デザイアゼロ/ラストプレイヤー

加賀美うつせ

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第十一章【マスカレイドバトル/フィナーレ】

第198話 CRY DOLL SONG/CRADLE SONG ①

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 PLAYER(戦士)でありPRAYER(祈り子)だった。



 20XX年12月24日クリスマスイブ、天候は雪、時刻は二十三時。

 場所は教会——この日『大いなる母』は降臨する。


 
「みぃちゃん……これをあなたに返すね」

 彼女は二枚のフレームを壬晴に握らせた。

 巫雨蘭の苦しみを癒すために渡していた『封印制度』と『吸収転換』のアトラクトフレーム。それらが再び壬晴のもとに戻る。

 それから彼女は壬晴を強く抱き締め、胸元で言葉を囁いた。

「この戦いの結果がどうなっても、私はあなたを恨んだり責めたりしない。あなたのことを愛して、私は心から信じているから。だから……お願い、生きていて……」


 彼女の体は既に限界だった。この日まで耐えてこられたのは最早奇跡に近いものだったろう。思い出の故郷であるこの地に戻って来るまで彼女は気力を振り絞り、苦痛に抗い続けていた。

 しかし、西洋館に戻ってからすぐ巫雨蘭の容態は急変した。『穢れ』は急速に巫雨蘭の肉体を侵食し、彼女をマリスへと近付けた。

 あの時のような肉腫が背中から生え、紅い瞳は尚も色濃く変化して、彼女の姿を人間から遠ざけようとしていた。

 巫雨蘭は気が遠くなりそうな激痛に冷たい汗を流していた。もう『封印制度』の力では苦痛さえも抑制できないところまで来ている。このままでは延々と意味もなく苦しませるだけだった。

 だから、この苦しみをもう終わらせることに決めた。

 何より、そんな彼女を壬晴は見ていられなかった。


 
「フウラ……信じて待っていて」

 教会から遠く離れた西洋館の庭園で、壬晴は運営仕様へと進化した端末を宙に翳した。

「みぃちゃん……」

 同じく教会にひとり残された巫雨蘭も端末を手前に翳して、彼の意に応える。

 そうして両者の間に『PVPエリア』は敷かれた。

 戦闘範囲は街ひとつ。時間は無制限。

 抑止を解放し、最後の敵……『大いなる母』は巫雨蘭の肉体をベースに現界する。

 世界を見るための瞳を閉ざした巨大な女神の像。全長約80m級、白磁色の輝きを纏い、背中から大きな羽が生えている。膝を折った姿勢で座っているのに、その存在感は遠くからでも明らかだった。

 麗しい女神は愛おしそうに大きな鏡を胸元に抱きかかえていた。人の心を映し、祈りを集める願望の器。マリスが生まれた元凶たるソレを彼女は愚かにも腕の中で護っている。

「…………」

 荘厳な鐘の音が世界に鳴り響いている。

 壬晴は高台に立ち、そこから見える景色を眺めていた。

 『大いなる母』は天使を生み出していた。

 数百を悠に超える新たな悪意の化身『マリス・エンゼル』。蒼白く痩せた頭部のない人型の怪物、そいつは背中から凶々しい羽を生やし、天使の輪を輝かせている。

 端末が示したレベル数値は900、ナイトメアよりも遥かに強い。

 それらは視界を覆うほど多く、壬晴の前に現れた。

 PVPエリアが展開されている以上『マリス・エンゼル』は外界から隔離されている。だが、この戦いに敗れた時、奴らは世界に対して殺戮を演じることだろう。

「フウラ……」

 『大いなる母』の心臓部位に巫雨蘭の肉体が埋め込まれていた。カラスマが口にしていたようにコアの代替として、彼女はそこに存在している。

 巫雨蘭は糸の切れた人形のように生気がなく、眼を閉ざしていた。

 壬晴は高台から一歩足を踏み出す。

 その度に壬晴の体に刻印が刻まれていく。

『ミハル……オマエはやはり……』

 覚悟はとうに決めていた。

 瞳は紅蓮に染まり、瘴気が全身を包み込む。

 フィニスの力を解放する。己の何を犠牲にしてでも、この力で『大いなる母』を攻略し、巫雨蘭を救い出す。



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