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CHAPTER Ⅰ
第24話 都市防衛戦争②
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『敵撃破数10000! 10000体を討伐しました!! で、ですが敵の距離は0です! 防壁に辿り着かれました!!』
「ここからが本番だな」
防衛隊員の報告に大河内が独り言を言う。
この都市の人口はおよそ20万。その内、非戦闘員は18万を越える。そして、大河内はこのような大侵攻の際は防壁内の戦闘も想定していた。
非戦闘員は非常時に備えてシェルターに避難していた。これも9年前の教訓を生かして建設されていた。
シェルターは都市の中心部にあり、魔術によって作られた強固な壁と莫大に貯蔵された魔素によって守られていた。そう簡単にはこの防衛は崩せない。
「総員! 第二次防衛ラインへ退避! 防衛システムを全砲発射!」
「……そして、山崎班、討伐を頼んだぞ」
『了解です』
激しい爆撃が続く中、司令タイプグールの討伐任務を背負った精鋭たちが防壁の外へ出た。
隊員達もバカ正直に門から正面に出た訳ではなく、秘密裏に作られた地下道から大規模群体の裏へ出た。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「行くぞ!」
壁の中の外縁部では菅原がオレたちを先導していた。
第二次防衛ラインは、外縁部にそって造成された第二の防壁とも呼べる場所だ。
既存の建物などを利用して作られている。外縁部周辺には都市の住民は住んでいない。もちろんこのような事態を想定してのことだ。
都市の生産員など、一般の住人の住居は、第二次防衛ラインのさらに内側に存在する。
防壁の防衛システムが次々に破壊されていくのを遠目に見ながら、オレたちは次の配置についた。
『敵撃破数12000! 距離は-30!』
防衛隊員の報告が逐一耳に入ってくる。
(壁の内側はマイナスっていうのか、それに敵は市長の予想通りなら半分は倒したってことか! だけどまだ全然残っている!)
第二次防衛ラインにおいても激しい攻撃が続く。
オレも無心になってグールを殲滅していく。
『当初確認できた敵の総数は12000、現在の総数は?』
インカムから大河内がグールの残数を確認する声が聞こえた。
『……およそ3000! ですが、撃破数が増えても敵総数が減りません! 点滅型グールが次々に交戦に参加しているものと思われます!」
「そうか、了解した……」
オレは大河内の声に少しだけ不安を感じた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
どのくらいの時間が経ったか、もう分からない。
オレたちは本当に必死に戦っていた。
そしてとうとう第二次防衛ラインの足元、すぐそこにまでグールの群れは迫っていた。
『敵撃破数、18000! 距離は-450! 西側の第二次防衛ラインが突破されました!!』
(え!! どこかの壁が破られたのか!?)
『敵総数はどうだ?』
大河内は冷静に敵の数を確認した。
『依然、3000のままです!』
『くっ、ここまでの攻勢とは……!』
大河内が歯を食いしばる。
『もう、仕方ない。全隊員に通達! 第二次防衛ラインを廃棄! 第三次防衛ラインまで後退だ!!』
(ぼ、防衛ラインを廃棄? でもそんなことをしたら……)
『りょ、了解です!』
各地から了解の声が届いていた。
第三次防衛ライン、それは市民の居住区の内側にある。つまり、市民の住む場所、住居を戦場にさらし、失うことを意味していた。
大河内は第二次防衛ラインまでで敵を殲滅するつもりだった。誤算は、上級グールの数、点滅型グールの不確定数が予想よりも多いことだった。
オレたちはあらかじめ用意されたホバークラフトに乗り、移動をしていた。
みんな疲労困憊で、回復薬と呼ばれる失った魔素の補充薬を飲んで項垂れていた。
「かなり、厳しいな……この先はどうなるか…」
オレは強化された聴覚で菅原の小さな独り言を聞いた。
(そんなにヤバいのか……だけど、まだ負けたわけじゃないよな……)
オレたちはグールの群れに蹂躙される都市を見ながら、これからの戦いに備えた。
「少しの間、休憩だ……」
菅原がオレたちに声を絞り出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『敵撃破数、21000! 距離は-2300! 市長! もう敵はすぐそこです!』
『ああ、見えている! だが、焦るな。まだ負けたわけじゃない!』
大河内は弱気になり悲鳴のように声をあげている隊員を、通信装置越しに叱咤した。
市長室の窓からはすでに激しい戦闘が肉眼でも確認できていた。
「くっ、2キロ以上も侵攻されたか……!」
大河内も立ち上がって眼下の戦闘を見守っている。
『山崎班からは何か報告はあるか!』
『応答ありません! おそらく点滅型の影響により、遠距離通信が制限されていると思われます!』
「急いでくれよ……」
大河内から祈るような声が漏れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「撃て撃て撃てェ!!」
ドドドドン!!!
第三次防衛ライン、そこは都市中心部の外側にあり、ここを越えると都市の中枢と市民の避難シェルターがある。
隊員達ももう後が無いことはみんなが分かっていて、決死と言ってもいい程の攻勢を見せていた。
だが、次から次へとグールが殺到してきてもうこの防衛ラインもいつ崩れてもおかしくはない。
『敵撃破数24000! 距離は-4000です!』
「20000なんてとっくに過ぎてるじゃないか!」
誰かが愚痴を溢す。
そこかしこでグールからの攻撃の光と爆音が響く。
「ためだ! ここも突破される!」
ドン!
さらに弱音を吐いた隊員が吹き飛ばされる。
「うおおお!」
防衛ラインの一部が突破された。
グール達がどんどん中心部に雪崩れ込んでいく。
「南側の第三次防衛ラインが突破されました!……東側もです! やられました!!」
『くそ! 仕方ない! 第三次防衛ラインを廃棄! 都市の中心部でゲリラ戦闘に移行しろ!』
「えっ??」
『急げ!』
「りょ、了解!」
オレは大河内の指示を戸惑いながらも飲み込んだ。
「聞こえたか、みんな! 移動するぞ! ここももうヤバいぞ!」
菅原がC級グールを撃ち倒しながら言った。
「ゲリラ戦って……!?」
「もう中心部の建物とかに各自隠れながら戦うしかないってことだ! 早く行くぞ!」
「わ、分かりました!」
(ヤバいヤバいヤバい!)
どんどんグール達が近付いて来る。オレたちは持ち場を離れ、市長たちのいる中央の建物付近に隠れた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
もう誰も声を出すこともできない。
時折現れるグールは、気付いた者が討伐していた。
辺りはもう真っ暗だ。
「敵撃破数は28000を越えました! 距離は測定不能! 中心部ビルにも侵入されています! 避難シェルターはまだ何とか持っています!」
「まさか、ここまで大群とは……」
菅原ももう息絶え絶えといった様相だ。
「山崎さんたちはどうなったんでしょう……?」
オレは誰もが気にしているであろう疑問を口にした。
「……それは分かれば報告が来るだろう」
そしてゲリラ戦闘を始めた少し後に、オレたちが心待ちにしていた報告が聞こえた。
『みんな! 聞いてくれ! 山崎がやってくれた! 目標を討伐! 繰り返す! 目標の討伐に成功した!!』
大河内の明るい声が響いた。
大河内の通信装置の出力は強力で、都市中心部付近であれば、各所に散らばった隊員たちのインカムへの通信が可能だった。
「何! ついにか!!」
菅原も思わず立ち上がった。
『だが! 喜ぶのはまだだ! 山崎たちが目標を討伐任務したのは約3時間前! その後も敵の攻勢はずっと続いている!』
「な……!?」
『彼らの予測だと、司令タイプはもう1体いる!』
「もう1体……」
『防衛壁外のグールはすでに攻撃を中止した! 現在攻勢に出ているグールは都市で中心部付近のみだ!』
(それって……)
『もう1体は都市中心部付近にいる! 探し出してくれ! 誰でもいい! そいつを倒せば私たちの勝利だ!』
まだ親玉が残っている。だが勝利がもう近いことをみんなが感じていた。
もう1体の司令型グール。それが最後の関門だ。
「ここからが本番だな」
防衛隊員の報告に大河内が独り言を言う。
この都市の人口はおよそ20万。その内、非戦闘員は18万を越える。そして、大河内はこのような大侵攻の際は防壁内の戦闘も想定していた。
非戦闘員は非常時に備えてシェルターに避難していた。これも9年前の教訓を生かして建設されていた。
シェルターは都市の中心部にあり、魔術によって作られた強固な壁と莫大に貯蔵された魔素によって守られていた。そう簡単にはこの防衛は崩せない。
「総員! 第二次防衛ラインへ退避! 防衛システムを全砲発射!」
「……そして、山崎班、討伐を頼んだぞ」
『了解です』
激しい爆撃が続く中、司令タイプグールの討伐任務を背負った精鋭たちが防壁の外へ出た。
隊員達もバカ正直に門から正面に出た訳ではなく、秘密裏に作られた地下道から大規模群体の裏へ出た。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「行くぞ!」
壁の中の外縁部では菅原がオレたちを先導していた。
第二次防衛ラインは、外縁部にそって造成された第二の防壁とも呼べる場所だ。
既存の建物などを利用して作られている。外縁部周辺には都市の住民は住んでいない。もちろんこのような事態を想定してのことだ。
都市の生産員など、一般の住人の住居は、第二次防衛ラインのさらに内側に存在する。
防壁の防衛システムが次々に破壊されていくのを遠目に見ながら、オレたちは次の配置についた。
『敵撃破数12000! 距離は-30!』
防衛隊員の報告が逐一耳に入ってくる。
(壁の内側はマイナスっていうのか、それに敵は市長の予想通りなら半分は倒したってことか! だけどまだ全然残っている!)
第二次防衛ラインにおいても激しい攻撃が続く。
オレも無心になってグールを殲滅していく。
『当初確認できた敵の総数は12000、現在の総数は?』
インカムから大河内がグールの残数を確認する声が聞こえた。
『……およそ3000! ですが、撃破数が増えても敵総数が減りません! 点滅型グールが次々に交戦に参加しているものと思われます!」
「そうか、了解した……」
オレは大河内の声に少しだけ不安を感じた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
どのくらいの時間が経ったか、もう分からない。
オレたちは本当に必死に戦っていた。
そしてとうとう第二次防衛ラインの足元、すぐそこにまでグールの群れは迫っていた。
『敵撃破数、18000! 距離は-450! 西側の第二次防衛ラインが突破されました!!』
(え!! どこかの壁が破られたのか!?)
『敵総数はどうだ?』
大河内は冷静に敵の数を確認した。
『依然、3000のままです!』
『くっ、ここまでの攻勢とは……!』
大河内が歯を食いしばる。
『もう、仕方ない。全隊員に通達! 第二次防衛ラインを廃棄! 第三次防衛ラインまで後退だ!!』
(ぼ、防衛ラインを廃棄? でもそんなことをしたら……)
『りょ、了解です!』
各地から了解の声が届いていた。
第三次防衛ライン、それは市民の居住区の内側にある。つまり、市民の住む場所、住居を戦場にさらし、失うことを意味していた。
大河内は第二次防衛ラインまでで敵を殲滅するつもりだった。誤算は、上級グールの数、点滅型グールの不確定数が予想よりも多いことだった。
オレたちはあらかじめ用意されたホバークラフトに乗り、移動をしていた。
みんな疲労困憊で、回復薬と呼ばれる失った魔素の補充薬を飲んで項垂れていた。
「かなり、厳しいな……この先はどうなるか…」
オレは強化された聴覚で菅原の小さな独り言を聞いた。
(そんなにヤバいのか……だけど、まだ負けたわけじゃないよな……)
オレたちはグールの群れに蹂躙される都市を見ながら、これからの戦いに備えた。
「少しの間、休憩だ……」
菅原がオレたちに声を絞り出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『敵撃破数、21000! 距離は-2300! 市長! もう敵はすぐそこです!』
『ああ、見えている! だが、焦るな。まだ負けたわけじゃない!』
大河内は弱気になり悲鳴のように声をあげている隊員を、通信装置越しに叱咤した。
市長室の窓からはすでに激しい戦闘が肉眼でも確認できていた。
「くっ、2キロ以上も侵攻されたか……!」
大河内も立ち上がって眼下の戦闘を見守っている。
『山崎班からは何か報告はあるか!』
『応答ありません! おそらく点滅型の影響により、遠距離通信が制限されていると思われます!』
「急いでくれよ……」
大河内から祈るような声が漏れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「撃て撃て撃てェ!!」
ドドドドン!!!
第三次防衛ライン、そこは都市中心部の外側にあり、ここを越えると都市の中枢と市民の避難シェルターがある。
隊員達ももう後が無いことはみんなが分かっていて、決死と言ってもいい程の攻勢を見せていた。
だが、次から次へとグールが殺到してきてもうこの防衛ラインもいつ崩れてもおかしくはない。
『敵撃破数24000! 距離は-4000です!』
「20000なんてとっくに過ぎてるじゃないか!」
誰かが愚痴を溢す。
そこかしこでグールからの攻撃の光と爆音が響く。
「ためだ! ここも突破される!」
ドン!
さらに弱音を吐いた隊員が吹き飛ばされる。
「うおおお!」
防衛ラインの一部が突破された。
グール達がどんどん中心部に雪崩れ込んでいく。
「南側の第三次防衛ラインが突破されました!……東側もです! やられました!!」
『くそ! 仕方ない! 第三次防衛ラインを廃棄! 都市の中心部でゲリラ戦闘に移行しろ!』
「えっ??」
『急げ!』
「りょ、了解!」
オレは大河内の指示を戸惑いながらも飲み込んだ。
「聞こえたか、みんな! 移動するぞ! ここももうヤバいぞ!」
菅原がC級グールを撃ち倒しながら言った。
「ゲリラ戦って……!?」
「もう中心部の建物とかに各自隠れながら戦うしかないってことだ! 早く行くぞ!」
「わ、分かりました!」
(ヤバいヤバいヤバい!)
どんどんグール達が近付いて来る。オレたちは持ち場を離れ、市長たちのいる中央の建物付近に隠れた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
もう誰も声を出すこともできない。
時折現れるグールは、気付いた者が討伐していた。
辺りはもう真っ暗だ。
「敵撃破数は28000を越えました! 距離は測定不能! 中心部ビルにも侵入されています! 避難シェルターはまだ何とか持っています!」
「まさか、ここまで大群とは……」
菅原ももう息絶え絶えといった様相だ。
「山崎さんたちはどうなったんでしょう……?」
オレは誰もが気にしているであろう疑問を口にした。
「……それは分かれば報告が来るだろう」
そしてゲリラ戦闘を始めた少し後に、オレたちが心待ちにしていた報告が聞こえた。
『みんな! 聞いてくれ! 山崎がやってくれた! 目標を討伐! 繰り返す! 目標の討伐に成功した!!』
大河内の明るい声が響いた。
大河内の通信装置の出力は強力で、都市中心部付近であれば、各所に散らばった隊員たちのインカムへの通信が可能だった。
「何! ついにか!!」
菅原も思わず立ち上がった。
『だが! 喜ぶのはまだだ! 山崎たちが目標を討伐任務したのは約3時間前! その後も敵の攻勢はずっと続いている!』
「な……!?」
『彼らの予測だと、司令タイプはもう1体いる!』
「もう1体……」
『防衛壁外のグールはすでに攻撃を中止した! 現在攻勢に出ているグールは都市で中心部付近のみだ!』
(それって……)
『もう1体は都市中心部付近にいる! 探し出してくれ! 誰でもいい! そいつを倒せば私たちの勝利だ!』
まだ親玉が残っている。だが勝利がもう近いことをみんなが感じていた。
もう1体の司令型グール。それが最後の関門だ。
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