グールムーンワールド

神坂 セイ

文字の大きさ
40 / 264
CHAPTER Ⅰ

第40話 セイヤとモモ

しおりを挟む
「え、S級……?」

 オレは戸惑いが隠せなかった。
 何故なら、目の前の少女はまだあどけなさも残り、上背も小さい女の子だったからだ。大型のグールを軽々と倒す姿の想像がつかない。
 実際のところ彼女はその有り余る魔素量と類い稀な魔素操作能力を活かした大魔術師であり、ついさっきその実力は見たばかりなのだが。

「あなた、階級は?」

「え、オレ? C+だけど……」

「……」

 吻野がオレをゴミでも見るような目で見ている。
 C級ごときが何を喋っているんだ、とか思っていそうだ。こんな若い女の子にこんな目で見られたことはない。 変にドキドキしてしまう。

「す、すみません! こいつはまだ地方から来たばかりで! まだ何も分かってないんです! オレからよく言っておきますので!」

 御美苗が必死に謝罪を始めた。

(ええ?そんなに怒らせたらまずいのかな?)

 オレはそんなに下手に出なくてもいいのにと思う。

「いや、済まない。彼の所属している班長のオレからも非礼を謝る。申し訳なかった」

 セイヤもすっと謝りを入れてくれた。
 吻野がセイヤをじっと見る。

「……あなたは?」

「オレか? オレは新ツクバ都市から来た結城班班長の結城セイヤと言う。階級はA-だ。吻野隊員、あなたのように美しく、強い隊員と会えたことを光栄に思う」

「美しい……?」

(や、やばいんじゃ? そんなこと言ったら)

「そう、まあいいわ」

(あれ? 気持ち悪いのよ! とか言って怒るかと思った……)

「それで、結城さん? あなたはどこの支部に所属しているの?」

「ああ、オレも北部支部だ。現在はこちらの御美苗班と合同で任務にあたっているんだ」

「そう、あなたは地方から来たと言ったけど、中央本部は目指しているの?」

「もちろんだ。だから君の様に若くして中央でも先頭に立つような才能溢れる人物には尊敬の念を禁じ得ない。うちの班員の非礼を恥じるばかりだ」

(きんじえないってなんだよ? 初めて聞いたぞ)

「尊敬……」

「ああ、吻野隊員、オレは……」

「モモでいいわ」

「なに?」

「わたしのことはモモと呼んで」

「ああ、わかった。モモ隊員」

 その時。
 吻野がニコッと少し笑った。

(こ、これは!!?)

 オレは100年前の時代では、高校、大学と進学していたが、たまにこういうことを見ることがあった。
 つまり、イケメンは無条件に女子に好感を持たれる……!
 今まではオレはこの時代で生き残ることとかに必死で忘れかけていた感情が蘇ってきた。
 嫉妬と、理不尽さに対する怒りだ。

「ちょっ、いくらセイヤがカッコいいからって、態度変えすぎだろ!」

「ばっ、お前!やめろ!」

 御美苗がまた焦ってオレを制止する。
 御美苗班の面々もかなり慌てている。

(いくら強いからって、こんな女の子にビクビクしすぎだろ!)

「……あなたは、本当にバカなのね」

「は?」

 吻野がオレに手を掲げた。

二重帝級風嵐球ダイテラストームボール

ドンドオン!

 オレは吻野に軽く30メートルは空を泳がさせ、気を失った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「はっ!」

 目が覚めると、兵宿舎の治療室にいた。
 千城との戦いの後もお世話になった場所だ。

「オレは、あの女の子に吹き飛ばされて……」

 どうやら吻野に攻撃を受けて、誰かにここまで運んでもらったらしい。

「目が覚めましたか、佐々木さん」

 ふと横を見ると、ユウナ、アオイ、セイヤが座っていた。
 
 ユウナがオレに治癒魔術を掛けてくれていて、その様子を2人が見てくれていたようだ。みんなオレを見る目がこころなしか冷たい気がする。

「み、みんな……」

「セイ、キミは目上の人に対する態度を学んだ方がいい」

「えっ?」

 目を覚まして早々に、セイヤがオレに非難の言葉をかけた。

「そうですよ、いくら吻野さんが若い女性だからって、あの態度は良くないですよ」

(そんな、ユ、ユウナまで……)

「佐々木、お前ちょっと調子こきすぎだよ。私らは見た目は関係ねーんだぞ」

(アオイ……)

「ぐっ、で、でもあんなオレたちを、バカにする態度を取って黙っていられないだろ」

 オレはみんなに起き抜けに注意を受けて、やや意地になってしまう。

「セイ、勘違いするな。モモ隊員はS級隊員だ。彼女はオレたちの上官にあたる。態度が大きいのは当たり前だし、別に彼女はオレたちをバカにしていたわけじゃない」

 セイヤがオレの反論を軽くいなした。

「い、いや、しかし」

「しかしじゃない。いいか。セイ、彼女はグールの殲滅任務を果たしていただけだ。君が気を失った後、我々の後方にグールの大群が現れてな。モモ隊員はすでにそれを感知していて、迎撃のためにオレたちの前に現れたんだ」

(え? 大群?)

「……」

「数はC級が500だ」

「500!?」

(オレが気を失った後にそんなことが?)

「ああ、だがモモ隊員のお陰で、早急に殲滅することができた。君はただ寝てただけだ」

「そうそう」

 アオイも相槌を入れる。
 アオイはオレを責めるときは何故か生き生きしている気がする。

「それは! あいつがオレを攻撃したからで……」

「佐々木さん、あのまま一緒に戦ったら吻野さんの指示をきちんと聞けましたか? 連携を失敗して命を失うくらいなら少々痛い思いをさせても退場してもらう、それが吻野さんのやり方らしいです」

「少々って……」

「確かに、かなり強力な魔術を使っていましたし、今までも同じことを何度もしてきたそうです。少しやりすぎな感じはあります。吻野さんは今までに同じ理由で隊員を何人も吹き飛ばしているそうです。御美苗さんたちが焦っていたのはいつ自分たちが足手まといと判断されて攻撃されるか分からなかったからみたいですね」

「……」

「吻野さんにやられて討伐隊員を引退した人も何人もいるみたいなんですが、みんな今はそれぞれの役目を立派に果たしているそうですよ。結局は自分は討伐隊員に向いてないと気付いたきっかけになったと、感謝している人も多いそうです」

(いや……そう言われても……)

「まあ、いきなりそんな事言われても訳わかんねーよな。佐々木からしたらいきなり吹き飛ばされた訳だし」

 ここで何故かアオイがオレのフォローに回った。さすがに3人全員でオレを責めるのは不憫とでも思ったのかもしれない。

「あ、ああ」

「今日はゆっくり休んで任務報告書を見ろよ。吻野さんの凄さはわかると思うよ」

 珍しくアオイがオレに諭すように話をして、オレのベッドに書類を一部置いた。

「……分かったよ。正直納得はできてないけど。少し頭を冷やしてみるよ……」

「ああ、そうしてくれ」

 セイヤがそう言い、席を立った。
 
 オレは皆がいなくなった後、任務報告書を手に取った。
オレたちにグールの大群が迫っていることを早々に気付き、危険を感じ援護に来てくれたと記載されていた。
 その後の戦闘においても、結城班、御美苗班を強力に援護しつつ、大群を葬ったことも書いてあった。
 そして小さく、反抗的な態度を取った隊員を作戦に参加させなかった旨の記述を見つけ、その理由がオレの保護の為ということが分かった。

 任務報告書というものは、各隊員の隊服や索敵装置、各種装備に備わっている装置から吸い上げられた情報とも照らし合わせ作成されているもので、そこに虚偽はないものらしい。

 オレは彼女が早急にグールに攻撃を開始するため、無駄な時間を省くため、反抗的なオレの事を気絶させたのだと理解した。

「やっぱり、S級ってのは凄いんだな……」

 彼女は見た目がかなり若く見えることもあって、舐められないようにああいった態度を取っていただけだろう。

 オレは自分の軽率な能動を恥じ、深く賛成した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。

wakaba1890
ファンタジー
召喚獣。 それは向こう側とされる所から、10歳を迎えた日本人の子供の下に召喚されるモンスターのことである。 初代天皇・神武天皇が日本を建国した際に書かれた絵画には彼は金鵄と呼ばれる金色に輝く鵄(とび)と契約したのが原初となっている。 そして、縄文、弥生、古墳、飛鳥、平安、戦国時代から近代から今に至るまで、時代を動かしてきた人物の側には確かに召喚獣は介在していた。 また、奇妙な事に、日本国に限り、齢10歳を迎えた日本在住の日本人にのみ体のどこかから多種多様な紋章が発現し、当人が念じると任意の場所から召喚陣が現れ、人ならざるモンスターを召喚される。 そして、彼らモンスターは主人である当人や心を許した者に対して忠実であった。 そのため、古来の日本から、彼ら召喚獣は農耕、治水、土木、科学技術、エネルギー、政治、経済、金融、戦争など国家の基盤となる柱から、ありとあらゆる分野において、今日に至るまで日本国とアジアの繁栄に寄与してきた。 そして、建国から今まで、国益の基盤たる彼ら数万種類以上をも及ぶ召喚獣を取り締まり管理し、2600年以上と脈々と受け継がれてきた名誉ある国家職がーーーーー国家召喚獣管理官である。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

処理中です...