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第五章【割れた瞳の世界】
第81話 終焉を飾りしもの
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◆
……器は朽ち果てた。
フィニスの複製は櫻井創一の亡骸を前にしていた。
人型の影が陽炎のように揺らめいている。
分不相応の大望を抱き、悲願の成就を目指した男の最期を怪物は看取った。何も得ることも、成し遂げることも出来なかった愚者の末路に紅蓮の双眸は憐憫を湛える。
何処までも哀れな男だった。平和を謳いながら己という邪悪なもの生み出したのだから。
「……つくづく愚かな奴だったよ。櫻井創一、お前は滑稽極まりない、まさしく道化師のような人間だったぞ」
深い井戸の底から響くような声だった。
影はその全身を巨大な獣の姿に変えると、櫻井創一の亡骸を喰らい尽くした。
暗闇に骨を砕き肉を裂く音が鳴り響く。
フィニスの複製が食事を終えると、その血肉をもとに新たに人間としての肉体を形成させた。
「…………」
己の掌を見つめる。人肌の感触を確かめるように手を開閉させ、それから顔に指を這わせた。
教会に奉られた鏡の調度品に視線を移す。
そこに映る姿は、一之瀬壬晴を模した人間としての姿形。
紅い瞳に、反転したような白髪。色素を持たない容姿は、この世ならざる者としての証か。
壬晴と同じ姿でありながら末恐ろしい邪悪な眼をしていた。
「冴えない男よりかは、若くて健康で顔の良いこちらの方が幾分マシだな。まぁ……あの女神が造った好みの容姿となら当然だろうがな。奴も所詮は女というわけだ」
フィニスオルタナティブは教会の天井を見上げた。ステンドグラスに映る女神の絵に一瞥をくれると、ほくそ笑むように鼻を鳴らした。
櫻井創一が残した運営仕様の端末をフィニスオルタナティブが手に取る。血塗れのソレは女神ルシアから渡された特別仕様のものだ。これがあればある程度の運営権限を行使出来る。
櫻井創一は女神に対し面従腹背であった。フィニスの複製品を生み出し、それを契機に蘇生を果たしていたことも知らないはずだ。
つまり、己の存在を女神は知らない。
「ようやく肉体と自由を得た……オレはこれから本能に従いこの世界に終焉をもたらそう。オリジナルのオレと血を分けた七つの悪意が目覚める時だ」
女神が櫻井に求めた役割は最大の悪夢たる【終末】の消失。
そして、人間が死に至る理由の【悪意】他六つ…… 【炎】【罪【戦争】【狂気】【略奪】【呪怨】の生贄とするためのルシア・アルター六体の製造。
ルシアが掲げる『新世界創造計画』発動に必要となるもの。新世界に不要な七つの【悪意】の完全消去。
かつてそれらは【大いなる母】より生まれし、世界を滅ぼした悪意の化身だ。
「女神……お前の願いは叶わないぞ。なぜなら、ひとの悪意がお前の理想世界を滅ぼすからだ。今度もまた、な」
くつくつ、と喉奥からフィニスオルタナティブの哄笑が漏れる。
「手始めに、この世界を滅茶苦茶にしてくれようか。待っていろ女神。オレを生み出したお前にとびきりの絶望を与えてやる。お前達のやり方に則って面白いゲームを始めようじゃないか」
ここからは悪意との戦いだ。
ひとの心に眠る悪意と人間の全面戦争。
争いの種が密かに芽吹こうとしていた。
「フィニスオルタナティブ改め、オレは【終焉】を名乗らせてもらおう。果たして、悪意と人間……どちらが勝つかな?」
……器は朽ち果てた。
フィニスの複製は櫻井創一の亡骸を前にしていた。
人型の影が陽炎のように揺らめいている。
分不相応の大望を抱き、悲願の成就を目指した男の最期を怪物は看取った。何も得ることも、成し遂げることも出来なかった愚者の末路に紅蓮の双眸は憐憫を湛える。
何処までも哀れな男だった。平和を謳いながら己という邪悪なもの生み出したのだから。
「……つくづく愚かな奴だったよ。櫻井創一、お前は滑稽極まりない、まさしく道化師のような人間だったぞ」
深い井戸の底から響くような声だった。
影はその全身を巨大な獣の姿に変えると、櫻井創一の亡骸を喰らい尽くした。
暗闇に骨を砕き肉を裂く音が鳴り響く。
フィニスの複製が食事を終えると、その血肉をもとに新たに人間としての肉体を形成させた。
「…………」
己の掌を見つめる。人肌の感触を確かめるように手を開閉させ、それから顔に指を這わせた。
教会に奉られた鏡の調度品に視線を移す。
そこに映る姿は、一之瀬壬晴を模した人間としての姿形。
紅い瞳に、反転したような白髪。色素を持たない容姿は、この世ならざる者としての証か。
壬晴と同じ姿でありながら末恐ろしい邪悪な眼をしていた。
「冴えない男よりかは、若くて健康で顔の良いこちらの方が幾分マシだな。まぁ……あの女神が造った好みの容姿となら当然だろうがな。奴も所詮は女というわけだ」
フィニスオルタナティブは教会の天井を見上げた。ステンドグラスに映る女神の絵に一瞥をくれると、ほくそ笑むように鼻を鳴らした。
櫻井創一が残した運営仕様の端末をフィニスオルタナティブが手に取る。血塗れのソレは女神ルシアから渡された特別仕様のものだ。これがあればある程度の運営権限を行使出来る。
櫻井創一は女神に対し面従腹背であった。フィニスの複製品を生み出し、それを契機に蘇生を果たしていたことも知らないはずだ。
つまり、己の存在を女神は知らない。
「ようやく肉体と自由を得た……オレはこれから本能に従いこの世界に終焉をもたらそう。オリジナルのオレと血を分けた七つの悪意が目覚める時だ」
女神が櫻井に求めた役割は最大の悪夢たる【終末】の消失。
そして、人間が死に至る理由の【悪意】他六つ…… 【炎】【罪【戦争】【狂気】【略奪】【呪怨】の生贄とするためのルシア・アルター六体の製造。
ルシアが掲げる『新世界創造計画』発動に必要となるもの。新世界に不要な七つの【悪意】の完全消去。
かつてそれらは【大いなる母】より生まれし、世界を滅ぼした悪意の化身だ。
「女神……お前の願いは叶わないぞ。なぜなら、ひとの悪意がお前の理想世界を滅ぼすからだ。今度もまた、な」
くつくつ、と喉奥からフィニスオルタナティブの哄笑が漏れる。
「手始めに、この世界を滅茶苦茶にしてくれようか。待っていろ女神。オレを生み出したお前にとびきりの絶望を与えてやる。お前達のやり方に則って面白いゲームを始めようじゃないか」
ここからは悪意との戦いだ。
ひとの心に眠る悪意と人間の全面戦争。
争いの種が密かに芽吹こうとしていた。
「フィニスオルタナティブ改め、オレは【終焉】を名乗らせてもらおう。果たして、悪意と人間……どちらが勝つかな?」
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