最凶婚! ~災禍の女王と怯まぬ花婿~

麻倉とわ

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人質の王子①

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「いったいどういうつもりなのでしょう?」

 女王の居室で晩餐用の髪飾りを用意しながら、侍女のマチルダが盛大なため息をついた。

「……そうよね」

 その隣で、クレメンティ―ナもまた途方にくれた声で答えを返す。

 先ほど起きたばかりの一件を受け止めきれず、マチルダに相談せずにはいられなかったのだ。折よく他の者たちは衣裳部屋でドレスや靴の準備をしていたため、内輪の話ができる状況でもあった。

「陛下に求婚なんて……ロレンツォったら調子のり過ぎだわ。あとでシメなきゃ!」

 マチルダは女官長であるグリアーノ夫人の娘で、れっきとした伯爵令嬢だ。
 艶やかな黒髪の気品ある美人で、貴婦人の鑑とも評されているが……ロレンツォが絡んでくると、とたんに人が変わって、ふだんは決して言わない言葉も口から飛び出してしまう。

 それぞれ立場が違うとはいえ、彼も、そしてクレメンティ―ナも年が近く、ずっと一緒に過ごしてきた幼なじみだったからである。

「少し落ち着いてちょうだい、マチルダ」
「だってありえないもの。自分の立場がわかっていないにもほどがあるわ!」
「でもロレンツォだって王子よ……一応ね。それにここに来たのだって、もともとは遊学のためだし」
「王子といっても属国の、ですわ」

 ようやく自分を取り戻したのか、マチルダは気まずそうに目を伏せ、言葉遣いを改めた。

「たいへん失礼いたしました、陛下。ですが、ヴィチェランテへの遊学というのはあくまで表向きで、本当はひとじ――」
「マチルダ!」

 そう、いくら女王付きとはいえ、一国の王子が従者になることなどまずありえない。

 ところが彼の場合は事情が違った。

 ロレンツォの母国であるメリエーレとヴィチェランテの間には、クレメンティ―ナが十二歳の時に領土をめぐる小競り合いがあった。国境沿いの領主同士が揉めて険悪な状態になったが、結局は女王の魔力によって戦を回避できた。

 しかしもともとメリエーレは国土も小さく、さらに百年前に征服されて属国となっていた。
 本来ヴィチェランテと争える立場ではなかったため、国王は陳謝と恭順の証として、当時九歳だった息子のロレンツォを差し出してきたのだった。

 表向きの名目は大国で学ぶというものだったが、実際には体のいい人質だった。
 はじめは宰相預かりだったロレンツォは、やがてあることがきっかけでクレメンティ―ナの従者となったのだけれど――。

「そうだわ」

 たしなめられて口をつぐんだものの、マチルダは思い出したように呟いた。

「ロレンツォは年齢だって、まだ二十一ですのよ。陛下より三つも下じゃありませんか!」
「……そうね」
「それに恰好だってみすぼらしくて、王子どころか従者らしくさえないし、変わり者だし、属国の出身だというのも不都合だし……いったい何がどうしたら求婚だなんて大それたことを思いつくのでしょう?」

 次々と問題点をあげられ、クレメンティ―ナは頷くしかなかった。自分だって、ずいぶん趣味の悪い冗談だと思ったのだから。

「ああ、もうひとつ大切なことがありますわ! ロレンツォはこれまで一度も陛下に勝ったことがありません、剣術も馬術も柔術も射撃も、何ひとつ!」
「そのとおりね」
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