グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅰ

第53話 S級グール⑤

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 S級グールという存在はA級以下とは全く違う。

 下位のグールは、魔素を操ったりなんかはしないし、グールの死体を利用した搦め手なんかでは攻めてこない。
 ただ、その強大な肉体と魔素を使って直線的に攻撃をしてくるだけだ。A級の中でも司令型などの知能が高めのものはある程度の作戦めいた行動はするが、今相手にしているこいつはまるで別物だった。
 数多くの配下と自身の特殊能力を最大限に利用して今の状況を作り上げている。

 S級グールがオレたちの前に姿を見せたのは、こちらがかなり疲弊した後であり、オレたちは万全な状態とは程遠い。
 そしてそれは、中井、一ノ瀬のA級部隊についても同じだ。巨大なグールを10体以上も倒した彼らも消耗は激しいはすだ。あの巨人は手強いというよりもその大きさを崩しきるのに力を使う。それもグールの作戦の内なのだろう。
 今なら狩れる。そう思ったからこそ姿を現したのだろう。
 もう何とか耐え凌いで時間を稼ぐしかない。
 吻野の復活まで耐えるしかない。

 オレはそう思っていた。

「おおお!!」

 一ノ瀬がS級の位置を感知しながら、拳を連発して、光弾を打ち続けた。

帝級火炎槍テラフレイムランス!」
二重帝級雷電槍ダイテラサンダーランス!!」
帝級風嵐土岩槍テラストームストーンランス!!!」

 中井も上級の魔術を立て続けにグールにぶつけていく。とてつもない攻撃だ。

ドドドド!!

(うわわわ!!)

 オレはA級部隊の激しい攻撃に目を見張った。

 疲労などはまるで感じさせない激しい攻撃の連続で、しかも動きまわるS級を感知して狙ってもいるようで、無駄撃ちなどもほとんどしていないようだ。

 オレはこれならもうグールを倒してしまったんじゃないかと感じる程の攻勢だった。

「はあ、はあ、はあ。まずはこれで先制!」

「はあ、はあ。イチハ。まだだよ。王級障壁ギガシールド!」

 中井が突然強力なバリアを張ると土埃の向こうから光弾が何発も飛んで来た。

ドン!ドン!ドン!

「ぐううう!」

 中井がなんとか攻撃を受けきると、バリアが砕け散った。

「イチハ!」

「おお!」

 中井の声で、既に攻撃の準備をしていた一ノ瀬が脚を振るって、光の刃を打ち出した。
 
ドオオン!!

「よし! 当たった!」

「イチハ! 休ませるな! まだ動いてる! 帝級雷電槍テラサンダーランス!」

「わかった! おおお!」

ドン!ドオン!

 凄い攻撃の連続だ。巨人グールならもう4、5体は地面に粉々なって倒れているだろう。
 これが中央の任務を任せられる部隊の実力なのだと、オレは倒れたまま戦慄していた。

「う、打ち止めだ……!」

「はあ、はあ、はあ。僕もだ……」

 どうやらさすがのA級部隊の2人もとうとう限界のようだ。
 急いで体力と魔素の回復を計っている。

 だが、オレはいい加減さすがにもうS級は倒したんじゃないかと考えていた。

ぞくり。

 だが、S級の気配はまだ健在だと、オレの感知能力が教えていた。

「う、上にいます!」

 オレが叫ぶと、上空から無数の光弾が一ノ瀬と中井を襲った。

「うおおおおお!!!」

 2人とも何か技を出して敵の攻撃を相殺しようとしていたが、雨のような密度のグールの攻撃に飲み込まれてしまった。

 だが、さすがA級部隊の2人はそれでやられたわけではないようで、戦塵の中から未だ戦闘の音が響いている。
 グールの攻撃をできる限り受け流し、即座にS級に応戦、攻撃をしている。
 やがて2人の姿が見えてきた。

(そ、そんな……!)

 満身創痍。その言葉通りの重傷だ。
 2人とも血を流しながら必死にグールに食らいついていた。
 どう見てもギリギリだ。
 だが、相対するS級グールもそれなりのダメージは受けているように見える。
 白い体もかなり血に染まって、最初程の攻撃の勢いは無いかのように感じる。

 オレは腕時計のストップウォッチを見ると、吻野が必ず復活すると宣言した時間までは後11分になっていた。

(これは……持つのか……!? いや、いや! オレたちで持たすんだ!!)

 オレもようやく立ち上がることができ、銃を構えた。
 そのオレの横を何発もの銃弾が通りすぎていき、S級グールに直撃した。

ガガガガ!!

 グールもたまらず悲鳴を上げている。

 そのままさらに何十という弾丸が飛んできているが、今度はほとんどはガードされてしまったようだ。
 そして、その間に一ノ瀬と中井はグールから距離を取り、体勢を立て直している。

「班長!」

 一ノ瀬の言葉でオレが振り替えると、そこには東がいた。

「向こうは千城さんに押し付けてきた。このグールはさすがに厳しそうだ。オレたちでS級を狩るぞ」

(お、押し付けてきたって……!)

 遠目に見てみると、千城は10体近い巨人に囲まれているようだ。 あちらはあちらでかなり危険な状況だ。

「おい、お前らは千城さんの応援に向かえ」

 突然、東がオレに話し掛けてきた。

「えっ! いや、しかし!」

「いいから従え。お前らはまだこいつの相手は早い。オレたちがS級を押さえて、お前らが千城さんを援護して憂いを無くせ。その内に吻野さんが復活するだろう」

(た、確かに真っ当な意見に感じるな……、でもみんな無事なのか……?)

 オレはあたりの気配を探ると、みんながこちらへ移動している気配を感じた。
 みんな無事なようで少し安心した。

「いいな。任せたぞ」

ドン!

 東はそう言い残すと何発もの銃弾を放ちながらグールに向かっていった。

 東の激しい銃撃が加わることでグールも思うように攻撃を当てられないようだ。
 グールが一ノ瀬や中井を狙おうと一瞬のタメをするために動きを止めると、即座に何発もの銃弾が突き刺さっていた。
 グールは身体の周りにバリアを展開しているので致命傷には程遠いが態勢を崩す。その一瞬で一ノ瀬と中井はグールに攻撃を放ったり、距離を取り直したり出来ている。

(これなら確かにあの人たちだけでもS級を討伐できるかも……!) 

「佐々木くん!」

 オレのそばに御美苗を抱えた北岡がやって来た。

「北岡さん! 御美苗さんは無事ですか!?」

「ええ、なんとか……、今治療中よ」

 御美苗はぐったりしているが、意識はあるようだ。

「ぐっ、佐々木も無事だったか……、千城支部長の応援に向かうんだな……? 急ごう……」

 御美苗がそう言うが、まだとてもじゃないが無理そうだ。とても戦える状態ではないだろう。
 そして、ユウナとセイヤを抱えたアオイ、須田を抱えた阪本の姿が見えた。  

「よかった! みんな!」

 オレは皆が吹き飛ばされたのを目の当たりにしていただけに、こうして皆の姿を見れてほっと胸を撫で下ろしていた。

「いや、よくはねーよ。今すぐに動けるのは私と佐々木、それに阪本さんだけだ。ユウナと北岡さんに治療は任せて、私ら3人だけ千城支部長のところへ向かうぞ!」

 アオイの言葉に皆が頷いた。
 早くしないと大量の巨人グールに囲まれている千城も危ない。

「よし、オレたちにやれることをやろう! 行くぞ!」

 オレはアオイ、阪本と共に千城の元へ向かった。

 東班とS級グールは、いまだ激しい戦闘を繰り広げていた。
 だが、中井、一ノ瀬のダメージはもはや深刻と言ってもいいラインに達しているようだ。
 東の強力な銃撃のおかげで敵の直接の被弾はほぼ無くなってきたが、敵の攻撃による余波や消耗を考えると決して安心はできない。

 オレは巨人グールを殲滅して、千城をなんとかこの場に連れてこないとあのS級グールに東達が耐えられないと考えていた。

 吻野が復活するまでは、あと7分だ。
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