俺だけログアウトできない!? 〜サービス終了でゲーム世界が崩壊するまでの7日間〜

獅子十うさぎ

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第9話 最強の助っ人

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「ボスが出てこないって…どういう事だ?」

一緒に話を聞いていたクレハも心配そうな顔をする。
カイトは暗い面持ちのまま口を開いた。

「本当に言葉の通り、部屋に入っても何も居なくて…どこかから出てくる気配も無い。恐らくあれがゴールだろうっていう扉は部屋の奥にあるのに、それすら開く気配も無いんだ」

一体どういう事だろう。
倒す敵がいなければ、クリアする事なんて不可能だ。

「それって、バグとかじゃないのか?」

「もちろん皆んなそう考えて問い合わせもしたさ。けどバグじゃないって返事だ。ボスが出現する何かしらの方法があるんだろうけど、今のところ見当も付いてない」

なんて事だ。
折角最終階層まで進んだのに、まさか倒し方を模索する以前の問題だなんて。

「でも、最後の階までは進めたんでしょう?じっくり調べれば、きっと何か見つかるわよ!」

クレハがそう励ますように言ってくれる。
そしてその発言を聞き、ハタとある事に気付いた。

「ごめんクレハ。言い忘れてたけど…例の契約、期限付きなんだ」

「え!?」

ただダンジョンさえクリアすれば良いと思っていたクレハは驚いて目を丸くした。

「い、いつまでなの?」

「明日の夕方…6時までかな」

「ぇえ!?大変じゃない!」

そういえば、クレハにはダンジョン攻略しなきゃ帰れない契約をさせられたとしか言ってなかったのだ。
通りで、今まであまり焦りを見せなかった訳だ。
突然期限を知り慌て出すクレハ。

「なら、ここでのんびりしてられないわ!取り敢えず4階までの攻略方法は分かってるんでしょう?実際に見てみないことには何とも言えないし、これから皆んなで行って調べてみましょうよ!」

「そう、だよな。ここで考えてたって答えなんか出ないもんな」

クレハの言葉に頷いて答える。
それにカイトも納得して続いた。

「確かに。攻略方法分かってるから、アヒトの危険も少ないしな」

こうなると行かない理由など無い。
俺達は5日ぶりに、一緒にロジピースト城に挑戦することにした。



「最低4人はいないとクリアすんの大変だから、とある信頼できる人達にメッセージ送っといた。現地で合流したらダンジョン挑戦しよう」

「了解」

カイトが信頼できるなら間違いない人達だろう。
流れを決めつつ、はじまりの街から統一世界エリアのファーストタウンに転移の石碑で移動する。
そして今回は安全の為に飛行型の騎獣でロジピースト城まで向かうことにした。
地上を移動した場合、フィールドの魔物が襲ってくる可能性があるからだ。

「今回はクレハも乗るから…よし、ペガサスで!」

と、翼の生えた馬を選んだ。
種類によって1人乗り用や複数人が乗れる騎獣がある。
ペガサスは2人乗りまで出来る騎獣だ。

因みにカイトはジェットパックを背負っている。
どうにも機械系が好みらしい。

「よし。じゃあクレハ、後ろに乗って」

「ありがとう」

手を掴んで引っ張り上げ、後ろに乗せる。

「飛ぶから、落ちないように掴まっててな」

そう言うと、クレハは少しだけ恥じらってからキュッと俺にしがみついた。

え?待って。俺死ぬかも。
別に狙ってこの騎獣選んだ訳じゃないんだけど、密着度がヤバいカワイイ良い匂い。

多少脳内を混乱させつつ、なんとか煩悩を振り払って飛び上がる。
先に飛んでいたカイトと同じ高度まで上昇した。

「え、何。俺に見せ付けてんの?」

「ちっ違う!さっさと行くぞ!」

ジトっとした目で言ったカイトに誤魔化すように語気を強める。
「爆発しろ」と言いながらカイトは先導を始めた。

少し飛ぶと、遠くにロジピースト城が見え始める。
飛んでいる為、地上で移動した時よりその姿が見えるのも早い。

それが理由でもあっただろう。
空中を移動している俺達は油断しきっていて、目的地であるロジピースト城の方ばかりに目が行っていた。
忘れていたのだ。
このフィールドには、飛行型の魔物だっているという事を。

「! アヒト君後ろ!!」

先に気付いたのはクレハだった。
その声に慌てて振り返るが、既に目の前まで迫っていた赤い何か。

「うわ!」

「きゃあ!」

避けられず、襲われた俺達はペガサスから振り落とされた。
バランスを崩しながら見えたのは赤い羽毛で覆われた、4枚の翼を持つ鳥型魔獣のガルーダだ。
このゲームのガルーダは例えかなりの高さで飛んでいても襲ってくる事がある。
あまり出現しない敵なので完全に失念していた。

「アヒト!!」

すぐに気付いたカイトが、俺を助けようとこちらへ旋回してくる。
でもそれを咄嗟に止めていた。

「俺よりクレハを!クレハを頼む!!」

俺と一緒に騎獣から投げ出されたクレハも、なす術なく落下している。
かなりの高度なので、このまま落下すれば確実に死んでしまう。

俺の言葉に反応して反射的にクレハの腕を掴むカイト。
多分これが冷静に判断できる状況なら、カイトは迷わずNPCであるクレハを見捨てて俺を助けただろう。
だがこれで良い。

「シェイド!」

落下しながら召喚したのは、闇の精霊。
薄紫と紫で色調がまとまったフクロウだ。
シェイドは召喚されて直ぐにガルーダへ攻撃する。
バサリと敵に向かって翼をはためかすと、闇を纏った複数の羽根がまるでダーツの矢のように飛んでいった。
直撃したガルーダが怯んで動きを止める。

「頼む、頑張って飛んでくれ!」

ガルーダへ攻撃した直後のシェイドの足を片手でガシッと掴み、なんとか飛ぶよう指示した。
落下自体を止めることは出来ないが、シェイドが必死にバタバタ羽ばたいてくれた事で落下スピードは大幅に減少する。
運良く下に生えていた木の枝もクッションとなり、死ぬような怪我をせずになんとか地面にたどり着いた。

だが、俺に攻撃されて憤怒したガルーダがこちらに急降下してくる。
慌ててシェイドに再び攻撃を命じたが、初期フィールドの雑魚敵と違って簡単に攻撃を躱すガルーダ。

(あ、ダメだ。死ぬ)

瞬間的に弾き出した答えがそれだった。
上空から大声で俺を呼びながらカイトとクレハも急降下してくるが、間に合いそうにない。
更には先程の落下の衝撃で全身のあちこちが痛く、回避する為の力も入らなのだ。

まさかこんな…ダンジョンでもないフィールドで、野良の敵に襲われて死ぬのか俺は。
こんな、こんな中途半端に。

「グギャァァアアッ!」

雄叫びをあげながら、鋭い爪を俺に向けるガルーダが迫る。
俺を守ろうとしたシェイドも弾き飛ばされ、もうダメだと死を覚悟した。

その時だ。
次の瞬間に起こった出来事は、本当に信じられないものだった。


ーーズバァッ!


突然俺の目の前に人影が現れ、両手剣によって斬り裂かれるガルーダ。
それと共にもう1つの人影が俺へと駆け寄ってくる。

「無事かアヒト!」

「アっくん大丈夫!?」

聞こえたのは、耳に染み込んだ声。
信じられない気持ちのまま、現れた二人に視線を向けた。

短い黒髪を後ろに撫でつけ鎧を着た中年の男性と、同じ年の頃で腰まで伸びた黒髪を下の方で緩く結び白い法衣を着た女性。
このゲームは、現実の姿がほぼそのまま反映される仕組みだ。
だから、見間違える筈もない。
ジワっと目に涙を浮かべ、震える声でその人物達を呼んだ。

「父さん…母さん…!」

そう。
そこに居たのは、ずっと一緒に生活し育ててくれた両親だった。
俺の姿を見て、ホッとしたように顔を綻ばせる2人。

『どうしてここに』とか、『会いたかった』とか、言いたい事は色々あったが胸が詰まって言葉にはできなかった。

法術士らしき母さんは直ぐに俺にヒールをかけて全身の怪我を治してくれる。
完治したのを確認してから、まだ息のあるガルーダへ父さんが視線を向けた。

「よくも俺の息子に手を出してくれたな。覚悟しろよ」

その姿は圧倒的な強者のものだ。
凄まじい殺気にガルーダもたじろいでいる。

と、少し離れた所からまた違う声も投げかけられた。

「ボク達もいるよー」

「やっほーアヒトくん♪無事で良かったわ」

そう言ったのは眼鏡を掛け少し伸びた髪を後ろで1つに結び狩人っぽい格好をした男性と、肩くらいまでの茶髪を緩くウェーブさせた少しだけセクシーなローブの女性。
恭介さんと沙織さん…海斗の両親だった。
その横でようやく着地したカイトとクレハが安心したように息を吐いている。

そこからは一瞬だった。
父さんが斬りかかったのを合図に、恭介さんが弓矢を使って連撃の早技を見せ、沙織さんは大魔法をガルーダに叩きつける。
大きく振り下ろされた剣がガルーダを真っ二つにし、あっという間に塵と化した。
その初心者ではあり得ないような強さに唖然とする。

「え…?と、父さん達、強すぎない?」

お礼を言うのも忘れてポカンと阿呆な事を言ってしまう。
そこに例の如くニヤニヤと確信犯のような顔をしたカイトが近付いてくる。

「なぁアヒト。この4人、どっかで見た事ないか?」

「へ?」

言われてみれば、この格好の四人組には確かに見覚えがあった。
剣士・法術士・弓術士・魔導士の男女2人ずつの組合せ。

………まさか!

「え、英雄像!?」

「正解!」

そう、ファーストタウンにある英雄像そのままだ。
確かあれは初代BTOのラスボスを初撃破したプレイヤー達がモデルだった筈。
と、いうことは…

俺が答えに辿り着き口をパクパクさせているのを見て、父さんが恥ずかしそうに頬をポリポリ掻いた。

「まぁ…そういう事だ」

「はぁ!?初耳なんだけど!」

「ウフフ、お父さん照れて言わなかったけど、本当はアっくんもこのゲームに興味持って始めてくれて喜んでたのよ?」

母さんはいつも通りのおっとりした口調でニコニコ話す。
こちらは色々パニックだというのに。

カイトも苦笑しながら口を開いた。

「いや、俺もさすがにビックリしたよ。まさか自分の親達が英雄達だなんて思わないしな」

なんでも、20年前にこのゲームにハマって4人で最強パーティーと呼ばれるまでに成長し、ついにはラスボスまで初撃破したらしい。
四年ほどプレイしたが、俺達を妊娠したのを切っ掛けにゲームを引退。
そして現在に至るそうだ。

そう説明してくれるカイトの後ろからヒョッコリ顔を出す沙織さん。

「カイトってば普段あんまり驚いてくれないから、久々に仰天してくれてアタシも嬉しかったわ~」

そこに恭介さんも続く。

「まさか初代のアカウントも引き継げるとは思わなかったよ。レベルは初期化されたけど、装備とかはそのまま引き継げたからね。このゲームすごいなぁ」

「まぁただ、この歳になってこんな格好することになるなんて思わなかったわ。見た目の年齢くらい若返らせてくれたら良かったのに」

「あらぁ、でもさっちゃん今でも似合ってるわよ?」

「やだ小春ちゃんったら」

まるで現実世界の時のように戯れ合う母2人。
そんな様子を見ながら、懐かしい気持ちと共に湧き上がってくる感謝の気持ち。

いくら装備等が引き継げたと言っても、ここはストーリーを全部クリアしないと来られない統一世界エリアだ。
勿論それに伴って、レベル上げから何から色々こなさなければならない。
たった5日でここまで来るなんて驚異的なスピードだ。
きっと4人とも、俺を助ける為に寝る間も惜しんで戦ってくれたんだろう。

と、ジンとして目頭がまた熱くなった時、静かに声が掛かった。

「あの…この方達がアヒト君のご両親…?」

戸惑いながら聞いたのはクレハだ。
急に知らない人達が増えたのだから、こうなってしまうのも当然だろう。

「あっうん。こっちの2人が俺の父さんと母さんで、あっちの2人がカイトの両親なんだ」

その俺達の会話を聞き、ハッとした様子で母さんが近づいてくる。

「あなたがクレハちゃんね?アっくんを助けてくれて本当にありがとう」

「いっ、いえそんな…!私なんて全然大した事してないですし、寧ろ助けられてる方で…!」

「わぁ、なんて可愛らしいの。こんな子がアっくんのお嫁さんに来てくれたら母さん嬉しいわぁ」

「えっ、ぇえ!?」

母さんの言葉にクレハがボッと顔を赤面させ「およ、お嫁さんなんて…!」と湯気を上げながら言っている。

頼むからやめてくれ母さん!
てか天然なのは知ってたけど、NPCって気付いてないよね!?
変に話を進めないで!!

俺の気持ちを察知したのか、見兼ねた父さんがゴホンと咳払いをして母さんを止めた。

「その辺にしとくんだ小春。それよりも、アヒトの為にダンジョン攻略に向かわないといけないんだろ?」

「あら、そうだったわ!カイくんと約束してたんだった」

ポンっと手を打ち、本当に今思い出した様子で言う母さんに頭痛がしてくる。
これが皆んなの憧れ英雄達の内の1人なんて。

「まったく小春は…」と呆れたように溜息を吐いてから微笑んでしまう父さんも、なんだかんだ母さんに激甘だ。
だが直ぐ、真剣な顔で俺を見た。

「大変だったなアヒト。辛かったろう。ここからは、俺達も一緒に戦うからな」

そこに笑顔で続く母さん。

「もしアっくんが怪我をしても、お母さんがすぐ治してあげるからね」

恭介さんや沙織さんも俺のそばに来る。

「ボク達も協力するよ。この数日でかなり勘も取り戻したしね」

「アタシの魔法で敵なんか瞬殺しちゃうから安心なさい♪」

そう言って並び立つ四人の姿は、やっぱり英雄像そのもので…

「…! 父さん、母さん、みんな…ありがとうっ」

目を潤ませながら言った俺にみんなが優しく笑う。


こうして俺たちのパーティーに、自他共に認める最強の助っ人が加わったのだった。


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