魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される

ぶんぐ

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24.舞踏会1

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目覚めると、そこは映画の中かのようなアンティーク家具に囲まれた美しい部屋の中だった。

え、どこ。

って、そうだ……俺は王宮に招待されていたんだ。

「しかし、いつ見ても慣れない…」

ここ数日の俺は、この来客用の豪華な離宮で身に余る手厚い歓迎を受けていて、全く知らない世界でドギマギしっぱなしだった。メイドが何かしてくれる度に「すみません、すみません」と言ってしまい、メイドたちは呆気に取られていた。

「…今日は、ついに舞踏会の日か」

そう、クラウスが王宮に招待されてからあっという間に時間が過ぎ、『冬の舞踏会』の日になってしまった。
あれからギルバートも国王陛下も政務で忙しく、ここ数日俺は近衛兵くんと一緒に離宮で散策して過ごしていた。

…今日、久しぶりに彼に会うから少しドキドキする。

というか、舞踏会が怖すぎて朝からドキドキしているのもある。

俺、大丈夫?この前世から生粋の平凡平民である俺が、舞踏会なんて貴族のキラキラした世界に行っていいものなのか?

コンコン。

その時、部屋がノックされ、近衛兵くんが顔を覗かせた。

「おはようございます。早速ですが、クラウスさんの舞踏会の衣装が届きましたので、今から着ていただけますか?」

あ、この前オーダーメイドで作ってもらった衣装か!

メイドたちと近衛兵くんが持って来た衣装は、俺の好みでシンプルだが袖や首元の装飾の美しい、濃い青のタキシードぽっい衣装だった。ギルバートが選んだようだが、なぜこんなに俺の好み(派手じゃないもの)が分かったのか謎だ。

「さ、できましたよ。鏡はこちらです」

メイドさんに衣装を着せてもらって鏡を見ると、どうにも着せられている感は拭えないが、ようやく舞踏会に居ても違和感ないくらい様になった俺がいた。

ほんとにこれもらっていいのかな。すご…

それから、メイドのおばちゃんたちは俺の髪や顔をテキパキと整えてくれた。「いや~あなた、結構顔疲れてるわねー!」とか何とか言いながら。

え?顔疲れてる?

クラウスは妙に気になって、みんながいなくなった後、鏡を見る。

…確かに。

ペタリと目の下の隈を触る。さっき軽くファンデーション的なのを塗られたが、それでもうっすら分かる隈。

…俺の顔、こんなだったっけな。
この世界に来て、俺は満足のいく衣食住に、良質な睡眠を手に入れた。だから、社畜で顔色の悪かった俺も、普通に健康体になっていたはずなんだ。

…でも、鏡に映る俺は、前世の社畜時代のような少しやつれた顔をしている。
目の下には消えない隈、少し痩せた顔。

なんでだ?

確かに最近、眠っているのに疲労が取れていないことが多い。
ふと、クラウスは服の上から胸元にある赤水晶を握った。

…これのせいか?

いやいや、そんなわけないだろ。これは、適度に使えばそう危険なものじゃないはずだ。体力が減るって言うけど、寝れば少しは回復するんだしさ。

周りに誰もいないのを確認し、俺は赤水晶を取り出して見た。

…?

前より、透けていた赤色が色を変えていることに気づく。光にかざすと、よく分かった。…少し、濁っていることに。



…ま、気のせいか。

俺は赤水晶を仕舞うと、自分の持って来た荷物をゴソゴソする。

いずれにしても、寝不足感があるのは何とかしたい。こういう時、前世ではエナドリをぶち込んでいたが、あいにくこの世界にはないので…

…これだ!

俺が取り出したのは、ピンクの液体が入っている瓶だった。収穫祭で会ったお爺さんにもらった物。『元気もりもりドリンク』だ!

あのお爺さんの怪しい店を思い出して少し不安になるが、それより、この『元気もりもりドリンク』でもっとスッキリした顔になるなら、あるに越したことはない。

俺は、ピンクの瓶の蓋を開けると、一気にぐびっと飲んだ。

…ふむ。少し待つが、別に体が変になるわけでもなし。もしかしたら、何の意味もない物だったかも知らないが。

俺は意気揚々と部屋を出ていきながら、ふと思った。

…あのお爺さん、そういえばもう一つ瓶を持っていて、どっちがどっちかで迷ってたな。…もう一つの瓶の名前は……『素直になっちゃうドリンク』、だったっけ?

…まさか間違えて渡してきてないよな。

だが、そんな思考は、部屋を出て歩いているうちにすぐに忘れられていった。





舞踏会は、王族が代々受け継いでいる別荘で開催されるようだ。場所は王都の近郊、丘の上の小さな城だ。
そこまで馬車で連れていってくれるというので、俺は近衛兵くんと共に城の門へ向かう。

この『冬の舞踏会』は秘密の行事のため、参加者もこっそりと集まってくる。俺も、城の裏門から出かけることになった。

「ここで少し待っていてください」

近衛兵くんが馬車を呼びに行き、俺は1人静かな裏門で待っていた。

その時だった。

コツコツと足音がして、ハッとする美形の男が現れる。彼は俺を見つけると、そのままじっとこっちを見ながら近づいて来た。

一目見て分かった。黄金色の長めの髪に垂れ目の碧眼、うっすら微笑んでいる顔は少し軽薄そうだが、ビシビシと油断ならないオーラを放つこの人は、ギルバートの兄で王太子である、アーサー・フィルヘイムだ。

「こんにちは」
「こ、こんにちは」

クラウスは、ギルバートの兄である彼の登場に少し緊張する。予想外に、彼はにこやかに近づいてきて…
しかし、チラッと見た彼の目は冷たくクラウスを見下ろしており、クラウスはドキッとした。

「君、クラウスくんだよね?」
「はい、クラウスと申します。お初にお目にかかります、アーサー殿下」
「ああ、そんな、堅苦しくなくていいよ。君の方が年上っぽいし」

この世界で年上っぽいと言われたのは初めてだ。
しかし、一体、彼は何の用で俺の所へ来たんだろう。
俺はドキドキしながらアーサーをチラリと見上げると、彼は相変わらず、笑みとはかけ離れた冷たい目をしていた。

「君が、ギルバートと"特別仲の良い"クラウスくんかぁ。一度会ってみたいと思ってたんだよねぇ」

…それにしては、ちっとも彼の目は笑っていない。

「それで」

その時、アーサーの目がぐっと細まり、ひどく低い声で鋭く言われる。

「君がギルバートに近づくのは、何が目的?」

…目的?

「…、も、目的とは何のことでしょうか?」
「…とぼけるね。あのギルバートをたらし込むなんて、どんな手を使ったんだ?『黒髪黒目』のクラウスくん。…君が学園に来てから、不可解な事件が多発してるみたいだよね~?」

明らかに疑い、嫌悪している目を向けられ、クラウスは冷や汗が流れるのを感じた。

「……正直、俺は君のことを信用してない。ギルバートに何かあったら…俺は容赦なく君を消すよ」

冷たく言い放たれた言葉にドキッとする。
オスカー王が比較的友好的だったため、ギルバートの家族にここまで嫌われているということは少なからずショックだ。

「それじゃあ、また舞踏会で。…ま、もう話すことはないと思うけど」

彼はひらりと手を振ると、さっさと去っていってしまった。

…どうやら俺は、ギルバートの兄に相当嫌われているようだ。



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