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社会人編
横顔
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蓮の母との騒動から数週間が経ち、二人の日常はようやく静けさを取り戻していた。
それでもあの日の緊張は、互いに心の奥に刻まれたままだった。
だからこそ、今ある穏やかな時間がより愛おしく感じられる。
午前のオフィス。
優真は慣れないながらも、懸命にキーボードを叩いていた。以前は確認に時間がかかっていた入力作業も、今ではずいぶんと速く正確になっている。
上司に呼ばれて小さく身を縮めながらも資料を手渡すと、予想外の言葉が返ってきた。
「元木くん、この前まとめてくれた企画書、すごくわかりやすかったよ。
あれのおかげでチェックもすぐ通った」
「えっ……!ほ、本当ですか」
「うん。だから次は少し大きな案件を任せたい。
もし次の海外案件が決まったら、モデルの同行もお願いしようかと思ってる」
優真は目を丸くし、しどろもどろに言葉を探した。
「そ、そんな……おれで大丈夫なんでしょうか……」
「君だから頼みたいんだよ」
上司は軽く肩を叩き、笑顔を見せた。
自席に戻ると同僚から「最近頼もしくなったよね」とひそひそ声が聞こえ、耳まで熱くなる。
優真は照れくささと同時に、ほんの少し誇らしさを感じたのだった。
――
その頃、蓮はスタジオにいた。
ライトを浴び、カメラのシャッター音に合わせて表情を変える。ほんの一瞬の眼差しの強さに、カメラマンが息を呑む。
「蓮、今のすごくいい……最近、表情に深みが出たな」
スタイリストが冗談めかして言った。
「プライベート、充実してるんじゃない?」
蓮は苦笑しつつ視線を逸らし、小さく答えた。
「まぁ……そんなところです、」
――
その日の夜
撮影帰りの蓮と、仕事を終えた優真が合流した。
夜風に肩を並べて歩きながら、優真はそっと切り出す。
「今日、上司に褒められたんです。
もし次の海外案件が決まったら、モデルの同行を任せてもらえるかもって」
「へぇ、すごいじゃん」
蓮は短く言ったが、その横顔には愛おしさが滲む。
「でも……俺で大丈夫なのかなって」
「はは、大丈夫でしょ」
蓮はさらりとした口調で言い切った。
「それは優真の頑張りが認められたってことなんだから。その案件、俺に来ないかな~」
「……ありがとうございます、」
(蓮さんと、また海外いきたい、)
顔を真っ赤にして俯く優真。
その横顔を見て、蓮は小さく笑みを浮かべた。
――
数日後
休日の昼下がり、仕事もなく久しぶりに予定が合った2人は街へと出かけていた。
「平日より人多いですね……」
優真が少し落ち着かない様子で周りを見回す。
蓮は手をポケットに突っ込み、涼しい顔で歩いている。
「まぁ、休日だしな~」
けれど、すれ違う人の中には二度見する者も少なくなかった。
声をかけるのにも勇気がいるのだろう、アウレアの広告塔になりつつある蓮の佇まい、その存在感は隠しきれなかった。
優真は眉を寄せ、蓮の袖をちょんと引いた。
「……蓮さん、もう少し変装したほうがいいと思います。帽子とか、サングラスとか……」
「俺、元ただの一般人だし」
そう言いつつも、蓮は優真の真剣な顔を見て観念したようにバッグからサングラスを取り出す。
黒縁のそれをかけた瞬間、周囲の空気が変わった。
(……似合いすぎる……!心臓に悪っ)
優真は思わず立ち止まり、目を見張る。
街の中で誰よりも目立ってしまうはずなのに、サングラスが加わると逆に「近寄りがたいオーラ」が強調されて、モデルとしての洗練が際立つ。
その視線に気づいた蓮が片眉を上げ、得意げに顎をしゃくった。
「そんなに見つめられると、照れちゃうんだけど?」
「ち、ちが……っ!」
慌てて首を振る優真に、蓮はニヤリと笑ってサングラスを外し、今度は優真にかけてやった。
「じゃ、次は優真の番」
「えっ、わっ……!」
フレームが大きすぎて鼻の上からずり落ち、まるで子供が遊び半分で大人のサングラスを借りたような見た目になってしまう。
「……はは、可愛い」
蓮が小さく呟いた声は、確かに優真の耳に届いてしまった。
「もうっ!」
耳まで真っ赤に染まった優真は、慌ててサングラスを外して抱え込んだ。
そのとき、通りがかった若いファンの2人組が声を弾ませた。
「すみません、モデルの蓮さんですよね?!
あの…サインお願いします!」
「ん?はいよー、ペン、ある?」
蓮は慣れた調子で笑みを浮かべ、スラスラとサインをする。
優真は横で緊張しながら待っていた。
「ありがとうございます!」
満足そうにノートを抱えた2人は立ち去りかけて、ふいに振り返る。
「ねぇ、隣のマネージャーさんも可愛かったね」
「ほんとほんと!」
優真は思わず「っ、ま、マネージャーじゃなくて……!」と声を上げたが、ファンはすでに遠ざかっていた。
横で蓮が声を殺して笑っている。
「……もー、笑わないでくださいっ!」
ぷくっと頬を膨らませる優真を、蓮は愛おしそうに眺めた。
それでもあの日の緊張は、互いに心の奥に刻まれたままだった。
だからこそ、今ある穏やかな時間がより愛おしく感じられる。
午前のオフィス。
優真は慣れないながらも、懸命にキーボードを叩いていた。以前は確認に時間がかかっていた入力作業も、今ではずいぶんと速く正確になっている。
上司に呼ばれて小さく身を縮めながらも資料を手渡すと、予想外の言葉が返ってきた。
「元木くん、この前まとめてくれた企画書、すごくわかりやすかったよ。
あれのおかげでチェックもすぐ通った」
「えっ……!ほ、本当ですか」
「うん。だから次は少し大きな案件を任せたい。
もし次の海外案件が決まったら、モデルの同行もお願いしようかと思ってる」
優真は目を丸くし、しどろもどろに言葉を探した。
「そ、そんな……おれで大丈夫なんでしょうか……」
「君だから頼みたいんだよ」
上司は軽く肩を叩き、笑顔を見せた。
自席に戻ると同僚から「最近頼もしくなったよね」とひそひそ声が聞こえ、耳まで熱くなる。
優真は照れくささと同時に、ほんの少し誇らしさを感じたのだった。
――
その頃、蓮はスタジオにいた。
ライトを浴び、カメラのシャッター音に合わせて表情を変える。ほんの一瞬の眼差しの強さに、カメラマンが息を呑む。
「蓮、今のすごくいい……最近、表情に深みが出たな」
スタイリストが冗談めかして言った。
「プライベート、充実してるんじゃない?」
蓮は苦笑しつつ視線を逸らし、小さく答えた。
「まぁ……そんなところです、」
――
その日の夜
撮影帰りの蓮と、仕事を終えた優真が合流した。
夜風に肩を並べて歩きながら、優真はそっと切り出す。
「今日、上司に褒められたんです。
もし次の海外案件が決まったら、モデルの同行を任せてもらえるかもって」
「へぇ、すごいじゃん」
蓮は短く言ったが、その横顔には愛おしさが滲む。
「でも……俺で大丈夫なのかなって」
「はは、大丈夫でしょ」
蓮はさらりとした口調で言い切った。
「それは優真の頑張りが認められたってことなんだから。その案件、俺に来ないかな~」
「……ありがとうございます、」
(蓮さんと、また海外いきたい、)
顔を真っ赤にして俯く優真。
その横顔を見て、蓮は小さく笑みを浮かべた。
――
数日後
休日の昼下がり、仕事もなく久しぶりに予定が合った2人は街へと出かけていた。
「平日より人多いですね……」
優真が少し落ち着かない様子で周りを見回す。
蓮は手をポケットに突っ込み、涼しい顔で歩いている。
「まぁ、休日だしな~」
けれど、すれ違う人の中には二度見する者も少なくなかった。
声をかけるのにも勇気がいるのだろう、アウレアの広告塔になりつつある蓮の佇まい、その存在感は隠しきれなかった。
優真は眉を寄せ、蓮の袖をちょんと引いた。
「……蓮さん、もう少し変装したほうがいいと思います。帽子とか、サングラスとか……」
「俺、元ただの一般人だし」
そう言いつつも、蓮は優真の真剣な顔を見て観念したようにバッグからサングラスを取り出す。
黒縁のそれをかけた瞬間、周囲の空気が変わった。
(……似合いすぎる……!心臓に悪っ)
優真は思わず立ち止まり、目を見張る。
街の中で誰よりも目立ってしまうはずなのに、サングラスが加わると逆に「近寄りがたいオーラ」が強調されて、モデルとしての洗練が際立つ。
その視線に気づいた蓮が片眉を上げ、得意げに顎をしゃくった。
「そんなに見つめられると、照れちゃうんだけど?」
「ち、ちが……っ!」
慌てて首を振る優真に、蓮はニヤリと笑ってサングラスを外し、今度は優真にかけてやった。
「じゃ、次は優真の番」
「えっ、わっ……!」
フレームが大きすぎて鼻の上からずり落ち、まるで子供が遊び半分で大人のサングラスを借りたような見た目になってしまう。
「……はは、可愛い」
蓮が小さく呟いた声は、確かに優真の耳に届いてしまった。
「もうっ!」
耳まで真っ赤に染まった優真は、慌ててサングラスを外して抱え込んだ。
そのとき、通りがかった若いファンの2人組が声を弾ませた。
「すみません、モデルの蓮さんですよね?!
あの…サインお願いします!」
「ん?はいよー、ペン、ある?」
蓮は慣れた調子で笑みを浮かべ、スラスラとサインをする。
優真は横で緊張しながら待っていた。
「ありがとうございます!」
満足そうにノートを抱えた2人は立ち去りかけて、ふいに振り返る。
「ねぇ、隣のマネージャーさんも可愛かったね」
「ほんとほんと!」
優真は思わず「っ、ま、マネージャーじゃなくて……!」と声を上げたが、ファンはすでに遠ざかっていた。
横で蓮が声を殺して笑っている。
「……もー、笑わないでくださいっ!」
ぷくっと頬を膨らませる優真を、蓮は愛おしそうに眺めた。
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