デザイアゼロ/ラストプレイヤー

加賀美うつせ

文字の大きさ
91 / 231
特別編・第五.五章【天空の神斬刀/母なる願い】

第86話 天空の神斬刀編ep.05

しおりを挟む
 鬱蒼うっそうと木々がそびえ、石灯籠が連なる広い道沿いを歩いて行く。真夏の鋭い陽射しを防ぐ樹々と、その合間を吹き通る風がサアサア、と涼しげに葉を鳴らしていた。

 壬晴と巫雨蘭、二人は春日大社方面の探索に向かっている。東大寺方面と春日大社方面、その左右の分岐のいずれかを決めた結果、壬晴は何となくだがこちらを選択した。

 そして、現在の進捗……は芳しくなかった。大社方面の道中にある小さな祠や切株の真上に宝箱を二つ見つけたが、中身はいずれもハズレだった。

 片方は五万の高額ゴールド、それは理解出来るがもう片方に至っては武器カテゴリに含まれる『NR:孫の手』というふざけたアイテムであった。やはりというべきか、わかりやすい場所に高レアリティの武器やアイテムが設置されてはないらしい。

「どう? またハズレだった?」

 引き続き宝箱の発見に勤しむ二人。彼らは次に石灯籠の間にひとつの宝箱を見つけたのですぐさま開帳する。巫雨蘭が中身を確認してる間、壬晴は彼女の後ろで孫の手をブンブンと素振りしていた。

「変な紙切れが一枚だけあったよ」

 宝箱の中身は一枚の用紙だった。巫雨蘭はそれを背後の壬晴に見せる。

「ええっと……なになに、春日大社本殿にて二人以上で参拝、お賽銭7777ゴールドを奉納せよ……これってミッション? イベント中にこんな指令を送られるんだ?」

「達成すれば宝箱の本当の中身が手に入ると思う。そういう場合は良いものが手に入るよ」

「へぇ~、それは面白い。さっそく行って確かめようか」

「うん」

 急ぎ足で本殿に向かう二人。

 そんな二人の行動を見兼ね、気怠そうに周辺を練り歩いていた三人のプレイヤーが彼らの前に立ちはだかった。

 剃り込みの頭髪、明るく染め上げた毛、厳ついタトゥーを腕に掘り、チャラチャラとたくさんのアクセサリーを身につけている。見た目の特徴からして反社会的な連中だろう。

 その三人の内ひとり、リーダーらしき髪を逆立てた大男が「待てよ」と制止の手を向ける。

「あの、先を行きたいんですが」

「はぁ? ダメ。さっきの会話聞かせてもらったケド、お前ら宝箱ミッションの達成に向かうんだろ? ンなの見過ごせるかよ」

 ニタニタと三人が笑っている。 

 壬晴は理解した。

 業腹ながら宝箱ミッションを横取りする気である。

「おっ! リーダー、こいつ女連れてますよ。しかもとびきりツラのイイ女。たまんねぇ~。あのキレーな顔ぐちゃぐちゃにしてやりてぇッスよ」

「泣かせてやりてぇー」

「ふぅん……おいおい、良い気なもんだな。こっちはムサい男連中なのに、そっちは女連れかよ爽やか少年。ムカつくなぁ。ムカつくよなぁ、なぁみんな?」

 ぎゃはは、と下卑た笑いが取り巻きから湧き起こる。

 壬晴達の他にいたプレイヤーは取り巻きらに威嚇されてそそくさと逃げたり、ただ見てみぬフリして遠ざかるだけだった。誰も彼らを助けようとはしない。面倒ごとに関わりたくないと思うのは当然だった。

「フウラ、背中に隠れといて」

 壬晴は怯える巫雨蘭を背後に回し、男らの視線に入らないようにした。彼らの薄汚い欲情の眼に触れられるのが嫌だった。

「よぅし決めた。今からお前ボコして、宝箱ミッションも横取りしてぇ……それからついでにその女も俺らの慰みモンにしてやるか。これって一挙両得ぅ、ってヤツだな。ははは」

 三人が手持ちの武装を取り出す。

 リーダー格の大男が鋼鉄のグローブを嵌め、取り巻きが警棒と金属バットを装備する。如何にもらしい獲物だ。関西圏のヴィジランテが取り逃したアウトローくずれだろう。

「最高ッスよねゲームの世界って。どんな犯罪も許されんだし、まさに弱肉強食!」

「そうそう、楽しまなくちゃ損だよなぁ。お前らみたいな弱そーなヤツらカモに遊ぶのホントサイコーだぜ。ギャハハ!」
 
 武器は『断罪の縛鎖』のみ。攻撃の用途にするには心許ないうえ、効果的ではない。装備の類いを見たところ相手はランク50程度と仮定する。あれなら素手でも通用するが、ここは——。

「あんたらにはこれで充分だな」

 壬晴は先程手に入れた『孫の手』を手前に突き出した。

「ブッ、ハハ! こいつ頭イカれてんぞ! あんなので俺らとやろうってよ!」

「バカじゃねぇのか!? よっぽどロクな武器持ってねぇんだな!」

 大真面目にふざけた武器を構えるものだから取り巻き二人は手を打ち鳴らし呵々大笑する。

 だが、リーダーの大男だけは額に青筋を立てて、怒りに眼を剥いていた。

「……へぇ、ほぅほぅ。随分ナメた真似するなぁ、お前。こういう時、フツー逃げるもんだぜ? それとも何だ? 俺らをおちょくってんのか? そんなもん向けてよォ……」

 リーダーの大男が首を回してゴキゴキと関節を鳴らす。

 取り巻きのひとりが「あーあ、怒らせちゃった」と戯けた風に肩を竦め、壬晴を嘲笑う。

 怒髪天。大男は猪の如く猛進し、壬晴に拳を振り上げた。

「ベッコベコに凹ましてやんぞゴラァアア!!」

 雄叫びをあげて壬晴に殴りかかったその瞬間だった。

 トラップ起動。大男の真下に大穴が開いて、体が下に落ちていく。

「って、うぉおおお!?」

「ええっ!?」

 想定していなかった事態に壬晴は呆気に取られた。不注意が招いた失態である。何事かと急ぎ大穴の側に駆け寄ると、リーダーの大男が「ちくしょおおー!」と叫びながら大穴の底に落ちていく光景が見えた。

「……うわぁ」

『こんな間抜けな罠にかかる人なんて流石にいないよ~』イベント開始時に杏が口走っていた言葉が山彦のように脳裏に蘇る。そして、ほんわか笑顔のままフェードアウトした哀れな楓の姿も同時に回想として現れたが、すぐに頭からシャットアウトした。

「あー! テメェ! よくもやりやがったな!?」

「罠に嵌めやがって! 汚ねぇ真似すんじゃねぇよ!」

 激昂する腰巾着二人。

 先程のトラップは意図的に仕組んだものと誤解しているようだ。

「いや、だから勝手に……罠があるって知らなかったの?」

「うるせぇ! そんなの知るかよぉおお!」

 叫びながら取り巻きが襲いかかる。

 警棒を振り下ろすひとりに腹部の蹴りを見舞い、遅れて金属バットを振るうもうひとりの鳩尾に掌底を打ち込む。ただそれだけの動作で二人は体をくの字に折って悶絶し動けなくなった。

「て、テメェ……孫の手、使ってねぇ……」

「あ……っ、そうだった。じゃあ、いま使うよ」

「え? ちょ……っ」

 壬晴は右手に持っていたものを見ると、その指摘に応えるよう容赦なく彼らの頭に孫の手を叩きつけて昏倒させた。現在の壬晴のステータスならば、孫の手であろうと鈍器と同等の威力を発揮出来る。

「ほらほら、こっから出て行け。ニワトリ頭どもめ」

 壬晴は二人の体を縄で縛ると、リーダーが落ちた大穴までコロコロと蹴り転がして退場させた。傍から見れば鬼畜な所業であるが、対処としては間違ってはいない。

 一仕事終えた壬晴は息を吐き、剣士の納刀の如く孫の手を背中の衣服の内側に入れて仕舞う。

「まったく……何処にでも輩はいるもんだね。関西地区のヴィジランテには頑張ってもらわないと」

 これはいったい何の時間だったのかと壬晴は呆れて果てていた。

「やっぱり、外は怖いね……みぃちゃんの影の中がいちばん安心する」

 振り返ると巫雨蘭は遠くの木の影に身を隠していた。

「でも引きこもりは脱却しないと良くないよ。それに大丈夫、僕もついてるし。ていうか、あんなのより絶対フウラの方が強いんだから怖がる必要ないのに……」

「声が大きい人はそれでも苦手……怖かったから慰めてほしい」

「……わかった。こっちにおいで」

 そう言って壬晴は巫雨蘭を招き寄せた。

 巫雨蘭はぴったりと壬晴に引っ付くと、離れまいと腕に力を込める。

 彼女の気弱な性格と壬晴に対する依存の高さがやや心配だった。

 だが、嬉しそうに体を寄せる巫雨蘭の横顔を見てると咎める気もなくなってしまう。

「イベント中なのにアウトローのせいで余計な時間を喰ったな」

 普段からヴィジランテの活動に協力しているためかアウトローの対処には慣れたものだった。最早、細やかな面倒事か珍事の類いにしか思わなくなっている。

「さ、宝探しを再開させるよ。時間は有限だからね」
「うん」

 そう言って壬晴は巫雨蘭の手を引く。

 そして巫雨蘭はまた見ることになる——まだ遠くにある大社境内へと続く鳥居の真下にあの白く輝く鹿がこちらをジッと見据えている姿を。

 白い鹿は彼らを誘導するかのように鳥居の奥の方へと身を翻す。

 巫雨蘭はその光景を無言で見つめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...