは結ばれた)
「そんな大層なものか。お前たちは俺が居なくても結ばれていた」
「ダンナ。ありがとう」
(旦那。ありがとう)
「逝ったか」
「逝ってない。あの人はまた帰ってくる。私の所に帰ってくる。絶対に帰ってくる」
 リンセスのその言葉に俺は噴き出した。笑いが止まらない。
「そうだ。そうだった。リンセス。お前は知らないだろうが魔物は望んだ姿で生まれてくる。ゴブリンもそうだ。アイツは不満そうだったがいつも楽しそうにしてた。そうだ。アイツが帰ってこない筈がない」
「ダンナ。最初から気付いてたの?」
「魔物のリンクで大体はわかる。それでも気持ちの整理がつかない奴を一度見ているからな」
 シノの時はもっと酷かった。バレても続けていたからな。それに比べればまだ軽症。流石はゴブリンの連れ合いだ。
「リンセス。暫くは俺達と共にいろ。とりあえずは生き延びる方法だ。アイツは帰ってくるだろうがお前は戻れるとは思えない。まず死ぬな。俺達は最前線に立つがお前はまず生き延びろ。そのためなら俺達を見捨てても構わん。そこはゴブリンから学んでいるだろう」
 頷くリンセス。決まりだな。後はこの街を占拠してこの長い戦いも終わりか。



Tips補足
ここでリンセスはゴブリンのコアを取り込みツインコアになっている。その時点でゴブリンは死んでいた。
それを受け入れずゴブリンと一体化したことで生きていると思わせようとしたが、魔物のリンクで王牙にはそれがただの演技であることがわかっていた。

ゴブリンに回復の奇跡が効かないのは、ゴブリンのエルフ化はコアによる擬態というのが一番近い。
人間種と誤認させることで神の奇跡などを欺けたが、自身の体に作用する回復の奇跡は効果が限りなく低かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

処理中です...