54 / 63
ゼロα3
雪弥の中で、一つ一つの事柄が、ドミノのように倒れながらつながっていく。
大山の絵を、買ったのは。いや買っただけじゃない、それを描かせたのは。そして、『Victim』を『Grace』に描き直させたのは。
近づいてくる天陽をじっと見上げる。
(天陽が……………?)
頭の中で真実が組上がっていく。
――――数か月、或いは数年、一人のαがターゲットαのすぐそばにいて、微弱なアタックをかけ続ける。これがゼロアタックの正体なのではないか。
雪弥は6年間、天陽とルームメートだ。長時間を一緒に過ごし続けてきた。
天陽はベッドの端にうずくまる雪弥をまっすぐに目で捉えてゆったりと近づいてくる。獲物に狙いを定めて旋回する鷹のように。
(天陽が……………?)
秀人はそれを見抜いていた。
見抜いていたから、天陽のいない隙をついて、雪弥を訪れ、そしてファイルを渡してきた。
(そうなの、か? 天陽が俺を?)
雪弥はヒューとなる音の隙間に声を絞り出した。
「天陽……。お、まえが、お前が……?」
天陽は伸びやかな顔をして笑んでくる。いつも雪弥に安心を与える笑み。
「ん? 何?」
天陽は優しく笑んでいる。
「お、お前がお、れを……?」
「ん?」
「お、お、おまえが? おまえが?」
天陽がゆっくりと首をかしげる。肩を鳴らすほどにかしげて、雪弥を見定めて近づいてくる。
雪弥は喘鳴の間に何とか喉から声を絞る。
「お前が、お、れをオメ、ガに?」
「ん?」
「おまえが、おれを、か、えたのか?」
「なに?」
天陽は笑んだままだ。その笑みが恐ろしい。その笑みの後ろに隠れているものが恐ろしい。雪弥は恐怖に引きつり声がうまく出ない。
「あ………、あ………」
(て、天陽が? 天陽が?)
「雪弥、大丈夫?」
(あ、あ、天陽が)
「お、おまえが、おれを、おめがに……、変えた、のか?」
天陽は目を細めて雪弥を見ている。
(ちがう、違うと言え。何のことだと笑え)
雪弥は息を詰めて天陽を見つめる。天陽は笑んだままだ。
しかし、頭に出来上がった真実は、もう崩せないほど明確な形を取っている。天陽が否定してもしきれないほどに。
わずかに天陽の目の奥が揺れて、色味が変わる。
「お、まえの仕業なの、か?」
天陽と雪弥は長いこと見つめ合い対峙していた。一秒一秒と過ぎるにつれて疑念は確信へと姿を変える。
(ああ、天陽が、天陽が……)
次の瞬間、天陽は表情をグラリと変えた。
雪弥には正視できない顔になった。
圧倒的な支配者。
優しく微笑みながら迫害を命令する支配者。
「ふう、バレちゃったか」
その目の色味は酷薄なものに入れ替わっていた。天陽は開き直った目をしていた。
(ああ、まさか、ああ、嘘だろ………?)
「雪弥ァ」
とどめを刺しに伸ばされた手。
天陽は雪弥をベッドの端に追い詰めていた。もうじき、もうじき獲物は手に入る。
「ど……、どうし……て?」
(嘘だろ? 違うと言え。知らないと言え)
天陽は不思議そうな顔をした。
「どうしてって?」
どうして、どうして天陽が。
ずっと自分に付き従い、常に守ってくれた天陽。
天陽がいなければ雪弥は今ここにいられなかった。無事ではいられなかった。
そんな天陽がどうして?
どうして?
ついに天陽は雪弥を捉えた。その手を雪弥の首にまとわりつかせる。今まさにくびり折ろうとして。
今や雪弥の命は天陽の手のなかに握られていた。天陽の声はいつものように優しく響く。それは優しく。
「どうしてって?」
怖い、天陽が怖い。どうしようもなく怖い。
「あ………、あ………」
「雪弥を地獄に引きずり下ろすためだよ?」
…………ャァァァァァッ。
雪弥は声にならない叫び声をあげて、ふらりと倒れた。
――――まるでΩ化は、ゼロαのターゲットに向ける、呪いである
雪弥は天陽の『Victim』だった。雪弥の守護者、天陽の。
大山の絵を、買ったのは。いや買っただけじゃない、それを描かせたのは。そして、『Victim』を『Grace』に描き直させたのは。
近づいてくる天陽をじっと見上げる。
(天陽が……………?)
頭の中で真実が組上がっていく。
――――数か月、或いは数年、一人のαがターゲットαのすぐそばにいて、微弱なアタックをかけ続ける。これがゼロアタックの正体なのではないか。
雪弥は6年間、天陽とルームメートだ。長時間を一緒に過ごし続けてきた。
天陽はベッドの端にうずくまる雪弥をまっすぐに目で捉えてゆったりと近づいてくる。獲物に狙いを定めて旋回する鷹のように。
(天陽が……………?)
秀人はそれを見抜いていた。
見抜いていたから、天陽のいない隙をついて、雪弥を訪れ、そしてファイルを渡してきた。
(そうなの、か? 天陽が俺を?)
雪弥はヒューとなる音の隙間に声を絞り出した。
「天陽……。お、まえが、お前が……?」
天陽は伸びやかな顔をして笑んでくる。いつも雪弥に安心を与える笑み。
「ん? 何?」
天陽は優しく笑んでいる。
「お、お前がお、れを……?」
「ん?」
「お、お、おまえが? おまえが?」
天陽がゆっくりと首をかしげる。肩を鳴らすほどにかしげて、雪弥を見定めて近づいてくる。
雪弥は喘鳴の間に何とか喉から声を絞る。
「お前が、お、れをオメ、ガに?」
「ん?」
「おまえが、おれを、か、えたのか?」
「なに?」
天陽は笑んだままだ。その笑みが恐ろしい。その笑みの後ろに隠れているものが恐ろしい。雪弥は恐怖に引きつり声がうまく出ない。
「あ………、あ………」
(て、天陽が? 天陽が?)
「雪弥、大丈夫?」
(あ、あ、天陽が)
「お、おまえが、おれを、おめがに……、変えた、のか?」
天陽は目を細めて雪弥を見ている。
(ちがう、違うと言え。何のことだと笑え)
雪弥は息を詰めて天陽を見つめる。天陽は笑んだままだ。
しかし、頭に出来上がった真実は、もう崩せないほど明確な形を取っている。天陽が否定してもしきれないほどに。
わずかに天陽の目の奥が揺れて、色味が変わる。
「お、まえの仕業なの、か?」
天陽と雪弥は長いこと見つめ合い対峙していた。一秒一秒と過ぎるにつれて疑念は確信へと姿を変える。
(ああ、天陽が、天陽が……)
次の瞬間、天陽は表情をグラリと変えた。
雪弥には正視できない顔になった。
圧倒的な支配者。
優しく微笑みながら迫害を命令する支配者。
「ふう、バレちゃったか」
その目の色味は酷薄なものに入れ替わっていた。天陽は開き直った目をしていた。
(ああ、まさか、ああ、嘘だろ………?)
「雪弥ァ」
とどめを刺しに伸ばされた手。
天陽は雪弥をベッドの端に追い詰めていた。もうじき、もうじき獲物は手に入る。
「ど……、どうし……て?」
(嘘だろ? 違うと言え。知らないと言え)
天陽は不思議そうな顔をした。
「どうしてって?」
どうして、どうして天陽が。
ずっと自分に付き従い、常に守ってくれた天陽。
天陽がいなければ雪弥は今ここにいられなかった。無事ではいられなかった。
そんな天陽がどうして?
どうして?
ついに天陽は雪弥を捉えた。その手を雪弥の首にまとわりつかせる。今まさにくびり折ろうとして。
今や雪弥の命は天陽の手のなかに握られていた。天陽の声はいつものように優しく響く。それは優しく。
「どうしてって?」
怖い、天陽が怖い。どうしようもなく怖い。
「あ………、あ………」
「雪弥を地獄に引きずり下ろすためだよ?」
…………ャァァァァァッ。
雪弥は声にならない叫び声をあげて、ふらりと倒れた。
――――まるでΩ化は、ゼロαのターゲットに向ける、呪いである
雪弥は天陽の『Victim』だった。雪弥の守護者、天陽の。
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
俺以外を見るのは許さないから
朝飛
BL
赤池凌平は、成瀬真介と出会い、緩やかに親交を深めてやがて恋人同士になるのだったが、時折違和感を抱いていた。
その違和感の正体が明らかになる時には、もう何もかも手遅れになってしまい……。
(女性と付き合うシーンもあります。)
※ネオページ、エブリスタにも同時掲載中。マイペースに更新します。
恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。
めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。
その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。
⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる
⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない
※全四話、予約投稿済み。
本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。
※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中