賢者様は世界平和の為、今日も生きてます

サヤ

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★アリ塚

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 フレイゼン聖王国。
 かつて勇者一行と共に魔王討伐を果たし、世界に平和をもたらした偉大な国。
 勇者一行の一人である賢者様にとって、旧友達の住まう国の筈、なのだが……。


「なあ、見ろよ。このお尋ね者ビラ。異端者 賢者アラン。生死問わず、だとよ……」
「賢者って、あれだよな?この国と一緒に魔王を倒した、勇者エヴァン様の仲間の……。異端者ってどういう事だ?」
「なんでも、魔王を復活させようとしているって書いてあるな。なんて恐ろしい。気でも狂ったのか?」
「平和な世の中だ。血に飢えてるのかもしんねーな。……にしてもこの似顔絵、なんで二つもあるんだ?若い頃のなんていらねーだろ?」
「いや、俺が知るわけねーよ。こっちには魔王の似顔絵まである。……なんて不気味な顔だ」
「それにしてもおい。この報酬額見ろよ。通報しただけで百万ギットだぞ。捕らえれば一億!どっかで出会えねーかなぁ。そしたらこんな泥臭い仕事辞めて……」


「…………」
 通路のガヤに混じって聞こえてくる男達の会話に耳を傾け、あまり目立たないように、不審に思われないように自然を装いながら、私は両手で抱える食材の入った紙袋を少し強めに抱え直し、すい、と脇道へと入る。
 聖王国とはいえ、一本脇道へと逸れればそこに光は射さない。
 狭い路地の脇に、生活ゴミと並んで、虚ろな目をした人々が座り込む。
「……」
 この国に来る事はめったに無いが、以前よりもその数が増えているような気がして、私は目深に被ったフードの隙間から、彼らをちらりと横目に、接触しないようその場を急ぐ。
「路地は一人で歩くには少し危険だ。もし行く事があれば、絶対に立ち止まってはいけないし、なるべく人と視線を合わせないようにする事」
 以前、賢者様から言われた言葉を思い出し、少し歩幅を広げる。
ガサガサと私の歩くリズムに合わせて紙袋が踊り、それを抑える為に片手を上にずらす。
「……あっ!?」
 ほんの一瞬、気を緩めて出来た隙間に入り込むように、地面のヒビ割れが私の足を捉え、つんのめる。
 転ぶまでには至らなかったものの、私は大きくバランスを崩し、抱えていた紙袋の中からいくつかの果物が飛び出す。
 すぐ足元に落ちた物は反射的に拾い上げたが、いくつかはコロコロと転がって壁際に座り込む人の元へと吸い寄せられて行く。
「あ……」
「…………」
 つま先に果物が当たった振動で、ゆっくりと顔を上げた少年と目が会う。
「………」
 虚ろな表情で果物に目をやる少年。
 取りに行くか一瞬悩んだけれど、私はそのまま紙袋を抱え直して、一気に路地を駆け抜けた。


「ただいまー」
 小さなため息を一つ零しつつ、路地裏にある『アリ塚』と呼ばれる隠し部屋に入る。
「おかえり、おねーちゃん」
「ただいま、けん……ケント」
 出迎えてくれた人物の名を無意識に呼ぼうとしたのを寸でで抑え、言い直す。
 私を迎えてくれたのは賢者様ではなく、茶髪のボサボサ頭な少年だ。
 名前はケント。この部屋の住人だ。
 ここに賢者様はおらず、私は彼に匿ってもらっている身だ。
 今、賢者様はこの国から追われる立場となっている。
 事の成り行きとしては、賢者様が現在の国王ハンソルに、魔王を完全に浄化させる為、国の秘蔵書の閲覧許可を求めた所、異端者の烙印を押されてしまったのだ。
 世界の為に身を挺して、文字通り人生を捧げて平和を保ち続けている人に行う仕打ちでは無い。
 当時の私は一緒に城には行かず、城下町で暇を潰していたおかげで、この騒動に巻き込まれる事は無かったし、一度も城には行った事が無いおかげで、賢者様の身内と思われる事もなく、なんとか今を凌げている。
 状況を把握するのに少し時間がかかってしまったが、ケントのおかげで賢者様がどうなっているかも分かってきた。
 彼は今、国から追われてはいるが、捕まる事なくこの国の何処かに身を潜めている。
 ヒュブリス魔王の眷属である私の居場所は把握している筈だが、一向に合流する気配が無いのが心配だが、「大丈夫だよ」とケントは言う。
「賢者様は魔法の力が強いから、お城の魔法使いに痕跡を辿られてしまう可能性が高くて、使わないようにしているんだよ。魔法が使えないってなると、あの人もしばらくは隠れるしかないんだよね」
 私よりも年下で、背も低い少年がそう屈託なく笑う。
 彼と出会ったのは、賢者様が罪人として国から追われていると知ってから、数時間した後だ。
 どうしたらいいのか、城に乗り込んで賢者様を助けに行った方がいいのかと狼狽えていた時に、何処からともなく現れて「賢者様は大丈夫。だから自分の身の安全を考えて」と言って、この『アリ塚』へ連れて来てくれた。
 彼いわく、自分は賢者様からこの『アリ塚』の管理を任されているらしい。
 『アリ塚』とは元々賢者様が魔法で作り出した物で、同じ扉からそれぞれの鍵を使う事で無数の部屋へと入れる空間魔法だ。
 ケント自身、魔法の素養があり、訳あって国から逃れる為に『アリ塚』に隠れ住み、今では管理人を任されていると言う。
 家が無く身よりも無く、朽ちていくだけの生命を繋ぐ為に、素養のある人間に『アリ塚』の鍵を渡して住まわせている。
 それぞれの鍵で、行ける部屋は一つだけ。
 何人もの人間がこの『アリ塚』で暮らしているが、ケント以外にどんな人間がいるかは私は知らない。
 知っているのは、鍵を作り出しているケントだけ。
「全員を助けてあげられないのが、少し残念だけどね」
 と、ケントは悲しそうに微笑む。
 見ず知らずの人間だけど、彼は信じられる。
 これといった根拠は無いが、本能がそう告げ、彼と行動を共にするようになって二週間が経つ。


「頼まれてたもの買ってきたよ。あと食料も。でも途中でいくつか落としちゃって。ゴメンね?」
 手に抱えていた紙袋を申し訳無さそうに手渡すと、ケントは「ありがとー」と笑顔で受け取り中身を確認する。
「……うん。ボクが欲しかった物は揃ってるから大丈夫だよ。落ちちゃった物は、きっと誰かの命を繋いでいるよ。さあ、ボク達もご飯にしよう。もう準備出来てるよ」
「うん」
 彼に導かれるままに食卓に向かうと、机の上には既に朝食の用意がされている。
 席に着き、さあ食べようとしたところ、ケントは再び微笑む。
「これを食べ終えたら、今日は引っ越しをするから、よろしくね」
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