デザイアゼロ/ラストプレイヤー

加賀美うつせ

文字の大きさ
225 / 231
最終章【失われた奇跡という物語・後編】

第217話 迎えに行こう

しおりを挟む
「なぁ、結局のところ女神って何だったんだ?」

 運営本部『試練の間』ここで幹部らとレジェンドゲームに参加した面々が集い、座談会めいた時間を過ごしていた。これまで敵だった者達が同じ空間を共用し、隣り合わせに立っている光景は奇妙なものかもしれない。だが、彼らの間に険悪な雰囲気は一切なく、心の内では同志であると認めていた。だから、誰が誰と言葉を交わしていても不思議ではなかった。

「さぁな、言われてみれば私らも実際のところお姫様のことよく知らねぇんだよな。なんつぅか成り行きで協力してただけだしよ。思えば得体の知れねぇモンと長く一緒にいたもんだな」

 悠斗の疑問にナナセが答える。

「世界を存続させるための役割とルシア自身は言ってましたがね。そもそもルシアは別世界から来た存在で、私達には理解の及ぶものではなかった。今でも不思議に思うことはたくさんあります」

 付け加えるようにカラスマが口にする。

「女神様かぁ……たったひとりの女の子にそんな役割をさせるなんて酷な話よね。ルシアちゃん、いつも泣いてばっかな弱い子なのよ。あんなの見たらいやでも情が湧いちゃうじゃない」

「そうだね、あんな弱々しい姿見せられちゃたまんないね。こっちはゲーム世界で楽しく遊べたらそれで良かったのにさ。気付いたら幹部にさせられてタダ働きの毎日だよ」

 サツキとムツキはこれまでの苦労を思うと溜息を吐かざるを得なかった。

「でも、あなた達はずっと味方でいたんだよね? あの子のこと放っておけなかったから側にいてあげたんだね? ふふ、何だかんだ言ってもみんな優しいんだね」

「でもよぉ、ガキのくせに幹部だなんて生意気だよな。あの世界でやりたい放題しやがって。俺達の苦労を少しは考えてほしいもんだな」

 彼らの話を聞いていた明日香と武虎がひょっこりと顔を覗かせる。

「はじめて見た時、ルシア様がなんだかとてもさみしそうに見えたんだよね。幹部になった後でも、いつも元気がなくて。まぁ、それはそれとしてモニカのこともあるから運営になりたかったのはあるけどね。最初は立場を利用してやろうかと思ったけど……なんだか、ズルズルここまで付き合うことになっちゃったなぁ」

「あのね、ごかいのないように言うけどね。お姉ちゃんはこう見えて優しいんだよ? 女神様のことよく話してくれるし、いつも心配してるんだよ。それにね、ゲームの世界でもいつもモニカのためにあれこれしてくれたんだー」

 ハロとモニカの姉妹が明日香の言葉に応じる。

「あの子がすべての元凶だとかゲームの黒幕だとか、そんなこと私にとっては関係のないことでした。私はあの子のために何かしてやりたかった。あんな子供が苦しんでいる姿など見たくはなかった。ただそれだけのことです」

 コノエは拳をギュッと握りしめていた。

「その想いが暴走しちまったヤツもいるがな。まぁ、今更そんなこと言っても仕方ねぇんだろうな。やっちまったことは取り消せねぇんだ。どれだけ後悔しても……どうにもならないことはある。俺も、振り返ればそんなことばかりだな……」

「……ええ、あなたの言う通り私は間違いを犯した。あなた達に協力したところで何の償いにはならない。でも、私は……それでもやっぱりルシアのことを救ってやりたかったの……それがどんな方法でも構わなかったのに……どうして、あんなことしてしまったのか……」

 八雲とレイブンは己の過去を悔いているようだった。

「あやまちは誰にでもあるわよ。だから、もう謝ったりするのはやめにしましょう。あたし達はそんなことを終わらせるためにここまで頑張ってきたんでしょうよ。お互いのことをちゃんと許せるように。ねぇ、ミアハ。あんたもそう思うわよね?」

「ええ、そうね。ノバラの言う通りよ。もう憎み合ったり傷付けあったりするのは終わりにするの。誰かが許さないと、そんなことは決して終わらない。私もそれは身に染みて後悔してるから」

 野薔薇と美愛羽、親友同士が肩を並べて微笑み合う。

 ここにいるみんなが刹那を信じて送り出した。

 だから不安なんてものはない。彼女ならルシアを救ってくれると。

 そんな風に皆が話し合っていると、何処からか車輪が軋む音が響いてきた。『試練の間』に誰かが来たらしい。誰かは予想はつく。このレジェンドゲームを裏から仕切っていた張本人だ。

「やあやあ、みんなちゃんと揃ってるね。なんだか仲良くしてるみたいで嬉しいなぁ」

 呑気なことをぼやきながら現れたのは壬晴だった。彼は巫雨蘭を車椅子に乗せて運んでいる。そのにこやかな笑顔に、顔をしかめる者もいれば不満そうに口を結ぶ者、はたまたそっぽ向いて無視する者もいた。

「みんなの活躍は見てたよ。すごい頑張ってくれたみたいで感激したなぁ。一生懸命ゲームの内容考えた甲斐があったよ。これもひとえに——って、痛ぁ!」

 言い終わる前に悠斗は壬晴の前まで歩み寄るとすかさず腹パンした。あまりにいきなりのことだったので壬晴は間抜けな声をあげて体をくの字に折る。

「なにいきなりヒョコヒョコと当たり前のように出てきてんだよ。さんざん心配させやがった挙句、こそこそ動いて人のこと振り回しやがって。つぅか、お前なんで生きてんだよ。ちゃんとわかるように説明しろ」

 悠斗の反応は当然だったが、それでも優しいものだった。彼は呆れはしたものの怒ったりはしなかった。壬晴が元気そうなのを見て安心したくらいだ。それはここにいるみんながそうだったろう。

「いやぁ、なんていうか……アスカのおかげかな。アスカの神斬刀には不浄を滅却し再生させるチカラがあったみたいで。つまり……」

「つまり……どういうことだ?」

「僕は一度死んでから生き返った。僕の中にあるチカラは死なないと消えないものだから、単純に言えば一度死ねばいいだけのことだったんだ」

 サラッと答える壬晴に、悠斗は言葉が出ず代わりに明日香の方へと視線を変えた。彼女は居た堪れない様子で眼を伏せていた。

「心臓に埋め込まれたフィニスの核は消えたし、今の僕は普通の人間と言っても差し支えないよ。でも、今までの反動で体はボロボロだし体力も全然ない。ぶっちゃけ歩くのもしんどい状態だ」

 壬晴がそんなことを言っていると車椅子に乗っている巫雨蘭が心配そうな顔を浮かべて彼のことを見上げていた。

「ミハルが生きてることは私がみんなに伝えていたとはいえ、やっぱり腑に落ちないところはあるんだね」

 明日香は巫雨蘭の側に寄り、彼女の肩に手を置いた。

「あなたのおかげなの?」

「私だけじゃないよ。の想いがあったから」

 明日香はそう言って巫雨蘭に笑顔を浮かべた。

「マヒルの願いがミハルを救ってくれた。あの神斬刀にはね、ひとを救う奇跡のチカラがあったんだよ」

 明日香はそれから、と続ける。

「だからミハルはすべての神斬刀を集めることにした。自分をも救ってくれたチカラだから。散らばった奇跡のチカラをひとつにすればどんな不可能だって可能になるかもしれない。だってさ、ルシアが……女神様が求めるものを見せる必要があるでしょ?」

「…………」

「だから安心して。あなたの子なら必ず……きっと大丈夫だからね」

 巫雨蘭は頷いて小さくはにかんだ。

「さぁ、そろそろここを出ようか」

 壬晴は皆に向かって言った。

「あの子の戦いはじきに終わる。迎えに行ってやらないとね」

 何処か楽しげな表情で彼は微笑んでいた。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...