デザイアゼロ/ラストレコード 

加賀美うつせ

文字の大きさ
21 / 23
終章【失われた奇跡という名の物語】

X章ep.20『悪意の監視者』

しおりを挟む
「どうやらこの世界は平和そのものみてぇだな。櫻井のこともお前が因縁を精算して解決……んでもって、ゲーム世界もなくなったからマリスもいなければ、俺らの『呪い』もねぇ。メデタシ、ってわけか?」

 明日香と別れた後、壬晴はとある人物に遭遇した。

 都内の建物と路地裏を隔てる境界——身分的には犯罪者である彼はあまり人前に出るわけにもいかず、路地裏の影に身を潜ませて陽の表側にいる壬晴と言葉を交わしていた。

「すべてが丸く納まったわけじゃないよ。この世界にも争いはもちろんある。人の心が存在する限りそれは消えないものだから」

 壬晴がそう応えると、路地裏の人物は一枚の結晶板をコートのポケットから取り出して壬晴に手渡した。

 それはゲーム世界で存在していた異能を操るアイテム『アトラクトフレーム』だった。

「これはあの世界の名残か? 二つの世界が融合を果たして無に還ったものもあれば、そのまま残ったものもあるってんだろ? これがあるとまた争いの火種になるぞ? ミハル」

 壬晴はフレームを観察し終えると、路地裏の人物に返した。

「それは新たな『女神システム』だよ。元々の世界では地球の寿命を伸ばすために『刻印』っていう人類からエネルギーを吸収する寄生木ヤドリギみたいなものがあったんだ。地球にかかる負担をそれで解消しようって女神が考案したものだけど、ゲーム世界ではアイテムとして活用するためフレームに封印させた」

「新しい世界じゃ地球の寿命問題が残されてるってことだな。つまり、これは生態エネルギーを吸収して自動変換する装置ってわけだ。『女神システム』うまいことやりやがる」

「フレームは誰でも使えるわけじゃない。適性がないと力は発現しないさ。だからそれを使って悪用だなんて簡単には出来ない。聞くが、キミはそのフレームが使えるのか?」

 壬晴がそう質すと、彼は「いや……」と濁した言葉を返すだけだった。

「まぁ、完全に平和といかねぇか。都合が良すぎるのも奇妙なもんだしな」

 そう言って彼が路地裏の壁から背を離す衣擦れの音が聞こえた。

 何処かに立ち去ろうとする動作を壬晴は咄嗟に止める。

「待ってくれヤクモ。キミはこれからどうするんだ?」

 八雲、そう名前を呼ばれた赤髪の少年は振り返ることなく告げる。

「別に、今まで通りのらりくらりと過ごすだけだ。俺はこの世すべての悪意を赦さねぇと言った。今度はこのフレームを悪用する奴がいねぇか見張るだけだ。俺の戦いはまだ終わらねぇよ」

 八雲は鷹揚に手を振って応える。

 壬晴は止めることはしなかった。

 八雲が光の世界で生きていけないことはよく理解していたからだ。

 それにフレームの問題は確かにある。今この世界では『アトラクトフレーム』の存在が認知され、取引の材料として扱われている話もある。

 フレーム適合者が悪事に手を染めてしまうケースもゼロではなかった。

「……気が向いたら顔を見せに来てやってもいいぜ、お兄ちゃんよォ」

「馬鹿言え……勘当ものだ、この不幸者。……元気でいろよ」

 突き放すようでいて口端には八雲を案ずる気持ちを隠しきれなかった。

 壬晴は暗闇の奥へと姿を消していく彼の後ろ姿を見送る。

 次に会うのがいつになるのか、それとも二度とないのかもしれないが、せめて元気で生きていることを願うばかりである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

処理中です...