風嘉の白龍 〜花鳥風月奇譚・2〜

和泉 凛

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風嘉の白龍 〜花鳥風月奇譚・2〜

ー紅凰の目覚めー

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  レンに緊急連絡が届く一時間ほど前、南方領の砦では予想外の事態が巻き起こっていた。
視察団が留守の間に、闇取引を決行しようと砦を抜け出した暁刃 アキト達を、何も知らない宝砂ホウシャが無邪気に追いかけていったのだ。
その上 それを見かけた鴻夏コウカ暁鴉ギョウアが、宝砂ホウシャを連れ戻そうと慌ててその後を追いかけ、そのまま芋づる式に砦の外へと出てしまった。
そして更に間の悪い事に、暁刃 アキト達と取引するため、砦の近くまで来ていた闇商人らが、あろうことか鴻夏コウカに目をつけてしまったのだ。
鴻夏コウカ類稀 たぐいまれな美しさに惹れた闇商人らは、相手の素性も知らずに、すぐに鴻夏コウカを捕らえて連れ去る事を決断した。
そして鴻夏コウカ達が宝砂ホウシャに追い付く頃には、すっかり周りを取り囲まれてしまったのである。
  もちろん鴻夏コウカには優秀な『影』である暁鴉ギョウアが付いているが、いくら暁鴉ギョウアが優秀でも、鴻夏コウカ宝砂ホウシャの二人をかばいながら、二十人以上もの敵を一人で相手するのはさすがに分が悪い。
一応砦を出る前に、密かにレン嘉魄カハクに向けて知らせは飛ばしていたが、今すぐ駆けつけてくれるほど近くに居るとも思わなかった。
『…とにかく時間稼ぎをするしかないね』
そう決断すると、暁鴉ギョウア鴻夏コウカにだけ聞こえる声でこう囁く。
鴻夏コウカ様…。さすがに人数が多いから、この場は一旦逃げるよ?煙幕 えんまくを張ったら、突破するからちゃんと付いてきておくれ」
「…わかったわ」

短くそう答えると、鴻夏コウカは腕にしっかりと宝砂ホウシャを抱え直し、そして彼女を安心させるかのようにこう囁く。
「…宝砂ホウシャ、今からあのおじさん達と隠れんぼをするからね。だからビックリしても、絶対に声を出しちゃダメよ?」
「うん?わかったわ」
無邪気にそう答えると、宝砂ホウシャはその小さな手でしっかりと自らの口を押さえた。
それを見て、鴻夏コウカが優しく微笑みかける。
「良い子ね、宝砂ホウシャ。そのまま私に捕まっているのよ?…暁鴉ギョウア、いつでもいいわよ」
そう鴻夏コウカが答えると、それを聞いて暁鴉ギョウアが短くこう答える。
「…行くよ」
その呟きと共に、暁鴉ギョウアが目の前の地面に向かい、隠し持っていた黒い球を叩き付ける。その途端ドンッという鈍い衝撃と共に、辺り一面が白い煙で覆われた。
「行くよ!」
グイッと肩を引かれ、鴻夏コウカ暁鴉ギョウアに促がされるまま、その場から走り出す。腕の中には鴻夏コウカの言いつけを守って、口を押さえたまま耐える小さな宝砂ホウシャが縋っていた。その小さな体をしっかりと抱き締めながら、鴻夏コウカは強い決意で目の前を見据える。
『絶対にこの子を守らなければ…!』 

その鴻夏コウカの決意を叶えようと、暁鴉ギョウアが動揺する敵の一人を容赦なく始末する。それによってポッカリと開いた敵の包囲網を擦り抜け、鴻夏コウカ宝砂ホウシャ暁鴉ギョウアの三人は、そのまま一気に場を抜け出した。ところがすぐにその事に気付いた敵が、大きな声でこう叫ぶ。
「おい、抜けられたぞ!女達が逃げる!」
「囲め、囲め!」
「東だ、東側を塞げ!砦に戻らせるな!」
煙の中から男達のそんな怒号が聞こえ、暁鴉ギョウアが鋭く舌打ちをする。
「…仕方ないね、他へ逃げるよ」
「え、ええ…」
どんどん戻るべき砦から離され、鴻夏コウカも不安がないわけではなかったが、それでも大人しく捕まるわけにはいかない。暁鴉ギョウアの指示に従い走りながら、鴻夏コウカは心の中で必死でレンに助けを求めていた。
『…怖い!助けて、レンレン…っ!』
言い様のない不安に押し潰されそうになりながら、それでも鴻夏コウカは必死に走り続ける。腕の中の小さな命を守る事、それだけが鴻夏コウカの気持ちをこの場に繋ぎ止めていた。
  そしてそんな鴻夏コウカを庇いながら、暁鴉ギョウアは次々と目の前に現れる敵を切り捨てていく。
普段であれば、手加減して動けない程度の怪我で留めるところだが、さすがの暁鴉ギョウアも今はそんな情けをかけている余裕はない。
殺れる時に確実に倒し、着実に敵の数を減らさなければ、逃げ続ける事も危うかった。

『早く、相手を引き離さなければ…』
そうは思うが、腕に宝砂ホウシャを抱えドレスで走る鴻夏コウカに、これ以上の速度は望めない。
この場に馬でもいれば別だが、お互い徒歩のこの状況では、明らかに男達の追跡を振り切る事は難しかった。
『…さすがに厳しいか…』
そう判断すると、暁鴉ギョウアはあっさり隠れる事を放棄し、相手の戦力を削ぐ方に専念する。
こうなっては少しでも長く時間を稼ぎ、応援が駆けつけてくれるのを待つしかない。
だがいかに暁鴉ギョウアが優れた『影』であっても、体力的にはどうしても男性に劣る。
だから本来ならばこのような持久戦は避けるべきであったが、今はもう他に方法がない。
自分一人でどこまで粘れるかを計りながら、暁鴉ギョウアはひたすら護りに徹した。
『…早く、来てくれよ。 あるじ嘉魄カハク!』
今どこに居るかのかももわからない二人相手に、暁鴉ギョウアは心の中でそう呼びかける。
そして暁鴉ギョウアが何人目かの敵を切り捨て、再度剣を構え直した時、ふいにその場に予想もしていなかった若い男の声が響いた。
「おい…っ?どういう事だ!なんでお前達が砦の者達を襲ってる⁉︎」
そう驚きの声を上げたのは、取引現場に現れない闇商人らを探しに来た暁刃 アキト達だった。

彼等は鴻夏コウカ達を見とめると、慌ててその場に駆け寄ってきた。そしてその姿を見て、闇商人らは舌打ち混じりに不快な顔を見せる。
だが暁刃 アキト達はそのまま闇商人らと鴻夏コウカ達の間に割って入ると、強気な口調でこう返した。
「説明しろ!なぜお前達が砦の者達を襲ってる?砦の者には、絶対に手を出さないという約束だったろう⁉︎」
「…そうは言ってもねぇ…。どう見ても見慣れないお嬢さん達だったんで、てっきり通りすがりの旅人かと…」
そう言って闇商人らは誤魔化そうとしたが、そんな言い訳が通じるはずもない。
すぐさま暁刃 アキトが、容赦なく正論を唱えた。
「この辺りに居るという事は、例え見慣れない者でも間違いなく砦の関係者だ。そのくらいは小さな子供にだってわかる!それに旅人なら旅装くらいはしているだろう。彼女達のどこを見て、旅装しているように見える⁉︎」
チッとどこからか、舌打ちの音が聞こえる。
どこまでも生真面目な若者らが鬱陶うっとうしいとばかりに、闇商人らは無言で顔を見合わせた。
そして彼等は忌々いまいましげに暁刃 アキトらを睨みつけながら、一旦引くような素振りを見せる。
まだ完全に助かったわけではなかったが、それでも闇商人達が怯んだ事で、鴻夏コウカは少しだけ安堵の溜め息をついた。
『とりあえず…助かった…の…?』
そう鴻夏コウカは思ったが、目線の先に居る暁鴉ギョウアはまったく緊張を解いていなかった。
それを見て、鴻夏コウカもまだ安心は出来ないのだと悟り、改めて気を引き締める。

確かにその場に現れた暁刃 アキト達は、自分達を護ろうとしてくれていたが、闇商人らが素直に言う事を聞いてくれるとは限らない。そう思っていたら突然その場に、聞き慣れない中年の男の声が響き渡った。
「何をしておる⁉︎早う女達を捕らえぬか!」
「…で…殿下、しかし…」
困ったようにそう呟いた闇商人らの一人が、容赦なく むちで打ち据えられる。突然の出来事に鴻夏コウカ達が唖然としていると、その中年の男はそれが当然だと言わんばかりに、輿 こしの上で踏ん反り返ってこう叫んだ。
「我に口答えをするでない!我の要望を叶える事こそが、其方達の役割であろう!」
そうヒステリックに叫ぶ男は、浅黒い肌に短く刈りそろえられた黒髪、まるで饅頭 まんじゅうのように丸い顔に線のように細い目とずんぐりした鼻、分厚い口唇が特徴的な四十代後半と思しき恰幅の良い男だった。
頭に巻いた白い布には、大人の親指の先ほどもある大きな紅玉 ルビーと白い大きな羽根が飾られており、ふくふくとした両手の指には、全て大きな宝石の はまった指輪が輝いている。また太い首には、これまた三連にもなる豪奢 ごうしゃな金の首飾りがかけられており、これがまた無駄にキラキラと輝いていた。
そして全身をやたらと飾り立てているその男は、分厚い脂肪に覆われた身体を大きく揺すりながら、高飛車 たかびしゃな態度でこう のたまう。
「早う捕らえよ。真の皇帝たる我を、無駄に待たせるでない」
「…皇帝⁉︎」
思わず暁刃 アキト達の口から、異口同音 いくどうおんに同じ単語が溢れ落ちる。

一瞬、この男の頭がおかしいのかと思った。
この男は一体何を言っているのだろう?
この辺りで皇帝と言えば、風嘉フウカ帝たる緫 璉瀏ソウ レンリュウ月鷲ゲッシュウ帝である濤 鴎悧 トウ オウリかのどちらかである。
どちらも軍・官僚・国民すべての圧倒的な支持を得て、皇位に就いた四大皇国の中でも、一、二位を争うほど有名な武帝であった。
その各国から一目置かれる二人の皇帝を差し置いて、自らを『真の皇帝』と称するこの男は一体何者だというのだ?と全員が心の中で首を傾げたところで、ふいにその場に別の男の声が響いた。
「…お前達。女達に限らず全員を捕らえよ!この者達に殿下のご身分を知られた。このまま返すわけにはいかん」
そう言って前に進み出て来た男の顔を見て、今度は暁刃 アキト達が声もなくその場で凍り付く。
そして暁鴉ギョウアも予想を遥かに超える事態の深刻さに、思わず強く奥歯を噛み締めた。
その中でただ一人、あまり事態が飲み込めていない鴻夏コウカの耳に、腕の中の宝砂ホウシャの無邪気な声が響いてくる。
「あ、光嚴コウゲン様だぁ」
「…お…伯父上…?」
光嚴コウゲン殿⁉︎」
次々と周りから上がる不審の声に、さすがの鴻夏コウカもぼんやりと事態を把握する。そしてそれを確認するように、鴻夏コウカ暁鴉ギョウアに対しそっとこう囁いた。

暁鴉ギョウア…あの方は…」
「…うん、砦の金庫番を務めている光嚴コウゲン殿。夜刃ヤト将軍の実兄にして、そこにいる暁刃 アキト殿の伯父上さ」
夜刃ヤト将軍の…⁉︎」
そう言ってもう一度、馬上の男を振り仰いだ鴻夏コウカは、最悪の事態を想像して青ざめた。
月鷲ゲッシュウ側の闇商人らと砦の金庫番、そして自らを『真の皇帝』と称する身分の高そうな男。
明らかに最悪としか思えない組み合わせに、考えたくない嫌な予想が頭を過ぎる。
『反乱…?でも一体どちらの国の…⁉︎』
そう鴻夏コウカが思ったところで、暁刃 アキトが叫んだ。
「伯父上!これは一体どういう事です⁉︎なぜ貴方がこんな連中と一緒に居るんだ⁉︎まさか今までの取引は…っ!砦の皆のためだという事すら、すべて嘘だったのかっ⁉︎」
信じたくないとばかりに、絞り出すように叫ぶ暁刃 アキトに、光嚴コウゲンは冷ややかな視線を向ける。
そしてニタリと笑うと、愚かな若者達を あざけるようにこう語った。
「…暁刃 アキトよ、愚かな我が甥よ。これも砦を守るためなのだ。ここは風嘉フウカの領土の中でも、一際貧しい場所。あの『白龍』が作った壁のせいで、我らの大事な草原は分断され、壁のこちら側にはわずかな土地しかない。だが砦が月鷲ゲッシュウの物となれば、我らはもっと広い草原を手に入れられる。そうなれば砦の暮らしも、もっと豊かになるのだぞ?」

そう うそぶ光嚴コウゲンに、怒り悲しむような暁刃 アキトの声が飛ぶ。
「馬鹿な…っ!砦を月鷲ゲッシュウに売ったのか⁉︎」
「…売ったとは人聞きの悪い…。より良い環境を選んだまでの事…」
悪びれもせずそう答える光嚴コウゲンに、思わず暁刃 アキトが掴みかかろうとする。だがすぐさま間に邪魔が入り、暁刃 アキトはその場で歯噛みをした。
まさか信じていた相手に騙され、敵国の手先にされていたとは…情けないにも程がある。
そして暁刃 アキトはひどく疲れた様子で深い溜め息をつくと、チラリと後方に控える鴻夏コウカへと目をやり、ポツリとこう呟いた。
「…申し訳ありません、お妃様」
暁刃 アキト殿…?」
「伯父に騙され、どうやら知らぬ間に敵である月鷲ゲッシュウの片棒を担がされていたようだ…。だが事情はどうあれ、俺達の事は自業自得。どうなっても仕方ないが貴女がたは違う」
そう言うと暁刃 アキトはそこで言葉を区切り、腰につけていた剣をスラリと抜剣する。
それに習って他の仲間も抜剣するのを感じながら、暁刃 アキトは続けてこう語った。
「必ず貴女の御身 おんみをお護りする!今回の事はすべて俺達が一存でした事。だからどうか…砦の者達を とがめる事はしないで欲しい…」
そう言うと、暁刃 アキトは無言で剣を構え直した。

今となっては璉瀏レンリュウ帝の妃である、鴻夏コウカの身を護る事でしか、国への忠誠心を示せない。
明らかに不利な状況下ではあるが、それでも何とかして鴻夏コウカを護ろうとする彼等の耳に、静かに光嚴コウゲン揶揄 やゆする声が響く。
「愚かな…暁刃 アキト。この段階になっても、まだ風嘉フウカ こだわるか」
「伯父上、俺は貴方とは違う。俺が護りたかったのは砦であり、ひいては風嘉フウカだ。決して月鷲ゲッシュウに寝返る事ではない!」
はっきりそう言い切ると、暁刃 アキトはキッと光嚴コウゲンを見据えた。おそらく彼は伯父と刺し違える覚悟なのだろうが、まだ年若い彼等をこんな所で無駄死にをさせるわけにはいかない。そう思った鴻夏コウカは一瞬即発の空気の中、風嘉フウカの皇后として一つの決意をする。そしてその覚悟の下に、鴻夏コウカは自らの『影』である暁鴉ギョウアに小声で話しかけた。
暁鴉ギョウア…。降伏しましょう」
「…鴻夏コウカ様⁉︎」
「皆の命を危険に さらすわけにはいかないわ。私は全員、無事に生きて帰りたいの。だから今は敢えて捕まりましょう」
淡々と告げる鴻夏コウカに、暁鴉ギョウア愕然 がくぜんとする。
相手が明らかに鴻夏コウカ狙いだとわかっているのに、そんな奴等に捕まろうものなら、鴻夏コウカがどんな目にあうかわからない。特にあの『殿下』と呼ばれている小太りの男などは、先程から下心丸出しで鴻夏コウカに舐めるような視線を送ってきている。
捕らえられたが最後、すぐにでも鴻夏コウカに手を出して来るのは間違いなかった。

「…ダメだよ、鴻夏コウカ様!そんな事をしたら、あんたの身に危険が及ぶ…!」
「覚悟の上よ。ここで抵抗したら確実に誰かが怪我をするわ。 下手をしたら命を落としてしまうかもしれない…。それだけはダメよ。ここに居るのは皆大事な風嘉フウカの民、レンが日々命がけで護っている大切な人達なの。私は名ばかりの皇后だけれども、それでも私も風嘉フウカの人々を護りたい。レンが大切にしているものを、私も一緒に護りたいの」
そう告げると、鴻夏コウカは強い意志を感じさせる瞳で暁鴉ギョウアを見つめた。美しい金の瞳がキラキラと輝き、強く華やかで美しい、まるで朱金 しゅきん ほのおのようなオーラが鴻夏コウカから立ち昇っているように見える。
それを眩しそうに見つめながら、暁鴉ギョウアは心の中でこう呟いた。
『あぁ…あんたはやっぱり あるじが選んだ人だ。まるで ほのおのように強く気高く美しく、そして誰よりも優しい…』
そう思いながら、暁鴉ギョウアは軽く目を伏せる。そしてすぐに意を決したように、静かに鴻夏コウカを見つめると、はっきりとこう答えた。
「…わかったよ。ただし少しでも、あんたに危険が及ぶと判断したら、あたしはすぐさま反撃に転じるからね?」
「…!ありがとう、暁鴉ギョウア
ニコッと嬉しそうに微笑むと、鴻夏コウカはすぐにその笑顔をおさめ、スッと一歩前へと出た。その気配を感じて暁刃 アキト達が焦る。

「お妃様…⁉︎」
「お下がり下さい、暁刃 アキト殿」
「え⁉︎」
「今ここで抵抗すれば、皆の身に危険が及びます。私は風嘉フウカの皇后として、貴方がたの身の安全を護る義務があります」
はっきりそう告げると、鴻夏コウカはその場に居る誰よりも毅然 きぜんとした態度でこう命じた。
「投降しましょう。剣をおさめてください」
「し…しかし、それでは貴女の御身 おんみに危険が…っ!それにそんな事になれば、我々は二度と『白龍』に合わせる顔がありません!」
蒼白な顔で訴える暁刃 アキトに、鴻夏コウカが静かな声でこう さとす。
「私なら大丈夫です。陛下が日々お護りなっているこの国と民は、陛下の妃である私も護るべきもの…。貴方がたは私が護ります」
「お妃様…」
力強くそう宣言すると、鴻夏コウカは静かに暁刃 アキトを見据え
た。暁刃 アキト達とそう変わらない年齢であるはずなのに、鴻夏コウカの姿勢はすでに人の上に立つ者としてのそれである。思わず圧倒され固まる暁刃 アキトを尻目に、鴻夏コウカの脳裏には結婚前にレンに言われた言葉が よみがえっていた。
風嘉フウカの皇后になるという事は、ここに居るすべての民の幸せを護る責任を負うという事です。逆にそれが出来ない者に、人の上に立つ資格はございません』

自らが風嘉フウカ帝である事を伏せたまま、レンは静かに鴻夏コウカにそう説いた。今にして思えば、あの時 鴻夏コウカ風嘉フウカの民を護ろうとする気持ちがないようなら、レン鴻夏コウカとは結婚しないつもりだったのだと思う。しかしそれに対し、鴻夏コウカはこう答えたのだ。
『私にどこまでの事が出来るのかはわかりません。でももしそれでも風嘉フウカ帝が私との結婚を望んでいただけるのなら、私はこの国の為に一生を捧げようと思います』と。
だからこそレンは、鴻夏コウカを自らの妃として迎える事を決めたのだ。そして今、鴻夏コウカは自らが選んだ道を着実に守ろうとしている。その揺るぎない決意が、朱金の焔のようなオーラとなって、鴻夏コウカを輝かせていた。
  一般的に皇帝を『龍』で表すように、皇后は『鳳凰 ほうおう』で表される事が多い。そして今の鴻夏コウカの姿はまさに、地上に降り立った鳳凰 ほうおうの如く、華麗で凛としていた。
その魂をも揺さぶるような美しい姿に、暁鴉ギョウア暁刃 アキト達も声も無く見惚れてしまう。
つい鴻夏コウカに仕えられている事が誇らしく、その場に跪きたくなるような衝動に駆られた。
そしてその心のままに、暁刃 アキト達は自然と鴻夏コウカに対して跪き、深くその頭を下げる。その後 彼等を代表して、暁刃 アキトの口から一つの言葉が溢れ落ちた。
「お妃様…。まさに鳳凰 ほうおうのように強く華麗な我らが皇后よ。御身 おんみに仕えられる事は至上の喜び。我らは貴女様の指示に従いましょう」

その言葉通りに、暁刃 アキト達は自ら剣をおさめると、鴻夏コウカに対し再び深く頭を垂れた。
この強く美しい人の命令に従う事こそが、正しい事なのだと思っているようだった。
しかしそれを見て、月鷲ゲッシュウ独特の金の瞳を持つ小太りの男は、両手の全ての指にめた指輪をギラつかせながら激昂 げっこうする。
「…おのれ、下賤 げせんの者めが!我こそが『真の皇帝』であるのに、何故我ではなくその娘に頭を下げる⁉︎我を あがめよ!」
「…殿下。まずは奴等を捕らえて、早くここから移動すべきかと。ここは砦からあまり離れておりませぬ。このままでは、いつ砦の駐屯兵 ちゅうとんへいに気付かれるかもわかりませぬぞ」
そう光嚴コウゲンが厳しい表情で進言 しんげんすると、小太りの男はチッと鋭く舌打ちをしたものの、面倒臭そうに手を振った。するとそれを合図にバラバラと、闇商人らが鴻夏コウカ達を取り囲み、次々と武器を取り上げ縛り上げる。しかしさすがに鴻夏コウカ宝砂ホウシャだけは、縛るのが躊躇 ためらわれたのか、鴻夏コウカはそのまま宝砂ホウシャを抱いたまま付いてくるよううながされた。
こうして鴻夏コウカ達は無傷のまま、闇商人兼盗賊達と『殿下』と呼ばれる月鷲ゲッシュウ要人 ようじん、そして砦の裏切り者の光嚴コウゲンに捕らわれたのである。


しかしその場に居た誰もが気付かなかったが、その様子を離れた場所から うかがっている者達が居た。
彼等は闇商人らに気付かれないよう細心 さいしんの注意を払いながら、この後どこに移動するのかを密かに見届けようとしている。そしてその中の一人が、ひどく面倒臭そうにこう呟いた。
「あ~あ、やっちゃったねぇ。寄りに寄って、鴻夏コウカ様に手を出すなんて命知らずな…。こりゃあレンが怒り狂うね」
そうボヤいたのは、亜麻色 あまいろの短い髪に青い瞳の小太りの男。呑気な口調とは裏腹に、その瞳は蛇のように冷淡で、闇商人らを隙なく見張りながら事の成り行きを見守っている。
言うまでもなくそれは、現 風嘉フウカ帝 緫 璉瀏ソウ レンリュウの側近である邰 樓爛タイ ロウランであった。そんな彼に向かって、部下の一人がオロオロと声をかける。
「あ…あの、樓爛 ロウラン様…」
「ん~、何?」
「その…よろしいので…?このままだとお妃様が奴等に連れ去られてしまいますが…」
そう恐る恐る進言 しんげんすると、樓爛 ロウランはそれすらも面倒臭いとばかりにこう答える。
「だぁって仕方ないじゃない?助けようにも結構な距離あるから間に合わないし、それに私がレンから受けた命令は、闇取引ルートの解明と殲滅 せんめつだからさ?奴等を泳がせて、本拠地まで案内してもらわないと困るんだよねぇ」
「…!そ、それではお妃様達を おとりに…っ⁉︎」

何でもない事のように答える樓爛 ロウランに、思わず部下が驚くと、その言い方にカチンときたのか、少し不機嫌そうな顔で樓爛 ロウランが答える。
「…あのねぇ、人聞きの悪い事言わないでくれる?あいつらが勝手に、鴻夏コウカ様にまで手を出したの。私はたまたまそれを遠くから見掛けただけ…違う?」
ニヤリと人の悪い笑みを見せながら、樓爛 ロウランが得意げにそう語る。もちろん今の事態は樓爛 ロウランが狙って作ったものではないが、すでに起こってしまっているものは仕方ない。あとはいかにこの事態を利用し、そこから最大限の効果を引き出すかである。
その為には例え主君の身内であろうと利用するのが、この邰 樓爛タイ ロウランという男であった。
しかし樓爛 ロウランはふいに考え込むと、誰に言うでもなくポツリとこう ひとりごちる。
「まぁ…でも一応 レンには報告しておくかな?でないと後が怖いからねぇ」
そう言うと樓爛 ロウランは手早く報告の手紙を書き、後ろに控える黒髪の男へと話しかける。
燈牙トウガくん。悪いんだけどさ、ちょっとこの事態を報告しに、レンのところまで行ってきてくれるかなぁ?」
ピラピラと報告の手紙を振りながらそう頼むと、長めの前髪で顔半分を隠した男は、鬱蒼 うっそうとした視線を樓爛 ロウランに送りながらこう告げる。
「…承知」
そう短く答えると、燈牙トウガと呼ばれた男は樓爛 ロウランの手から手紙を引ったくると、一瞬でその場から姿を消した。驚いて先ほど文句を口にした部下が、慌てて周囲を確認するが、燈牙トウガの姿はすでにどこにも見当たらない。

「ろ…樓爛 ロウラン様、先ほどの彼はどこに…⁉︎」
「あぁ、君は会うの初めて?彼はねぇ、私の『影』なの。ちょっと愛想悪いのが玉に傷なんだけど、仕事は出来る子だから心配は要らないよ」
和やかにそう答えると、樓爛 ロウランはすぐその表情を改め、無言でジッと前を見据えた。その視線の先には闇商人らに引っ立てられ、どこかに連れ去られようとしている鴻夏コウカ達の姿がある。
「…さぁて、奴等の巣はどこかな?ちゃんと案内してもらわないと、困るんだよねぇ」
冷たくそう言い放つ樓爛 ロウランは、普段のふざけた雰囲気など微塵も感じさせないほど、冷酷な表情を浮かべていた。そしてその表情を見た途端、彼の部下達は声もなく凍り付く。
その和やかな口調と表情に騙されがちだが、元々 樓爛 ロウランは西方領の海を拠点として活動する海上商人の一人であった。そしてその当時の海上商人らは、時と場合によっては海賊行為も辞さないような荒っぽい連中の集まりで、その中でも樓爛 ロウランは西方一の権勢を誇る武装商人だったのである。
彼の渾名 あだなである『白鯨 はくげい』はその当時に付けられたもので、 ちまたでは彼に睨まれたが最後、塵一つ手に入らないと言われていた。そしてそんな男が実に楽しげに、獲物を見つけた蛇のような目でこう語る。

「フフッ…。盗賊 まがいの闇商人と海賊 まがいの武装商人、果たしてより強いのはどちらかな…?」
そう言って自らを揶揄 やゆするように呟いた樓爛 ロウランの耳に、やけに自信有り気な答えが響く。
「そりゃあ、うちらが上に決まってますぜ、お頭。あんたが居て負けるはずはない」
そう言いながら現れたのは、樓爛 ロウランが武装商人の頃から仕えている西方領の部下達だった。
今でこそ西方領を治める樓爛 ロウランの側近として、彼等も風嘉フウカの西方軍に属しているが、元々は商人兼海賊であった男達である。
日に焼け、あちこちに古傷が目立つ強面の男達は、目の前に居る闇商人らよりよっぽど悪役が似合う容姿だった。そしてそのあまりの迫力にビビりまくる周囲を他所よそに、樓爛 ロウランは深い溜め息をつきながら文句を垂れる。
「…あのねぇ、いい加減そのお頭って呼び方をやめてくれない?そう呼ばれると、まるで私の方が悪役みたいじゃない」
「似たようなもんだろ?あんたが普通だなんて、ここに居る誰も思っちゃいないぜ?」
ニヤニヤしながらそう返してくる部下達に、樓爛 ロウランは文句を言いたげな視線を投げる。
けれどそれ以上は口に出しては言わず、樓爛 ロウランは彼等に向かって別の内容を指示した。
「そんな事より、奴等に鴻夏コウカ様を人質に取られた。万が一にでも御身 おんみに傷が付く事がないよう、お前達も心して当たってくれよ?」
「おう、任してくれ!」
そう口々に答える部下達を尻目に、樓爛 ロウランは再び遥か前方を見据える。
「さぁ…楽しい狩りの始まりだ。久し振りに血が騒ぐねぇ」
そう呟いた樓爛 ロウランの目に映るのは、闇商人兼盗賊の集団と月鷲ゲッシュウの要人と思われる小太りの男、そして裏切り者の砦の金庫番 光嚴コウゲン
この日 風嘉フウカの南方領の草原で、西方領の海の支配者たる『白鯨 はくげい』が、久し振りにその真の姿を現そうとしていた。




  陽が大きく傾き始めた頃、闇商人らに捕らわれた鴻夏コウカ達は、遥か昔に廃村になったと思われる小さな村まで連れて来られていた。彼等に捕らえられてから、徒歩で三十分ほども歩かされただろうか?
思ったより砦からそう遠くは離れていない場所で、彼等は待たせていた仲間達と合流し、その数はすでに百人を超えていた。
一体いつからこの場所を根城 ねじろにしているのか、他にもこういった場所があるのはわからないが、これだけの人数が何の問題もなく駐屯 ちゅうとん出来ているとなると、どうやら昨日今日の話ではないらしい。
またここだけでも、かなりの人数が月鷲ゲッシュウ側から風嘉フウカへと流れてきているらしく、そういった状況がわかってくるにつれ、自然と鴻夏コウカ達の表情は暗くなっていった。
「…思ったより数が多いね…」
眉を しかめつつ、暁鴉ギョウアが厳しい表情でそう呟く。
鴻夏コウカの命令で敵と殺り合う前に投降した為、怪我人は出なかったが、数的に更に不利になったのは否めなかった。やはり敵わないまでも最後まで抵抗すべきだっただろうかと後悔したが、鴻夏コウカは静かに首を振ってこう答える。
「皆に怪我がないのが一番よ。砦の方でも私達が居ない事に気付いて、探してくれているはず…。とにかく助けが来るまで、時間を稼ぎましょう」
そう鴻夏コウカなぐさめたが、すでに暁刃 アキト達の不安は大きく膨らんでいたらしい。すぐに控えめながらも、觜絡シラクがこう反論してくる。

「しかし鴻夏コウカ様…。砦の者が助けに来たとしても、焼け石に水ではありませんか?まさか砦の者達もこんな大人数の敵が駐屯 ちゅうとんしているなんて、思ってもいないでしょう…?」
皆を代表するかのように觜絡シラクがそう告げると、途端に場の空気が鉛のように重くなる。
しかし鴻夏コウカは敢えて自信有り気に微笑むと、きっぱりとこう言い切った。
「…大丈夫よ。今この南方領には無敗の武帝である『白龍』が居るわ。レンがきっと助けに来てくれる…。それまで皆で頑張るのよ」
そう鴻夏コウカが告げると、暁鴉ギョウアもその言葉を後押しするかのように力強くこう語る。
「そうさ、ここはうちの あるじの本拠地。『風嘉フウカの白龍』が支配する草原だよ?大丈夫、うちの あるじは決して仲間を見捨てない。すぐに助けが来るさ」
そう言ってはみたものの、暁刃 アキト達の不安はまったく解消されなかったようだ。
すぐに疑わしげな視線を向けながら、暁刃 アキト鴻夏コウカに気を使いつつもはっきりとこう返す。
「…お妃様には申し訳ないが、俺はあまり『白龍』の事を信用していない。数多 あまた武勲 ぶくんにしても、たまたま運が良かっただけではないかと思ってる。だから今この状況で、彼に過剰に期待するのは無しでお願いしたい」
そう暁刃 アキトが告げると、同じ気持ちだとばかりに他の若者達も大きく頷く。
それを見て、鴻夏コウカは深い溜め息をついた。

確かにレンの事をよく知らない暁刃 アキト達にしてみれば、普段優しく穏やかな雰囲気を まとう彼に、疑問を持つのは無理からぬ事であった。
実際に鴻夏コウカ自身も、初めて出会った時は彼が璉瀏レンリュウ帝本人だと気付かなかったほどである。
まさか まとう雰囲気一つで、ああも豹変出来るものなのかと驚いたものだが、今はそれが裏目となって、レンの実力はまるで信憑性がなくなっている。
おそらくその目で見るまで、暁刃 アキト達は決してレンの実力を信用しないだろう。そうなると大人しく彼等をここに留め置き、ひたすら救出されるのを待つというのは、意外と困難な事かもしれないと鴻夏コウカは思った。
『…多分大人しく助けを待つのが、最善の策なんだろうけれど…きっと彼等は納得しないんでしょうね…』
自嘲気味 じちょうぎみにそう思った時、ふいに鉄格子 てつごうしの外から声が掛かった。
「おい、そこの女達!出ろ、殿下がお前達をお呼びだ」
ハッと視線を向けると、明らかに鴻夏コウカ達を見ながら門番と思しき男が手招きをしている。
その途端、牢の中に緊張の波が走った。
そしてすぐさま抵抗しようとする暁刃 アキト達を抑え、暁鴉ギョウアが白々しくこう聞き返す。
「…女って、あたしらだけ?それともこの子もかい?」
「いや、子供はいい。お前とそこの黒髪の女だけ付いて来い」
ぶっきらぼうにそう返すと、門番の男は少し苛立ったように再度手招きをした。

思わず顔を見合わせ、鴻夏コウカは目線で暁鴉ギョウアに指示を仰ぐ。すると暁鴉ギョウアが無言で頷いたので、鴻夏コウカは意を決して立ち上がった。
「お妃様…いけませんっ!」
慌てて暁刃 アキトが止めようとするが、鴻夏コウカは意志の強い目でそれを制する。そして暁刃 アキトを安心させるかのように微笑むとこう答えた。
「大丈夫です。一人ではありませんし、どのみち交渉は避けられませんもの。…私が貴方がたを護ります。貴方がたはここで待っていてください」
「お妃様…っ、しかし…!」
慌てて止めようとした暁刃 アキト達を目線で制し、鴻夏コウカは力強く命令する。
「無駄死には許しません。私達は全員生きて帰るのです。そのためにも貴方がたは、大人しくここで待っていなさい」
「お…お妃様…」
もはやそれに答えようともせず、鴻夏コウカは真っ直ぐ前を見据えた。そして暁鴉ギョウアのみを伴い、唯一の出入り口である鉄格子 てつごうしの前に立つ。
ギギィ…と鉄が軋む音がして、鉄格子 てつごうしの扉がゆっくりと開いた。
「…早く出ろ。殿下がお待ちだ」
再度男に促され、鴻夏コウカは静かに扉をくぐる。続いて暁鴉ギョウアも無言でくぐり抜け、二人が大人しく牢の外に出ると、再び扉がガシャンと大きな音を立てて閉じられた。
そして扉の外では、すでに抜剣した十名ほどの男達が、扉を取り囲むように待機していて、すぐさま鴻夏コウカ達に切っ先を向けてくる。

「付いて来い」
短く男達にそう命令され、鴻夏コウカ暁鴉ギョウアと共に歩き出した。その背中に向かって、暁刃 アキト達の悲痛な叫びが牢に木霊 こだまする。
「お…お妃様…!」
ガシャンと背後で、鉄格子 てつごうしに何かがぶつかる音が響く。おそらく暁刃 アキト達が、鉄格子 てつごうしに取りすがっているのだろうと思ったが、敢えて鴻夏コウカは振り向かずにそのまま歩き続けた。
「お妃様…っ、お妃様…ぁ!」
哀しげな声に背を向けながら、鴻夏コウカは僅かに震える手を強く握り締める。
それを見て、そっと暁鴉ギョウアが声を掛けてきた。
「…大丈夫だよ、鴻夏コウカ様。あんたは必ずあたしが護る」
「ええ、暁鴉ギョウア…でも約束して?無茶は絶対にしないで。貴女も私と共に無事に帰るのよ」
後ろに立つ暁鴉ギョウアに視線をやりながら、鴻夏コウカは静かにそう答えた。まるで自分の命に代えても護ろうと決めていた、暁鴉ギョウアの気持ちを読んだかのような台詞にハッとして鴻夏コウカを見返すと、キラキラとした金の瞳が暁鴉ギョウアを射抜く。
「…わかったわね?貴女が私の『影』になった時点で、貴女の命も私のもの。勝手に捨てるなんて許さないわ」
「…鴻夏コウカ様…」
ゆらりと再び鴻夏コウカの周りに、朱金 しゅきん ほのおのようなオーラが立ち昇った。
まるで伝説の鳳凰 ほうおうが翼を広げたかのような錯覚におちいり、暁鴉ギョウアは思わず鴻夏コウカを見返す。
後の世に『風嘉フウカ紅凰 こうおう』としてその名を残す鴻夏コウカが、今ゆっくりと本来の姿に目覚めようとしていた。
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