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第十章【マスカレイドバトル/ワールド・レクイエム】
第177話 ミアハVSルシア
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関東エリア、渋谷——運営本部から離れ、ルシアはプレイヤー狩りを始めた。
運営側にありながらこのような蛮行は赦されざることだ。しかし、彼女にそんなルールなど関係ない。このゲームを始めたのだって全人類を抹殺し、世界を無に帰すため。
六つの厄災が敗北した今、手段は選んでられない。残ったプレイヤーすべて潰してでも運営側の勝利に終わらせる。
「……これで残り94人」
ルシアの前に二人組の男女がいた。彼らもプレイヤーで、この時までを生き残った猛者である。ルシアは彼らに対し一方的に戦いを挑み、戦闘不能まで追い込んだ。
傷付き倒れ、気絶する両者からプレイヤー端末を奪うと何の躊躇いもなく握り潰して脱落させた。
これで目覚めた頃にはプレイヤーとして活動していた記憶がなくなる。この滅びゆく世界の中で、無力にも逃げ惑いながら死を待つことになるだろう。
「まだまだプレイヤーは残ってる……すべて、私の手で……」
夢遊病者のような足取りでルシアは歩き始めた。
近くにまだプレイヤーの反応がある。
プレイヤーであるのなら誰であろうと潰すと決めた。
そうしてルシアの前に現れたのは予想もしなかった人物だった。
「そっか……私を倒しに来たんだね」
ルシアはそっと微笑んでその相手を迎え入れた。
「ご機嫌よう、女神様」
最強のプレイヤー、黄昏美愛羽。彼女は関東エリアに現れたルシアを倒すべくここに現れた。
「ああ、美愛羽さん……」
美愛羽は『天国の扉』の銃口を彼女に向けていた。
「あなたを殺すわ」
その宣告は揺るぎなく、ルシアに向けて発せられた。
「……うん、好きにしたらいいよ。ミアハさんがそうしたいのならそうすればいい。だって、私はもうどうでもいいの。いつ死のうが関係ない。この世界がなくなるのならそれで構わない……」
「だったら、あなただけ死になさい。私達が生きる世界をめちゃくちゃにして……それで本当に救われるとでも思っているの。私達はそんなもの望んでいない。みんな生きたいと思っていた」
美愛羽の指先が怒りで震える。
「ミアハさん……この世界は地獄だよ。みんな苦しんでいるの。争いばかりを繰り返してお互いを傷つけ合っている。あなたの知らない世界はとても悲惨なものだよ。人がその心に持つ醜い悪意……それが芽生えるたび、マリスは生まれた。何度も、何度もね……」
「…………」
「だからね、ミアハさん……私は——」
二の句を告げる間も無く、ルシアの肩口に『天国の扉』の弾丸が撃ち当てられた。
「ごちゃごちゃ……うるさい」
美愛羽はギリ、と奥歯を噛み締める。
一時的に彼女は蓮太郎を失った悲しみから心が折れて生命力の捻出が出来なくなっていた。だが、地上にルシアが出現した報告を聞くと彼女の中から、今まで感じたことのない新たな力が溢れ出したのだ。
美愛羽は『殺意』をルシアに懐いた。彼女こそすべての元凶だと、そう位置付けることで戦うだけの理由と力を手にした。それは歪んだもので、手にするには危うい力だった。
「…………」
銃弾を喰らったルシアの右肩から血が滲み出ていた。
ルシアはその痛みに頓着することはなかった。ただ傷口から溢れ出る血に触れて薄く笑うだけ。悪魔のような自分のこの体にも人の血が流れていることがおかしく思えた。
「あんたのせいでたくさんの人が死んだ……! あなたのせいでレンタロウは死んだ……! あいつだけじゃない……辛くて、苦しんで……それでもみんなこの世界を守ろうと必死で戦った! 大切なものを守ろうと必死で!」
美愛羽の眼から涙が溢れ出る。
「赦せないなら私を殺してみせなよ」
こうして分かりあうこともなく両者の間に戦いが幕を開けた。
美愛羽は数々のフレームを使い回してルシアを攻め立て、ルシアはそれらの攻撃を『封印制度・裏』の力で無力化。
接近戦となれば、美愛羽は『天国の扉』と『水銀精霊』のフレームで構成された蛇腹剣の二つ持ちで、対するルシアは『創造』の力で生み出した武器の数々で対抗した。
「あなたさえいなければ! あなたさえいなければこんなことにはならなかった! 誰も死ぬことなんてなかった! 誰も犠牲になることなんて!」
「ミアハさん、私は決めたんだよ。世界を滅ぼすって。もうこんなことは終わらせるって。もう何もかも消してしまってゼロにするの。そうすることでしか人は、世界は救われない……この私も」
激しい戦闘の余波で街が破壊されていく。
視界に映るもの、ビルもオブジェクトなどの建築物はもちろん、地面は隆起し、巻き起こる爆破に建物や捨て置かれた車両が炎上。それでも破壊は止まらず、街一帯を更地にせんが勢いで彼女らは力をぶつけ合った。
「御託なんてどうでもいい! はじめからあなただけが消えればよかったのよ! そうして憎しみと苦しみだけを抱えて! ひとりだけ!」
美愛羽は『大地の波動』の力を『天国の扉』に注ぎ込む。特大の波動砲たるガイアフォース・バレットがルシアへと伸びる。
「私の使命は女神として人を導くこと……だから、まだあなた達を残して消えることなんて出来ない。それは、すべて終わってから……私があなた達を何もない世界に送るまでは……」
ルシアは『封印制度・裏』を使い『封鎖領域』と似た幾何学模様の障壁を展開。それによりガイアフォース・バレットを防ぎ、代わりに虚空に生み出した幾多の細剣を一斉に美愛羽に向けて射撃。
美愛羽は『重力舞踊』のフレームで動きを制しさせ、その隙に『天国の扉』による狙撃と『水銀精霊』の援護で破壊。次に『世界樹の種』と『海王の結界』を同時発動させて、彼女のしもべたるゴーレムと海蛇を呼び出した。
「……まだまだ終われないの」
ルシアは『封刃鍵』を発動。大きく拡大させたその剣尖を振るい、今さっき呼び出したばかりのゴーレムと海蛇を真っ二つに寸断。それらをただの生命力の粒子と化して無力化させた。
「その技……なるほどね」
美愛羽は『封刃鍵』を見ている。あの『女神の謁見』の時に運営幹部らを無力化したものだ。防御不可で、ある意味では一撃必殺の効果を持つ強力な力である。
「小細工は通用しないようね……全力で潰す」
美愛羽は次に二枚のフレームを取り出した。『太陽の聖譚曲』そして『月の夜想曲』……絶対破壊と絶対防御、彼女の切札たるこれでルシアに対抗する。
「ミアハさん……そんなものまで持ってたなんて。やっぱり強いんだね……私なんかと違って」
ルシアは再度、虚空に武器群を創造させた。それらを美愛羽に殺到させるも『月の夜想曲』による防御結界に容易く防がれ、お返しとばかりに『太陽の聖譚曲』の一薙ぎがルシアに回避を強制させるのだった。
二人は攻防を繰り返しながら変動する地形に足下がすくわれないよう移動も繰り返す。フレームの加護による身体能力向上と『創造』の力による空間転移。堅牢な防御手段も保有する両者では、互いの攻撃を当てるのも至難の業。戦いは破壊を広げて長く続く。
「『火焔流星』……」
美愛羽のフレームが輝く。雲間から隕石が落下し、地上の悉くを焼き尽くす。攻撃範囲と威力、そのフレームは破壊の規模から考慮し、戦いの舞台が人間界になってから使わずにしていたものだった。
だが、今の美愛羽はルシアを倒すことしか眼中にない。どれだけ街が破壊されようが彼女さえ倒すことが出来ればそれで良いのだ。
高層ビル、その眼下にある光景は炎の嵐と呼ぶべきものだった。吹き荒れる灼熱がすべてを焼き焦がし灰燼とする。
「……驚いた」
ルシアはその程度で倒せはしない。またもや空間転移で美愛羽の攻撃から逃れると、彼女と同じ高層ビルの屋上に現れた。
ルシアは出現と同時に、大剣を宙に創り出して美愛羽へと振り下ろす。だが、それも『太陽の聖譚曲』との衝突で破壊され、ルシアの攻撃はまた無意味に終わる。
「…………」
この戦いの中で美愛羽は感じていたものがあった。
彼女の戦い方はワンパターンで、攻め方も凡庸極まりない。そもそもの話、彼女は戦いに慣れていなかった。『創造』という強大な力を頼りにしているだけ。
「……やっぱり、弱い」
「え……?」
ルシアの聞き返しに応じることなく、美愛羽はその場から高く跳躍すると『天国の扉』の銃口を真下に向け、ガイアフォース・バレットを撃ち込んだ。
ルシアはその光軸から逃れたものの、要である支柱を貫かれ、重量を支えることが出来なくなったビルは途端、瞬く間に崩壊。爆破解体されたように垂直に崩れ落ちる。
「う……」
ルシアは瓦礫と共に地上へと落ちていく。すぐ空間転移で安全圏である地上に退避し、美愛羽がいる上空を見上げた。だが、既にそこに彼女はいなかった。
ルシアは周囲を警戒した。何処から仕掛けてくるかわからない。五感を集中させ、彼女の攻撃に備える。
そうして次にルシアのもとに殺到した攻撃は、ビル崩壊によって巻き上がった砂塵からそれらを斬り払うように射出された幾本の水銀の針。
「……そこ!」
ルシアは『封鎖領域』で水銀の攻撃を防ぐと、すぐさま虚空に剣を数多創り出して射出。攻撃の基点を串刺しにした。美愛羽の攻撃は不意打ちのつもりだったのだろうが失敗に終えた。
「あ、れ……」
しかし、砂塵が払われるとそこには誰もいなかった。ルシアが不審に思って振り返った時、ひとつの銃声が聞こえ、彼女の左脚が吹き飛ばされた。
「え……?」
バランス感覚を失ったルシアは前のめりに倒れた。左脚が大きく抉られ、血がドクドクと溢れ出る。己の左脚の有様を見て、ルシアの顔が青褪めた。
そして、彼女の前には『天国の扉』の銃口をこちらに構えてながら歩み寄る美愛羽の姿がある。
どうやら、ビルを倒壊させたあの時に『水銀精霊』も撃ち込んでいたらしい。巻き上がる砂塵の中から攻撃を仕掛けれるように。ルシアがそちらに気を取られている隙に、美愛羽は背後から彼女の脚を貫いて機動力を削いだのだ。
「初めて出逢ったあの時……あなたを倒しておくべきだった」
思い出すのはデスティニーアイランドの時のこと。美愛羽はルシアと初めて出逢った。お互い、譲り合う形で対話をした。あの時の後悔が脳裏をよぎるのだ。どうしてルシアを始末しておかなかったのか、と。今となっては悔いて仕方ない。
「…………ミアハさん」
ルシアの左脚は『創造』の力で治癒される。何もなかったかのように綺麗な足に戻ったところを美愛羽はまた『天国の扉』の銃弾を撃ち込んで粉々にした。
「……あ、ぐぅ……!」
痛みにルシアの顔が苦痛に歪む。
たとえ女神であろうと人間の体には違いない。
「闇堕ちしようが、女神の力を持っていようが……あなたはただの箱入り娘。戦いには不向きなか弱い女の子よ。そんなあなたに私が負ける道理はないの」
冷たく平坦な口調で美愛羽が己とルシアの実力の差を告げる。
「その傷、治ったところでまた撃ち抜いてやるわよ。あなたには後悔する時間と懺悔の余裕を与えるわ。今までのことを謝罪しなさい。死んだ者達のために……それからじゃないと、あなたは死ぬことを赦さない」
美愛羽は銃口を彼女に突き付けてそう促した。
「あ……ああ、はは……」
ルシアから諦めに似た空笑いが漏れる。
「……私は、悪くない……」
「…………」
その返答は予想していなかったわけではない。それでも美愛羽の逆鱗に触れるには充分で、彼女はルシアに平手打ちし、また再生しかけた左脚に銃弾を見舞わせ、彼女に痛みを与えた。
「ふざけないで……」
美愛羽の表情に悲哀と怒りが混ざる。
ルシアはまだ抵抗する。また虚空に武器を生み出して美愛羽を串刺しにせんとするも、美愛羽はその前に彼女の手を吹き飛ばして止めた。
「あ、い……痛……っ!」
ルシアは痛みに悶絶し、傷を庇うように体を丸めた。
彼女は悪足掻きをし続けるのだろう。だが、それでも良かった。彼女が抵抗し続けるのならその分だけ美愛羽は彼女に何度も苦痛を与えるつもりだ。
運営側にありながらこのような蛮行は赦されざることだ。しかし、彼女にそんなルールなど関係ない。このゲームを始めたのだって全人類を抹殺し、世界を無に帰すため。
六つの厄災が敗北した今、手段は選んでられない。残ったプレイヤーすべて潰してでも運営側の勝利に終わらせる。
「……これで残り94人」
ルシアの前に二人組の男女がいた。彼らもプレイヤーで、この時までを生き残った猛者である。ルシアは彼らに対し一方的に戦いを挑み、戦闘不能まで追い込んだ。
傷付き倒れ、気絶する両者からプレイヤー端末を奪うと何の躊躇いもなく握り潰して脱落させた。
これで目覚めた頃にはプレイヤーとして活動していた記憶がなくなる。この滅びゆく世界の中で、無力にも逃げ惑いながら死を待つことになるだろう。
「まだまだプレイヤーは残ってる……すべて、私の手で……」
夢遊病者のような足取りでルシアは歩き始めた。
近くにまだプレイヤーの反応がある。
プレイヤーであるのなら誰であろうと潰すと決めた。
そうしてルシアの前に現れたのは予想もしなかった人物だった。
「そっか……私を倒しに来たんだね」
ルシアはそっと微笑んでその相手を迎え入れた。
「ご機嫌よう、女神様」
最強のプレイヤー、黄昏美愛羽。彼女は関東エリアに現れたルシアを倒すべくここに現れた。
「ああ、美愛羽さん……」
美愛羽は『天国の扉』の銃口を彼女に向けていた。
「あなたを殺すわ」
その宣告は揺るぎなく、ルシアに向けて発せられた。
「……うん、好きにしたらいいよ。ミアハさんがそうしたいのならそうすればいい。だって、私はもうどうでもいいの。いつ死のうが関係ない。この世界がなくなるのならそれで構わない……」
「だったら、あなただけ死になさい。私達が生きる世界をめちゃくちゃにして……それで本当に救われるとでも思っているの。私達はそんなもの望んでいない。みんな生きたいと思っていた」
美愛羽の指先が怒りで震える。
「ミアハさん……この世界は地獄だよ。みんな苦しんでいるの。争いばかりを繰り返してお互いを傷つけ合っている。あなたの知らない世界はとても悲惨なものだよ。人がその心に持つ醜い悪意……それが芽生えるたび、マリスは生まれた。何度も、何度もね……」
「…………」
「だからね、ミアハさん……私は——」
二の句を告げる間も無く、ルシアの肩口に『天国の扉』の弾丸が撃ち当てられた。
「ごちゃごちゃ……うるさい」
美愛羽はギリ、と奥歯を噛み締める。
一時的に彼女は蓮太郎を失った悲しみから心が折れて生命力の捻出が出来なくなっていた。だが、地上にルシアが出現した報告を聞くと彼女の中から、今まで感じたことのない新たな力が溢れ出したのだ。
美愛羽は『殺意』をルシアに懐いた。彼女こそすべての元凶だと、そう位置付けることで戦うだけの理由と力を手にした。それは歪んだもので、手にするには危うい力だった。
「…………」
銃弾を喰らったルシアの右肩から血が滲み出ていた。
ルシアはその痛みに頓着することはなかった。ただ傷口から溢れ出る血に触れて薄く笑うだけ。悪魔のような自分のこの体にも人の血が流れていることがおかしく思えた。
「あんたのせいでたくさんの人が死んだ……! あなたのせいでレンタロウは死んだ……! あいつだけじゃない……辛くて、苦しんで……それでもみんなこの世界を守ろうと必死で戦った! 大切なものを守ろうと必死で!」
美愛羽の眼から涙が溢れ出る。
「赦せないなら私を殺してみせなよ」
こうして分かりあうこともなく両者の間に戦いが幕を開けた。
美愛羽は数々のフレームを使い回してルシアを攻め立て、ルシアはそれらの攻撃を『封印制度・裏』の力で無力化。
接近戦となれば、美愛羽は『天国の扉』と『水銀精霊』のフレームで構成された蛇腹剣の二つ持ちで、対するルシアは『創造』の力で生み出した武器の数々で対抗した。
「あなたさえいなければ! あなたさえいなければこんなことにはならなかった! 誰も死ぬことなんてなかった! 誰も犠牲になることなんて!」
「ミアハさん、私は決めたんだよ。世界を滅ぼすって。もうこんなことは終わらせるって。もう何もかも消してしまってゼロにするの。そうすることでしか人は、世界は救われない……この私も」
激しい戦闘の余波で街が破壊されていく。
視界に映るもの、ビルもオブジェクトなどの建築物はもちろん、地面は隆起し、巻き起こる爆破に建物や捨て置かれた車両が炎上。それでも破壊は止まらず、街一帯を更地にせんが勢いで彼女らは力をぶつけ合った。
「御託なんてどうでもいい! はじめからあなただけが消えればよかったのよ! そうして憎しみと苦しみだけを抱えて! ひとりだけ!」
美愛羽は『大地の波動』の力を『天国の扉』に注ぎ込む。特大の波動砲たるガイアフォース・バレットがルシアへと伸びる。
「私の使命は女神として人を導くこと……だから、まだあなた達を残して消えることなんて出来ない。それは、すべて終わってから……私があなた達を何もない世界に送るまでは……」
ルシアは『封印制度・裏』を使い『封鎖領域』と似た幾何学模様の障壁を展開。それによりガイアフォース・バレットを防ぎ、代わりに虚空に生み出した幾多の細剣を一斉に美愛羽に向けて射撃。
美愛羽は『重力舞踊』のフレームで動きを制しさせ、その隙に『天国の扉』による狙撃と『水銀精霊』の援護で破壊。次に『世界樹の種』と『海王の結界』を同時発動させて、彼女のしもべたるゴーレムと海蛇を呼び出した。
「……まだまだ終われないの」
ルシアは『封刃鍵』を発動。大きく拡大させたその剣尖を振るい、今さっき呼び出したばかりのゴーレムと海蛇を真っ二つに寸断。それらをただの生命力の粒子と化して無力化させた。
「その技……なるほどね」
美愛羽は『封刃鍵』を見ている。あの『女神の謁見』の時に運営幹部らを無力化したものだ。防御不可で、ある意味では一撃必殺の効果を持つ強力な力である。
「小細工は通用しないようね……全力で潰す」
美愛羽は次に二枚のフレームを取り出した。『太陽の聖譚曲』そして『月の夜想曲』……絶対破壊と絶対防御、彼女の切札たるこれでルシアに対抗する。
「ミアハさん……そんなものまで持ってたなんて。やっぱり強いんだね……私なんかと違って」
ルシアは再度、虚空に武器群を創造させた。それらを美愛羽に殺到させるも『月の夜想曲』による防御結界に容易く防がれ、お返しとばかりに『太陽の聖譚曲』の一薙ぎがルシアに回避を強制させるのだった。
二人は攻防を繰り返しながら変動する地形に足下がすくわれないよう移動も繰り返す。フレームの加護による身体能力向上と『創造』の力による空間転移。堅牢な防御手段も保有する両者では、互いの攻撃を当てるのも至難の業。戦いは破壊を広げて長く続く。
「『火焔流星』……」
美愛羽のフレームが輝く。雲間から隕石が落下し、地上の悉くを焼き尽くす。攻撃範囲と威力、そのフレームは破壊の規模から考慮し、戦いの舞台が人間界になってから使わずにしていたものだった。
だが、今の美愛羽はルシアを倒すことしか眼中にない。どれだけ街が破壊されようが彼女さえ倒すことが出来ればそれで良いのだ。
高層ビル、その眼下にある光景は炎の嵐と呼ぶべきものだった。吹き荒れる灼熱がすべてを焼き焦がし灰燼とする。
「……驚いた」
ルシアはその程度で倒せはしない。またもや空間転移で美愛羽の攻撃から逃れると、彼女と同じ高層ビルの屋上に現れた。
ルシアは出現と同時に、大剣を宙に創り出して美愛羽へと振り下ろす。だが、それも『太陽の聖譚曲』との衝突で破壊され、ルシアの攻撃はまた無意味に終わる。
「…………」
この戦いの中で美愛羽は感じていたものがあった。
彼女の戦い方はワンパターンで、攻め方も凡庸極まりない。そもそもの話、彼女は戦いに慣れていなかった。『創造』という強大な力を頼りにしているだけ。
「……やっぱり、弱い」
「え……?」
ルシアの聞き返しに応じることなく、美愛羽はその場から高く跳躍すると『天国の扉』の銃口を真下に向け、ガイアフォース・バレットを撃ち込んだ。
ルシアはその光軸から逃れたものの、要である支柱を貫かれ、重量を支えることが出来なくなったビルは途端、瞬く間に崩壊。爆破解体されたように垂直に崩れ落ちる。
「う……」
ルシアは瓦礫と共に地上へと落ちていく。すぐ空間転移で安全圏である地上に退避し、美愛羽がいる上空を見上げた。だが、既にそこに彼女はいなかった。
ルシアは周囲を警戒した。何処から仕掛けてくるかわからない。五感を集中させ、彼女の攻撃に備える。
そうして次にルシアのもとに殺到した攻撃は、ビル崩壊によって巻き上がった砂塵からそれらを斬り払うように射出された幾本の水銀の針。
「……そこ!」
ルシアは『封鎖領域』で水銀の攻撃を防ぐと、すぐさま虚空に剣を数多創り出して射出。攻撃の基点を串刺しにした。美愛羽の攻撃は不意打ちのつもりだったのだろうが失敗に終えた。
「あ、れ……」
しかし、砂塵が払われるとそこには誰もいなかった。ルシアが不審に思って振り返った時、ひとつの銃声が聞こえ、彼女の左脚が吹き飛ばされた。
「え……?」
バランス感覚を失ったルシアは前のめりに倒れた。左脚が大きく抉られ、血がドクドクと溢れ出る。己の左脚の有様を見て、ルシアの顔が青褪めた。
そして、彼女の前には『天国の扉』の銃口をこちらに構えてながら歩み寄る美愛羽の姿がある。
どうやら、ビルを倒壊させたあの時に『水銀精霊』も撃ち込んでいたらしい。巻き上がる砂塵の中から攻撃を仕掛けれるように。ルシアがそちらに気を取られている隙に、美愛羽は背後から彼女の脚を貫いて機動力を削いだのだ。
「初めて出逢ったあの時……あなたを倒しておくべきだった」
思い出すのはデスティニーアイランドの時のこと。美愛羽はルシアと初めて出逢った。お互い、譲り合う形で対話をした。あの時の後悔が脳裏をよぎるのだ。どうしてルシアを始末しておかなかったのか、と。今となっては悔いて仕方ない。
「…………ミアハさん」
ルシアの左脚は『創造』の力で治癒される。何もなかったかのように綺麗な足に戻ったところを美愛羽はまた『天国の扉』の銃弾を撃ち込んで粉々にした。
「……あ、ぐぅ……!」
痛みにルシアの顔が苦痛に歪む。
たとえ女神であろうと人間の体には違いない。
「闇堕ちしようが、女神の力を持っていようが……あなたはただの箱入り娘。戦いには不向きなか弱い女の子よ。そんなあなたに私が負ける道理はないの」
冷たく平坦な口調で美愛羽が己とルシアの実力の差を告げる。
「その傷、治ったところでまた撃ち抜いてやるわよ。あなたには後悔する時間と懺悔の余裕を与えるわ。今までのことを謝罪しなさい。死んだ者達のために……それからじゃないと、あなたは死ぬことを赦さない」
美愛羽は銃口を彼女に突き付けてそう促した。
「あ……ああ、はは……」
ルシアから諦めに似た空笑いが漏れる。
「……私は、悪くない……」
「…………」
その返答は予想していなかったわけではない。それでも美愛羽の逆鱗に触れるには充分で、彼女はルシアに平手打ちし、また再生しかけた左脚に銃弾を見舞わせ、彼女に痛みを与えた。
「ふざけないで……」
美愛羽の表情に悲哀と怒りが混ざる。
ルシアはまだ抵抗する。また虚空に武器を生み出して美愛羽を串刺しにせんとするも、美愛羽はその前に彼女の手を吹き飛ばして止めた。
「あ、い……痛……っ!」
ルシアは痛みに悶絶し、傷を庇うように体を丸めた。
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かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
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