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第六章【災厄の種】
第99話 たくさんのありがとう
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「これで最後だよ、ミアハ。僕はこの六十秒にすべてを賭ける」
「とても楽しかったわ。あなたと本気で戦えて」
壬晴と美愛羽、両者が駆ける。
振り上げられた刃が交差し、金属の甲高い反響音が奏でられた。
そして両者の視線が重なる。
「ミアハ、剣技に自信はあるか?」
「残念ながらあなたほどではないわ」
戦いは、両者一歩引かずの斬り合いへと。
技量と経験則、そのぶつかり合い。
颶風を纏う刀と黄金の残光を描く剣が交錯する度、衝撃が轟く。
壬晴はダメージを負うわけにはいかない状況の中で、全快である美愛羽のHPバーを削らなければならなかった。
しかし、彼女を上回る剣技を持ってして追い詰める。薄皮を擦過させる程度にしか過ぎないが壬晴の刃は彼女に届いていた。
「……っ」
微かに見せる美愛羽の焦り。『神聖区域』の加護により、太陽剣の威力、その絶対破壊効果も無力化されているのだ。
此処は壬晴の独壇場。彼の人生の中で最も研鑽を重ね続けた技術たる剣技で勝負を挑むのだ。壬晴がその生涯で積み重ねて来た真の力、今こそそのすべてを美愛羽にぶつける——。
「(ミアハ……あなたには感謝しかない。最初に出逢った時もあなたは僕を助けてくれた。それが気まぐれであろうとも)」
太陽剣の威力を前に壬晴の手が衝撃に痺れる。
それでも、と彼は手に力を込めた。
「(僕とアスカがゲームの世界で生き抜けたのはあなたがいたからだ。あなたのおかげで強くなれた。チームという居場所を与えてくれた)」
旋風のような両者の斬り合い。その苛烈さはより増していく。
『神聖区域』解除——残り時間三十秒……。
「(きっとアスカと二人だけでは辛く苦しいものだっただろう。だけど、あなたが迎え入れてくれた場所と、そこにいる仲間達が僕らをここまで生かした)」
壬晴は叫び、己の渾身の力を込めて刀を振るった。
『神聖区域』解除——残り時間二十秒……。
「(あなたは僕という危険な存在をそれでも迎えてくれた。それがどれだけ嬉しかったことか、それにどれだけ心が救われたことか。死んではいけないと、生きて幸せになれとあなたは言ってくれた……)」
これまでの想い、彼女に対する感謝に壬晴の眼に涙が溢れる。
『神聖区域』解除——残り時間十秒……。
「(言葉にして伝えるには多すぎる……たくさんのありがとうを、あなたに捧げる)」
『神聖区域』解除——残り時間三秒……。
壬晴は太陽剣との鍔迫り合いから離脱し、神斬刀・天羽の切先を美愛羽に向けて静止させる。
美愛羽はその意図をすぐに理解した。吹き荒れる暴風、天羽の切先に逆巻く旋風がここに来て最大威力を迎える。
「(逃げはしない。正面から迎え打つ……)」
美愛羽のHPゲージは残り六割。時間を稼ぎ『神聖区域』の解除を待てば彼女の勝ちは揺るぎない。だが、それは彼女の主義に反する行為。本気には本気で迎え撃つ。この戦いを受け入れた時に既に決めたことだ。
ならば、その本気を避けることなど赦されない。彼女の矜持、壬晴の決意に賭けて、ここで決着をつける。
「ありがとう、ミアハ……」
数々の想いを呟いて、壬晴が駆け出す。
『流転無窮』の風が背中を押ししてくれる。後は一直線に駆けるだけでいい。
「あなたこそ……私はミハルくんに出逢えて良かった」
感謝の言葉は届いていた。
美愛羽は太陽剣を真横に構え、その一撃を迎え撃つ。
「うぉおおおおおお!!」
乾坤一擲全身全霊の一撃が迫る。
荒れ狂う颶風の刺突が太陽剣と衝突。二つの刃が反発し、せめぎ合う。力は拮抗していた。互いの全力を押し通そうと、二人のプレイヤーが最後の力を振り絞る。
『神聖区域』解除——残り時間ゼロ秒。
領域が崩壊する。その瞬間、決着の刃が通った。
「…………」
戦場が静まり返る。
あれほど激しく戦ったのに決着がつけば驚くほどに静かだった。
「やっぱり、ミアハは強いね……」
壬晴の心臓部位に太陽剣が深々と突き刺さっていた。
対して、こちらの刃は美愛羽の脇腹を貫き、急所を外れていたのだ。
壬晴のHPバーはゼロを迎える。美愛羽はゲージを僅かに残して、この戦いの勝利を納めた。
届かなかった。そんな虚しく途方もない想いを懐く。緊張の糸が途切れ、疲弊の極みに達していた壬晴は前のめりに倒れた。
限界を出し切った戦い。清々しくも……やはり悔しかった。
倒れ落ちるだけのその体を受け止めたのは美愛羽だった。
彼女は壬晴を敗者とは認めない。だからこそ、ここで膝をつくことを許さなかった。美愛羽は壬晴の体を力一杯抱き締めて、その心に語りかける。
「……行きなさい。あなたにはその資格がある」
美愛羽は壬晴の戦いを讃える。
彼は決して敗者ではない。己の試練に立ち向かい、その本気と決意を見せてくれた。それで充分だった。見たかったものを魅せてくれた。
「あの子を救って、あなたの運命も変えるのよ」
そうして、戦いを終えた美愛羽は壬晴を見送ることにした。
PVPエリアが解け、二人の戦いが本当の意味で終わりを告げた。
「とても楽しかったわ。あなたと本気で戦えて」
壬晴と美愛羽、両者が駆ける。
振り上げられた刃が交差し、金属の甲高い反響音が奏でられた。
そして両者の視線が重なる。
「ミアハ、剣技に自信はあるか?」
「残念ながらあなたほどではないわ」
戦いは、両者一歩引かずの斬り合いへと。
技量と経験則、そのぶつかり合い。
颶風を纏う刀と黄金の残光を描く剣が交錯する度、衝撃が轟く。
壬晴はダメージを負うわけにはいかない状況の中で、全快である美愛羽のHPバーを削らなければならなかった。
しかし、彼女を上回る剣技を持ってして追い詰める。薄皮を擦過させる程度にしか過ぎないが壬晴の刃は彼女に届いていた。
「……っ」
微かに見せる美愛羽の焦り。『神聖区域』の加護により、太陽剣の威力、その絶対破壊効果も無力化されているのだ。
此処は壬晴の独壇場。彼の人生の中で最も研鑽を重ね続けた技術たる剣技で勝負を挑むのだ。壬晴がその生涯で積み重ねて来た真の力、今こそそのすべてを美愛羽にぶつける——。
「(ミアハ……あなたには感謝しかない。最初に出逢った時もあなたは僕を助けてくれた。それが気まぐれであろうとも)」
太陽剣の威力を前に壬晴の手が衝撃に痺れる。
それでも、と彼は手に力を込めた。
「(僕とアスカがゲームの世界で生き抜けたのはあなたがいたからだ。あなたのおかげで強くなれた。チームという居場所を与えてくれた)」
旋風のような両者の斬り合い。その苛烈さはより増していく。
『神聖区域』解除——残り時間三十秒……。
「(きっとアスカと二人だけでは辛く苦しいものだっただろう。だけど、あなたが迎え入れてくれた場所と、そこにいる仲間達が僕らをここまで生かした)」
壬晴は叫び、己の渾身の力を込めて刀を振るった。
『神聖区域』解除——残り時間二十秒……。
「(あなたは僕という危険な存在をそれでも迎えてくれた。それがどれだけ嬉しかったことか、それにどれだけ心が救われたことか。死んではいけないと、生きて幸せになれとあなたは言ってくれた……)」
これまでの想い、彼女に対する感謝に壬晴の眼に涙が溢れる。
『神聖区域』解除——残り時間十秒……。
「(言葉にして伝えるには多すぎる……たくさんのありがとうを、あなたに捧げる)」
『神聖区域』解除——残り時間三秒……。
壬晴は太陽剣との鍔迫り合いから離脱し、神斬刀・天羽の切先を美愛羽に向けて静止させる。
美愛羽はその意図をすぐに理解した。吹き荒れる暴風、天羽の切先に逆巻く旋風がここに来て最大威力を迎える。
「(逃げはしない。正面から迎え打つ……)」
美愛羽のHPゲージは残り六割。時間を稼ぎ『神聖区域』の解除を待てば彼女の勝ちは揺るぎない。だが、それは彼女の主義に反する行為。本気には本気で迎え撃つ。この戦いを受け入れた時に既に決めたことだ。
ならば、その本気を避けることなど赦されない。彼女の矜持、壬晴の決意に賭けて、ここで決着をつける。
「ありがとう、ミアハ……」
数々の想いを呟いて、壬晴が駆け出す。
『流転無窮』の風が背中を押ししてくれる。後は一直線に駆けるだけでいい。
「あなたこそ……私はミハルくんに出逢えて良かった」
感謝の言葉は届いていた。
美愛羽は太陽剣を真横に構え、その一撃を迎え撃つ。
「うぉおおおおおお!!」
乾坤一擲全身全霊の一撃が迫る。
荒れ狂う颶風の刺突が太陽剣と衝突。二つの刃が反発し、せめぎ合う。力は拮抗していた。互いの全力を押し通そうと、二人のプレイヤーが最後の力を振り絞る。
『神聖区域』解除——残り時間ゼロ秒。
領域が崩壊する。その瞬間、決着の刃が通った。
「…………」
戦場が静まり返る。
あれほど激しく戦ったのに決着がつけば驚くほどに静かだった。
「やっぱり、ミアハは強いね……」
壬晴の心臓部位に太陽剣が深々と突き刺さっていた。
対して、こちらの刃は美愛羽の脇腹を貫き、急所を外れていたのだ。
壬晴のHPバーはゼロを迎える。美愛羽はゲージを僅かに残して、この戦いの勝利を納めた。
届かなかった。そんな虚しく途方もない想いを懐く。緊張の糸が途切れ、疲弊の極みに達していた壬晴は前のめりに倒れた。
限界を出し切った戦い。清々しくも……やはり悔しかった。
倒れ落ちるだけのその体を受け止めたのは美愛羽だった。
彼女は壬晴を敗者とは認めない。だからこそ、ここで膝をつくことを許さなかった。美愛羽は壬晴の体を力一杯抱き締めて、その心に語りかける。
「……行きなさい。あなたにはその資格がある」
美愛羽は壬晴の戦いを讃える。
彼は決して敗者ではない。己の試練に立ち向かい、その本気と決意を見せてくれた。それで充分だった。見たかったものを魅せてくれた。
「あの子を救って、あなたの運命も変えるのよ」
そうして、戦いを終えた美愛羽は壬晴を見送ることにした。
PVPエリアが解け、二人の戦いが本当の意味で終わりを告げた。
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