幸せなΩの幸せの約束

萌於カク

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ゼロα

雪弥が声も出せないでいると天陽が闖入者に投げかける。

「大山さん、こんにちは。悪いけど俺たち、見ての通り、取り込み中だよ? 出てってよ」

天陽に似つかわしくない横柄な物言いだった。

雪弥は天陽の膝に座り背中を抱かれたまま、ブルブルと震え出した。やっと仇に会った、呼吸音が高くなっていく。

(大山、出てきやがったな!)

雪弥の憤りをよそに、大山からは呑気そうな声が聞こえてきた。

「お。てめえら、プロレスやってるのか。俺も交じらせてくれ」

それに返答する天陽。

「これのどこをどうみればそう見えるの? とっとと出て行けよ。じゃないと警備員呼ぶよ? あなたもう関係者じゃないでしょ?」

「つれないなあ。せっかく珍しい酒を持ってきてやったのによ。テンテンにはいろいろ世話になったからよ」

「俺らまだ酒飲めないよ」

「すぐに飲める年になる」

天陽が乱暴な声を出す。

「大山ァ、俺と約束したよな。いいから早く出ていけッ」

雪弥が振り向いて大山にとびかかろうにも、天陽に抱きすくめられて大山の顔すら見えない。

それよりも何よりも天陽の物言いに驚いていた。

(てんよ、う?)

「お。また、出直せってか?」

大山の出て行きそうな気配に、雪弥は身をよじり声を出そうとする。

「お、おおや」

そこで天陽に唇を塞がれる。

抵抗をためらって、大人しくキスを受ける。

大山の軽妙な声が聞こえる。

「うお? え、はー、なるほど、お前ら、そういうことになってんのか」

天陽はリップ音をわざとらしく鳴らす。最後に派手に鳴らせると唇を外して言う。

「うん、こういうこと。俺と雪弥は今こういう関係になってる」

雪弥は混乱してきた。

どうして天陽は体を離してくれないのだろう。雪弥が大山に用があることを天陽は知って知って知り抜いているはずだ。なのにどうして大山を出て行かそうとするのだろう。

どうしてこんなに和やかに会話をしているのだろう。

(俺にとっては大山は仇なのに。それを天陽も知っているのに)

「おう、じゃあ、机に置いて帰るわ」

「うん、ありがとう」

大山が部屋を立ち去りそうな気配に、雪弥は叫ぼうとした。天陽は、それをさせまいと雪弥を抱きしめて唇を塞いできたが、今度ばかりは天陽に抵抗する。

「んっ、んーーーっ」

雪弥は必死でもがく。このチャンスをむざむざ逃すわけにはいかない。

さすがに大山は足を止めて、戸惑っていた。

「おい、テンテン、まさか無理矢理じゃねえよな」

雪弥はもがき続ける。

(こんなのいつもの天陽じゃない。無理矢理なんて、絶対しない。どうして?)

しかし雪弥の全力の抵抗を、天陽は阻止して、決して逃さないようにしている。

「おい、テンテン、いい加減にしろよ、藤堂、嫌がってるじゃねえか」

天陽は雪弥を拘束しながら、ベッド付近の壁の非常ボタンを押した。ピピピピと音を立てながら、廊下のサイレン灯が回り出す。

「おい、テンテン、やめろって」

大山に引きはがされようとしてできた天陽の一瞬の隙を突いて、雪弥は天陽の胸を拳でドンとついてベッドの端に飛びのいた。

天陽は傷ついた顔で雪弥を見返している。雪弥も十分、傷ついている。

「ど、どうして? 天陽?」

喋ろうとすると、今度は天陽が威圧をかけてきた。柔らかい威圧だが、喋ることができなくなる。

(お、れに威圧を? 威圧をかけるのか?)

「雪弥、大山を見るな。お前の目が汚れる」

思わず雪弥は大山を見て、唖然とした。そこにいるのは人間には見えなかった。人の服を着た熊だった。


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