幸せなΩの幸せの約束

萌於カク

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幸せの約束2

天陽はいつもの伸びやかな顔で言った。

「雪弥、俺たち、番おう? 俺と番になってほしい」

「………ハァ? え、ハァッ?」

雪弥の口は開いたままだ。

「俺たち、番になろ?」

「お、お、おまっ、お前はいったい、何を言っているんだ?」

(Ωと番うなんて正気の沙汰じゃない)

そんな動物的なことは恥ずかしいこととして社会では認識されている。Ωは金持ちのペットとして一方的に番われるのが関の山だ。

雪弥の母親も世間に顔向けできないのもあって、駆け落ちした。

未来ある天陽がΩと番うなんてそんな真似をしたら、世間の笑いごとになるだろう。

「ダメ?」

(駄目も何も、ありえないよ。Ωなんか動物じゃん。イヌとかネコと番うようなもんだぞ)

「急にどうして?」

「ずっと考えてたよ? 試験が終わったら言うつもりだったんだ。雪弥、俺の番になって?」

「Ωと番ったら社会的に終わるぞ」

「でも、俺は雪弥と番いたい」

「え? あ? は? ほ、本気?」

「うん」

天陽は雪弥の目を見つめ返す。

「え? あ、え?」

「番になろ?」

雪弥は驚きのあまり、胸が震えはじめた。ひくっと喉がしゃくりあげる。

「え? あ?」

「ね、雪弥?」

(てんよう…………!)

雪弥の中に飛び上がりそうなくらい嬉しい気持ちと、畏れ多いものに怖気づくような気持ちが同時に沸き起こる。

(俺、嬉しい。まさか天陽がそんな気持ちでいてくれたなんて)

天陽の申し出に雪弥は胸がいっぱいになる。

(でも、駄目だ、天陽の足を引っ張るような存在になりたくない。みっともなくて無様であさましいΩが天陽の人生の邪魔はできない)

Ωが社会でどれだけ蔑まれ嫌われているか。体育館のΩ狩りでまざまざと知ったばかりだ。

(天陽の人生を狂わせることになる)

天陽の未来のためだけじゃない。自分の気持ちもある。

(俺は天陽と肩を並べて生きてきた。それが叶わなくなった状況で、天陽の隣に居続けるのは惨めすぎる)

雪弥の心臓がバクバクと波打ち始める。

(でも、惨めだとかΩだとかそんなの抜きの、俺の天陽への気持ちは)

「ま、まさか番っておいて、お、おっぽりだすってことはないよな?」

「もちろんだよ? 一緒の大学に行こ? 一般入試、雪弥なら楽勝でしょ。このままαとして生きていこ?」

αとして生きる。これまでの藤堂雪弥の延長を生きる。Ωとして蔑まれなくてもいい、保護施設に行かなくてもいい。今の延長上にあるそれは、ひどく安心する未来だ。

(社会的にαとして生きていけるのか? 天陽のそばで)

番になれば匂いも天陽にしかわからなくなり、αを装っても誰にも見抜かれることはない。完全にαに擬態できる。発情も天陽に助けてもらえる。

天陽は以前も「一緒の大学に行こう」と言っていた。そのことを天陽が現実的に思い描いていたのを知って、雪弥はベッドからずり落ちて床にへたりこんだ。慌てて天陽が抱きとめる。

(こいつはアホじゃなかったのか? よく考えていたのか?)

天陽を見つめる。涙がぽとぽとと頬を伝う。

(天陽、俺と生きてくれるのか? ホントに?)

天陽はそれはそれは優しい目をして見つめ返してきた。






その日、雪弥は天陽を離さなかった。その柔らかい髪に指を差し込んでずっと撫でている。

(天陽、俺のものになってくれるのか?)

決して手に入らなかったはずのもの。ずっと蓋をしてきた想い。一度飛び出てきてからは、うまくしまえなくなった想い。もう一度丁寧に並べていく。

中学までは面倒な奴だと思っていた。しょっちゅう突っかかってきて喧嘩して、翌朝になれば、天陽からケロッとした顔で声をかけてきた。最長で一週間口を利かなかったこともある。やっぱり天陽がケロッとして折れてきた。高校からは、急に中の人が変わって大人びた。

高1のとき、天陽は、バスケの試合の前日に、後ろから自転車に追突されて、足をくじいて頭を八針縫った。巻かれた包帯の下で「大丈夫だよ!」と声だけ元気がいいのが痛々しくてたまらなかった。

心根は伸びやかなのに、生物的には貪欲で。

好き嫌い言う割に何でもおいしそうに食べて、すぐにお腹空かせて、お腹が減ると元気がなくなって、でも食べるとまた元気になって。

試験ではいつも二位で、インターハイに出ても一回戦負けで、数オリに出ても入賞できず、いつもあと一歩のところで負けてしまう精神的には甘えたの根性無し。

けれども肉体は頑強で、咄嗟に動けて、危機を察知して、危険を回避する。そして、当たり前のように雪弥を助けてくれる。

いつも明るくて朗らかで生命力に満ちている。

雪弥は天陽への『好き』を永遠に並べていられる。

(もしも俺と生きてくれるというのならば)

天陽も雪弥をゆったりと見返している。

(こんなに嬉しいことはない)






しかし、その夜中、悪夢から飛び起きた雪弥は涙することになった。
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