魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される

ぶんぐ

文字の大きさ
37 / 57

35.ギルバートの過去1

しおりを挟む
夜、俺は書斎の前に立っていた。

…アーサーは、なぜギルバートが『黒い集団』を追っているのか教えてくれる、と言っていた。

俺は踏み込んでもいいのだろうか?彼自身からまだ話してもらってもいないのに。

でも、俺はどうしても気になる。…ギルバートのことを、もっと知りたい。
その冷たい仮面の下にあるものを…。

ガチャ。

中に入ると、大きめの部屋全体が本棚に囲まれた、落ち着いた灯りの照らす奥に、アーサーが立っていた。

「…来たね」

彼の背後には、おびただしい数の本や紙が積み重なっている。確かに、息を呑むほどの量から、彼らが”何か”を執念を持って調べていることは分かった。

「見てよ、凄いだろう?全て、”あの事件”から我々が調べてきた、ゼト信仰者に関する資料だ」
「…こんなに沢山…」
「もう分かっていると思うけど、『黒い集団』はゼト信仰者の生き残りで間違いない。君は彼らと関わりがないと言うけど…君がよーく世話になっている人物は、どうやら違うみたいだよ?」

俺が世話になっている人物…?

俺の目をじっと見ながら、アーサーは一枚の紙をペラリと俺の目の前に突き出してきた。

「君がこの質問に正直に答えてくれたら、もう疑うのをやめよう。──この人物との関係は?」

『ブラッド伯爵』

という名前が真っ先に目に飛び込んできた。名前の下には線が引かれ、”要注意人物”と書かれている。どうやら名前のリストのようだ。

「──ブラッド伯爵…ですか?」

そう呟いたものの、俺はなぜか心の中で妙にカチリとハマる気がした。

「彼は…俺の学園生活での資金援助をしてくれているだけで…」
「それだけ?」

アーサーが鋭い目を上げた。

「…ブラッド伯爵が誰かに資金援助するなんて、初めてのことだ。それが、突然現れた謎の『黒目黒髪』の男、だとはね。本当に偶然かな?」

アーサーの雰囲気ががらりと変わった。

「ギルバートも、君たちの関係を疑っているよ」

その名前にドキリとする。ギルバートが…?

「弟は、それでも君を信じると言った。だけど俺は、到底君を信じることはできない。…ブラッド伯爵について知っていることを洗いざらい話してくれたら、もう少し君を信じられるんだけどねぇ?」
「…俺もブラッド伯爵については何も知らないです。…一体、彼は何を…」
「元々、伯爵がゼト信仰者の出入りする高級バーに出入りしていた、という情報を仕入れたのが始まりだ。それ以外にも、君への援助、禁忌魔法関連書物の購入、また、その他の要注意人物との関わりが指摘される」

…ブラッド伯爵は、そんなことまでしていたのか。

その時、一瞬ブラッド伯爵の屋敷で見た『黒い翼の絵』が脳裏に浮かぶ。

──まさか…?

「…しかし、なかなか尻尾の掴めない狡猾な人物であるのは確かだよ──
──君は、どうやってブラッド伯爵と知り合ったんだい?」

アーサーの目は、鷹のように俺を探る。

「俺が学園に入学してすぐ、学園長に呼び出され、そこで初めて彼に会いました。『未来ある若者に援助したい』と言って。…正直、俺も彼のことは…どうも読めないなと思っています。なんで俺に声をかけたのか…」

クラウスは、絵画のことを言おうか迷った。


ドン!


その時、書斎のドアが勢いよく開かれ、驚いて振り返るとギルバートが勢いよく入ってきた。その目は俺とアーサーに向けられ、驚いたように見開かれた後、険しい顔つきになる。

「兄さん…クラウスには、ここを見せるな、と言ったはずだ」

彼は兄に固い声で言った。

…怒ってるように、その目はクラウスを射抜いた。その目が鋭くて、ハッと息を飲む。

そりゃ、勝手にギルバートの秘密を覗こうとズカズカ入り込んだことに、怒るに決まってる。…俺は、まだ彼に何も知らされてないのに。

「いつまでも、お互いの秘密を隠し通せるわけじゃないよ」
「…クラウスのことを信じていると言ったよな」
「でも、俺たちが最も知りたいことを、彼が知っている可能性が高い。彼の口から、全てを聞くべきだ。…そして、我々が何を思っているのかも、ね」

ギルバートがチラリとこちらを見てきたが、その目は怒りとも何か違う、苦しそうな目だった。

「…君には……まだ伝える勇気がなかったんだ。…すまない」

ギルバートはポツリと言うと、俯いてしまう。

その姿は、どうしても何か声をかけたい衝動に駆られるほど辛そうに見えた。
しかし声をかける前に、ギルバートはこちらを見ないまま、背を向けてしまった。

「…少し考えさせてくれ」

そう言い、部屋を出ていってしまう。

「ッ…ギルバート」

クラウスは、咄嗟に後を追おうとドアに手をかけた。

…彼は俺にこれ以上踏み込んできて欲しくないのかもしれない。俺のやっていることは、ただ好きな人に苦しんで欲しくないというお節介なのかもしれない。

でも、あんなに苦しそうな彼を放って置けなかった。

「君があいつに向き合う覚悟があるなら──追いかけたらいい」

後ろで、アーサーの静かな声がした。彼の目は俺を射抜いていた。

クラウスは迷いを振り払うと、ギルバートを追って部屋を出た。




すぐ追ったつもりだが、ギルバートを見失った。

俺は王宮に詳しくない。けど、何となくギルバートは誰もいない静かな所へ行った気がして、俺は警備兵のいない場所へ、気がつけば上へ上へと城を上がっていた。

なぜか導かれるように月の光が漏れている方へ向かうと、目の前に広いバルコニーが現れた。

そこに、月の光を背に、ギルバートが立っていた。彼はバルコニーから眼下に広がる白く輝く園庭を見下ろしているため、表情は見えない。

コツ。

足音が聞こえたのか、ギルバートはハッとしたように振り返る。

彼の美しい青い目に怒りは浮かんでいなかったので、少し安心した。ただ、悲しそうな目だ。普段の冷静無表情のギルバートからは想像できないほど、今日の彼は感情が出ていた。

「…ごめんな、追いかけて。でも、どうしても君と話したかった」

俺はギルバートの肩にそっと手を置いた。

「…いや、俺の決心がつかなかっただけで…君は何も悪くない」

2人して無言で、眼下に広がる園庭を見渡していた。

初めてこうして見渡してみたが、園庭は白銀に輝いていて美しく、思わず目を見張った。白銀に輝くのは、雪だけではなくどうやら園庭の中心で輝いている花畑のようだった。冬でも、雪の中でも、元気に生い茂り、一際美しい花。一体、何の花だろうか。綺麗に手入れされており、大事にされているのが分かった。

「…綺麗だな」

思わず呟いた言葉に、ギルバートが隣で息を飲むのが分かった。

「……あの花畑は、母上が作ったものだ」

彼の低い声が耳に届いた。

「……この場所は…色んな思い出のある場所なんだ。いつも1人になりたい時に来る。なぜ、ここにいると分かったんだ?」
「何となく…。気づいたら君を見つけていたよ」

ギルバートを見ると、彼もまた、その美しい色の目を俺にまっすぐ向けていた。その目が少し迷うように揺れた後、閉じられる。

「……君は不思議な人だ。いつも心にすっと入ってきて寄り添ってくれる。君だけには…隠し事はしたくない」

彼は決心したように言った。

「前、母上は俺を庇ってアイザックに殺された、と言ったよな」

クラウスはハッとした。やっぱり、そのことが彼の中で今でも深い傷となっているのだ。

「それだけじゃないんだ……俺が、母上を死なせたようなものなんだ…この、バルコニーで、母上は殺された。あの日…────」



────

〈10年前〉


アイザックがあのような大事件を起こすとは、誰も思っていなかった。

アイザックは、ずっと王宮に仕えてきた上位貴族出身で、普通の、真面目な男だった。確かに少しだけ、他の人より魔力は少なかったかもしれない。しかし、昔は決して”魔力がない"わけではなかった。

ギルバートも、彼のことをとても慕っていた。アイザックは魔力が少なく苦労もあった中、向上心を持ち国をより良くしたいと努力していた。
そんな彼を、幼いギルバートもカッコ良い大人だと思っていた。ギルバートの父オスカーも、母ミアも、魔力差別を嫌っていたため、アイザックの能力を魔力どうこう関係なく評価していたと思う。

…しかし、彼の周りには、魔力至上主義の者もいた。彼らの影響か…アイザックはいつからか、自分は正当に評価されない、自分はもっと凄いことをやれるのに、と暗い願望を抱き始めた。
そして、彼がすでに存在していた『ゼト信仰』の世界に入るのに時間はかからなかった。

そんなある時、アイザックは突然、自分はゼトの生まれ変わりだったと吹聴し始めた。

「──夢を見た。夢でゼト様は、俺がゼト様の生まれ変わりだと言い、世界を変えろと仰った。そして起きたら、俺は魔力をなくしていたのだ…!──」

アイザックは、容姿さえ変えた。いつのまにか黒い髪、そして黒い目へ変わっていた。アイザックは、元々茶色の髪、目をしていたというのに…。

それでも、まだその時は人々も『ゼト信仰』にそこまで嫌悪感も危機感もなく、不審には思われていても、アイザックは依然として宮廷勤めをしていた。

ギルバートも、彼の変化にはあまり気にしていなかった。それよりも、その時のギルバートは悩みがあったのだ。

「…アイザックおじさん。どうして僕、兄さまよりも魔法が使えないのかな」

8歳のギルバートは、兄よりも、そして同年代の子よりも、まだ魔法があまり使えなかったのだ。
それは実は、あまりに膨大な魔力を持っていたために幼少期は抑えられていただけなのだが、ギルバートは何も知らなかった。
だから、自分がすごく魔力が少ないのではないか、と不安になったのだ。

「…ははは、心配することではないですよ、ギルバート殿下。来たる時がくれば、魔力が少ないのなんて、関係なくなる。俺の言うことを、聞いていれば…ね」

そう言って笑ったアイザックの顔は、今思えば歪んで見えた。




しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

偽りの聖者と泥の国

篠雨
BL
「感謝すら忘れた者たちに、明日を語る資格はない」 自らの都合で聖王セシルを追放し、異世界から新たな「勇者」を召喚したアドレアン聖王国。 しかし、その身勝手な選択が、国を、大地を、そして人々の心を根底から腐らせていく。 壊れゆく少年勇者と、彼を歪に愛した騎士。 二人の執着が交わったとき、聖王国は二度と再生不能な終焉へと突き進む。 裏切り者たちには、因果応報という名の、容赦なき報いが下る。 これは、傲慢な国が崩壊するまでの、無慈悲な記録。 ----------------------------------------- 『嘘つき王と影の騎士』から引き続き読んでくださる皆様へ この物語は、セシルを虐げた者たちが、ただただ因果応報の末路を辿るだけの物語です。 本編に救いはありません。 セシルたちのその後が気になるという方は、本編は飛ばして、最終話の後に掲載する「閑話」のみをお読みいただくことをお勧めいたします。 本作は『嘘つき王と影の騎士』の続編となりますが、前作をお読みでない方でも一つの物語としてお楽しみいただけます。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

処理中です...