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社会人編
新しい風
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4月初旬。
蓮の配信で交際が世間に広まってから、早数ヶ月。
最初はネットや雑誌に騒がれたものの、事務所の声明と神崎の強いスタンスもあり、徐々に受け入れられ、今は落ち着きを取り戻しつつあった。
春の柔らかな光が差し込むアウレア本社ビルのガラス張りのエントランスに、フレッシュなスーツ姿の新入社員たちが緊張した面持ちで列を成していた。
インターナショナルリレーションズ(IR)チームに配属されたのは、桐谷玲央。
175センチのすらりとした体格に、黒髪を軽く外ハネにセットした今どきの雰囲気。
笑うと人懐っこい目元が印象的で、まだどこか学生っぽさを残している。
「今日からよろしくお願いします! 桐谷玲央です」
明るい声に、チームの空気が少し和んだ。
新人のサポート役を任された優真は資料を片付けながら、立ち上がる。
「元木優真です。
これからしばらく、一緒に仕事すると思うので…よろしくお願いします」
自然と笑顔を作って手を差し出すと、玲央はぱっと目を見開き、その手をぎゅっと握り返した。
(……あれ?この人……)
数秒の間。玲央の頭の中で、記憶が繋がっていく。
SNSで見たハロウィンの黒猫の仮装。
年末のリアムの写真に映り込んだ茶髪の横顔。
「あっ」
気づいたと同時に、口が勝手に動いた。
「黒猫ちゃん!」
「……っ!」
優真の肩がびくりと跳ね、ブルーグレーの瞳が大きく揺れる。
「あ、すみません!その、配信とかニュースとかで……つい……!」
同僚たちは一瞬きょとんとし、それぞれの反応を見せた。
ふふっと何かを知っているように微笑む者。
「え?何のこと?」と首をかしげる者。
優真は慌てて小声で返す。
「声……大きいです……」
玲央は口を覆って「すみません!」と頭を下げた。
空気が自然に戻ったところで、先輩社員が声をかける。
「桐谷くん、元木くんから学ぶことはたくさんあるから、何でも訊いてね」
「…はい!」
玲央はキラリと目を光らせ、元気に返事をした。
――
新しい資料の束を手にした優真は、机の端に腰を下ろしてにこやかに言った。
「じゃあ、最初は簡単な問い合わせの処理からです。内容を確認して、テンプレートを使って一次対応するんですけど……ここ、文言を相手先に合わせてちょっと調整します」
玲央は「はい」と頷きながらも、資料よりも優真の横顔ばかり気になっていた。
(ほんとに……蓮さんの彼氏だ……!やば…可愛すぎる…本当に同じ男…?)
「で、もし英語で返す場合は、翻訳ツールに丸投げせずに必ずチェックしてください。
社内向けはカジュアルでもいいですけど、取引先向けはビジネス英語で、」
「……なるほど」
(落ち着け、俺。今は仕事モード!でも……訊きたい……)
「…と、ここまでで何か確認したいこと、ありますか?」
優真が真っ直ぐ見て問いかける。
「あ、えっと……」
数秒の迷いのあと、玲央の口から飛び出したのは、全く関係ない言葉だった。
「蓮さんってプライベートどんな感じなんですか?!」
「……あの。仕事の事で、訊きたいことは?」
優真の目がきゅっと細くなる。
突き刺すように被せた声は柔らかい声色のまま。
「……えっと、すみません。ダイジョウブデス」
玲央は、はっとして視線を逸したのだった。
――
仕事が終わり、蓮と優真は並んで帰路につく。
昼間はあたたかくても、日が傾くとまだ肌寒さが残っていた。
大通りから一本入った静かな住宅街。
街路樹の若葉が、街灯の光に揺れていた。
「……今日ね」
優真がぽつりと切り出す。
「新しい後輩の子が、いきなり『黒猫ちゃん』って……大きな声で言っちゃって」
蓮は一瞬、目を瞬かせてから、じわっと口角を上げた。
「ははっ……もうバレバレじゃん」
「もー!笑い事じゃないですっ!」
優真は顔を赤くして抗議する。
「まだチームの人みんなが知ってるわけじゃないのに……周りも『?』ってなってて……おれ、心臓止まるかと思いました」
「でも本当のことだろ?」
蓮はあっさりと言って、優真の鞄を持ってやった。
「にゃあ、黒猫ちゃん。……俺の」
「っ……も、もう!からかわないでください!」
優真は耳まで真っ赤にして、思わず足を速める。
蓮はその背中を追いかけ、隣に並び直した。
「でもさ、仕事してる優真、かっこいいんだろうな、」
「かっこよくなんかないですよ!
……先輩っぽくしなきゃって、必死で、」
ぷいと顔を背けながらも、声はまんざらでもない。
蓮はくつくつと笑いながら、優真の頭を軽く撫でる。
「ははっ、じゃあ可愛い先輩ってとこか。
そうだよな~、優真だもんな~」
「……蓮さんっ!」
優真は睨むように見上げるが、その瞳はすぐに負けて愛しさに揺れてしまう。
ふと、蓮は思い出したように声を落とした。
「そういえば。俺も今日、仕事でさ」
「?」
「海外メーカーのアンダーウェアの撮影、ヨーロッパで決まったって言われた」
「……っ!」
優真は思わず足を止めた。
「アンダー……ウェア……?」
耳まで真っ赤になり、しどろもどろに言葉を繰り返す。
そんな優真を見て蓮は悪戯っぽく笑った。
「優真のえっち。仕事だぞ?
でも、体はちゃんと絞らないとな」
「……っ、し、知りません!勝手にしてください!」
優真は再びぷいっと顔を背け歩き出す。
その横顔は赤く、どこか不安げでもあった。
蓮はそんな様子を横目に、鞄を持った手を軽く振りながら、わざと何気ない声で続けた。
「ちゃんと報告しとこうと思って。
……一番最初に聞いてほしかったから」
街灯に照らされた蓮の瞳がまっすぐに自分を映していた。
「……蓮さん、」
声は掠れたけれど、その胸の奥には確かな温かさが広がっていた。
――
玄関の鍵を閉め、靴を脱ぎ散らかしたままリビングへ入ると、蓮は鞄をソファに置きながら「ふぅ」と息を吐いた。
「先シャワー入ろっかな、」
そう言って、何の気なしにシャツをばさりと脱ぐ。
首から腕、鍛えられた腹筋、脇腹へと分かれて走るタトゥーのラインがあらわになった瞬間、優真の動きが止まった。
「……これ以上、絞るんですか?」
拗ねたような、やきもちを隠しきれない声。
蓮は片眉を上げ、にやりと笑った。
「え、気になる?」
「気になります!世間に……その……体…っ」
声が震え、最後まで言えない。
蓮は笑いながら、優真の方へ歩み寄った。
「じゃあ……優真の分は俺だけの秘密ね」
そう囁きながら、ふいに優真のシャツの裾をつまんで、めくり上げる。
「ちょっ……!なに、して……」
慌てる優真の言葉を遮るように、指先がそのお腹に触れた。
ぷに、と柔らかい感触。
「……んー、やっぱりもちもち」
蓮の手のひらがゆっくり撫でる。
「っ……ひゃ、や、やめっ……!」
優真は耳まで真っ赤にして身をよじるが、捕まえられた腰は逃げられない。
「……優真も、一汗流す?」
低く甘い声が耳朶をかすめる。
その意味を察した優真は息を呑んで目を見開いた。
次の瞬間、蓮は優真の腰を抱き上げる。
「れ、蓮さんっ?!」
「可愛すぎ、」
優真が反射的に首にしがみつくと、蓮の体温と硬質な筋肉の感触が押し寄せてきた。
ベッドにぽんと優しく落とされる。
見上げる先で、蓮がゆっくりと覆いかぶさった。
ライトに浮かび上がるのは、しなやかな肩のラインと均整の取れた腹筋。
汗ばんだ肌を滑るインクの模様が、まるで生きているように浮き立っていた。
(……な、何回も見てるはずなのに……)
見せつけられた蓮の身体に、優真の呼吸は勝手に荒くなる。
羞恥と期待が入り混じり、お腹の奥がじんわりと疼き始めた。
「……あ、どうしよ…蓮さん……」
縋るように腕を伸ばす優真。
その指先は、熱を帯びた蓮の二の腕に絡みついていた。
「……我慢できない?…俺も、」
蓮の声が低く笑った。
そのままぐっと抱き寄せられ、唇を奪われる。
深い口づけに、早々に頭が真っ白になった。
(だめ……止まらない……っ)
キスだけで腰が浮き上がり、体が勝手に蓮を欲しがってしまう。
「たくさん汗かこうな?」
その言葉どおり、その夜はいつもより濃密で。
何度も容赦なく体を重ねることとなったのだった。
――
翌朝
寝ぼけ眼の優真は、鏡の前で首筋を押さえて絶句した。
(……つ、ついてる……!めちゃくちゃ……!)
赤く色づいたキスマークが、はっきりとそこにはあった。
いくら襟を立てても隠しきれない。
優真は慌ててストールを巻いて出社した。
「おはようございます、」
室内に入り、油断した。する、とストールを取ったその瞬間。
「……あれ?元木先輩、それ……」
デスクで業務内容の復習をしていた玲央が、すぐに気づいて目を丸くした。
「っ!!」
優真の心臓は一瞬で跳ね上がり、声にならない悲鳴が喉で詰まる。慌てて首元を手で隠すも間に合うはずもない。
「めっちゃ愛されてますね!いいなぁ、蓮さんと毎晩愛しあっ…」
「き、桐谷くん!ちょっと!
あっちの資料室行きますか!!!ね?!?!」
優真がばたんとテーブルに手をついてから、玲央の腕をぐいっと引っ張る。
廊下に押し出されて、玲央はぽかんと目を丸くした。
「ちょっと桐谷くん、何考えてます?!?!」
優真は小声で詰め寄るも身長差のせいではからずも上目遣いになり、その睨みは玲央にはあまりピンときていないようだった。
「あー…?まずかったです?」
「当たり前です!!!」
優真が間髪入れずに一刀両断する。
と、そこに撮影ブースに移動中の蓮が廊下の角を曲がり顔を出した。
「優真~!おつかれ!…っと、後輩くん?」
(これは…優真が言ってた後輩だな、)
「あ、はい!はじめまして桐谷玲央です!
わぁ…本物のレンレンですね…!!!
俺、めちゃくちゃファンで!!!彫師やってた時から表紙の雑誌めちゃくちゃ買ってました!」
玲央は慌てて姿勢を正し、その羨望の眼差しをまっすぐ蓮へ向けた。
「はは、レンレンねぇ。男のファンはまだ少なくて。結構前から知ってくれてんだ?どーも」
蓮は仕事用の笑顔で手をヒラヒラと振る。
玲央は言葉をそのまま受取り嬉しさを隠すことなく続けた。
「はいっ!なので、元木先輩みたいに俺もいつか蓮さんに抱か…」
「ちょっと?!ないっ!絶対ないですからね?!」
優真の鋭い声。
その瞳は潤みながらも必死に怒りを宿し、玲央を全力で遮る。蓮と玲央の間に入り込み、蓮を守ろうとする体勢までとっていた。
玲央は一瞬たじろぎ、それから小さく笑う。
「……なるほど、本当にに愛し合ってるんですね」
(やっぱ入る隙はないかなぁ…?)
「っ……!!」
優真は顔を真っ赤にして睨みつける。
何年も一緒にいて初めて見る優真の顔はとても貴重で愛おしかった。
蓮はその横顔を見て、にやりと目を細める。
「……だってさ、優真」
(嫉妬してる優真、かーわい…)
「~~~~っ!!!みんな仕事!しますよ!!」
怒りと恥ずかしさと焦りで、優真はますます真っ赤になった。
蓮の配信で交際が世間に広まってから、早数ヶ月。
最初はネットや雑誌に騒がれたものの、事務所の声明と神崎の強いスタンスもあり、徐々に受け入れられ、今は落ち着きを取り戻しつつあった。
春の柔らかな光が差し込むアウレア本社ビルのガラス張りのエントランスに、フレッシュなスーツ姿の新入社員たちが緊張した面持ちで列を成していた。
インターナショナルリレーションズ(IR)チームに配属されたのは、桐谷玲央。
175センチのすらりとした体格に、黒髪を軽く外ハネにセットした今どきの雰囲気。
笑うと人懐っこい目元が印象的で、まだどこか学生っぽさを残している。
「今日からよろしくお願いします! 桐谷玲央です」
明るい声に、チームの空気が少し和んだ。
新人のサポート役を任された優真は資料を片付けながら、立ち上がる。
「元木優真です。
これからしばらく、一緒に仕事すると思うので…よろしくお願いします」
自然と笑顔を作って手を差し出すと、玲央はぱっと目を見開き、その手をぎゅっと握り返した。
(……あれ?この人……)
数秒の間。玲央の頭の中で、記憶が繋がっていく。
SNSで見たハロウィンの黒猫の仮装。
年末のリアムの写真に映り込んだ茶髪の横顔。
「あっ」
気づいたと同時に、口が勝手に動いた。
「黒猫ちゃん!」
「……っ!」
優真の肩がびくりと跳ね、ブルーグレーの瞳が大きく揺れる。
「あ、すみません!その、配信とかニュースとかで……つい……!」
同僚たちは一瞬きょとんとし、それぞれの反応を見せた。
ふふっと何かを知っているように微笑む者。
「え?何のこと?」と首をかしげる者。
優真は慌てて小声で返す。
「声……大きいです……」
玲央は口を覆って「すみません!」と頭を下げた。
空気が自然に戻ったところで、先輩社員が声をかける。
「桐谷くん、元木くんから学ぶことはたくさんあるから、何でも訊いてね」
「…はい!」
玲央はキラリと目を光らせ、元気に返事をした。
――
新しい資料の束を手にした優真は、机の端に腰を下ろしてにこやかに言った。
「じゃあ、最初は簡単な問い合わせの処理からです。内容を確認して、テンプレートを使って一次対応するんですけど……ここ、文言を相手先に合わせてちょっと調整します」
玲央は「はい」と頷きながらも、資料よりも優真の横顔ばかり気になっていた。
(ほんとに……蓮さんの彼氏だ……!やば…可愛すぎる…本当に同じ男…?)
「で、もし英語で返す場合は、翻訳ツールに丸投げせずに必ずチェックしてください。
社内向けはカジュアルでもいいですけど、取引先向けはビジネス英語で、」
「……なるほど」
(落ち着け、俺。今は仕事モード!でも……訊きたい……)
「…と、ここまでで何か確認したいこと、ありますか?」
優真が真っ直ぐ見て問いかける。
「あ、えっと……」
数秒の迷いのあと、玲央の口から飛び出したのは、全く関係ない言葉だった。
「蓮さんってプライベートどんな感じなんですか?!」
「……あの。仕事の事で、訊きたいことは?」
優真の目がきゅっと細くなる。
突き刺すように被せた声は柔らかい声色のまま。
「……えっと、すみません。ダイジョウブデス」
玲央は、はっとして視線を逸したのだった。
――
仕事が終わり、蓮と優真は並んで帰路につく。
昼間はあたたかくても、日が傾くとまだ肌寒さが残っていた。
大通りから一本入った静かな住宅街。
街路樹の若葉が、街灯の光に揺れていた。
「……今日ね」
優真がぽつりと切り出す。
「新しい後輩の子が、いきなり『黒猫ちゃん』って……大きな声で言っちゃって」
蓮は一瞬、目を瞬かせてから、じわっと口角を上げた。
「ははっ……もうバレバレじゃん」
「もー!笑い事じゃないですっ!」
優真は顔を赤くして抗議する。
「まだチームの人みんなが知ってるわけじゃないのに……周りも『?』ってなってて……おれ、心臓止まるかと思いました」
「でも本当のことだろ?」
蓮はあっさりと言って、優真の鞄を持ってやった。
「にゃあ、黒猫ちゃん。……俺の」
「っ……も、もう!からかわないでください!」
優真は耳まで真っ赤にして、思わず足を速める。
蓮はその背中を追いかけ、隣に並び直した。
「でもさ、仕事してる優真、かっこいいんだろうな、」
「かっこよくなんかないですよ!
……先輩っぽくしなきゃって、必死で、」
ぷいと顔を背けながらも、声はまんざらでもない。
蓮はくつくつと笑いながら、優真の頭を軽く撫でる。
「ははっ、じゃあ可愛い先輩ってとこか。
そうだよな~、優真だもんな~」
「……蓮さんっ!」
優真は睨むように見上げるが、その瞳はすぐに負けて愛しさに揺れてしまう。
ふと、蓮は思い出したように声を落とした。
「そういえば。俺も今日、仕事でさ」
「?」
「海外メーカーのアンダーウェアの撮影、ヨーロッパで決まったって言われた」
「……っ!」
優真は思わず足を止めた。
「アンダー……ウェア……?」
耳まで真っ赤になり、しどろもどろに言葉を繰り返す。
そんな優真を見て蓮は悪戯っぽく笑った。
「優真のえっち。仕事だぞ?
でも、体はちゃんと絞らないとな」
「……っ、し、知りません!勝手にしてください!」
優真は再びぷいっと顔を背け歩き出す。
その横顔は赤く、どこか不安げでもあった。
蓮はそんな様子を横目に、鞄を持った手を軽く振りながら、わざと何気ない声で続けた。
「ちゃんと報告しとこうと思って。
……一番最初に聞いてほしかったから」
街灯に照らされた蓮の瞳がまっすぐに自分を映していた。
「……蓮さん、」
声は掠れたけれど、その胸の奥には確かな温かさが広がっていた。
――
玄関の鍵を閉め、靴を脱ぎ散らかしたままリビングへ入ると、蓮は鞄をソファに置きながら「ふぅ」と息を吐いた。
「先シャワー入ろっかな、」
そう言って、何の気なしにシャツをばさりと脱ぐ。
首から腕、鍛えられた腹筋、脇腹へと分かれて走るタトゥーのラインがあらわになった瞬間、優真の動きが止まった。
「……これ以上、絞るんですか?」
拗ねたような、やきもちを隠しきれない声。
蓮は片眉を上げ、にやりと笑った。
「え、気になる?」
「気になります!世間に……その……体…っ」
声が震え、最後まで言えない。
蓮は笑いながら、優真の方へ歩み寄った。
「じゃあ……優真の分は俺だけの秘密ね」
そう囁きながら、ふいに優真のシャツの裾をつまんで、めくり上げる。
「ちょっ……!なに、して……」
慌てる優真の言葉を遮るように、指先がそのお腹に触れた。
ぷに、と柔らかい感触。
「……んー、やっぱりもちもち」
蓮の手のひらがゆっくり撫でる。
「っ……ひゃ、や、やめっ……!」
優真は耳まで真っ赤にして身をよじるが、捕まえられた腰は逃げられない。
「……優真も、一汗流す?」
低く甘い声が耳朶をかすめる。
その意味を察した優真は息を呑んで目を見開いた。
次の瞬間、蓮は優真の腰を抱き上げる。
「れ、蓮さんっ?!」
「可愛すぎ、」
優真が反射的に首にしがみつくと、蓮の体温と硬質な筋肉の感触が押し寄せてきた。
ベッドにぽんと優しく落とされる。
見上げる先で、蓮がゆっくりと覆いかぶさった。
ライトに浮かび上がるのは、しなやかな肩のラインと均整の取れた腹筋。
汗ばんだ肌を滑るインクの模様が、まるで生きているように浮き立っていた。
(……な、何回も見てるはずなのに……)
見せつけられた蓮の身体に、優真の呼吸は勝手に荒くなる。
羞恥と期待が入り混じり、お腹の奥がじんわりと疼き始めた。
「……あ、どうしよ…蓮さん……」
縋るように腕を伸ばす優真。
その指先は、熱を帯びた蓮の二の腕に絡みついていた。
「……我慢できない?…俺も、」
蓮の声が低く笑った。
そのままぐっと抱き寄せられ、唇を奪われる。
深い口づけに、早々に頭が真っ白になった。
(だめ……止まらない……っ)
キスだけで腰が浮き上がり、体が勝手に蓮を欲しがってしまう。
「たくさん汗かこうな?」
その言葉どおり、その夜はいつもより濃密で。
何度も容赦なく体を重ねることとなったのだった。
――
翌朝
寝ぼけ眼の優真は、鏡の前で首筋を押さえて絶句した。
(……つ、ついてる……!めちゃくちゃ……!)
赤く色づいたキスマークが、はっきりとそこにはあった。
いくら襟を立てても隠しきれない。
優真は慌ててストールを巻いて出社した。
「おはようございます、」
室内に入り、油断した。する、とストールを取ったその瞬間。
「……あれ?元木先輩、それ……」
デスクで業務内容の復習をしていた玲央が、すぐに気づいて目を丸くした。
「っ!!」
優真の心臓は一瞬で跳ね上がり、声にならない悲鳴が喉で詰まる。慌てて首元を手で隠すも間に合うはずもない。
「めっちゃ愛されてますね!いいなぁ、蓮さんと毎晩愛しあっ…」
「き、桐谷くん!ちょっと!
あっちの資料室行きますか!!!ね?!?!」
優真がばたんとテーブルに手をついてから、玲央の腕をぐいっと引っ張る。
廊下に押し出されて、玲央はぽかんと目を丸くした。
「ちょっと桐谷くん、何考えてます?!?!」
優真は小声で詰め寄るも身長差のせいではからずも上目遣いになり、その睨みは玲央にはあまりピンときていないようだった。
「あー…?まずかったです?」
「当たり前です!!!」
優真が間髪入れずに一刀両断する。
と、そこに撮影ブースに移動中の蓮が廊下の角を曲がり顔を出した。
「優真~!おつかれ!…っと、後輩くん?」
(これは…優真が言ってた後輩だな、)
「あ、はい!はじめまして桐谷玲央です!
わぁ…本物のレンレンですね…!!!
俺、めちゃくちゃファンで!!!彫師やってた時から表紙の雑誌めちゃくちゃ買ってました!」
玲央は慌てて姿勢を正し、その羨望の眼差しをまっすぐ蓮へ向けた。
「はは、レンレンねぇ。男のファンはまだ少なくて。結構前から知ってくれてんだ?どーも」
蓮は仕事用の笑顔で手をヒラヒラと振る。
玲央は言葉をそのまま受取り嬉しさを隠すことなく続けた。
「はいっ!なので、元木先輩みたいに俺もいつか蓮さんに抱か…」
「ちょっと?!ないっ!絶対ないですからね?!」
優真の鋭い声。
その瞳は潤みながらも必死に怒りを宿し、玲央を全力で遮る。蓮と玲央の間に入り込み、蓮を守ろうとする体勢までとっていた。
玲央は一瞬たじろぎ、それから小さく笑う。
「……なるほど、本当にに愛し合ってるんですね」
(やっぱ入る隙はないかなぁ…?)
「っ……!!」
優真は顔を真っ赤にして睨みつける。
何年も一緒にいて初めて見る優真の顔はとても貴重で愛おしかった。
蓮はその横顔を見て、にやりと目を細める。
「……だってさ、優真」
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