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第59話 夢
「リュデルさん…!!」
飛ばされたリュデルさんが、受け身を取る事も出来ずに地面に転がった。
なんとか力を振り絞って体を起こすけれど、ユルの追撃で再び飛ばされる。
「リュデルさん、何で…っ」
ほんの数瞬前まで勝てそうだったのに…!
どうして、急にこんな…
俺が零した疑問に、父さんが答えた。
「…さっき使っていた技は、明らかに肉体の限界を超えていた。要は、捨て身技だったんだ」
捨て身技?
確かにとんでもない威力だったけど、そんな危険な技だったなんて。
「恐らく一気に決めてしまうつもりだったんだろうが…既に身体をかなり酷使してたからな。あと一歩だったが…先に限界が来てしまったんだ…」
「そんな…」
もし、これが連戦じゃなかったら…きっと限界を迎える前に倒せていただろう。
それだけに余計に悔しい。
リュデルさんは血を吐きながらもなんとか体勢を立て直し応戦しようと剣を構える。
「ハァ…ハァ…ぐっ」
けれど、立っているのすら辛そうで足元がフラついた。
あんな状態でまともに戦えるとは思えない。
それでも手加減する気など無いユルが立て続けに爪で攻撃する。
――ガキャンッ
どうにか反応して剣で受け止めるけれど、踏ん張りが効かなくてまた後方へ飛ばされた。
追うように、ユルがリュデルさんに向かいながら翼の前縁を硬質化させる。
まずい、あの刃を食らったらただじゃ済まない!
《ドゥームストリー…う…っ》
が、技を使おうとしたユルが急によろめいて落下した。
どうやら翼に喰らったレイヴンが響いたようだ。
リュデルさんのさっきの猛攻で、ユルも相当なダメージを受けているんだ。
どうにか、どうにか先に決定打を入れられたら勝てるのに。
でも…
「は…あ!」
好機を逃さないように、落下したユルへとリュデルさんは走るけれど明らかに動きが鈍い。
剣を振るうスピードにもいつものようなキレは無くて、負傷している筈のユルにも避けられてしまった。
お互いボロボロだけれど、まだユルの方が動けている。
「…父さん。リュデルさん、勝てるよね…?」
「…」
俺の質問に、父さんは答えられず口を噤んだ。
わかってる。
父さんを困らせたい訳じゃない。
でも、リュデルさんが負けそうだというこの状況をどうしても信じたくなかった。
リュデルさんが負ける筈がない。
そう思いたいのに、目に映る現実が悉く否定してくる。
そして、無情にも決着の時が近付いていた。
《お互い限界も近いようだな…。そろそろ、終わりにしよう》
ユルがそう告げるのと同時に、再び激しく闘気を発する。
きっとユルも残っている力を振り絞って勝負を決める気なんだ。
リュデルさんも迎え撃つ構えを見せるけれど、受け切れるようには見えない。
《下手に抵抗しなければ、楽に死ねるぞ》
その言葉と共に一気に加速してリュデルさんに迫るユル。
体を回転させ、下から掬い上げるようにリュデルさんを翼で打った。
「ふっ…く!」
翼を剣で受けたけれど、リュデルさんはそのまま上空へと打ち上げられる。
そこに翼の先端の方だけ硬質化したユルが接近し、リュデルさんの周りを高速で舞った。
《慈悲の刃》
――ズバババババババッ
宙にいるリュデルさんの全身が、翼の刃で斬りつけられる。
リュデルさんは出来る限り剣で防いでいるけれどユルの攻撃の方が鋭く速く、空中に血飛沫が舞った。
悲惨な光景を前に、全員が愕然として立ち竦む。
終いにはトドメを刺すかのように、ユルは斬りつけたリュデルさんを飛行の力も使って全力で回転蹴りした。
――ヒュッ ドゴォッ!
「がは…っ」
岩柱にめり込んで半分岩が崩れる程叩きつけられ、血を吐くリュデルさん。
高さのある岩柱で、自身の体によって砕けた岩に下半身が埋まるような状態になる。
「リュデ…ルさん…」
絶望的な状況に、名前を溢す事しか出来ない。
もう、見ている事すら怖くて仕方ない。
リュデルさんは受け身を取ったのか、なんとか意識はあるようだけれどもう動くのも困難な様子だ。
ユルは動けないリュデルの居る高さまでバサリと飛び上がった。
《ほぅ…まだ生きているとは驚いた。敬意を払い、全身全霊でこの技を使わせてもらおう》
そう言って嘴を開き口内に魔力をゆっくりと溜め込み始める。
光弾を撃ち込んだ時とは明らかに違う。
何をするか分かったミナスさんが、真っ青な顔で叫んだ。
「あれはまさか…『アストラルカノン』!?」
よく分からずミナスさんの方に目を向けた俺達に続けて言う。
「物体を消し去る光線を発する、ユルの最大奥義よ!あんなの放たれたら、死ぬどころか遺体すら残らず消されちゃうわ…!」
「…!!」
嘘だ…そんな…
そんなの、絶対に嫌だ!
「リュデルさん!」
助けたくて必死に身体を動かす。
でもやっぱり上手く力が入らなくて、父さんの背中からただ崩れ落ちた。
「リオル!」
直ぐ様父さんが受け止め支えてくれる。
助けたいのに動けないのが悔しい。
俺に続いて、ミナスさんも助けようと動いた。
「コンちゃん!!」
「うん!!」
――キュィィィィーーーン!
ユルを止めようと使役の力をコンキュルンが発動する。
でも、ユルの動きが変わる様子は無い。
「っ、やっぱりユルには効かないわ…!」
「ならわたしが…!」
ノヴァも秘術を使おうとユルに手を翳す。
「戯糸召喚 ば… うっ…!」
けれど光が浮かび上がった時点で胸を押さえ座り込む。
父さんが慌ててノヴァも支えた。
「よせ!今の状態で技を使えば命に関わるぞ!」
「…っ」
止める父さんの言葉に、息を切らせ涙を浮かべながら辛くも頷くノヴァ。
やっぱり今の俺達じゃ助けられない。
リュデルさん自身に避けてもらうしかない。
「じいちゃん、逃げるっす…!」
「リュデルさん!起きて!!」
岩柱で起き上がれないままのリュデルさんに必死に叫ぶ。
俺達の声に僅かに反応を示すリュデルさん。
「ジ……ゼ…」
ジーゼさんの為にもなんとか起きようとしているけれど、身体に上手く力が入らないようだ。
そうしている間に、ユルの攻撃準備が完了しようとしていた。
喉の奥が眩く光りだす。
ダメだ…このままじゃ…
リュデルさんが殺される…!!
「起きて!!リュデルさん…!!」
叫んだと同時に、アストラルカノンが放たれた。
********
「……ゼ、ジーゼ」
――ハッ
自分を呼ぶ優しい声を聞き、目を覚ますジーゼ。
宿のカーテンを開けながら微笑みかけてくるその人に目を向ける。
「そろそろ出発の時間だよ?」
そう言ったのは勿論リュデルだ。
一緒に旅をしているのだが、毎度の如く寝過ごした事に気付いて慌てて飛び起きる。
「ごっごごごごめんなさい!私ったらまた!」
「あはは、良いよ気にしないで」
リュデルは楽しそうに笑って言うけれど、ジーゼは申し訳なくて赤面しながら頭を下げた。
「でもでも、いつもリュデルさんに起こしてもらってばかりで…ダラしなくて恥ずかしいです…!!」
「別に気にしなくていいのに」
「気にします!」
リュデルは本当に気にしていないけれど、頑固として言うジーゼを見てうーんと考える。
そして思いついたように言った。
「じゃあさ、交換条件ってのはどう?」
それを聞き、ジーゼは首を傾げる。
「交換…条件?」
「そう」
答えながらリュデルはにっこりと笑った。
「君が起きない時は俺が起こす。その代わり」
ジーゼの傍に寄り、隣に腰を下ろすリュデル。
「俺が起きない時は…君が起こして。それなら公平だろ?」
笑顔で言ったリュデルの言葉に、なんだが胸が温かくなる。
心臓をドキドキさせながら、ジーゼはコクリと頷いた。
上目でリュデルを見る。
「なんだか…プロポーズみたいですね」
「え!?いや、そういう意味じゃ!!」
「ふふ」
赤面して慌てだすリュデルに笑ってしまうジーゼ。
そんな何気ない約束が…ジーゼの心を満たしていた。
********
――パァッ
「「「!!」」」
突然リュデルさんの身体が光り、放たれたアストラルカノンを跳んで避けた。
その光の正体が何なのか分かり、バッと振り返る。
そして目にした姿に、視界が涙で歪んだ。
もう目覚めないとまで言われたジーゼさんが、微笑みを浮かべてリュデルさんの方へ必死に手を翳していたのだ。
「ジーゼ…さん…」
とっくに、限界を超えていた筈なのに。
支援魔法なんて、使える状態じゃなかった筈なのに。
それなのに尚、リュデルさんのピンチを救ったんだ。
2人の想い合う強さを感じながら、リュデルさんへ目を向ける。
「さすが、ワシのジーゼじゃ」
高く跳び上がったリュデルさんが、微笑んで剣を振り上げた。
避けられると思っていなかったユルが焦りながらリュデルさんを見上げる。
《くっ!もう一度だ…!》
再びアストラルカノンを放とうと、先程より早く口内へ魔力を溜め始めた。
リュデルさんも魔力を練っていく。
「天流剣技」
剣に魔力を纏わせ、黒い巨大な刀身へと変化させる。
「帳」
練りあげた魔力が聖剣の力も放出し、真っ黒な刀身へキラキラとした光まで伸びていった。
まるで星空を切り取ったような美しい剣が現れる。
倒されまいと、ユルがアストラルカノンを放った。
けれど避ける事なく剣を振り下ろすリュデルさん。
「カリニフタ!」
真っ直ぐ真下に振り下ろした星空の剣は、放たれた光線を両断した。
そのままユルへと落とされる。
最大奥義をも打ち破った剣をどうにかする事など出来る筈がない。
刃が当たるその瞬間…ユルは本当に満足そうな顔をした。
《見事だ》
――ズパァァァアン…!
呟きと共に、斬られたユルの身体が弾ける。
まるで祝福するかのように、金色に輝く羽根が空からたくさんたくさん舞い落ちてきたのだった。
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