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今なんて?
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秘密の部屋。
あれから数日、戻る薬はというと。
「……おかしいなぁ」
魔術師は作業台の前で首を傾げていた。
「配合は完璧。理論も合ってる。実験結果も……まぁ、豊富」
豊富すぎる。一方その頃。
魔王(中身リュカ)は、玉座の間で落ち着きを失っていた。
「……勇者め、」
肘をついては立ち上がり、立ち上がっては座り直す。
側近が恐る恐る声をかける。
「陛下……最近、勇者の話題が多いような……」
「気のせいだ」
即答。
だが、否定が早すぎる。
(……目隠しキス……)
頭を振る。
(違う違う違う!!あれは事故で副作用!!)
同時刻。
勇者(中身ラムザ)も、妙に集中力を欠いていた。
「勇者様、次の作戦ですが――」
「……ああ」
返事はするが、視線が虚空を彷徨っている。
(自分とキス……)
(しかも、“意外と柔らかかった”……中身はリュカ…)
「――忘れろ!!」
唐突に叫び、パーティーメンバーを驚かせた。
――
夜。秘密の部屋にはいつもの三人。
「で」
リュカが腕を組み、睨む。
「戻る薬は?」
魔術師は、わざとらしく首を傾げた。
「……あれ?」
「何だその“あれ”は」
「うーん……」
フラスコを持ち上げる。
「その、出来てはいるんです」
「じゃあなんで出さないんだ、」
「……」
魔術師は、しばし黙ったあと、ぽつりと言った。
「……恐れながらも、戻らない方が、安定してる気がして」
「は?」
「え?」
二人同時に声を上げる。
魔術師は、深くため息をついた。
「記憶、残りますよね」
「「残る、」」
即答が重なる。
「つまり」
魔術師は指を立てる。
「戻した瞬間、“今までのあれこれ、全部覚えてる状態”で、元の立場に戻るわけです」
沈黙。
「……地獄だ」
「……だな」
二人が同時に呟く。
魔術師は、眼鏡を押し上げて言った。
「地獄…?そうですか?もう認めてください」
二人を見る。
「あなた達、普通に両想いですよ」
「「違う!!」」
声が完全に重なる。
「我は魔王だぞ!!」
「俺は勇者だ!!」
「立場を考えろ!!」
「世界の秩序が!!」
魔術師は、冷静に続ける。
「でも、キスましたよね」
沈黙。
「押し倒しましたよね」
沈黙。
「目隠しキス、“雷に撃たれたよう”でしたよね」
「言うな!!」
「蒸し返すでない!!」
魔術師は、肩をすくめた。
「両想いじゃないなら…ここまで副作用は継続しません」
「副作用のせいだ!!」
「じゃあ」
魔術師がにっこり笑う。
「戻す前に、一度ちゃんと話してみたらどうです?」
「……何を」
「どうするか、です」
二人は顔を見合わせ――そして同時に逸らした。
「……」
「……」
気まずい沈黙。
魔術師は、作業台に戻りながら呟く。
「ま、急ぎませんけど」
「戻す薬、本当にいつでも出せますし」
フラスコを軽く振る。
「今は……観察期間ってことで」
二人は同時に振り向いた。
「観察するな!!」
「実験扱いするな!!」
魔術師は、満足そうに微笑んだ。
(いつでも出せる…?)
「おい」
魔王(中身リュカ)が、低い声で言った。
「今、“いつでも出せる”って言ったな?」
魔術師は、嫌な予感しかしない顔で瞬きをする。
「え、ええ、理論上は……」
「理論だ?意味分かんないぞ!」
一歩、距離が詰まる。
「今だ。出せ」
「ちょ、落ち着いてくださいって」
「落ち着けるか!!」
次の瞬間。魔王の腕が、魔術師の襟首を掴んだ。
「は、話し合いで――」
「話し合いは終わりだ!!」
ぐい、と引き寄せた、その時。
バリーンッ!!
乾いた音。
「――あ」
魔術師の懐から、小瓶が転がり落ちた。
床に叩きつけられ無残にも砕け散る。
「……」
「……」
割れた瓶の中身が、
白い霧となって立ち上り。
シュウウウウ――――……
音もなく、空気に溶けて消えた。
「………………」
沈黙。
勇者(中身ラムザ)が、恐る恐る口を開く。
「……今のは」
魔術師は、床を見つめたまま答えた。
「戻る薬、ですね」
「ですね、じゃない」
リュカの声が震える。
「いま、割れた?」
「割れました」
「消えた?」
「消えました」
「……戻れない?」
魔術師は、顔を上げ、にこっと笑った。
「ええ。今の分は」
「お前ぇぇぇぇぇぇ!!!」
リュカが叫ぶ。
「いつでも出せるって言っただろ!!」
「“出せる”とは言いましたが」
魔術師は指を立てる。
「“複製できる”とは言ってません」
「詐欺だ!!」
「事故です!!」
「事故の顔じゃねえ!!」
ラムザは、深く息を吐いた。
「……して。再調合には、どれくらいかかる?」
魔術師は、少し考える。
「……うーん」
間。
「条件が整えば、割とすぐ」
「条件?」
「はい」
魔術師は、二人を見た。
「感情が安定して、同期が落ち着いたら」
沈黙。
「……つまり」
リュカが低く言う。
「今は無理?」
「今は」
魔術師は、はっきり言った。
「めちゃくちゃ不安定ですね」
「誰のせいだ!!」
「あなた達です」
即答。
ラムザが、額に手を当てる。
「……理不尽だが、理解した」
「理解すんな!!」
魔術師は、床の破片を片付けながら、さらっと言った。
「というわけで、しばらくこのままです」
「は???」
「世界は平和ですし」
「そういう問題じゃねえ!!」
魔術師は破片を回収し終え、立ち上がる。
「次は割れない容器で作りますね」
「容器の問題ではない!!」
勇者と魔王は、
顔を見合わせた。
「……」
「……」
逃げ場は、ない。
戻る薬は、
霧となって消えた。
魔術師は、満足そうに微笑む。
「世界の秩序は乱せませんので…」
秘密の部屋には割れた希望と、戻れない現実と、まだ認めない二人だけが残った。
あれから数日、戻る薬はというと。
「……おかしいなぁ」
魔術師は作業台の前で首を傾げていた。
「配合は完璧。理論も合ってる。実験結果も……まぁ、豊富」
豊富すぎる。一方その頃。
魔王(中身リュカ)は、玉座の間で落ち着きを失っていた。
「……勇者め、」
肘をついては立ち上がり、立ち上がっては座り直す。
側近が恐る恐る声をかける。
「陛下……最近、勇者の話題が多いような……」
「気のせいだ」
即答。
だが、否定が早すぎる。
(……目隠しキス……)
頭を振る。
(違う違う違う!!あれは事故で副作用!!)
同時刻。
勇者(中身ラムザ)も、妙に集中力を欠いていた。
「勇者様、次の作戦ですが――」
「……ああ」
返事はするが、視線が虚空を彷徨っている。
(自分とキス……)
(しかも、“意外と柔らかかった”……中身はリュカ…)
「――忘れろ!!」
唐突に叫び、パーティーメンバーを驚かせた。
――
夜。秘密の部屋にはいつもの三人。
「で」
リュカが腕を組み、睨む。
「戻る薬は?」
魔術師は、わざとらしく首を傾げた。
「……あれ?」
「何だその“あれ”は」
「うーん……」
フラスコを持ち上げる。
「その、出来てはいるんです」
「じゃあなんで出さないんだ、」
「……」
魔術師は、しばし黙ったあと、ぽつりと言った。
「……恐れながらも、戻らない方が、安定してる気がして」
「は?」
「え?」
二人同時に声を上げる。
魔術師は、深くため息をついた。
「記憶、残りますよね」
「「残る、」」
即答が重なる。
「つまり」
魔術師は指を立てる。
「戻した瞬間、“今までのあれこれ、全部覚えてる状態”で、元の立場に戻るわけです」
沈黙。
「……地獄だ」
「……だな」
二人が同時に呟く。
魔術師は、眼鏡を押し上げて言った。
「地獄…?そうですか?もう認めてください」
二人を見る。
「あなた達、普通に両想いですよ」
「「違う!!」」
声が完全に重なる。
「我は魔王だぞ!!」
「俺は勇者だ!!」
「立場を考えろ!!」
「世界の秩序が!!」
魔術師は、冷静に続ける。
「でも、キスましたよね」
沈黙。
「押し倒しましたよね」
沈黙。
「目隠しキス、“雷に撃たれたよう”でしたよね」
「言うな!!」
「蒸し返すでない!!」
魔術師は、肩をすくめた。
「両想いじゃないなら…ここまで副作用は継続しません」
「副作用のせいだ!!」
「じゃあ」
魔術師がにっこり笑う。
「戻す前に、一度ちゃんと話してみたらどうです?」
「……何を」
「どうするか、です」
二人は顔を見合わせ――そして同時に逸らした。
「……」
「……」
気まずい沈黙。
魔術師は、作業台に戻りながら呟く。
「ま、急ぎませんけど」
「戻す薬、本当にいつでも出せますし」
フラスコを軽く振る。
「今は……観察期間ってことで」
二人は同時に振り向いた。
「観察するな!!」
「実験扱いするな!!」
魔術師は、満足そうに微笑んだ。
(いつでも出せる…?)
「おい」
魔王(中身リュカ)が、低い声で言った。
「今、“いつでも出せる”って言ったな?」
魔術師は、嫌な予感しかしない顔で瞬きをする。
「え、ええ、理論上は……」
「理論だ?意味分かんないぞ!」
一歩、距離が詰まる。
「今だ。出せ」
「ちょ、落ち着いてくださいって」
「落ち着けるか!!」
次の瞬間。魔王の腕が、魔術師の襟首を掴んだ。
「は、話し合いで――」
「話し合いは終わりだ!!」
ぐい、と引き寄せた、その時。
バリーンッ!!
乾いた音。
「――あ」
魔術師の懐から、小瓶が転がり落ちた。
床に叩きつけられ無残にも砕け散る。
「……」
「……」
割れた瓶の中身が、
白い霧となって立ち上り。
シュウウウウ――――……
音もなく、空気に溶けて消えた。
「………………」
沈黙。
勇者(中身ラムザ)が、恐る恐る口を開く。
「……今のは」
魔術師は、床を見つめたまま答えた。
「戻る薬、ですね」
「ですね、じゃない」
リュカの声が震える。
「いま、割れた?」
「割れました」
「消えた?」
「消えました」
「……戻れない?」
魔術師は、顔を上げ、にこっと笑った。
「ええ。今の分は」
「お前ぇぇぇぇぇぇ!!!」
リュカが叫ぶ。
「いつでも出せるって言っただろ!!」
「“出せる”とは言いましたが」
魔術師は指を立てる。
「“複製できる”とは言ってません」
「詐欺だ!!」
「事故です!!」
「事故の顔じゃねえ!!」
ラムザは、深く息を吐いた。
「……して。再調合には、どれくらいかかる?」
魔術師は、少し考える。
「……うーん」
間。
「条件が整えば、割とすぐ」
「条件?」
「はい」
魔術師は、二人を見た。
「感情が安定して、同期が落ち着いたら」
沈黙。
「……つまり」
リュカが低く言う。
「今は無理?」
「今は」
魔術師は、はっきり言った。
「めちゃくちゃ不安定ですね」
「誰のせいだ!!」
「あなた達です」
即答。
ラムザが、額に手を当てる。
「……理不尽だが、理解した」
「理解すんな!!」
魔術師は、床の破片を片付けながら、さらっと言った。
「というわけで、しばらくこのままです」
「は???」
「世界は平和ですし」
「そういう問題じゃねえ!!」
魔術師は破片を回収し終え、立ち上がる。
「次は割れない容器で作りますね」
「容器の問題ではない!!」
勇者と魔王は、
顔を見合わせた。
「……」
「……」
逃げ場は、ない。
戻る薬は、
霧となって消えた。
魔術師は、満足そうに微笑む。
「世界の秩序は乱せませんので…」
秘密の部屋には割れた希望と、戻れない現実と、まだ認めない二人だけが残った。
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