AVENIR 未来への一歩

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支配

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 店の出す料理にしてはあまりにも質素な食事を前にミーアは憐れんだ。

「このような料理しか出せないほどにこの店は……」
「建物を修繕する金もなければ許可も得られない」
「そのあとはどうなるの?」
「王国の労働力として働かされるだろう。強制労働というやつだ」
「そんな……。なのにどうしてこんな反抗を。町の人たちのように今は従っていれば、いずれ助けが」

 店主はカウンターに力強く酒を奥と、コルク開けて飲んだ。
 手で口を拭き大きく息を吐くとミーアに言った。

「本心隠して生きてて楽しいか?」
「えっ」
「誰かがこうしろと命じて、それだけで生きていくことに楽しみは見いだせない。誰もがそれぞれの目的のために生きている。誰もが平等に生きていく世界ってのはな、そういった目的を失わせる危険性がある。特にこんな強制的な仮初の平和じゃな」
「でも、強制労働なんかさせられたら、もう目的なんて一生持てないですよ」
「その時は自決するさ」

 カウンターの下から取り出したのは爆裂石。魔力を込めると強力な爆発が発生する危険な石。

「店のすべてがなくなったらこれで終わらせる。それで町民が目覚めなければ無駄死に。でも、自分貫いて生きたことに後悔はない」
「自ら命を絶つなんて。生きていれば再起を図れます!」
「絶望の未来がわかっているのに、その先に希望を持てなんて、どれだけ厳しいことを言っているか自覚があるのか?」
「そ、それは……。でも、私はあきらめてほしくないんです。それだけ気高き強い心をもっていながら、自決だなんて」
「後悔はないさ。嘘をついて助けを待ち続けるのはカッコよくないだろ。私は私が認めるカッコいい人間のまま死にたい」

 この町の人間のほとんどは、この状況を良しとはせずに仮初の平和を作り出して耐えている。いや、そうするしかない。怖いのだ。もし仮初の平和を壊したらどんな目にあうか。かつて、別の国の兵士に助けを求めた人間の末路を知っているからこそ。

「お嬢さんもそっちの男前さんも嘘や隠しことくらいあるだろ。別にそれは悪いことじゃない。だって、生きるため、目的のためだろ。そんな嘘なら歓迎さ。だけどね、仮初の平和を作っても誰かが助けに来る保証はない。だったら、真実の海に沈みたい。これって、いけないことかい?」

 ミーアは言葉を返せなかった。最大限自分らしく。それが保つことができないのなら死んだ方がマシ。一見、飛躍しすぎた思想のようにも思えたが、このような環境で耐え続けたことを店の寂れ具合が証明している。
 この結論に至るまでに多くのことを悩んだはずだ。町の人たちのように嘘をつき通せばそれなりの暮らしは待っている。こんな状態で店を続けなくていい。しかし、自分自身がそれを許せなかった。その気持ちは、かつて自分の弱さで三騎士が脱出のための護衛に付き、王国防衛の戦力として戦わせて上げられなかったことで、成長すると決めたミーアはとてもよくわかる。

 沈黙が支配する店へ唐突に扉を蹴り飛ばす音が響いた。

「おい、サハラン! 徴収のお時間だぜ。って客人がいたか。悪いね、ちょいとそこの女に用があるんで、飯ならほかのとこでしてくれるかい? いい店ならほかにたくさんあるからさ」

 店主を呼びつける声は荒々しかったのに、ミーアたちを外からの客人だと理解すると声色を変えて、命令ではなくお願いをしてきた。一瞬だけ見せた荒々しい姿。それがこの町を支配している正体。それに気づいてしまったミーアは見過ごすわけにはいかなかった。

「あの――」

 ミーアが兵士に声をかけようとした瞬間、ウィークは肩をつかんだ。顔見ると小さく首を横に振って動かないように指示をしたのだ。

「な、なぜ」
「現実を見ろ。その上で判断をするんだ」
「お客人、別の店にいどうしてもらってもいいですかい?」
「あぁ、わかった。お勤めご苦労様です」
「いえいえ、旅の疲れをぜひこの町で落としていってくださいな」

 ウィークは強引にミーアの手を引っ張り、店の外出て別の建物の陰に隠れた。

「何をするんですか! 徴収ってことはお金を取られるんですよ。助けてあげないと」 
「それだけで済めばいいがな」
「えっ?」

 さっきの兵士に続いて二人の兵士が中へと入り、騒音が鳴り響いた。
 嫌なほどの静けさの後、三人の兵士はお金の入った袋を持って去っていく。ミーアはすぐに店へと戻りサハランの下へ向かうと、服の乱れたサハランが床に転がり泣いていた。

「ま、まさかあの人たち……」
「これが現実だ。これが真実だ。仮初の平和を守らなかったものに与えられる罰」
「お金を取るだけじゃなく自分たちの穢れた欲求を晴らしただなんて……」

 ウィークはサハランにマントをかぶせた。

「奥で休め」
「あ、あぁ……」

 ミーアにはわからなかった。こうなるだろうと検討のついていたウィークがなぜ助けなかったのか。

「わかっていたのならなぜ助けなかったの!」
「君のその感情。怒りか、憎悪か?」
「何をいってるの」
「彼女のあの姿を見る前、君は同じように感情を溢れさせ彼らを止めようとしたか?」
「そうではないけど。それでも止めなかったからお姉さんは!」
「怒り、憎悪、嫌悪、復讐。正義、求愛、慈悲。感情が高ぶらずにことを成せると思うなよ。上辺だけの理想論では何一つ叶わない。君は民を救い王国を再起させたいと思いながら、目の前で起きる悲惨な現実を見る勇気がなかった。あれが、あの悲惨な彼女の姿こそが、これから君が立ち向かう敵の正体であり、負けた時の君自身だ」
「負けた時の私……」

 もし、サハランが自分だったら。そう思うと胸が急に苦しくなり、動悸が激しくなる。兵士に負ければどんな辱めを受けるかわからない。死ぬ方がいいと思えるほどの苦痛かもしれない。民は今もそのようなことをさせられているかもしれない。
 救わなきゃいけない。再び王国に旗を掲げなきゃいけない。でも、失敗したらと想像すると体が動かない。ミーアはその場に膝をついた。

「負けた者はすべての権利が奪われる。君は、自分の母親がどうなったか知っているか?」
「……殺されたと」
「そうだ。城から民やジャクボウの兵士、スバラシアの兵士達に見えるように、生首を剣に刺され、死んでもなお辱めを受けた。もしそれを目の当たりにしていたなら、君は黄金の槍をいまよりも使いこなせていただろう。兵士たちが目の前で殺されるのを見たならば、民が殺される姿を見ていたならば、槍を使い女王と共に逃げられたかもしれない」
「私はなにも見えていなかった……。ただ王国の再起のためだけに強くなろうとしていた。力はついた。でも、精神はまだあの時のままなんだ……」

 王国が燃え盛る光景を見た時、強い覚悟を決めたはずだった。だからこそ、三騎士の力を借り修行してきた。しかし、次第に薄れていく危機感。あの時の感情を保つことができない。いずれは、いずれはと頭の中で唱え続け、明確なことを何一つ考えず理想にすがり自分が進んでいると思っていた。それもこれも、仮初だったのだ。

「店主のサハランは俺に言った。こんなことはもう両手で数えられないほどやられていると。慣れようと努力したが、やられるたびに涙が溢れるとな。自分の弱さと不甲斐なさが嫌いになるって」
「……同じだ。私もその思いで強くなろうとした」
「彼女は強くなる時間さえなかった。渦中に落とされた人間にはチャンスがないんだ。君は、あの現実を目にして、今でもなお人を殺すためではなく、守るためにその槍を握るというのなら、奴らと戦う覚悟を今ここでしろ。無理なら立ち去れ」
「私は……私は……」

 その時、別の兵士たちが二人の声を聞きつけやって来た。

「おっと、客人ですか。ここの店主はどちらへ?」
「奥で休んでる」
「客人がいるのに休んでいるとは、我々の管理が行き届いていないようですね。すぐに注意しますのでお二人は別のお店にでも」

 ミーアはゆっくりと立ち上がる。 
 槍を包む布の紐をほどき黄金の槍を取り出した。

「許さない……」
「いま、なんと?」
「あなたたちを許さない! お姉さんをあんな目に合わせておいて、今もなお平和な町だと言い張るつもりか!」
「……どうやら、真実を知ったようですね。ならば、このまま帰れると思わないことだ」

 兵士は殺気立った目で剣、もう一人は槍を構えた。
 一瞬脳裏をよぎる敗北の恐怖。負ければサハランのようになる。だが、戦い勝利しなければサハランのような人を増やし続ける。

「お母様、私に勇気を!」

 黄金の槍が今までにない強い光を放つ。

「派手な槍で威圧したって無駄だ」
「私はミーアよ! スバラシア王国の姫であり、女王になる存在!」
「王国の生き残りかッ! あの女のように生首に、いや、それ以上の末路を辿らせてやる!」

 一斉に襲い掛かる二人の兵士。ミーアは槍を一気に突いた。閃光が放たれ兵士の一人は凄まじい勢いで壁に叩きつけられる。腹部を刺されたというのに貫通はせず、刺されたのと同様の痛みが兵士の体を襲った。

「私の槍は殺すためじゃない。守るための槍よ!」
「生きているなら何度だって戦えるじゃないか。そんな甘っちょろい理想で我々に勝とうなどと!!」
「理想の先に未来を描く!」

 黄金の槍は兵士の心臓を突いた。壁に叩きつけられた兵士は悶えることなく床へと落ちる。

「こ……殺してしまったの……?」
「違う。気絶させたんだ。強烈な痛みでな」
「殺さずに済むのね」
「君次第だ。殺そうと思えば殺せる。漆黒の槍は相手を殺すつもりなら確実に相手の急所を穿つ。鎧があろうとな。逆に、急所を外そうと思えばどれだけ強烈に当たっても殺さずに済む。君の槍も君次第で戦い方を変えられる」
「殺すも生かすも私次第……」

 音を聞きつけて奥の部屋からサハランが出てきた。

「何かあったの?」
「え、いや。その」

 痛みに悶える兵士と気絶している兵士の姿を見てサハランは突如嘔吐した。恐怖が再び体を支配しさっきの出来事を思い起こさせたのだ。ウィークはすかさず近寄り背中をさする。

「はぁ……。あなたたちが?」
「この子がやった。二人ともな」
「ありがとう。でも、あなたたちこれからどうするつもり? 兵士たちはいずれ巡回でやってくる。一人ずつ倒していくつもり?」
「夜を待ちます。昼間だと町の人たちに迷惑をかけちゃうから。それに、夜なら巡回が手薄だと思うし、一度に相手する兵士を減らせるはず」
「敗北すればどうなるかわかってるな」
「わかってる。それでもやる。恐怖から目を反らしたもっと怖くなるから」
「なら、夜まで別行動だ」

 そういうとウィークは兵士を一人ずつその漆黒の槍で貫いた。さらに、禍々しい黒い光を死んだ兵士たちに浴びせると体は完全に消滅した。

「な、なにをやっているのッ!!!」
「いずれ兵士は目覚めてこのことを伝える。そうなればどこにも隠れられない。俺らは顔を見られたんだからな。この店を閉めておとなしくしておけ」

 ミーアは店を出ようとしたウィークの腕を掴んだ。

「なぜそうまでして殺すことに躊躇がないの! なぜ許すことができないのよ!」
「殺す覚悟がなければ戦いは終わらない。女王が死んだことで戦いが終わったことを忘れたか」
「でも、殺さずとも相手が白旗を上げればそれで終わることでしょ!」
「違うな。それは新たな不安の種になるだけだ。報復を恐れ戦力を強化し、その様子を見た他国が攻めてくる。いずれ白旗を上げた国が逆襲するかもしれない」
「わからない可能性ばかりを追ってしまってはこの世界から人がいなくなるでしょう」
「君もいずれわかるさ。ジャクボウ王国の王を目の前にし、自身の母を奪われたことを思い出せばな」

 そういうとウィークは去っていった。
 ミーアは落胆した。少しでもウィークが殺しに対して考えを改めてくれると期待していたのだ。

「ねぇ、今は休みましょう。私たちにできることは今はないわ」
「……そうですね」

 深夜には戦いが始まる。
 ミーアは一度体を休めるために眠ることにした。
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