転性とか聞いてない!

れのひと

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8話 自主学習?

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 目を覚ますと周りは真っ白で何もないように見える。でもそれは間違いで目の前にぽつんと1つ机があった。その椅子には見覚えのある人…というか神様が座っていた。

「櫻子さん…いえ、ディビーノ。あなたは自殺願望でもあるのですかね?」
「あ、神様お久しぶりです。また会えるとは思っていませんでした…というか僕は死んでしまったのでしょうか?」

 なにやら不穏な言葉が聞こえてきた気もするのだけど、現状を確認したいのでまずは挨拶をしてからそれを訊ねてみた。

「生きていますよ。それより…教えてもらえたからといって、あんなにポンポンと魔法を人前で使うものではない。その結果何が起こるか予想もつかぬ…残りの魔法の公開はやめておいたほうが無難だろうな…」
「使ってみないと使い方がわからないのですが…」
「1人で練習すればいい。このままではよくない未来が見えます。せっかくの新しい生なのだ戻ってくるのはまだ早すぎると思うが」
「え…流石にそれは…すみません」
「助けたのは今回だけだ。後はないと思いなさい」

 どうやら私の行動はかなり危険だったみたいで少し神様に怒られてしまった。

「あ、そうだ神様なんで僕の性別…ちょっ神様~?」

 もう1つ聞きたかったことを口にすると周りが段々と見えなくなってきて、すべてが真っ白に変わり私の声は神様にはもう届かなかった。



 私は今日も報告のためこの部屋に訪れていた。

「なんだと、やはり多彩に魔法を使いよるか…」
「はい、しっかりと目の前で確認しました。将来有望です」

 このような報告をしながら私刃は手を胸の前でぎゅっと組み、ディビーノの身を心配していた。先ほど倒れたばかりなので当たり前といえばそうなのだが、何度もオートチャームを受けるうちに自分でも理解が出来ていない気持ちが芽生え始めているのだった。

「そうか…出来るだけ早く決めねばならぬな…」

 もうこの辺りでは彼の言葉は耳に届かずサリアの頭の中はディビーノのことで一杯になっていた。



***



「まぶしい…」

 さっきまで真っ白なところにいたのにやっぱり直接目で受ける光というものは違うらしい。目を細めながらゆっくりと周りを確認してみると自分の部屋で横になっていたみたいだ。視界が真っ暗になった後そのまま部屋へ運ばれたのだろう。防具ははずされているが他の洋服はそのまま着ていたものだったのであっていると思う。

(今部屋には誰もいない…?)

 先ほど見回した時に誰も視界に入らなかったので人はいないと思われる。今のうちに日記を書きとめておくことにしようとペンダントを手帳に切り替えた。早速日記を書き上げるとついでに神様に会ったことも記入しておく。そこへちょうど部屋がノックされる音が響いた。ペンダントの状態に戻し返事をかえそうと声を出しかけたところで扉が開く。

「失礼いたします」

 サリアが私の様子を見るためにやってきたのだろう。

「……!」

 私の目が覚めていることに気がついたサリアはすぐに近くまで駆け寄り頭や顔をぺたぺたと触りまくった。その慌てた様子を見ると心配させていたことは間違いない。

「どこかおかしなところはありませんか?」

 サリアは軽く涙を浮かべながら私の状態を確認している。そんなサリアの頭に手を伸ばし耳をもふもふと私は撫でた。相変わらずモフモフは気持ちがいい。

「僕どうしちゃったのかな?」
「…多分ですが魔力の使いすぎだと思われます」
「たくさん使うとこうなっちゃうのか…」
「はい…あの。そろそろ手を止めていただいても…」

 真っ赤な顔をしてサリアがプルプルと震えていた。つい近くに耳があったのでもふりまくってしまったのである。あわてて手を離し私は体を起こした。

「えーと…今日の予定は?」

 まぶしさから朝であることは気がついていたので訪ねてみると、日にちをまたいだことははっきりしているが、何日たったのかがわからない。

「本日は昨日倒れられましたので予定はお休みと急遽変更になりました」
「そっか」
「用事があるときはお声をかけてください。まずは食事にしましょうか、それともお風呂にしますか?」

(そういえば昨日の服装のままだからお風呂はいってないよね…)

「お風呂のあと食事にしたいかな。」
「では準備しますのでそれまでお待ちください」

 準備が終わるまで再びベッドへ横になった。その間これからのことを少し考えてみる。あまり自分の能力を見せるべきじゃないと神様は言っていた。使ってはいけない訳ではない。まだ5歳という年齢で色々出来てしまうのがきっとまずいのだろう。無駄に前の記憶や知識もあるものだからこんなことまで理解できてしまう。普通の5歳だったら自分の実力に喜んですき放題してしまうところなんだろうね。

(せっかくの魔法なのに…どこで練習しようかな~)

 もちろん魔法を使うこと自体はやめる気はないのだけど…

(まずは気がつかれずこの部屋から出れないと話にならないよね…夜中に出かける?たとえば闇魔法で自分をもう1人だして寝かせておき認識阻害でそっとでていけば…)

 外へ出る方法はこのくらいでいいかもしれないが問題はどこで、になる。こればかりは出歩いて探してみないとわからない。

(しばらくは部屋で出来ることを少しづつやるしかないのかな)

「ディビーノ様お風呂の支度がととのいました」

 浴場の扉が開きサリアが顔をだした。いつものようにタオル一枚を体に巻きつけている。そういつもと何もかわらないはずだった。普段耳や尻尾を触ると恥ずかしそうにしているがお風呂で私の世話をするのは抵抗がないようだった…が、今日はしきりに体に巻きつけているタオルの長さをきにしているみたい。

(…?いつもよりタオルが短いのかしら)

 少しだけ様子がおかしかったけれどお風呂も終わり、食事を部屋に運んできてくれた。今日はとことん休む姿勢らしい。実際は魔力切れを起こしたわけではなく、神様が意識を強制切断させただけだったので、体調は問題ないのだが説明のしようがないので大人しくそれに従っておく。
 食事も片付けられ用事や次の食事まで誰も部屋には来ないようでサリアは別の仕事に戻っていった。

「さてっと…」

 次の食事の時間まで時間が空いてしまったな。もちろん部屋で魔法の練習をするつもりなんだけど、まずは昨日途中で終わってしまった時間の魔法からにしようかな。

(どうかな…)

 部屋に置かれていたリンゴのような果物を手に取り投げてみる。そこに時間魔法をかける。本来ならそのまま放物線を書いて飛んでいくものが突然垂直落下した。床に落ちる前にあわててキャッチした。

(今のは果物の動きを止めたってことかしら…)

 そのまま今度はナイフを手に取り果物に突き立ててみた。ところがまったく刺さらない。魔法を解きナイフで切ってみる。半分に切れた。その半分になった片方にだけ時間魔法をかけてしばらく放置してみることにした。

(次は…空間か~)

 空間については教わっていないので自分で少し考えてみることにする。今いるこの部屋も部屋という空間だ。空間とはこれに作用する魔法なのかこれを作り出す魔法なのか…もしくは両方とも考えられるけれど…似たような言葉で亜空間とか次空間とかいうのを小説やアニメなどで昔みたような記憶もあるし…うーん。

(別の空間を作ってる感じかしらね?)

 空間を作る方向でまずは考えて見る。あの昔みたアニメの便利なポケットがまさにそれだろう。部屋の中にあるちょっとした装備の中に腰につけるポーチのようなものがある。

(この中から色々出せるように出来ないのかしら?)

 今はポーチの中には何も入っていない。手を入れ確認する。ここに魔法で空間を追加するように魔力を流してみる。もちろんイメージはあのアニメのポケットだ。

(……どうかしら?)

 先ほどと同じように手を入れてみる。よほど深いのか腕が丸ごとはいってしまい少し驚く。特に違和感は感じない。ためしに今度はオレンジのような果物をそのポーチの中に入れてみる。ポーチの外側から触ってみるが入っているのがわからないし、重さも増えていないみたいだ。ポーチの入り口から中を除き見るが底が見えず真っ暗だ。

(どうやって入れたものだせばいいのかしら?)

 手を出し入れしながら果物のことを考えて見ると手に何か触れた。取り出してみると先ほど入れた果物だった。欲しいものを思い浮かべると取り出せるようだ。これは便利だね。
 空間を作ることができたが空間を作用させるほうも考えておくと使えそうだ。

(空間に影響する魔法…)

 ふと裂けた空間から別の世界の化け物とかが出てくるそんなアニメの1シーンを思い出した。

(あれって空間と空間を繋げてるのかも?)

 空間同士を繋げられれば好きな場所に一瞬でいけるかもしれない。あの有名なアニメのドアのように…これはぜひとも完成させたい。超能力とかでよくきくテレポートのように自由に移動できるとなおよいのだろうが、どうやったらそんなことが出来るのか想像できないので、さすがに無理なことがわかる。せいぜい私に考えられるのはドアをくぐると別のところに出るというくらいなんだよね。

(これが出来たら自由に外に出れるようになるわよねっ)

 近場でためして練習をしてみる。浴場の扉から自分の部屋の中へ繋ぐとこからだ。まずは浴場の扉を普通に開ける。中は風呂場だ。次にイメージを固め扉に魔法をかけ、自分の部屋に繋げる。うっすらと扉が光っているのが見えた。魔法がかかっていることは間違いない。そっと扉を開いて中を覗くと一瞬だけ自分の部屋と繋がったがすぐもとの風呂に戻ってしまう。失敗だ。

(意外に難しい…)

 しばらく扉の開け閉めを繰り返し練習を重ねることにした。
 そして半分に切って放置されていた果物だが魔法のかかってないほうは酸化して変色を起こしていたけれど、魔法をかけたほうは変化がなかった。つまり時間魔法を掛けた対象の活動を完全に止めることが出来るということなんだろう。

(何に使えるのかしら…)

 それを考えるのが今後の課題になりそうだ。
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