デザイアゼロ/ラストプレイヤー

加賀美うつせ

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第三章【デスティニーアイランド・サバイバルバトル】

第30話 対峙する刃

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 再び場面転換、視点は戦いの場へと。戦闘は苛烈極まる。

 素早く力強い、そんな姫川野薔薇の猛攻に壬晴と悠斗は押されていた。楓の『護符の陣』によるフィジカルエンチャントが継続している内ならば野薔薇は二体一でも問題なく相手取れる。

「遅い! 弱い! そんな程度で私に勝とうなんざ一万年早いわよ!」

 悠斗が撃つ火炎弾は裏拳で弾かれ、壬晴の斬撃も素手で軌道を逸らされる。並ならぬ剛力から放たれる拳が防御する神斬刀ごと壬晴の身を激しく揺さぶる。豪快な戦い方ではあるが、それでいて油断がない。

「こんっのゴリラ女が!」

 背後から殴りかかる悠斗の拳を振り返ることなく片手で受け止めた。恐るべき反応速度と膂力りょりょくだ。

 壬晴はガラ空きとなった懐へと刀を横薙ぎに振るう。野薔薇を仕留めんと迫る刃は左手の手刀で叩き落とされ、片足で抑えつけられた。地面に刺さり固定された神斬刀は野薔薇の脚力を前に微動だにしない。

「はぁあ!? 誰がゴリラ女ですってぇ!?」

 野薔薇は悠斗の胸倉を掴むと、そのまま背負い投げる。

 神斬刀を引き抜こうともがく壬晴の頭上に悠斗が勢いよく投げつけられ、二人は身を重ねた状態で地面に叩きつけられた。

「痛ったぁ!」

 背中と腹部に疾る痛烈な衝撃に壬晴は喘いだ。

「すまん、ミハル!」

 悠斗は下敷きになっている壬晴に謝った。悠斗のせいで身動きが取れなくなっている。

 二人がもたついてる間、野薔薇の次なる行動に出ていた。彼女はフレームの力を使おうとしている。

「力も溜まったしそろそろフィニッシュといこうかしら」

 両腕のベルトに装着された二枚のフレームが輝きを放つ。『ゴールドランク:チャージ』『ゴールドランク:リフレクト』それぞれのフレームが拳に能力を付加させる。

 野薔薇の戦法、名付けて『チャージ&リフレクト』は一秒経過毎に通常攻撃の威力が1%上昇、また接触の際の衝撃を溜めることで更なる威力を生み出す。

「カウントリセット——フルバースト」

 それは合図だった。時間経過とインファイトの接触ダメージが拳に蓄積された今、野薔薇が放出する一撃の威力は計り知れない。大地を砕く程の力強い踏み込みと共に体の中心を軸に腰の入った鋭いストレートパンチが二人に迫る。

「……くそっ、ミハル! 下がれ!」

 悠斗は壬晴を地面に伏せさせたまま前に出た。

 両腕を交差させ少しでも威力に耐えるよう構える悠斗に野薔薇の渾身の一撃が炸裂する。パァン、と空気が弾ける音が響くや否や、悠斗のガードをいとも簡単に貫通し胸板に野薔薇の鉄拳がめり込んだ。

 これがPVP特別仕様でなければ、胸郭きょうかくが粉砕され心臓も破裂し死んでいたことだろう。それほどまでにおぞましい威力を前に、悠斗はピンボールの如く吹き飛ばされ建物の壁面に背を叩きつけられた。

「がはぁっ!」

 喉奥から空気が漏れる。悠斗は前のめりに地面に倒れると、僅かだったHPバーがゼロの値を示す。レッドゾーンにありながら長らく戦えた悠斗だが此処でようやく退場となる。

「……すまねぇ。どうやらここまでみてぇだ。後はどうにか頼む」

「ユウト……」

 倒れ伏した状態のまま悠斗の真下に転送陣が現れ、彼を即座に場外へと連れ出した。

「纏めて始末してやろうかと思ったけど失敗したわ。まったく、仲間を庇ってやられるなんてスバラシイ友情ねぇ」

 野薔薇はその口許に嘲笑を含ませながら場に残った壬晴を見下ろしていた。

 神斬刀は野薔薇の真後ろにある。素手の近接戦闘で彼女に敵う道理はない。先の攻撃で野薔薇のフレーム効力が判明したから尚更だ。

 壬晴の『封印制度シールド・システム』は効果を無効化出来ても発動してしまった攻撃の威力までは無効には出来ないだろう。

「絶対絶命か……」

 歯噛みする壬晴の前に事態は突如、急変を迎える。

「いいや、仕切り直しだ」

 声が聞こえた。それは壬晴がよく知る人物の声。

 壬晴と野薔薇、両者の間に割って入るのは椿葵。彼女は真上から現れ軽やかに着地する。唐突に姿を現した葵に野薔薇の追撃の手が止まった。

「お、お姉様!?」

「少し待て、ノバラ」

 野薔薇は葵の割り込みに反駁することなく大人しく引き下がった。

 やれやれ、と溜息を吐きながら野薔薇は地面に倒れている蓮太郎の背中に座り込んだ。蓮太郎は戦闘の際のどさくさに紛れてなぜかボコボコにされていた。

「あーあ、お姉様が来たってことはもう勝ち確みたいなものよねぇ、レンタロー?」

「仰る通りでございます……あ、ノバラちゃんのお尻柔らかいね」

「殺すわよ」

 蓮太郎は野薔薇に頭を踏んづけられる。そんなやりとりをする二人の元に楓もいそいそとやって来ると三人は葵と壬晴、両者の成り行きを見届けることにしたのだった。

「姐さん……」

 壬晴は緊迫した面持ちで彼女の言葉を待っていた。

 葵は地面に突き刺さった神斬刀を引き抜くと壬晴へと投げ返す。ワケがわからないままソレを受け取る壬晴。葵は次に数多の参加フレームを懐から取り出すと壬晴に投げ寄越して来るのだった。

「受け取れミハル。そのフレームはくれてやる」

 葵の凶行には戸惑うばかりだった。

「葵姐さん……これは」

 壬晴の前にバラ撒かれた十枚のフレーム。

 葵は拾えとぶっきらぼうに指図すると、本人は楓が持っていた五枚の参加フレームを預かり自軍のフレームに吸収させた。

 壬晴は姐弟子の言葉に従いすべてのフレームを拾い集めて自軍のフレームに吸い込ませた。これによりカウント数は三十一となる。

「姐さん。いったい何をするつもりなんだ?」

 その問いの答えを葵は自軍のフレームとまた別のチームの参加フレームの二枚を見せながら語り始めた。

「貴様と私が持つフレームのカウント数は三十一の同数だ。そして、残る最後のフレームはこの一枚のみ。実質、私達以外のチームは全滅している状態だ」

 会場内には三組のチームが残っている状態だ。端末を確認してもそこに間違いはない。葵が言うチームはもう機能していないただの生き残りだ。

「ミハル。最後の一枚を賭けて私と戦え」

 稲妻のような衝撃が全身に疾る。葵はこの時を待っていたのだ。時を経て成長した弟弟子との手合わせ。それも本気で、真の殺し合いに匹敵する程の戦いを求めている。

「葵姐さん。気は確かなのか? 本当ならもう既に勝利していたはずだろうに……」

「要らぬ心配た。それに黄昏美愛羽のいないチームに勝ったところでフェアな戦いとは言えん。そんなものに価値はない。貴様も神斬刀の所有者というなら私と戦ってその力を見せてみろ」

 葵は腰帯に繋げた三つの刀の内のひとつを抜刀する。それは水面を思わせる長い浅葱あさぎ色の刀身。水が刃先から滴り落ちる水気を帯びた太刀だった。

「名を『神斬刀・村雨むらさめ』……貴様が持つ神斬刀の分身だ」

 振り払う刀の刃に壬晴の姿が鏡の如く映る。

 きっと自分もこの時を心の何処かで待っていたはずた。葵に力を示すこの時を。

「わかった……受けて立つ」

 壬晴は腰にした『神斬刀・天照』を引き抜き、その黄金の輝きを辺りに照らし出した。
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