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第三部 魔族
第三十九章 帰郷(挿絵あり)
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帰った早々激戦区行きだった俺達はリンセスの住む古城跡に来ていた。
「何をしに来たのダンナ」
やはり歓迎はされないか。リンセスは抱いていた子供を降ろすとその前に立ちはだかる。
あの時、シノが転生に向かった直後だ。荒れていた俺は正常な状態ではなかった。シノのことを聞かれ苛立っていた俺はリンセスたちと敵対した。手は出さずともその信頼は打ち砕かれただろう。
「お前は一体何をやらかしたんだ」
シノだ。なんと説明したものか。
「シノ・・・じゃない。それは誰。ダンナあなたはここに何をしに来たの」
マズイな完全に臨戦態勢だ。
「まてリンセス。私だ。この指輪を見れば証明になるだろう」
盾から降りて来たシノが左手を見せる。俺の作ったダイヤの指輪。旗折り(フラグブレイカー)だ。
「本当にシノなの」
「そうだ。コアは失ってしまったが間違いなく私だ。どうだ。奇麗になっただろう」
「どういうこと」
「私は生まれ変わった。魔族のシノに。今までの成長できない私は私が捨てた」
しばし二人は見つめ合う。どうやらわだかまりは消えたようだ。ならもう俺の役目は終わりだろう。だがリンセスに呼び止められた。
「ダンナは、何か言う事はないの」
「俺には何もない。邪魔をしたな」
「そうじゃない。なんで何も言わないの」
なんだ? 何を言えばいい。
「俺は結局何もできなかった。後始末はつけた。もうここには来ない」
「馬鹿かお前は。謝罪だ。許すと言っているんだ」
「俺は・・・」
誤って済む問題とも思えない。
「ならちゃんと説明して。どうして私達を捨てるの」
馬鹿な。それはない。
それを否定しようとしたが目に涙を浮かべるリンセスを見て俺は膝を折った。
「すまなかった。俺にそんな気は一切ない。これ以上お前たちを傷つけたくなかった」
「ダンナ。私怖かったんだよ。ダンナが私達を本当に殺そうとしてるのかって」
「それはあり得ない。・・・そうかすまない。お前が怖がっているとは思ってもいなかった」
「ダンナは私を買いかぶり過ぎだよ」
「そのようだ。すまなかった」
それを聞いたリンセスはかぶりを振った。
「それはいい。だけど約束して。私達にはちゃんと話して。私達はダンナを信じてるから。ダンナも私達を信じて」
「心得た」
「うん。おかえりなさい。ダンナ」
その顔を見てようやく俺は自分のしでかしたことの重さを知れた。転生を重ねたわけでもない女の子になんて顔をさせていたのか。俺の本当の罪は笑顔を奪った事か。ならそれを返すまでだ。
「ただいまだ。シノ。リンセス。ようやく俺は帰ってこれた。礼を言う。ありがとう」
「私もだ。私も捨てたものにこれほどの価値があるとは思ってもいなかった。リンセス。王牙。ありがとう。今私も帰ってきた」
「おかえりなさい。シノ。ダンナ」
そうか。俺はこのためにここに帰ってきたのか。
事が終わった後、俺はリンセスに借り出されていた。何でも一度甘えてみたいという事だった。母親として子の世話をしている自分を褒めて欲しいとのことで、胡坐をかいた俺の左ひざに頭を乗せている。普段はする側だからこそ自分も体験してみたいということだろう。流石にこれは夫であるゴブリンとは役割が違うのだろうな。俺は相槌を打ちながらリンセスの頭を撫でている。
「ねぇダンナ。もう少しだけ甘えてみてもいい?」
「やりたい事があるならやっておけ。悔恨は残すな」
それでも逡巡していたリンセスだが意を決して口を開いた。
「お父さんって呼んでもいい?」
「ここだけならな」
やはりそういう役回りだろうな。父性に飢えているのはなんとなく感じていた。こういうおままごとも時には必要なのだろう。
だが始まったのは違った。俺ではなく実父に向けられた言葉だろう。決して届けられない言葉を形にする。俺はただそれを受け止めていた。
「ありがとうダンナ」
俺は返事代わりに頭を撫でる。これで終わりかと思っていたところにゴブリンがやってきた。
「お、横取りか」
またか。冗談とわかってはいるがこのシチュエーションではな。嫁を迎えに来たと思っていたが俺の右ひざに頭を乗せる。
「お前もか」
「俺もずっと父親役だったんだぜ。流石に疲れるっての」
「嫁の前でそれを言うのか」
「ううんいいのダンナ。この人が頑張っているのは私が一番知っているから」
「あいつらの前でもそれ言ってくれよ。立つ瀬がないぜ」
「だめよ。甘えるのは二人きりの時だけ。子供たちの前ではしっかりして」
「へいへい。だったら今は問題ないよな」
「うん。愛してるゴブリン」
「お、俺もだぜ」
そして手を絡める二人。
「俺はラブチェアーかなにかか」
「ダンナは私達の恋の天使でしょう」
「だ、旦那がキューピッドは流石にキツイw」
「やれやれだ。このおままごとが終わったら呼んでくれ」
「旦那がオママゴトに付き合うなんて珍しいな」
「今回の俺は借り物だからな。本当につまらないオママゴトなら剣の錆にしたことはある」
「え? どんなの。聞きたい」
「つまらん話だ。お前らを狙っていた悪徳領主だ。奴の敷いたオママゴトは過去最悪だった。我慢しきれずにぶち壊したからな」
二人の笑い声が重なる。こんなオママゴトならもう少し続けてもいいか。
漸く解放された俺は見知った顔を見つけて声をかける。あの狙撃オーガだ。古城の一角に鍛冶場を作っている。だが意外なことに言葉がない。魔物のリンクで大体の事はわかるが会話が出来ないタイプだ。
鍛冶が出来て会話が出来ない。銃を知っているということは転生者だと思うが、これで転生者は全員会話ができるという前提が崩れたな。大地の支配についても違う。俺は石が主だが狙撃オーガは金属を取り出せる。そのぶん汎用性は落ちるだろうが鍛冶においては圧倒的に有利だ。
まさかのオーガの大地の支配まで効果が変わるとは、俺とは違う異世界なのだろうか。
転生の前提がだいぶ崩れてきたな。ここはゲームではなく現実だからそう簡単な仕様ではないのだろうな。ゲームに似てるというだけで厳密には違うものなのだろう。これの把握もまた必要だな。
「何をしに来たのダンナ」
やはり歓迎はされないか。リンセスは抱いていた子供を降ろすとその前に立ちはだかる。
あの時、シノが転生に向かった直後だ。荒れていた俺は正常な状態ではなかった。シノのことを聞かれ苛立っていた俺はリンセスたちと敵対した。手は出さずともその信頼は打ち砕かれただろう。
「お前は一体何をやらかしたんだ」
シノだ。なんと説明したものか。
「シノ・・・じゃない。それは誰。ダンナあなたはここに何をしに来たの」
マズイな完全に臨戦態勢だ。
「まてリンセス。私だ。この指輪を見れば証明になるだろう」
盾から降りて来たシノが左手を見せる。俺の作ったダイヤの指輪。旗折り(フラグブレイカー)だ。
「本当にシノなの」
「そうだ。コアは失ってしまったが間違いなく私だ。どうだ。奇麗になっただろう」
「どういうこと」
「私は生まれ変わった。魔族のシノに。今までの成長できない私は私が捨てた」
しばし二人は見つめ合う。どうやらわだかまりは消えたようだ。ならもう俺の役目は終わりだろう。だがリンセスに呼び止められた。
「ダンナは、何か言う事はないの」
「俺には何もない。邪魔をしたな」
「そうじゃない。なんで何も言わないの」
なんだ? 何を言えばいい。
「俺は結局何もできなかった。後始末はつけた。もうここには来ない」
「馬鹿かお前は。謝罪だ。許すと言っているんだ」
「俺は・・・」
誤って済む問題とも思えない。
「ならちゃんと説明して。どうして私達を捨てるの」
馬鹿な。それはない。
それを否定しようとしたが目に涙を浮かべるリンセスを見て俺は膝を折った。
「すまなかった。俺にそんな気は一切ない。これ以上お前たちを傷つけたくなかった」
「ダンナ。私怖かったんだよ。ダンナが私達を本当に殺そうとしてるのかって」
「それはあり得ない。・・・そうかすまない。お前が怖がっているとは思ってもいなかった」
「ダンナは私を買いかぶり過ぎだよ」
「そのようだ。すまなかった」
それを聞いたリンセスはかぶりを振った。
「それはいい。だけど約束して。私達にはちゃんと話して。私達はダンナを信じてるから。ダンナも私達を信じて」
「心得た」
「うん。おかえりなさい。ダンナ」
その顔を見てようやく俺は自分のしでかしたことの重さを知れた。転生を重ねたわけでもない女の子になんて顔をさせていたのか。俺の本当の罪は笑顔を奪った事か。ならそれを返すまでだ。
「ただいまだ。シノ。リンセス。ようやく俺は帰ってこれた。礼を言う。ありがとう」
「私もだ。私も捨てたものにこれほどの価値があるとは思ってもいなかった。リンセス。王牙。ありがとう。今私も帰ってきた」
「おかえりなさい。シノ。ダンナ」
そうか。俺はこのためにここに帰ってきたのか。
事が終わった後、俺はリンセスに借り出されていた。何でも一度甘えてみたいという事だった。母親として子の世話をしている自分を褒めて欲しいとのことで、胡坐をかいた俺の左ひざに頭を乗せている。普段はする側だからこそ自分も体験してみたいということだろう。流石にこれは夫であるゴブリンとは役割が違うのだろうな。俺は相槌を打ちながらリンセスの頭を撫でている。
「ねぇダンナ。もう少しだけ甘えてみてもいい?」
「やりたい事があるならやっておけ。悔恨は残すな」
それでも逡巡していたリンセスだが意を決して口を開いた。
「お父さんって呼んでもいい?」
「ここだけならな」
やはりそういう役回りだろうな。父性に飢えているのはなんとなく感じていた。こういうおままごとも時には必要なのだろう。
だが始まったのは違った。俺ではなく実父に向けられた言葉だろう。決して届けられない言葉を形にする。俺はただそれを受け止めていた。
「ありがとうダンナ」
俺は返事代わりに頭を撫でる。これで終わりかと思っていたところにゴブリンがやってきた。
「お、横取りか」
またか。冗談とわかってはいるがこのシチュエーションではな。嫁を迎えに来たと思っていたが俺の右ひざに頭を乗せる。
「お前もか」
「俺もずっと父親役だったんだぜ。流石に疲れるっての」
「嫁の前でそれを言うのか」
「ううんいいのダンナ。この人が頑張っているのは私が一番知っているから」
「あいつらの前でもそれ言ってくれよ。立つ瀬がないぜ」
「だめよ。甘えるのは二人きりの時だけ。子供たちの前ではしっかりして」
「へいへい。だったら今は問題ないよな」
「うん。愛してるゴブリン」
「お、俺もだぜ」
そして手を絡める二人。
「俺はラブチェアーかなにかか」
「ダンナは私達の恋の天使でしょう」
「だ、旦那がキューピッドは流石にキツイw」
「やれやれだ。このおままごとが終わったら呼んでくれ」
「旦那がオママゴトに付き合うなんて珍しいな」
「今回の俺は借り物だからな。本当につまらないオママゴトなら剣の錆にしたことはある」
「え? どんなの。聞きたい」
「つまらん話だ。お前らを狙っていた悪徳領主だ。奴の敷いたオママゴトは過去最悪だった。我慢しきれずにぶち壊したからな」
二人の笑い声が重なる。こんなオママゴトならもう少し続けてもいいか。
漸く解放された俺は見知った顔を見つけて声をかける。あの狙撃オーガだ。古城の一角に鍛冶場を作っている。だが意外なことに言葉がない。魔物のリンクで大体の事はわかるが会話が出来ないタイプだ。
鍛冶が出来て会話が出来ない。銃を知っているということは転生者だと思うが、これで転生者は全員会話ができるという前提が崩れたな。大地の支配についても違う。俺は石が主だが狙撃オーガは金属を取り出せる。そのぶん汎用性は落ちるだろうが鍛冶においては圧倒的に有利だ。
まさかのオーガの大地の支配まで効果が変わるとは、俺とは違う異世界なのだろうか。
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