王牙転生~鬼に転生したゲーマーは流されるままに剣を振るう~

中級中破微小提督

文字の大きさ
41 / 99
第三部 魔族

第四十一章 ベルセルクヒーラー(挿絵あり)

しおりを挟む
 ベルセルクヒーラー。
 元聖女の魔物アリエスの姿はまさにそれだ。俺達は監視と新魔物運用のために付き合っているがとにかく前に出たがるのだ。
 その時の掛け声は何時もこれだ。「神の威光を示す」。無駄にデカイ体で、無駄にスピードの出る蛇の体で特攻していく。ヒーラーにスピードがあるのはとても良い事だがそれは突撃するという意味じゃない。しかも今は加護付き弓兵がいる可能性もある。最前線でもなければ出てこないだろうが矢の普及が早まればその限りではない。体の大きさがアドバンテージになる時代は終わっているだろうからな。
 体の大きさと言えば蛇女は魔素の回復自体も行えるようだ。自身の体を花のように咲かせてその胞子を浴びた魔物の魔素を回復できる。いわば単発式魔素ジェネレーターだな。体の高さを上げるほど胞子の範囲が広がり滞留した時間が増えるのに応じて魔素の回復量も増える。逆を言えばここが弱点だ。高さを保てば的になり、低ければ効果が薄い。前線ではなく下がって使うのが理想だな。弓兵が本格的に稼働し始めたら戦闘区域では使用が出来なくなる可能性もある。
 それもあって前線で活性化、下がって回復というのがベターなわけだが・・・、アリエスの場合は胞子を蒔きながら自己強化を施している。
 ヒーラーでありながらヘイトを一身に受けるヒーラータンクというある意味正解なのがまた質が悪い。前線で暴れるアリエスの援護をする俺が弓DPSでシノも魔法DPSとして機能している。人間側から見れば蛇の巨体が街中を縦横無尽に這いずり回っている。それを見れば俺でもそいつにヘイトを向けるだろう。だがこれは散発的な戦闘なら問題ないが前線を組める最前線の人間には効かないだろう。それに魔物側の前衛も動きづらい。俺が弓を持っているのもそのせいだ。ヘイトが動きまくる上に蛇女の巨体が邪魔で敵よりも味方の動きに注視しなければならない。攪乱効果は高いが実質効率的に人間を片付けるなら不向きな構成でもあることがこれで知れたというのもあるな。
 そして何よりも問題が、やはりアリエスは人間を攻撃できない。正確には止めを刺せない。吹き飛ばすなら問題ないがトドメとなる爪を使う事が出来ないでいる。見かねた俺が大地の支配の石棍棒を与えるとそれは使いこなす。だが黒曜石の剣は駄目だ。典型的な刃物が使えないタイプだ。元人間で元聖女ともなればそれはそうだろう。それ故にある意味ヒーラー職である蛇女が最適なのだが、その戦闘センスは前衛寄り。
 ヒーラーに不向きで人間にトドメは刺せないが戦闘センスは抜群という何もかも噛み合っていない構成がアリエスの姿だろうな。

 初期はリンセスも付き合って意見を聞いてたのだが、人間の頃から何も変わっていないらしい。無責任な安請け合いで悪徳領主を討伐に行けば掴まるという、ある意味あれは相手が強すぎたというのもあるが、俺の件も踏まえて能力はあるが運が極端に低いというのがリンセスの総評だ。
 ここでもまた悶着があった。俺がアリエスを信徒にしたというとリンセスが「ズルい」ときた。アリエスのわが父というのが癇に障ったらしい。私という娘が居ながらどうしてという理不尽なリンセスに、わが父の娘は私だけというアリエスの返しに火に油。シノが俺は私の物という事で俺が了承し丸く収まった。だが俺には「女にはモテないが子供にはモテる」という不名誉な称号がシノから与えられれた。
 その時もまた悶着だ。「お前の精神年齢ではそうだろう」というシノに俺は「大人になれないんじゃない。人間になりたくないだけだ」と返した。シノはそれで納得したようだったがそれでも何か譲れないものがあったのだろう。「お前の言うそれは人間か?」という問いかけでその会話は終わった。
 大人=人間だろうな。俺には特に意味もない言葉だったがシノにとって人間ではない=子供と繋がるのは業腹だったのだろう。

 シノのアリエスの評価はまた異なる。俺をわが父と呼ぶアリエスはシノを母と呼ぼうとしたがそれは拒否していた。伴侶ではあっても神ではないと。そして神を下すなら伴侶であってもライバルだと。これは半分俺に言っていたのだろうな。一時的とはいえ俺が神を自称したのがライバル宣言に聞こえたらしい。シノの言を取れば神を自称したものは神ではないのだろうが、それは神への挑戦者を意味していたのか。俺をそれに祭り上げたアリエスにはあまりいい印象はない様だ。
 その力も能力も認めているが使いこなせていないことには言及しない。そこは俺に何とかしろという事だろう。口は出さないというスタンスだ。

 上記の補完シナリオをここに
https://www.alphapolis.co.jp/novel/405630762/696966666/episode/9750960


 つまるところ、能力はあるが地雷というのが俺の結論だな。今までの言動を見るに人間の時も前に出がちだったのだろうな。あの聖女にまとわりつく近接DPSがやたらと前に出ていたのはアリエスを前に出さないためか。自分たちが下がったら聖女が前に出るというある意味強迫観念に駆られていたのだろう。これは信用が得られるはずがない。そして失敗を重ねるごとにその傾向は強くなっていったのだろう。神の手先を降ろしたのは勝ちを狙ったものではなくただの焦りだろう。それは戦った俺が一番よく知っている。
 あながちアリエスの「俺が一番アリエスの事を理解している」というのは的を射てたのだろうな。
 それならと問いた。誰がアリエスをヒーラーに仕立て上げたのか。その答えはアリエスの記憶にはない。正直アリエスにはグレートソードを持たせた方が強かったのではと思うのだが。それを言うとアリエスは感激の祈りを捧げて来た。やはり本人にも自覚があったのだろう。ヒーラーは向いてないと。
 本人は否定してるがアリエスはかなりわかりやすい人間だ。俺が一番理解しているというよりも、俺が一番こいつの事を考えていたというのが本当の所だろう。聖女の時からどう潰すか散々に頭を悩ませた。敵の俺が一番聖女の事知っていたとは何とも皮肉なことだ。そしてそれは本人が一番よく知っている。だからこそここに居るのだろう。
 アリエスの信仰か。それがカギだろう。だがまずはその鍵穴を探さなくてはな。

「追放系ザマァ展開ですか?」
 不思議そうに聞き返してくるアリエス。まあ知らないだろうな。
「創作にある展開の一つだ。優秀なものがその力を発揮できない場所で不遇な扱いを受け、追放された後にその真価を発揮できる場所に出会う。そしてその真価を知れなかった元の仲間が歯噛みし落ちぶれるという展開だ」
 そこで俺は一息つく。
「これはお前に当てはまらないか? 聖女として才能がなかったお前が魔物として成功する。お前は元の仲間だった人間達に思う所はないのか?」
「私は彼らに思う所はありません。ただ感謝を。今でもそれに変わりはありません」
「お前を理解しようともしなかった連中だぞ?」
「それでも私は聖女としてあるまじき存在でした。付き従ってくれたことだけでも感謝しています」
「では彼らがお前の前に立ちはだかっても感謝の心を続けるのか?」
「いいえ。私はわが父の信徒。手心は加えません」
「俺が殺せと言ったら殺せるのか?」
「それは、もちろん、わが父の意志とあれば、私は彼らを攻撃します」
 攻撃か。
「お前の信仰では人の命は取れないという事か」
「いいえ。殺します。私は彼らを殺します。私の、信仰に、かけて。私は必ず彼らを殺します」
 これは嘘か。
「お前の信仰ではお前は人を殺せない。そうだな」
「違います。私は殺せます。幾人だってあなたの為に人を殺します」
 無理だな。
「そこに信仰がないのは気付いているか?」
「私は私の信仰に基づいてあなたの敵を殺します。この手で、血に染めて、あなたに献上します」
 ここらが限界か。
「そうか。ではお前にお前の信仰である神として命ずる」
 さてこれがどう出るか。
「お前に人間の殺害を禁じる」

「それは、私には無理だという事ですか。私には何も期待しないという事ですか」
 流石に怒り出したか。
「何故か。答えを出せ」
「私が人間を殺せない無力で哀れな存在だから見限るというのですか。私を否定するのですか。今からでも私は人間を殺して持ってきます。今すぐにでも私は私の信仰を証明して見せます。私に命じてください。神として人間の殺害を」
 自身の決断では無理だと気付いたか。
「命に背き答えも出せないか」
「・・・命に従います。私は人の殺害をしません。答えは・・・私が人を殺せないからです」
 ようやくここまで辿り着いた。
「そうだ。お前の信仰に人間の殺害は含まれない」
「何故、ですか。私はあなたに私の信仰を捧げた。ならば私はあなたの敵である人間を殺害できるはずなのに、なぜ、ですか」
「簡単だ。お前の信仰に人間を守れと刻まれているのだろう。答えろ聖女」
「私は、アリエスです。・・・はい。私の信仰には人間を守れと、守りたいと刻まれています」
 やはりな。
「ならばそれでいい。アリエス。自分の信仰を見失うな。魔物に堕ちたものは必ずその原動力となる物がある。それがお前にとっての信仰だ。お前がもしそれに背いて人間を殺した時、お前は魔物としての死を迎える」
「それは、本当ですか・・・?」
「仮説だ。お前がなぜそれほどまでに人間を殺すのを躊躇うのか。それは自身の消失と同義だからだ。だからまずはその信仰の形を確かめろ。人を殺せない。それはその一つだ。そしてお前の目的を思い出せ。それがこの命の本当の意味だ」
 これで伝わったか。いつもの祈りのポーズも今回は長い。これを受け入れる事が出来るだろうか。
「わが父。ダンナ様。私はあなたに信仰を捧げて良かった」
 漸く鍵穴が見つかったか。

「所でもう一つ言いにくい事がある。心して聞け」
「はい。わが父。何なりと」
「俺の名は王牙。お前の言うダンナ様は旦那という敬称だ。それを理解して使いたいなら止めんが」
「そ、それを今言うのですか! なぜもっと早くいってくれなかったのですか! 私は父と呼んで信仰を捧げた貴方の名前を間違えていたなんて・・・!!!」
「それも神の試練だったのだ!」
「嘘おっしゃい!」
 俺の冗談に怒れるぐらいには元気になったか。
「だがアリエスよ。それほどにお前には余裕がなかったのだ。今はもう大丈夫だな」
「この流れでわが父と呼ばせようとするのはズルいです、王牙様。私を虐めて喜んでおられるのですか?」
「正直な話。名を正す前にお前が聖女としての信仰を取り戻すと踏んでいたからな。名を捨てる時は必ず言え。それがどんな決断でもだ」
「わかりました。私は私の決断を必ずあなたに伝えます。たとえ私がアリエスでなくなったとしても」
 漸くいい顔になってきたな。それでこそ俺を圧倒した聖女だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...