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22.舞踏会への招待状
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季節はすっかり冬だ。
クラウスは、窓から見える白い景色を見て、この世界に来てから季節が随分巡ってしまったことに驚愕した。
フィルヘイムは寒い国らしい。学園の校舎である古城は全部雪に覆われた。
「…ああ~、さみー」
「やっと冬季休暇だな~!久しぶりに実家に帰る」
授業終わりの学園は、妙にワクワクした空気に包まれていた。
そうだ。明日から、冬休みなのである。
初等部の生徒たちが襲われたあの事件があってから、学園全体がピリピリした雰囲気だったが、ようやく生徒たちも休みを前に明るくなった。
結局、あの事件は『黒い集団』が犯人だと思われると学園から発表があった。
クラウスはあの時、先生たちに疑われていたが、その後は特に何も言われることはなかった。しかし、生徒の中ではクラウスに対する疑惑の声が強くなり、また嫌悪の視線を受け始めた。
入学当初に戻ったかのようだったが、あの時とは違って、クラウスには心強い仲間がいる。
ギルバートは特に、クラウスに何か言ってくる生徒がいると必ず現れて彼の圧で追い払ってくれた。
とはいえ、ピリピリした空気の学園が休みに入るのには、少しホッとした。
しかし、問題もある。
「…休み中、どこで過ごそうかな」
この世界では、冬休みの間、生徒たちは実家へ帰るのが普通だ。
しかし、クラウスにはこの世界に身寄りがないため、長い冬休みをどうしようか迷っているところだ。
『クラウスくん。ぜひ屋敷に帰っておいで』
ブラッド伯爵は、いつものように人好きのする笑顔で何度もクラウスにそう言ったが、正直、クラウスはあの怖い雰囲気の広い屋敷に行くのは抵抗があった。
それに、長い期間そこまでお世話になるわけには…。
と思い、ギリギリで断ってしまった。
だから、寮だけは開いているから、学園に残ろうかと思っているところだ。
…多分、残るのは俺だけだろうから、少し寂しいが。
そういえば、前世の家族はどうしているかな…。イマイチ今生の別れという実感がなく、薄情かも知れないが、今まで思い出して悲しむということはなかった。
しかし、こうして皆が家に帰っていくのを見ると、寂しさが湧いてくる。
カツ、カツ
生徒が帰ってしまって時々教員の声が聞こえるだけの校内を、クラウスの足音だけが響く。
皆帰るのが早い。それだけ、最近は学園にいてもどこか緊張した空気があり、生徒たちも気疲れしていたのだろう。
…多分、リリーたちも帰っちゃったかな。
授業終わりが慌ただしくて、ちゃんと挨拶せずに「今年はお疲れ様」と声を交わしただけだった。
ギルバートとも、全く会わないまま休みに入ってしまった。彼は近々王宮で開催される『冬の舞踏会』などの行事で忙しいのだとか。舞踏会なんて馴染みのない俺にとっては、映画みたいな響きだな。
…少し、ギルバートと今年最後に会いたかったなと思ってしまったのは内緒だ。
「あ!クラウス!」
その時、聞き慣れた声がして、ノアやリリー、シリルがやって来た。
…あれ、みんなもう実家に帰ったんじゃなかったのか?
「君のこと探してた!…もしかして、休暇中、寮に残るつもりなの?」
ノアたちはどこか心配そうな顔だ。
「ああ、そうなんだ」
「…そう。でも、休暇中、学園は食堂も閉まっちゃうし、警備も薄いわ。…それに、あんな事件があった中、クラウスをひとりにするのは…」
「そうだよ!…僕らの家に来てもらうこともできるんだよ?」
ノアたちは、俺を心配して彼らの実家へ泊まるのを勧めてきた。
みんな、優しいな。
しかし、リリーたちは俺に抵抗がないけれど、彼らの親戚たちは『黒髪黒目』である俺に嫌悪感を持つ可能性がある。…家族の団欒の時に、邪魔するのは気が引けた。
俺は身の回りのことはできるから、と断ろうとしていると、
コンコン。
とクラウスの部屋の扉が叩かれた。
訝しげに扉を開けると、1人の騎士然とした男性が立っている。いや、彼は王立近衛隊のマークの付いた制服を着ている、立派な騎士だった。
「失礼します。あなたが、クラウスさんですよね?」
彼は、真っ直ぐ俺を見ながら、一枚の紙をクラウスの目の前に掲げた。高級そうな美しい紙だ。
「私は王立近衛隊の者です。あなたに、『冬の舞踏会』の招待状をお届けに参りました──ギルバート殿下からです」
ふ、冬の舞踏会の招待状だって?
「期間中、王宮に泊まれるように手配してあります。──ちなみに、国王陛下もあなたの参加を望まれています。…ご辞退することは難しいかと」
「…なるほどね」
リリーがポンとクラウスの肩に手を置いた。
「──良かったわ。王宮なら、何処よりも安全だし」
「へえ~、ふぅ~ん、ギルバート王子がクラウスを舞踏会に誘うなんてね~特別な何かを感じるね~」
妙にニコやかなリリーとノアが勝手に話を進めている。
待ってくれ!
「えっ、で、でも、急な話で…」
「…クラウスさん、先ほども申しましたが、こちらをご辞退することは難しく…」
「行ってきたなよ!ここで断ったらギルバート様、悲しむよ~」
「大丈夫よ、『冬の舞踏会』はそんなに堅苦しくないらしいし。ギルバート王子が付いてるなら、安心だと思うわ」
──こうして、俺はいつのまにか、『冬の舞踏会』へ参加することになってしまったのである。
クラウスは、窓から見える白い景色を見て、この世界に来てから季節が随分巡ってしまったことに驚愕した。
フィルヘイムは寒い国らしい。学園の校舎である古城は全部雪に覆われた。
「…ああ~、さみー」
「やっと冬季休暇だな~!久しぶりに実家に帰る」
授業終わりの学園は、妙にワクワクした空気に包まれていた。
そうだ。明日から、冬休みなのである。
初等部の生徒たちが襲われたあの事件があってから、学園全体がピリピリした雰囲気だったが、ようやく生徒たちも休みを前に明るくなった。
結局、あの事件は『黒い集団』が犯人だと思われると学園から発表があった。
クラウスはあの時、先生たちに疑われていたが、その後は特に何も言われることはなかった。しかし、生徒の中ではクラウスに対する疑惑の声が強くなり、また嫌悪の視線を受け始めた。
入学当初に戻ったかのようだったが、あの時とは違って、クラウスには心強い仲間がいる。
ギルバートは特に、クラウスに何か言ってくる生徒がいると必ず現れて彼の圧で追い払ってくれた。
とはいえ、ピリピリした空気の学園が休みに入るのには、少しホッとした。
しかし、問題もある。
「…休み中、どこで過ごそうかな」
この世界では、冬休みの間、生徒たちは実家へ帰るのが普通だ。
しかし、クラウスにはこの世界に身寄りがないため、長い冬休みをどうしようか迷っているところだ。
『クラウスくん。ぜひ屋敷に帰っておいで』
ブラッド伯爵は、いつものように人好きのする笑顔で何度もクラウスにそう言ったが、正直、クラウスはあの怖い雰囲気の広い屋敷に行くのは抵抗があった。
それに、長い期間そこまでお世話になるわけには…。
と思い、ギリギリで断ってしまった。
だから、寮だけは開いているから、学園に残ろうかと思っているところだ。
…多分、残るのは俺だけだろうから、少し寂しいが。
そういえば、前世の家族はどうしているかな…。イマイチ今生の別れという実感がなく、薄情かも知れないが、今まで思い出して悲しむということはなかった。
しかし、こうして皆が家に帰っていくのを見ると、寂しさが湧いてくる。
カツ、カツ
生徒が帰ってしまって時々教員の声が聞こえるだけの校内を、クラウスの足音だけが響く。
皆帰るのが早い。それだけ、最近は学園にいてもどこか緊張した空気があり、生徒たちも気疲れしていたのだろう。
…多分、リリーたちも帰っちゃったかな。
授業終わりが慌ただしくて、ちゃんと挨拶せずに「今年はお疲れ様」と声を交わしただけだった。
ギルバートとも、全く会わないまま休みに入ってしまった。彼は近々王宮で開催される『冬の舞踏会』などの行事で忙しいのだとか。舞踏会なんて馴染みのない俺にとっては、映画みたいな響きだな。
…少し、ギルバートと今年最後に会いたかったなと思ってしまったのは内緒だ。
「あ!クラウス!」
その時、聞き慣れた声がして、ノアやリリー、シリルがやって来た。
…あれ、みんなもう実家に帰ったんじゃなかったのか?
「君のこと探してた!…もしかして、休暇中、寮に残るつもりなの?」
ノアたちはどこか心配そうな顔だ。
「ああ、そうなんだ」
「…そう。でも、休暇中、学園は食堂も閉まっちゃうし、警備も薄いわ。…それに、あんな事件があった中、クラウスをひとりにするのは…」
「そうだよ!…僕らの家に来てもらうこともできるんだよ?」
ノアたちは、俺を心配して彼らの実家へ泊まるのを勧めてきた。
みんな、優しいな。
しかし、リリーたちは俺に抵抗がないけれど、彼らの親戚たちは『黒髪黒目』である俺に嫌悪感を持つ可能性がある。…家族の団欒の時に、邪魔するのは気が引けた。
俺は身の回りのことはできるから、と断ろうとしていると、
コンコン。
とクラウスの部屋の扉が叩かれた。
訝しげに扉を開けると、1人の騎士然とした男性が立っている。いや、彼は王立近衛隊のマークの付いた制服を着ている、立派な騎士だった。
「失礼します。あなたが、クラウスさんですよね?」
彼は、真っ直ぐ俺を見ながら、一枚の紙をクラウスの目の前に掲げた。高級そうな美しい紙だ。
「私は王立近衛隊の者です。あなたに、『冬の舞踏会』の招待状をお届けに参りました──ギルバート殿下からです」
ふ、冬の舞踏会の招待状だって?
「期間中、王宮に泊まれるように手配してあります。──ちなみに、国王陛下もあなたの参加を望まれています。…ご辞退することは難しいかと」
「…なるほどね」
リリーがポンとクラウスの肩に手を置いた。
「──良かったわ。王宮なら、何処よりも安全だし」
「へえ~、ふぅ~ん、ギルバート王子がクラウスを舞踏会に誘うなんてね~特別な何かを感じるね~」
妙にニコやかなリリーとノアが勝手に話を進めている。
待ってくれ!
「えっ、で、でも、急な話で…」
「…クラウスさん、先ほども申しましたが、こちらをご辞退することは難しく…」
「行ってきたなよ!ここで断ったらギルバート様、悲しむよ~」
「大丈夫よ、『冬の舞踏会』はそんなに堅苦しくないらしいし。ギルバート王子が付いてるなら、安心だと思うわ」
──こうして、俺はいつのまにか、『冬の舞踏会』へ参加することになってしまったのである。
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