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社会人編
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湯気が立ちこめるバスルーム。
ハロウィンパーティ翌日、二日酔いの優真は、湯船の縁にぐったりと頭を預けていた。
「……はぁ、頭いたいです……」
少し赤い頬を手で覆いながら情けない声を漏らす。
昨夜のパーティでトイレから戻ったあと勢い良く飲んでしまったせいで、朝からずっと身体がだるい。
「だから言ったろ、飲みすぎんなって。
アキにイジられてヤケ酒とか…かわいいなほんと」
蓮は苦笑しながら、桶にお湯を汲んで優真の肩へと回しかけた。
温かさに優真は「ん……だって、」と小さく声を漏らし、少しだけ目を細める。
「立てる?」
「むりです……」
「……仕方ねぇな」
そう言って蓮は優真の背中に手を添え、やさしく支えながら石鹸を泡立てていく。
「俺が全部やるから」
泡のついた掌が、優真の肩から腕へとすべり落ちる。
筋肉がついているわけではない華奢な肩と腕を、丁寧に撫でるように洗う蓮。
優真は目を閉じて、時折小さく喉を鳴らす。
「……ん、そこ、気持ちいです…」
「はは、二日酔いでも素直だな」
からかうように言いながらも、蓮の手は真剣そのもの。
背中、腰、脚へと泡が滑っていくたび、優真は「ふぅ……」と吐息を漏らす。
「顔も洗う?」
「自分でやります…」
「じっとしてて。泡入ったら痛いだろ?」
蓮の大きな指が頬を撫で、額やこめかみを優しく洗う。
目を閉じたままされるがままになりながら、優真は頬を赤くした。
(……なんか、恥ずかしい。前の秋旅行ともちょっと違って…)
「よし、流すぞ」
シャワーのぬるめのお湯が頭から肩へと滑り落ち、泡と一緒に二日酔いの重さも洗い流されていくようだった。
「……ふふ…蓮さん、なんか……おれ、すごい贅沢してる気がします」
「え?俺に洗われるのが?」
「……はい」
「ふはっ…じゃあ、もっと贅沢させてやるかな」
蓮は最後に首筋にキスを落とした。
「っ、もう……急にそういうこと……」
びくりと肩を震わせる優真。
「二日酔い治るんじゃね?」
耳元で笑われ、優真は恥ずかしさにお湯へ顔を沈めた。
――
湯船に二人で並んで浸かると、ぽかぽかと温まった身体が心地よく、優真は蓮の胸に頭を預けた。
「……ん、あったかいです……」
「昨日の猫耳がまだ見えんぞ」
「……ふふっ、にゃあ」
からかうように蓮の胸を小さく爪で押すと、ぐっと腕で抱き寄せられた。
優真は目を閉じ、安心しきった顔で蓮の体温に甘えた。
(……なんか、二日酔いも悪くない、かも……)
――
湯船でしっかり温まったあとの優真は、蓮に髪まで乾かしてもらって、ふにゃふにゃに緩んでいた。
部屋に戻りベッドに転がると、二人並んでスマホを弄る。
「……あ、蓮さん。見てください」
優真が画面を向けると、SNSのタイムラインに昨夜のパーティの写真が流れていた。
蓮やアキ、ハルたちが笑って写っている。
その隣に、黒猫の格好をした優真の姿も小さく映っていた。
《レンレンの隣にいた黒猫ちゃん誰?!》
《マネージャーぽくない?…いやでも、雰囲気違う?》
《黒猫ちゃん、やばいくらい可愛い》
「……っ!」
優真の耳まで一気に赤く染まる。
「く、黒猫ちゃん……って……」
「……はは」
蓮はスマホを軽く振って、同じ投稿を見せてきた。
「俺も見てた。……黒猫ちゃんだってよ、優真」
「や、やめてください……っ」
顔を枕に埋めてじたばたする優真。
蓮はそんな優真の肩を押さえて動きを止めた。
「可愛いもんな。仕方ないよな、にゃあ?」
「な、もうっ…」
否定できずに、視線が泳ぐ。
蓮はにやりと笑い、優真のTシャツをめくった。
露わになったお腹に手のひらを滑らせ、ゆっくりと円を描く。
「っあ……蓮、さん……」
「昨日も思ったけど、お腹、きもちい?」
意地悪な声が耳をくすぐり、優真の背中がびくりと跳ねる。
「そ、それは……っ」
言葉が詰まり、息が熱くなる。
蓮はおへそを舌先でぬるりと舐め上げた。
「んっ……あっ……!」
全身が痺れるような感覚に、優真は膝を立てて身を捩る。
「へそピアス、やっぱあけたい?」
低く囁かれ、優真の心臓が跳ねる。
「っ……そ、それは……酔って……言っただけで……」
「……酔ってても、本音じゃなきゃ言わないよね?
優真はピアスあけてでも、もっと俺にかわいがられたいんだ、欲張りだねぇ」
牙のような視線に捕らえられ、優真は真っ赤になって顔を覆った。
蓮の指がへそをくいっと押す。
「ひぅっ……!」
その瞬間、奥がきゅっと締まり、蓮は息を呑んだ。
「……やば、今の。可愛すぎ」
蓮はすぐに優真の脚を抱え込み、腰を強く押し付ける。
「……可愛がるから、覚悟して」
「っ、あ、まって……やぁっ……!」
濡れた音と、優真の乱れた声。
蓮はおへそを舌でねぶりながら、合間に何度も優真の奥を突き上げた。
優真の白い脚が震え、顔を覆っても声が漏れる。
「れ、蓮さんっ……そこ……だめ、っ……!」
「なんで?ここ気持ちいいんだろ?」
「……っあああっ!」
おへその奥から体の芯まですべてを愛し尽くされ、優真は涙目で蓮に縋った。
やがて2人は荒い息のまま重なり合う。
乱れたシーツの上で、優真は蓮の胸に顔を押し付けた。
「……俺の黒猫ちゃん、」
蓮が耳元でからかうように囁く。
「……も、やめてくださいよ……」
声は震えていたが、その頬はどこか嬉しそうに赤らんでいた。
――
ベッドサイドにかすかな煙草の香りと熱の余韻が残っていた。
シーツは乱れ、呼吸もまだ完全には整っていない。
優真は腕で目元を隠し、体の奥から力が抜けていく感覚にしばし身を委ねていた。
隣では蓮が背を伸ばし、ベッドサイドに置いたスマホを手に取る。
「……あ、やべ」
小さく呟いた声に、優真がゆっくり顔を上げた。
「……どうしました?」
蓮は額を押さえて、ちょっと気まずそうに笑う。
「今日さ、夜ライブ配信入れてたんだった」
「……えっ、時間ギリギリですか?!」
優真は思わず体を起こす。
「あと10分だった…よし、やるか」
蓮は涼しい顔でタオルを首にかけ、乱れた髪を手でざっと整える。
肌はまだうっすら赤く、声も掠れて低い。
それなのに、鏡に映るその姿は完璧で。逆に余韻が色気として滲み出ていた。
「……その姿、みんなに見せちゃうんですか?」
優真が呟くと、蓮はにやりと笑って言った。
「ははっ…俺、優真に愛されてんね」
顔を真っ赤にして枕に顔を埋める優真の頭を蓮はくしゃっと撫でた。
――
数分後、蓮はベッド脇にスマホを立て、配信をオンにした。
画面に現れたのは、濡れた前髪をかき上げ、白シャツをゆるく羽織った姿。
鎖骨から胸元にかけてのラインがちらりと見え、タトゥーのコントラストが色っぽい。
ネックレスのリングが照明を反射して光った。
瞬間、コメント欄は一気に流れ出す。
《白シャツやば》
《レンレンメロすぎ》
《ネックレスお気に入りのやつだよね?!》
《ハロウィンの写真見たよ!黒猫ちゃんかわいすぎん?》
蓮は片肘をテーブルにつき、にやりと口角を上げた。
「こんばんは。……おー、早いな」
低く少し掠れた声をマイクが拾い、コメントはさらに加速する。
《声!えろ》
《蓮配信ありがと!》
《タトゥーいつもより際立っててやば》
優真はベッドの端で膝を抱え、コップで水を飲みながらスマホを片手に配信の様子を見ている。
その場にいるのについスマホでコメントも追ってしまうその様は熱心すぎるファンのそれだった。
(……なんか、配信の時の蓮さんって別人みたい)
さっきまで自分の中にいた人間が、画面越しではモデルの蓮として世界中を相手に笑っている。
「ハロウィン? あぁ……盛り上がってたな。……仮装は、まぁ、色々あって」
言葉を濁すと、コメントがまたざわついた。
《色々?!》
《ドラキュラ最高だった》
《黒猫ちゃん誰だ!?》
《マネージャーさん??》
蓮は薄く笑い、わざと肩をすくめる。
「誰でしょうねぇ。……まあ、楽しそうにしてたろ?」
(……!)
優真の心臓が跳ねた。
画面の向こうにいるファンには何気ない返答でも、自分のことを積極的に隠さない、蓮はそういう男だった。
その時。
「っ……わっ!」
優真が持っていたコップを滑らせ、水が手にこぼれた。
その声が、マイクにかすかに拾われる。
《今なんか聞こえた?!可愛い音…》
《誰かいない?》
《まさか黒猫ちゃん?!》
《同棲……?》
蓮の手が一瞬止まり、目線が横に流れる。
(わーーーーごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!)
ベッドの上の優真と視線が合った。
蓮は話題になったあの広告のような、恋人へ向けた優しい笑顔を見せる。
「……気のせいかな」
さらりと流しながら、指先でネックレスをつまみ、リングを軽く弾いた。
照明の光を受けて、小さな輪がまたきらりと光る。
《リングいじるの意味深すぎん?!?!》
《匂わせ通り越して見せつけられてる???》
《レンレンその指輪何年つけてるの?》
蓮は小さく息を吐いて、にやりと笑った。
「……まあ、気に入ってるやつだから長いよ、」
その声を聞きながら、優真は枕に顔を埋めた。
(……ずるい。ファンの前で笑ってるのに…これ…おれに向けて言ってる…)
コメントは流れ続ける。
けれど瞳に映るのは、コメントではなく蓮のその危うい仕草だけだった。
――
配信を切ると、部屋に静けさが戻る。
スマホを伏せて息を吐いた蓮は、ふとベッドを見た。
優真が枕を抱え、きゅっと唇を結んでいた。
気まずそうに、でもちらちらと蓮を盗み見てくる。
「……ごめんなさい」
小さな声。
「ん?」
「……飲み物、こぼしちゃって……配信に音、入っちゃって……」
俯いたまま、耳まで赤くしている。
蓮は思わず笑って、ベッドに腰を落とした。
「はは、あれな。
コメントで『可愛い音』とか書かれてた」
「もー!ほんと、おれ焦っちゃって…」
枕でぽすっと蓮の脇腹を叩く優真。
その力の弱さに、むしろ甘えみたいな色を感じて蓮は肩を揺らした。
「……ほんと、ごめんなさいっ」
「謝ることじゃないけど、」
蓮は布団を少しめくり、優真の頬に指先を触れる。
「優真の可愛さがみんなにバレそうで…ドキドキしてた」
「っ……」
「独り占めしたいのは変わらない。でもな、」
蓮は目を細め、低い声で続ける。
「最近は、自慢したい気持ちのほうが強くなってる」
「……えっ」
優真は枕を抱いたまま、視線を逸らす。
胸の奥に甘い熱が広がり、鼓動が速まった。
蓮は優真の頬をそっと両手で包み込み、額をこつんと合わせる。
「まぁ、今すぐ公表はしないよ。優真の気持ちもあるし。
…まだ俺だけの優真でいて?」
「……はい……」
おずおずと返した声が、掠れて甘い。
蓮はその唇を奪い、長く深いキスを落とす。
布団の上で絡む影の正体は、配信で切り取られた華やかさよりも、ずっと素直で柔らかかった。
ハロウィンパーティ翌日、二日酔いの優真は、湯船の縁にぐったりと頭を預けていた。
「……はぁ、頭いたいです……」
少し赤い頬を手で覆いながら情けない声を漏らす。
昨夜のパーティでトイレから戻ったあと勢い良く飲んでしまったせいで、朝からずっと身体がだるい。
「だから言ったろ、飲みすぎんなって。
アキにイジられてヤケ酒とか…かわいいなほんと」
蓮は苦笑しながら、桶にお湯を汲んで優真の肩へと回しかけた。
温かさに優真は「ん……だって、」と小さく声を漏らし、少しだけ目を細める。
「立てる?」
「むりです……」
「……仕方ねぇな」
そう言って蓮は優真の背中に手を添え、やさしく支えながら石鹸を泡立てていく。
「俺が全部やるから」
泡のついた掌が、優真の肩から腕へとすべり落ちる。
筋肉がついているわけではない華奢な肩と腕を、丁寧に撫でるように洗う蓮。
優真は目を閉じて、時折小さく喉を鳴らす。
「……ん、そこ、気持ちいです…」
「はは、二日酔いでも素直だな」
からかうように言いながらも、蓮の手は真剣そのもの。
背中、腰、脚へと泡が滑っていくたび、優真は「ふぅ……」と吐息を漏らす。
「顔も洗う?」
「自分でやります…」
「じっとしてて。泡入ったら痛いだろ?」
蓮の大きな指が頬を撫で、額やこめかみを優しく洗う。
目を閉じたままされるがままになりながら、優真は頬を赤くした。
(……なんか、恥ずかしい。前の秋旅行ともちょっと違って…)
「よし、流すぞ」
シャワーのぬるめのお湯が頭から肩へと滑り落ち、泡と一緒に二日酔いの重さも洗い流されていくようだった。
「……ふふ…蓮さん、なんか……おれ、すごい贅沢してる気がします」
「え?俺に洗われるのが?」
「……はい」
「ふはっ…じゃあ、もっと贅沢させてやるかな」
蓮は最後に首筋にキスを落とした。
「っ、もう……急にそういうこと……」
びくりと肩を震わせる優真。
「二日酔い治るんじゃね?」
耳元で笑われ、優真は恥ずかしさにお湯へ顔を沈めた。
――
湯船に二人で並んで浸かると、ぽかぽかと温まった身体が心地よく、優真は蓮の胸に頭を預けた。
「……ん、あったかいです……」
「昨日の猫耳がまだ見えんぞ」
「……ふふっ、にゃあ」
からかうように蓮の胸を小さく爪で押すと、ぐっと腕で抱き寄せられた。
優真は目を閉じ、安心しきった顔で蓮の体温に甘えた。
(……なんか、二日酔いも悪くない、かも……)
――
湯船でしっかり温まったあとの優真は、蓮に髪まで乾かしてもらって、ふにゃふにゃに緩んでいた。
部屋に戻りベッドに転がると、二人並んでスマホを弄る。
「……あ、蓮さん。見てください」
優真が画面を向けると、SNSのタイムラインに昨夜のパーティの写真が流れていた。
蓮やアキ、ハルたちが笑って写っている。
その隣に、黒猫の格好をした優真の姿も小さく映っていた。
《レンレンの隣にいた黒猫ちゃん誰?!》
《マネージャーぽくない?…いやでも、雰囲気違う?》
《黒猫ちゃん、やばいくらい可愛い》
「……っ!」
優真の耳まで一気に赤く染まる。
「く、黒猫ちゃん……って……」
「……はは」
蓮はスマホを軽く振って、同じ投稿を見せてきた。
「俺も見てた。……黒猫ちゃんだってよ、優真」
「や、やめてください……っ」
顔を枕に埋めてじたばたする優真。
蓮はそんな優真の肩を押さえて動きを止めた。
「可愛いもんな。仕方ないよな、にゃあ?」
「な、もうっ…」
否定できずに、視線が泳ぐ。
蓮はにやりと笑い、優真のTシャツをめくった。
露わになったお腹に手のひらを滑らせ、ゆっくりと円を描く。
「っあ……蓮、さん……」
「昨日も思ったけど、お腹、きもちい?」
意地悪な声が耳をくすぐり、優真の背中がびくりと跳ねる。
「そ、それは……っ」
言葉が詰まり、息が熱くなる。
蓮はおへそを舌先でぬるりと舐め上げた。
「んっ……あっ……!」
全身が痺れるような感覚に、優真は膝を立てて身を捩る。
「へそピアス、やっぱあけたい?」
低く囁かれ、優真の心臓が跳ねる。
「っ……そ、それは……酔って……言っただけで……」
「……酔ってても、本音じゃなきゃ言わないよね?
優真はピアスあけてでも、もっと俺にかわいがられたいんだ、欲張りだねぇ」
牙のような視線に捕らえられ、優真は真っ赤になって顔を覆った。
蓮の指がへそをくいっと押す。
「ひぅっ……!」
その瞬間、奥がきゅっと締まり、蓮は息を呑んだ。
「……やば、今の。可愛すぎ」
蓮はすぐに優真の脚を抱え込み、腰を強く押し付ける。
「……可愛がるから、覚悟して」
「っ、あ、まって……やぁっ……!」
濡れた音と、優真の乱れた声。
蓮はおへそを舌でねぶりながら、合間に何度も優真の奥を突き上げた。
優真の白い脚が震え、顔を覆っても声が漏れる。
「れ、蓮さんっ……そこ……だめ、っ……!」
「なんで?ここ気持ちいいんだろ?」
「……っあああっ!」
おへその奥から体の芯まですべてを愛し尽くされ、優真は涙目で蓮に縋った。
やがて2人は荒い息のまま重なり合う。
乱れたシーツの上で、優真は蓮の胸に顔を押し付けた。
「……俺の黒猫ちゃん、」
蓮が耳元でからかうように囁く。
「……も、やめてくださいよ……」
声は震えていたが、その頬はどこか嬉しそうに赤らんでいた。
――
ベッドサイドにかすかな煙草の香りと熱の余韻が残っていた。
シーツは乱れ、呼吸もまだ完全には整っていない。
優真は腕で目元を隠し、体の奥から力が抜けていく感覚にしばし身を委ねていた。
隣では蓮が背を伸ばし、ベッドサイドに置いたスマホを手に取る。
「……あ、やべ」
小さく呟いた声に、優真がゆっくり顔を上げた。
「……どうしました?」
蓮は額を押さえて、ちょっと気まずそうに笑う。
「今日さ、夜ライブ配信入れてたんだった」
「……えっ、時間ギリギリですか?!」
優真は思わず体を起こす。
「あと10分だった…よし、やるか」
蓮は涼しい顔でタオルを首にかけ、乱れた髪を手でざっと整える。
肌はまだうっすら赤く、声も掠れて低い。
それなのに、鏡に映るその姿は完璧で。逆に余韻が色気として滲み出ていた。
「……その姿、みんなに見せちゃうんですか?」
優真が呟くと、蓮はにやりと笑って言った。
「ははっ…俺、優真に愛されてんね」
顔を真っ赤にして枕に顔を埋める優真の頭を蓮はくしゃっと撫でた。
――
数分後、蓮はベッド脇にスマホを立て、配信をオンにした。
画面に現れたのは、濡れた前髪をかき上げ、白シャツをゆるく羽織った姿。
鎖骨から胸元にかけてのラインがちらりと見え、タトゥーのコントラストが色っぽい。
ネックレスのリングが照明を反射して光った。
瞬間、コメント欄は一気に流れ出す。
《白シャツやば》
《レンレンメロすぎ》
《ネックレスお気に入りのやつだよね?!》
《ハロウィンの写真見たよ!黒猫ちゃんかわいすぎん?》
蓮は片肘をテーブルにつき、にやりと口角を上げた。
「こんばんは。……おー、早いな」
低く少し掠れた声をマイクが拾い、コメントはさらに加速する。
《声!えろ》
《蓮配信ありがと!》
《タトゥーいつもより際立っててやば》
優真はベッドの端で膝を抱え、コップで水を飲みながらスマホを片手に配信の様子を見ている。
その場にいるのについスマホでコメントも追ってしまうその様は熱心すぎるファンのそれだった。
(……なんか、配信の時の蓮さんって別人みたい)
さっきまで自分の中にいた人間が、画面越しではモデルの蓮として世界中を相手に笑っている。
「ハロウィン? あぁ……盛り上がってたな。……仮装は、まぁ、色々あって」
言葉を濁すと、コメントがまたざわついた。
《色々?!》
《ドラキュラ最高だった》
《黒猫ちゃん誰だ!?》
《マネージャーさん??》
蓮は薄く笑い、わざと肩をすくめる。
「誰でしょうねぇ。……まあ、楽しそうにしてたろ?」
(……!)
優真の心臓が跳ねた。
画面の向こうにいるファンには何気ない返答でも、自分のことを積極的に隠さない、蓮はそういう男だった。
その時。
「っ……わっ!」
優真が持っていたコップを滑らせ、水が手にこぼれた。
その声が、マイクにかすかに拾われる。
《今なんか聞こえた?!可愛い音…》
《誰かいない?》
《まさか黒猫ちゃん?!》
《同棲……?》
蓮の手が一瞬止まり、目線が横に流れる。
(わーーーーごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!)
ベッドの上の優真と視線が合った。
蓮は話題になったあの広告のような、恋人へ向けた優しい笑顔を見せる。
「……気のせいかな」
さらりと流しながら、指先でネックレスをつまみ、リングを軽く弾いた。
照明の光を受けて、小さな輪がまたきらりと光る。
《リングいじるの意味深すぎん?!?!》
《匂わせ通り越して見せつけられてる???》
《レンレンその指輪何年つけてるの?》
蓮は小さく息を吐いて、にやりと笑った。
「……まあ、気に入ってるやつだから長いよ、」
その声を聞きながら、優真は枕に顔を埋めた。
(……ずるい。ファンの前で笑ってるのに…これ…おれに向けて言ってる…)
コメントは流れ続ける。
けれど瞳に映るのは、コメントではなく蓮のその危うい仕草だけだった。
――
配信を切ると、部屋に静けさが戻る。
スマホを伏せて息を吐いた蓮は、ふとベッドを見た。
優真が枕を抱え、きゅっと唇を結んでいた。
気まずそうに、でもちらちらと蓮を盗み見てくる。
「……ごめんなさい」
小さな声。
「ん?」
「……飲み物、こぼしちゃって……配信に音、入っちゃって……」
俯いたまま、耳まで赤くしている。
蓮は思わず笑って、ベッドに腰を落とした。
「はは、あれな。
コメントで『可愛い音』とか書かれてた」
「もー!ほんと、おれ焦っちゃって…」
枕でぽすっと蓮の脇腹を叩く優真。
その力の弱さに、むしろ甘えみたいな色を感じて蓮は肩を揺らした。
「……ほんと、ごめんなさいっ」
「謝ることじゃないけど、」
蓮は布団を少しめくり、優真の頬に指先を触れる。
「優真の可愛さがみんなにバレそうで…ドキドキしてた」
「っ……」
「独り占めしたいのは変わらない。でもな、」
蓮は目を細め、低い声で続ける。
「最近は、自慢したい気持ちのほうが強くなってる」
「……えっ」
優真は枕を抱いたまま、視線を逸らす。
胸の奥に甘い熱が広がり、鼓動が速まった。
蓮は優真の頬をそっと両手で包み込み、額をこつんと合わせる。
「まぁ、今すぐ公表はしないよ。優真の気持ちもあるし。
…まだ俺だけの優真でいて?」
「……はい……」
おずおずと返した声が、掠れて甘い。
蓮はその唇を奪い、長く深いキスを落とす。
布団の上で絡む影の正体は、配信で切り取られた華やかさよりも、ずっと素直で柔らかかった。
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