【完結】溺愛してくる敵国兵士から逃げたのに、数年後、××になった彼に捕まりそうです

萌於カク

文字の大きさ
3 / 76

星空の出会い3

しおりを挟む
 小屋の外に出ると、馬が近寄ってきた。

「お前のご主人様は助かりそうだぞ」

 馬は、軍袋と剣を口に挟んで差し出してきた。
 草の上に放り出されたままの荷物を取ってきたのだ。
 エミーユはそれらを受け取り小屋に入ると、剣を棚の上に隠した。
 軍袋を覗けば、医療キットが入っていた。少年の胴体から包帯代わりの布を外して、傷口を医療用の糸で縫い直す。そして、膏薬を塗って包帯を巻く。
 目に巻いた布も包帯に取り換えた。
 もう一度、外に出て、馬に水をやる。
 馬の黒毛はつやつやとしている。

(良い馬だ。賢くて毛並みも良い)

 鞍の留め具が見えた。自分でも外せそうだったので、鞍を外すことにした。
 馬はおとなしく外されるままにしている。鞍も上等そうで、革は柔らかく金細工の出来も良い。

 畑仕事とヤギの世話を済ませて小屋に戻ると、ベッドが軋む音がした。見れば少年がベッドの上でもぞもぞと動いている。寝返りを打ったのだ。
 順調に回復しているらしい。

(眠りが浅いうちに水を飲ませておこう)

 水を与えると少年はごくりと喉を鳴らした。何度も水を与えて、最後にハチミツ水を与えた。

 次の朝、エミーユが目覚めると、少年がベッドに起き上がっているのが見えた。慌ててベッドに向かう。
 少年は物音に気付いて声を上げた。

「だ、だれ?」

 エミーユは固まった。

(グレン語……! こいつはグレン兵だったのか……?)

「だ、だれ? あ、あなたはだれ……?」

 少年は不安そうな声で尋ねてきた。遠慮深げな態度に、エミーユのこわばりがほどける。エミーユはグレン語で返した。

「まだ起きないほうがいい。傷口が開いてしまいます」

 少年は目に巻いた包帯に手で触れる。エミーユは慌てて言った。

「失明したくなければ、その包帯を取らないで」
「……しつめい?」
「目に怪我を負っています。そうやって保護しないと何も見えなくなります」

 少年はエミーユの出まかせを信じ込んで、従順に手をおろした。そして、自分の体を手で触って確かめたのち、エミーユに訊いてきた。

「傷がだいぶ治ってる……。あ、あなたは妖人?」

 エミーユは咄嗟に答えた。

「いいえ、違います」

 その答えに少年はほっとしたように見えた。少年は、エミーユが傷の手当てをしただけだと思い込んだに違いなかった。
 妖人は獣人の怪我を引き受けることができる。そして、エミーユはほんの少しだけこの少年の怪我を引き受けた。
 しかし、エミーユは恩に着せるつもりはなかったし、それよりも妖人だと知られたくはなかった。
 妖人だと誰にも知られないためにも草原で一人暮らしているのだ。

 エミーユは水差しからコップに水を注ぐと、少年の手を取って、コップを押し当てた。

「水です。飲んでください」

 少年は渇きに気づいたのか、ごくごくと喉を鳴らして水を飲み干した。

「ありがとう」

 毒が入っているなどとつゆほども疑っている様子はない。その疑心のなさが少し心配になるくらいだった。
 怪我で弱っているせいか、少年には、兵士らしい横柄さや粗野なところが全くない。

(目が見えないと不安だろう。大人しそうだが、いつ豹変しないとも限らない。可哀想だがこのままでいてもらう)

 少年の探すような手つきに、エミーユは少年に手を差し出した。手が触れたのがわかると、少年はぎゅっと掴んできた。

「俺を助けてくれたんだね……?」

 そこには戸惑いながらも感謝している様子がうかがえた。エミーユは冷淡な声を出した。

「まだ助けるとは決めていません。あなたの命は私が握ったままです。これからあなたをどうするかは私が決めます」

 少年はエミーユの意地の悪い言い方に何ら反感を抱かないようだった。自分が平和を乱す兵士という存在であることを自覚しているのかもしれなかった。
 横になるように促すも少年はなかなか横にならなかった。

「えっと、あの、その」

 少年は大きな背中を丸めてもじもじとしている。

「あの、トイレ、どこかな」
「ああ、それなら、ここでどうぞ」

 エミーユは床から桶を取り上げた。少年の両足の間に桶を挿し込む。エミーユの手つきには遠慮はない。

「あっ、えっ、な、なに?」
「私はエミーユ。あなたの名は?」

 こんなタイミングで名前も何もないはずだが、エミーユはそう言いながら少年の一物を持ち上げると桶に当てた。

「えっ、マリウスだけど。ていうか、ちょ、や、や、やめ」

 マリウスと名乗った少年はエミーユの手を押し返そうとした。しかし、エミーユは一物を握って離さなかった。こぼしたら掃除が面倒だ。

(それに、全部見られておいて何をいまさら)

 エミーユはマリウスが眠っている間に全身の汗を拭いたし、漏らした尿の始末もした。怪我人なのだから恥ずかしがる必要などない。

「さあ、この桶に」
「お、おけ?」
「ええ、桶です」

 エミーユはマリウスの手を桶に触らせた。

「それはその、ちょっと」
「大丈夫ですから」
「あの、でも」

 マリウスは抵抗する。

「さあ」
「で、でも」

 抵抗しながらもこらえきれなくなったのか、桶にぽとっと尿が垂れる。一度垂れ始めると止まらなくなったのか、勢いよくほとばしる。

「あっ……」

 マリウスはうつむいた。頬も耳も真っ赤になっていく。

(この子は燃え上がるような真っ赤な髪をしているから、大きなリンゴのようになってしまったな)

 全部出し終えるとマリウスは唇をぎゅっと結んでプイッを顔をそらした。そしてエミーユに背中を向けた。すねているようだった。

(まあ、年頃だもんな)

 エミーユはマリウスの頭を宥めるように撫でた。マリウスは耳の後ろを真っ赤にさせて、うつむいていく。

(次からはちゃんとトイレに連れて行ってやろう)

 マリウスをこちらに向くように言うと、うつむいたままでしぶしぶ体を向けてきた。
 包帯をほどいて傷口を確認すると、順調に塞がっているようだった。軟膏を塗ってガーゼを取り換えたのち、もう一度包帯を巻く。そして、そばを離れようとした。

「ま、まって」
「何か……?」
「ど、どこにいくの?」

 マリウスは不安そうな顔つきになっている。

「おなかがすいたでしょう、スープを持ってきます」
「あ、うん……」

 エミーユは椀を持ってくると、マリウスに持たせた。

「ミルクスープです。飲んでください」

 マリウスは黙って受け取った。
 やはり疑念を抱く様子もなく従順に口をつけたのち、首をひねった。

「変わった味のミルクだ」
「ヤギの乳です。口に合いませんか」
「う、ううん」

 マリウスは慌てて飲んだ。よほど腹が減っていたようで、三口ほどで飲み干した。

 翌朝、エミーユが台所で煮炊きをしているとベッドでゴトリと音が鳴った。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

振り向いてよ、僕のきら星

街田あんぐる
BL
大学4年間拗らせたイケメン攻め×恋愛に自信がない素朴受け 「そんな男やめときなよ」 「……ねえ、僕にしなよ」 そんな言葉を飲み込んで過ごした、大学4年間。 理系で文学好きな早暉(さき)くんは、大学の書評サークルに入会した。そこで、小動物を思わせる笑顔のかわいい衣真(いま)くんと出会う。 距離を縮めていく二人。でも衣真くんはころころ彼氏が変わって、そのたびに恋愛のトラウマを深めていく。 早暉くんはそれでも諦めきれなくて……。 星のように綺麗な男の子に恋をしてからふたりで一緒に生きていくまでの、優しいお話です。 表紙イラストは梅干弁当さん(https://x.com/umeboshibento)に依頼しました。

身代わりの花は包愛に満たされる

天宮叶
BL
突然父親から、平民出身であり騎士団長を務める天人(α)デュークに嫁ぐように命令された花人(Ω)のアルビー。 しかしアルビーには幼い頃に婚約したジルバートという相手がいる。 思わず反論したものの、父親は正式に婚約をまだ発表していないことを利用して、アルビーの代わりに弟のオリビアをジルバートと婚約させると言い出した。 更に、ジルバートとオリビアが両思いだと知ったアルビーは、悲しみに暮れて言葉が出なくなってしまう。 結局、デュークに嫁ぐことになったアルビー。 初めは、口が悪く粗暴な態度のデュークのことを怖がっていたアルビー。しかし、デュークのストレートな優しさや言葉に段々と絆されていき、いつの間にか彼のことを好きになっていって─── 元平民出身で口は悪いけど溺愛しまくり系騎士団長 × 自分に自信を持てない受け の焦れった可愛いラブラブなお話です 世界観統一のため αを『天人』 Ωを『花人』 βを『常人』 と表記しています。 基本的には普通のオメガバースです よろしくお願いしますm(_ _)m

βな俺は王太子に愛されてΩとなる

ふき
BL
王太子ユリウスの“運命”として幼い時から共にいるルカ。 けれど彼は、Ωではなくβだった。 それを知るのは、ユリウスただ一人。 真実を知りながら二人は、穏やかで、誰にも触れられない日々を過ごす。 だが、王太子としての責務が二人の運命を軋ませていく。 偽りとも言える関係の中で、それでも手を離さなかったのは―― 愛か、執着か。 ※性描写あり ※独自オメガバース設定あり ※ビッチングあり

夢の続きの話をしよう

木原あざみ
BL
歯止めのきかなくなる前に離れようと思った。 隣になんていたくないと思った。 ** サッカー選手×大学生。すれ違い過多の両方向片思いなお話です。他サイトにて完結済みの作品を転載しています。本編総文字数25万字強。 表紙は同人誌にした際に木久劇美和さまに描いていただいたものを使用しています(※こちらに載せている本文は同人誌用に改稿する前のものになります)。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

アルファな彼とオメガな僕。

スメラギ
BL
  ヒエラルキー最上位である特別なアルファの運命であるオメガとそのアルファのお話。  

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

処理中です...