メリバ短編集Ⅰ

Enfance finie

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第3話 【イズンの林檎】~黄金の果実~

第5章 まぼろし

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それから二年後。
リハビリを終えて、医薬品を扱うMRの仕事に復職した佳樹は、かつてと同じく、毎日を仕事に追われ慌しい生活を送っていた。
忙しく走り回る内に、次第に由美子の記憶が頭の片隅に追いやられていった。

八月のお盆休みが明けたころ、久しぶりに地方への出張の仕事が決まった。
医師とのアポイントまで多少時間があったので、その病院の売店で軽食を買い、中庭に出て遅い昼食を取った。
きれいに整備されたグリーンの絨毯の上を歩いていると、短い命を謳歌するようにセミが力いっぱいに鳴いていた。

中庭のベンチに腰掛けると、佳樹は急激に睡魔に襲われる感覚があった。

それは、夢なのか現実なのかはっきりとしない状態だった。
ふと、目の前を由美子にそっくりな女性が通り過ぎていった。
その女性は病院着を着て、こちらへ一瞬だけ視線を向け、微笑んだ・・ような気がした。
「由美子か?」

急いで後を追い、その女性を探した。
「由美子・・・由美子・・・」

佳樹は必死に後を追いかけるが、その距離は近づくどころかどんどん離れていくばかりだ。

佳樹は、遠くへ去りゆく由美子の背中に精一杯の気持ちをぶつけた。
「由美子、君があれだけ見たがっていたハミウリの花が咲いたよ!元気できれいな花だよ!」

佳樹には、由美子の肩が小さく揺れたように見えた。


―― 気が付くと、佳樹は中庭のベンチで横になっていた。手には、軽食に買ったサンドイッチを持ったままだった。

「ははは、夢だよな。まさかな。」
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