キミに最高のおやすみを 〜伝説のベッドを作るために御歳90歳が妻(状態瀕死)を背負い冒険へ!?〜

獅子十うさぎ

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第48話 勘違い

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「昨日は!本っ当に!申し訳ありませんでしたぁ!!」

朝一番、旅館の前で土下座せんばかりに謝ってきたオータムさん。
余程俺達に介抱させたのが申し訳なかったらしい。

「いえいえ、気にしないでください」

「そうそう、こっちは誰も気にしてないっすよ」

「あぁ!やはり勇者様方はお心が広い…!!」

オータムさんの中で勇者の株が止めどなく上がっていくのすごいな。

「それより、里までの案内よろしく頼むぞ」

「頼りにしてるわ」

「はい!お任せください!!」

リュデルさんとジーゼさんの言葉にビシッと敬礼するように答えるオータムさん。
早速山へと向かいだす。

山は高い上に木々が沢山生えていて、下から見た限りでは里があるようには見えない。
どんな所なんだろう。

「オータムさん、里ってどんな感じなんですか?」

俺がそう聞くと、オータムさんは歩きながらすぐに答えてくれる。

「まぁ田舎の村って感じですな!我々ドワーフと氷の精が共に住んでまして、殆どが作業小屋付きの木造の家で、里の中心にだけ氷の精達が住む氷の建物があるんですよ。氷の精が欲しいモノを作る代わりに我々が欲しい材料を精達に集めてもらうといった、助け合いで暮らしております!」

なるほど、ドワーフと氷の精って本当に仲良しなんだな。
里の雰囲気自体はクヴァルダさんが居たトヴァリーチェに近い感じかな?
氷の建物とかすごい気になるぞ!

「氷の建物って溶けたりしないんですか?」

「この辺りは年中冬状態ですからな!問題はありませんよ!」

ノヴァの質問に笑いながらオータムさんは答える。
確かにこの寒さなら溶けないだろうなぁ。
ノヴァの防御掛けてもらってるのに少し寒いくらいだもん。

と、リュデルさんが不意にマジックバッグから何かを取り出した。

「いやぁ本当に冷えるのぅ。これでも被っとくか」

――パサ

「「ぶっは!!」」

急に現れたサラサラヘアのお爺さんに俺とクヴァルダさんは同時に吹き出した。

ちょ!帽子のようにさり気なくカツラ被んないで!!
完全に油断してた!!

「じっ、じいちゃんそれマジで駄目っす!腹筋が死ぬ!!」

「わ、笑って歩けなくなる…!頼むから取って!!」

お腹を押さえて涙目で懇願する俺達。
因みに声は我慢してるけどミナスさんと父さんも明らかにツボって震えてる。

「じゃがなぁ、頭が寒くてのぅ」

「「ぶふっっ!!」」

くそ!トドメの一撃を食らった!
足に力が入らない!!
この一瞬で戦闘員4人を撃沈させるとはなんて恐ろしい勇者だ!!

パーティーを壊滅の危機に追い込んでおきながら「おじいさん素敵よぉ」と褒めるジーゼさんとニコニコ笑い合うリュデルさん。
オータムさんとノヴァとコンキュルンも楽しげに笑っている。
笑ってないで助けて…。

「でもおじいさん、ちゃんとした帽子を被った方が温かいと思うわ」

「そうじゃな。じゃあ帽子にするかのぅ」

ジーゼさんの助け舟により、ようやくリュデルさんもいつも通りの姿に戻ってくれる。

ところが、これで命拾いしたとホッとした時だった。

――ビュオッ

「え…!?」

今の今まで晴れていたのに、風が吹き荒れ突然目の前が真っ白になる。
大量の雪が前からぶつかり、目を開けているのも難しい。

「い、いきなり吹雪きだしたっすよ!?」

「おかしいわ!この山は氷の精達のお陰で荒れる事なんてない筈なのに…!」

ミナスさんの言葉で、これが自然発生ではなく異常なモノなのだとわかる。

「何かあったのかしら?」

「急いだ方がええかもしれんのぅ」

「ええ。しかし、この状況では…」

ジーゼさんとリュデルさんの言葉に同意しつつも、父さんが困った顔をする。
それもその筈で、激しい吹雪は容赦なく俺達の行く手を阻んでいた。

吹雪ってこんなにヤバいの!?
今まで暮らしてたの比較的あったかい地域だったから知らなかった!
数メートル先すら見えないじゃん!
こんなん絶対遭難する!

「ゆ、勇者様方!わしに任せてください!わしらドワーフだけが使ってる秘密のトンネルがありますのでご案内します!」

方向感覚もわからなくなるような視界の中、迷わず歩きだすオータムさん。
ほんの少し離れただけで見えなくなってしまうので、見失わないようにみんなでまとまって後を付いていった。

どう歩いたのかはわからないけれど、少し歩いた所で大きめな木まで辿り着く。
その木の下に、確かに入口らしき穴があった。

「ここです!狭いのでお気を付けて!」

注意を促しながら先導してオータムさんが中に入る。
俺達も後に続いて中へと入った。

「わっ、すごい!」

「きれい…!」

俺とノヴァで思わず言葉を漏らす。
それは、氷で出来たトンネルだった。
一定の間隔で青い明かりが置かれ、ボコボコとした氷が光を反射してキラキラ輝いている。
足元の方だけは雪で階段ぽくなってるようだ。
こんなに綺麗なトンネル初めて見た!

「昔氷の精達に造ってもらった緊急時用のトンネルなんですよ!勇者様方なので特別に連れてきましたが、他の方々には秘密にしてくださいね」

本来なら里の人以外には教えちゃダメなんだろうな。
それなのに迷わず連れてきてくれて有難い限りだ。

「わかりました!」

「約束します!」

全員で他言しない事を約束し、俺達はそのトンネルを通って里へと向かう事になった。



――ゴスッ

「痛てっ」

「だいじょうぶー?くゔぁるだ」

「ハゲそうっす…」

天井の少し突き出た氷に頭をぶつけてしゃがむクヴァルダさんに、コンキュルンが声を掛けミナスさんも苦笑いする。
このトンネル、ドワーフしか使わないだけあってやたらと天井が低いのだ。
俺とノヴァとコンキュルンは問題無く歩けているが、他のみんなは頭スレスレの状態で僅かな出っ張りが今のような事態を引き起こす。

いや訂正。
背の高い父さんに至ってはずっと少し屈みながら歩かないといけなくて大変そう。

「父さん大丈夫?辛そう」

「いや…まあ…大丈夫だ」

あ、濁すってことはやっぱキツいんだ。
背が高いって良いことばかりじゃないんだね。

「それより、滑るかもしれないから2人も気を付けるんだぞ?」

「うん。わかった」

自分よりもこちらの心配をしてくれる父さんに頷いて答える。
寒いからか雪がキュッとしていて滑りそうな感じはあまりないけれど、用心するに越した事はない。
それに、ずっと山を登り続けててノヴァは少し息も上がってきている。

「ほら、掴まって」

「あ…ありがとう」

手助けするべくノヴァと手を繋ぐ。
そんな俺達を振り返りながら見たオータムさんが笑みを作った。

「いやぁ、やはり仲がよろしいですな!もう少しで里に着きますので頑張ってください!」

励ましながらズンズン進むオータムさんは快適そうに歩いてる。
ドワーフ向けに造られただけあるなぁ。

そんなオータムさんに付いて暫し歩くと、言っていた通り出口が見えてきた。

「やっと外だー!けど…」

――ビュォォオッ

「うぅ、吹雪ひどいままだね。何も見えない…」

ノヴァの言葉通り外は相変わらずの吹雪で全く開放感が無い。
トンネルから出たのに里がどこにあるのかわからない状態だ。

「里は直ぐ目の前です!さぁこちらへ!」

オータムさんが再び吹雪の中案内してくれる。
兎にも角にも建物に入りたい。

が、その願いは次の瞬間打ち砕かれた。

「な、なんだコレは…!?」

驚愕しながら言ったオータムさんの前に立ちはだかったのは分厚い氷の壁だ。
反応を見るに、本来無かったものなんだろう。

「どうなっているんだ!?ここは里の筈なのに、何故壁が!?」

どうやらこの先が里のようだけど、氷が分厚過ぎて近付いても中の様子はわからない。

「よく分かんないっすけど、取り敢えず壊してみるっすか?」

「そうじゃな。オータムさん、問題無いかの?」

「はい!寧ろお願いします!!」

「了解っす! 変質加工 金槌 クラッシュ!!」

オータムさんに返事をしてすぐ、巨大化させた金槌でクヴァルダさんが氷を叩く。

――ガキャァァアンッ

その強力な打撃で、分厚い氷の半分が砕け落ちた。
これならもう一回叩けば貫通しそうだ!

「っし!取り敢えず半分…って、は!?」

直後、全員が目を疑った。
砕けた筈の氷が、ほんの一瞬で再生してしまったのだ。
元通りの壁に呆気に取られる。

「どうやら…ただの氷じゃないようだな」

「そうですね。再生する氷なんて、あたしも初めて見ました…」

ミナスさんでも知らないとなると、対処の仕方が本当にわからない。

「うーん…この壁ってどこまで続いてるんだろう。どっかから里に入れないかな?」

「ぼくみてくるー!」

言いながら、コンキュルンが壁を駆け上がった。
よく見ると若干山なりになっているようだ。
少ししてまた走って帰ってくるコンキュルン。

「あのね!このかべ どーむがたになってて、さとぜんたいをおおってるみたい!」

「里を覆ってる!?」

「一体、どうなってるのかしら」

訳のわからない状況に困惑する面々。
するとその時、可愛らしい声が響いた。

《あー!オータムさんだー!》

《オータムさん助けてー!》

え!?
なんかキラキラした2つの小さい光が飛んできた!
いや、よく見ると妖精みたいな羽の生えた小さい人だ!
もしかしてこの子達って…

「氷の精!?」

振り向いて確認すると、リュデルさんとジーゼさんとミナスさんが同時に頷いた。

わーすごい!
水色っぽい色合いでキラキラでまさに氷の精って感じだ!

「お前達、一体何があったんだ!?」

オータムさんが焦りながら聞くと、氷の精達は泣きながら話しだした。

《あのね、この氷、女王様なの!》

《女王様、瘴気に当てられて暴走しちゃったの!》

「瘴気に!?」

その単語に、俺達も過剰に反応してしまう。
瘴気が関係してくるとなると事態は深刻なんだろう。
でも、不思議とこの氷の壁からは嫌な感じがしない。

《この壁の内側に、女王様の御魂みたまがあるの!》

《それを浄化しないと、女王様元に戻れないの!》

なるほど、浄化すべきモノはこの中にあるのか!
納得した俺達と違い戸惑うオータムさん。

「だ、だが、一体どうすれば…」

《オータムさん聖剣作ったんでしょう!?それで助けて!》

「いや、わしの聖剣は未完成で………ハッ!!」

どうやら気付いたようで、オータムさんは興奮したように俺達の方に振り返った。

「勇者様達はやはり歩く伝説じゃぁあー!!」

膝を付いて奇声を上げるオータムさんに氷の精達がビクッとしてる。

《オ、オータムさんどうしたの?》

「実はな!わしの聖剣は未完成なんだ!」

《え!?そんな!》

「だが!これぞ天のお導き!ここに座すのは誰だと思う!?」

《え?えーと…》

「なんと!聖剣を携えた勇者様達じゃ!!」

オータムさん。
氷の精達が付いていけてないよ。
軽く引いてるよ。

「勇者様が居るから、女王の御魂も浄化可能じゃ!!そうですよね!?」

「え?あ、まぁ…」

勢いよく話を振られ、取り敢えず頷く。

《ほ、本当!?》

「まぁ本当っす。けど、まず中に入れなきゃ浄化も出来ないっすよ?」

と、クヴァルダさんの言葉を受けたオータムさんが胸を張りながら何かを取り出した。

「それならば問題ありませんぞ!これが有ります!もしもの時の為に持っていた帰還のスクロールです!!」

帰還のスクロール!?
破くと指定した場所にワープできる使い捨ての道具だよね!?
うわ初めて見た!

「成る程のぅ。それがあれば確かに里の中にも入れそうじゃ」

「そうでしょう!?2人までは一緒にワープ出来ますから、後は御魂を勇者様に聖剣で浄化してもらえば、万事解決です!!」

おぉー!何とかなりそうだ!
思ったよりすんなり解決出来そうで良かった!
きっと御魂というのを浄化すれば、壁も消えるし天気も晴れるだろう。
氷の精達も希望が見えて喜んでいる。

が、そんな風に安心していた最中に事は起こった。

「さぁ、それでは参りましょう勇者様!!」

そう言いながら、オータムさんがスクロール片手にもう片方の手を伸ばす。
決して途中で離してしまわないように、しっかりガシリと掴んだ。

俺の腕を。

「「「「「「「え」」」」」」」

状況を飲み込めず全員同時に声だけ漏らす。
なんの迷いも無く歯で咥えてスクロールを破るオータムさん。

――ビリッ

「は!?え!?ちょ、待っ…」
「リ、リオルく…」

困惑している間に、手を繋いでいたノヴァと共に光に包まれた。

え!?え!?何で俺!?
もしかしてオータムさん…俺を勇者と勘違いしてる!?

ようやく気付いたが時すでに遅し。
俺達3人はスクロールの力で里へとワープしてしまったのだった。



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