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35.ギルバートの過去1
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夜、俺は書斎の前に立っていた。
…アーサーは、なぜギルバートが『黒い集団』を追っているのか教えてくれる、と言っていた。
俺は踏み込んでもいいのだろうか?彼自身からまだ話してもらってもいないのに。
でも、俺はどうしても気になる。…ギルバートのことを、もっと知りたい。
その冷たい仮面の下にあるものを…。
ガチャ。
中に入ると、大きめの部屋全体が本棚に囲まれた、落ち着いた灯りの照らす奥に、アーサーが立っていた。
「…来たね」
彼の背後には、おびただしい数の本や紙が積み重なっている。確かに、息を呑むほどの量から、彼らが”何か”を執念を持って調べていることは分かった。
「見てよ、凄いだろう?全て、”あの事件”から我々が調べてきた、ゼト信仰者に関する資料だ」
「…こんなに沢山…」
「もう分かっていると思うけど、『黒い集団』はゼト信仰者の生き残りで間違いない。君は彼らと関わりがないと言うけど…君がよーく世話になっている人物は、どうやら違うみたいだよ?」
俺が世話になっている人物…?
俺の目をじっと見ながら、アーサーは一枚の紙をペラリと俺の目の前に突き出してきた。
「君がこの質問に正直に答えてくれたら、もう疑うのをやめよう。──この人物との関係は?」
『ブラッド伯爵』
という名前が真っ先に目に飛び込んできた。名前の下には線が引かれ、”要注意人物”と書かれている。どうやら名前のリストのようだ。
「──ブラッド伯爵…ですか?」
そう呟いたものの、俺はなぜか心の中で妙にカチリとハマる気がした。
「彼は…俺の学園生活での資金援助をしてくれているだけで…」
「それだけ?」
アーサーが鋭い目を上げた。
「…ブラッド伯爵が誰かに資金援助するなんて、初めてのことだ。それが、突然現れた謎の『黒目黒髪』の男、だとはね。本当に偶然かな?」
アーサーの雰囲気ががらりと変わった。
「ギルバートも、君たちの関係を疑っているよ」
その名前にドキリとする。ギルバートが…?
「弟は、それでも君を信じると言った。だけど俺は、到底君を信じることはできない。…ブラッド伯爵について知っていることを洗いざらい話してくれたら、もう少し君を信じられるんだけどねぇ?」
「…俺もブラッド伯爵については何も知らないです。…一体、彼は何を…」
「元々、伯爵がゼト信仰者の出入りする高級バーに出入りしていた、という情報を仕入れたのが始まりだ。それ以外にも、君への援助、禁忌魔法関連書物の購入、また、その他の要注意人物との関わりが指摘される」
…ブラッド伯爵は、そんなことまでしていたのか。
その時、一瞬ブラッド伯爵の屋敷で見た『黒い翼の絵』が脳裏に浮かぶ。
──まさか…?
「…しかし、なかなか尻尾の掴めない狡猾な人物であるのは確かだよ──
──君は、どうやってブラッド伯爵と知り合ったんだい?」
アーサーの目は、鷹のように俺を探る。
「俺が学園に入学してすぐ、学園長に呼び出され、そこで初めて彼に会いました。『未来ある若者に援助したい』と言って。…正直、俺も彼のことは…どうも読めないなと思っています。なんで俺に声をかけたのか…」
クラウスは、絵画のことを言おうか迷った。
ドン!
その時、書斎のドアが勢いよく開かれ、驚いて振り返るとギルバートが勢いよく入ってきた。その目は俺とアーサーに向けられ、驚いたように見開かれた後、険しい顔つきになる。
「兄さん…クラウスには、ここを見せるな、と言ったはずだ」
彼は兄に固い声で言った。
…怒ってるように、その目はクラウスを射抜いた。その目が鋭くて、ハッと息を飲む。
そりゃ、勝手にギルバートの秘密を覗こうとズカズカ入り込んだことに、怒るに決まってる。…俺は、まだ彼に何も知らされてないのに。
「いつまでも、お互いの秘密を隠し通せるわけじゃないよ」
「…クラウスのことを信じていると言ったよな」
「でも、俺たちが最も知りたいことを、彼が知っている可能性が高い。彼の口から、全てを聞くべきだ。…そして、我々が何を思っているのかも、ね」
ギルバートがチラリとこちらを見てきたが、その目は怒りとも何か違う、苦しそうな目だった。
「…君には……まだ伝える勇気がなかったんだ。…すまない」
ギルバートはポツリと言うと、俯いてしまう。
その姿は、どうしても何か声をかけたい衝動に駆られるほど辛そうに見えた。
しかし声をかける前に、ギルバートはこちらを見ないまま、背を向けてしまった。
「…少し考えさせてくれ」
そう言い、部屋を出ていってしまう。
「ッ…ギルバート」
クラウスは、咄嗟に後を追おうとドアに手をかけた。
…彼は俺にこれ以上踏み込んできて欲しくないのかもしれない。俺のやっていることは、ただ好きな人に苦しんで欲しくないというお節介なのかもしれない。
でも、あんなに苦しそうな彼を放って置けなかった。
「君があいつに向き合う覚悟があるなら──追いかけたらいい」
後ろで、アーサーの静かな声がした。彼の目は俺を射抜いていた。
クラウスは迷いを振り払うと、ギルバートを追って部屋を出た。
すぐ追ったつもりだが、ギルバートを見失った。
俺は王宮に詳しくない。けど、何となくギルバートは誰もいない静かな所へ行った気がして、俺は警備兵のいない場所へ、気がつけば上へ上へと城を上がっていた。
なぜか導かれるように月の光が漏れている方へ向かうと、目の前に広いバルコニーが現れた。
そこに、月の光を背に、ギルバートが立っていた。彼はバルコニーから眼下に広がる白く輝く園庭を見下ろしているため、表情は見えない。
コツ。
足音が聞こえたのか、ギルバートはハッとしたように振り返る。
彼の美しい青い目に怒りは浮かんでいなかったので、少し安心した。ただ、悲しそうな目だ。普段の冷静無表情のギルバートからは想像できないほど、今日の彼は感情が出ていた。
「…ごめんな、追いかけて。でも、どうしても君と話したかった」
俺はギルバートの肩にそっと手を置いた。
「…いや、俺の決心がつかなかっただけで…君は何も悪くない」
2人して無言で、眼下に広がる園庭を見渡していた。
初めてこうして見渡してみたが、園庭は白銀に輝いていて美しく、思わず目を見張った。白銀に輝くのは、雪だけではなくどうやら園庭の中心で輝いている花畑のようだった。冬でも、雪の中でも、元気に生い茂り、一際美しい花。一体、何の花だろうか。綺麗に手入れされており、大事にされているのが分かった。
「…綺麗だな」
思わず呟いた言葉に、ギルバートが隣で息を飲むのが分かった。
「……あの花畑は、母上が作ったものだ」
彼の低い声が耳に届いた。
「……この場所は…色んな思い出のある場所なんだ。いつも1人になりたい時に来る。なぜ、ここにいると分かったんだ?」
「何となく…。気づいたら君を見つけていたよ」
ギルバートを見ると、彼もまた、その美しい色の目を俺にまっすぐ向けていた。その目が少し迷うように揺れた後、閉じられる。
「……君は不思議な人だ。いつも心にすっと入ってきて寄り添ってくれる。君だけには…隠し事はしたくない」
彼は決心したように言った。
「前、母上は俺を庇ってアイザックに殺された、と言ったよな」
クラウスはハッとした。やっぱり、そのことが彼の中で今でも深い傷となっているのだ。
「それだけじゃないんだ……俺が、母上を死なせたようなものなんだ…この、バルコニーで、母上は殺された。あの日…────」
────
〈10年前〉
アイザックがあのような大事件を起こすとは、誰も思っていなかった。
アイザックは、ずっと王宮に仕えてきた上位貴族出身で、普通の、真面目な男だった。確かに少しだけ、他の人より魔力は少なかったかもしれない。しかし、昔は決して”魔力がない"わけではなかった。
ギルバートも、彼のことをとても慕っていた。アイザックは魔力が少なく苦労もあった中、向上心を持ち国をより良くしたいと努力していた。
そんな彼を、幼いギルバートもカッコ良い大人だと思っていた。ギルバートの父オスカーも、母ミアも、魔力差別を嫌っていたため、アイザックの能力を魔力どうこう関係なく評価していたと思う。
…しかし、彼の周りには、魔力至上主義の者もいた。彼らの影響か…アイザックはいつからか、自分は正当に評価されない、自分はもっと凄いことをやれるのに、と暗い願望を抱き始めた。
そして、彼がすでに存在していた『ゼト信仰』の世界に入るのに時間はかからなかった。
そんなある時、アイザックは突然、自分はゼトの生まれ変わりだったと吹聴し始めた。
「──夢を見た。夢でゼト様は、俺がゼト様の生まれ変わりだと言い、世界を変えろと仰った。そして起きたら、俺は魔力をなくしていたのだ…!──」
アイザックは、容姿さえ変えた。いつのまにか黒い髪、そして黒い目へ変わっていた。アイザックは、元々茶色の髪、目をしていたというのに…。
それでも、まだその時は人々も『ゼト信仰』にそこまで嫌悪感も危機感もなく、不審には思われていても、アイザックは依然として宮廷勤めをしていた。
ギルバートも、彼の変化にはあまり気にしていなかった。それよりも、その時のギルバートは悩みがあったのだ。
「…アイザックおじさん。どうして僕、兄さまよりも魔法が使えないのかな」
8歳のギルバートは、兄よりも、そして同年代の子よりも、まだ魔法があまり使えなかったのだ。
それは実は、あまりに膨大な魔力を持っていたために幼少期は抑えられていただけなのだが、ギルバートは何も知らなかった。
だから、自分がすごく魔力が少ないのではないか、と不安になったのだ。
「…ははは、心配することではないですよ、ギルバート殿下。来たる時がくれば、魔力が少ないのなんて、関係なくなる。俺の言うことを、聞いていれば…ね」
そう言って笑ったアイザックの顔は、今思えば歪んで見えた。
…アーサーは、なぜギルバートが『黒い集団』を追っているのか教えてくれる、と言っていた。
俺は踏み込んでもいいのだろうか?彼自身からまだ話してもらってもいないのに。
でも、俺はどうしても気になる。…ギルバートのことを、もっと知りたい。
その冷たい仮面の下にあるものを…。
ガチャ。
中に入ると、大きめの部屋全体が本棚に囲まれた、落ち着いた灯りの照らす奥に、アーサーが立っていた。
「…来たね」
彼の背後には、おびただしい数の本や紙が積み重なっている。確かに、息を呑むほどの量から、彼らが”何か”を執念を持って調べていることは分かった。
「見てよ、凄いだろう?全て、”あの事件”から我々が調べてきた、ゼト信仰者に関する資料だ」
「…こんなに沢山…」
「もう分かっていると思うけど、『黒い集団』はゼト信仰者の生き残りで間違いない。君は彼らと関わりがないと言うけど…君がよーく世話になっている人物は、どうやら違うみたいだよ?」
俺が世話になっている人物…?
俺の目をじっと見ながら、アーサーは一枚の紙をペラリと俺の目の前に突き出してきた。
「君がこの質問に正直に答えてくれたら、もう疑うのをやめよう。──この人物との関係は?」
『ブラッド伯爵』
という名前が真っ先に目に飛び込んできた。名前の下には線が引かれ、”要注意人物”と書かれている。どうやら名前のリストのようだ。
「──ブラッド伯爵…ですか?」
そう呟いたものの、俺はなぜか心の中で妙にカチリとハマる気がした。
「彼は…俺の学園生活での資金援助をしてくれているだけで…」
「それだけ?」
アーサーが鋭い目を上げた。
「…ブラッド伯爵が誰かに資金援助するなんて、初めてのことだ。それが、突然現れた謎の『黒目黒髪』の男、だとはね。本当に偶然かな?」
アーサーの雰囲気ががらりと変わった。
「ギルバートも、君たちの関係を疑っているよ」
その名前にドキリとする。ギルバートが…?
「弟は、それでも君を信じると言った。だけど俺は、到底君を信じることはできない。…ブラッド伯爵について知っていることを洗いざらい話してくれたら、もう少し君を信じられるんだけどねぇ?」
「…俺もブラッド伯爵については何も知らないです。…一体、彼は何を…」
「元々、伯爵がゼト信仰者の出入りする高級バーに出入りしていた、という情報を仕入れたのが始まりだ。それ以外にも、君への援助、禁忌魔法関連書物の購入、また、その他の要注意人物との関わりが指摘される」
…ブラッド伯爵は、そんなことまでしていたのか。
その時、一瞬ブラッド伯爵の屋敷で見た『黒い翼の絵』が脳裏に浮かぶ。
──まさか…?
「…しかし、なかなか尻尾の掴めない狡猾な人物であるのは確かだよ──
──君は、どうやってブラッド伯爵と知り合ったんだい?」
アーサーの目は、鷹のように俺を探る。
「俺が学園に入学してすぐ、学園長に呼び出され、そこで初めて彼に会いました。『未来ある若者に援助したい』と言って。…正直、俺も彼のことは…どうも読めないなと思っています。なんで俺に声をかけたのか…」
クラウスは、絵画のことを言おうか迷った。
ドン!
その時、書斎のドアが勢いよく開かれ、驚いて振り返るとギルバートが勢いよく入ってきた。その目は俺とアーサーに向けられ、驚いたように見開かれた後、険しい顔つきになる。
「兄さん…クラウスには、ここを見せるな、と言ったはずだ」
彼は兄に固い声で言った。
…怒ってるように、その目はクラウスを射抜いた。その目が鋭くて、ハッと息を飲む。
そりゃ、勝手にギルバートの秘密を覗こうとズカズカ入り込んだことに、怒るに決まってる。…俺は、まだ彼に何も知らされてないのに。
「いつまでも、お互いの秘密を隠し通せるわけじゃないよ」
「…クラウスのことを信じていると言ったよな」
「でも、俺たちが最も知りたいことを、彼が知っている可能性が高い。彼の口から、全てを聞くべきだ。…そして、我々が何を思っているのかも、ね」
ギルバートがチラリとこちらを見てきたが、その目は怒りとも何か違う、苦しそうな目だった。
「…君には……まだ伝える勇気がなかったんだ。…すまない」
ギルバートはポツリと言うと、俯いてしまう。
その姿は、どうしても何か声をかけたい衝動に駆られるほど辛そうに見えた。
しかし声をかける前に、ギルバートはこちらを見ないまま、背を向けてしまった。
「…少し考えさせてくれ」
そう言い、部屋を出ていってしまう。
「ッ…ギルバート」
クラウスは、咄嗟に後を追おうとドアに手をかけた。
…彼は俺にこれ以上踏み込んできて欲しくないのかもしれない。俺のやっていることは、ただ好きな人に苦しんで欲しくないというお節介なのかもしれない。
でも、あんなに苦しそうな彼を放って置けなかった。
「君があいつに向き合う覚悟があるなら──追いかけたらいい」
後ろで、アーサーの静かな声がした。彼の目は俺を射抜いていた。
クラウスは迷いを振り払うと、ギルバートを追って部屋を出た。
すぐ追ったつもりだが、ギルバートを見失った。
俺は王宮に詳しくない。けど、何となくギルバートは誰もいない静かな所へ行った気がして、俺は警備兵のいない場所へ、気がつけば上へ上へと城を上がっていた。
なぜか導かれるように月の光が漏れている方へ向かうと、目の前に広いバルコニーが現れた。
そこに、月の光を背に、ギルバートが立っていた。彼はバルコニーから眼下に広がる白く輝く園庭を見下ろしているため、表情は見えない。
コツ。
足音が聞こえたのか、ギルバートはハッとしたように振り返る。
彼の美しい青い目に怒りは浮かんでいなかったので、少し安心した。ただ、悲しそうな目だ。普段の冷静無表情のギルバートからは想像できないほど、今日の彼は感情が出ていた。
「…ごめんな、追いかけて。でも、どうしても君と話したかった」
俺はギルバートの肩にそっと手を置いた。
「…いや、俺の決心がつかなかっただけで…君は何も悪くない」
2人して無言で、眼下に広がる園庭を見渡していた。
初めてこうして見渡してみたが、園庭は白銀に輝いていて美しく、思わず目を見張った。白銀に輝くのは、雪だけではなくどうやら園庭の中心で輝いている花畑のようだった。冬でも、雪の中でも、元気に生い茂り、一際美しい花。一体、何の花だろうか。綺麗に手入れされており、大事にされているのが分かった。
「…綺麗だな」
思わず呟いた言葉に、ギルバートが隣で息を飲むのが分かった。
「……あの花畑は、母上が作ったものだ」
彼の低い声が耳に届いた。
「……この場所は…色んな思い出のある場所なんだ。いつも1人になりたい時に来る。なぜ、ここにいると分かったんだ?」
「何となく…。気づいたら君を見つけていたよ」
ギルバートを見ると、彼もまた、その美しい色の目を俺にまっすぐ向けていた。その目が少し迷うように揺れた後、閉じられる。
「……君は不思議な人だ。いつも心にすっと入ってきて寄り添ってくれる。君だけには…隠し事はしたくない」
彼は決心したように言った。
「前、母上は俺を庇ってアイザックに殺された、と言ったよな」
クラウスはハッとした。やっぱり、そのことが彼の中で今でも深い傷となっているのだ。
「それだけじゃないんだ……俺が、母上を死なせたようなものなんだ…この、バルコニーで、母上は殺された。あの日…────」
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〈10年前〉
アイザックがあのような大事件を起こすとは、誰も思っていなかった。
アイザックは、ずっと王宮に仕えてきた上位貴族出身で、普通の、真面目な男だった。確かに少しだけ、他の人より魔力は少なかったかもしれない。しかし、昔は決して”魔力がない"わけではなかった。
ギルバートも、彼のことをとても慕っていた。アイザックは魔力が少なく苦労もあった中、向上心を持ち国をより良くしたいと努力していた。
そんな彼を、幼いギルバートもカッコ良い大人だと思っていた。ギルバートの父オスカーも、母ミアも、魔力差別を嫌っていたため、アイザックの能力を魔力どうこう関係なく評価していたと思う。
…しかし、彼の周りには、魔力至上主義の者もいた。彼らの影響か…アイザックはいつからか、自分は正当に評価されない、自分はもっと凄いことをやれるのに、と暗い願望を抱き始めた。
そして、彼がすでに存在していた『ゼト信仰』の世界に入るのに時間はかからなかった。
そんなある時、アイザックは突然、自分はゼトの生まれ変わりだったと吹聴し始めた。
「──夢を見た。夢でゼト様は、俺がゼト様の生まれ変わりだと言い、世界を変えろと仰った。そして起きたら、俺は魔力をなくしていたのだ…!──」
アイザックは、容姿さえ変えた。いつのまにか黒い髪、そして黒い目へ変わっていた。アイザックは、元々茶色の髪、目をしていたというのに…。
それでも、まだその時は人々も『ゼト信仰』にそこまで嫌悪感も危機感もなく、不審には思われていても、アイザックは依然として宮廷勤めをしていた。
ギルバートも、彼の変化にはあまり気にしていなかった。それよりも、その時のギルバートは悩みがあったのだ。
「…アイザックおじさん。どうして僕、兄さまよりも魔法が使えないのかな」
8歳のギルバートは、兄よりも、そして同年代の子よりも、まだ魔法があまり使えなかったのだ。
それは実は、あまりに膨大な魔力を持っていたために幼少期は抑えられていただけなのだが、ギルバートは何も知らなかった。
だから、自分がすごく魔力が少ないのではないか、と不安になったのだ。
「…ははは、心配することではないですよ、ギルバート殿下。来たる時がくれば、魔力が少ないのなんて、関係なくなる。俺の言うことを、聞いていれば…ね」
そう言って笑ったアイザックの顔は、今思えば歪んで見えた。
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