グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅱ

第72話 100年前②

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「新オオサカ都市……? ギルドマスター……!? そんなに離れた場所ですか……」

 オレは宝条という人物はなんとなく阿倍野とは親しそうな印象を受けていた。そのため新トウキョウ都市、もしくは近隣の都市にいるものだと思っていた。

 新オオサカ都市、名前から言って関西、大阪近辺だろう。かなりの距離だ。詳しくは知らないが、4~500キロは離れているだろう。おそらく、片道で10日はかかる。

「ああ、普通に行ったら大変だろうね。でもほら、この前も使った転移装置があるから。新オオサカ都市には転移可能だよ。行きは心配しないでいいよ」

 どうやって移動しようかと悩み始めたオレに阿倍野が朗報をくれた。
 確かに新ミナトミライ都市へ行ったような転移装置があれば、一瞬で関西にいける。
 
(やった! 新幹線なんか目じゃない! 魔術文明万歳だ!)

「転移装置ですか! でも行きはって、帰りはどうすればいいんでしょうか?」

「さあ?」

「さあって……」

 一瞬で期待が裏切られた。

「まあ、佐々木くん。君は何かしらの特殊な事情を抱えているのは間違いないだろう。宝条さんに君のことを話してたら興味深々だったし、新技術の開発もある。君は戦略的にも新オオサカ都市には行って貰うよー。だけど、その後どうするかまでは面倒見切れないなー。でも宝条さんが何か対応はしてくれると思うよ」

「……」

(いや、確かに、その通りだ。全部阿倍野さん任せではいけない。オレ1人のためにみんなに迷惑はかけられない)

「セイ、それは行ってから考えよう」

「そうですね。私達がもっと強くなれば、都市間の移動も問題なくなるでしょうし。頑張りましょう」

「ああ! それに、その宝条ってギルドマスターなら技術革新を起こしてくれんだろ? ならそれを使って帰ってくればいいだろ」

 セイヤ、ユウナ、アオイがそれぞれオレと一緒に新オオサカに行ってくれると声をあげてくれた。
 みんなそれが当然だという態度だった。

 オレはかなり驚いた。
 
 オレは少しだけ、結城班とはここでお別れかもな、なんて考えが頭をよぎっていたというのに。
 
 良く考えれば、オレたちはもう何度も命を預けあっている仲間だ。セイヤ、ユウナ、アオイがどこか遠い都市に行く。そう言っても間違いなくオレも付いていくだろう。

「みんな……」

 オレは目頭が熱くなるのを感じたが、何とか堪えていた。

「当然、私も行くわ。刎野班でなら帰還も何とか出来るでしょう」

「モモさんも……」

 オレはみんなの気持ちに感極まってしまった。我慢しているが、今にも泣きそうだ。

「あー、ごめん、ちょっと待って欲しいんだけど」

 阿倍野が軽い感じでオレたちに待てをかけた。
 
(なんだ?)

「まず、新オオサカにだけど、モモは行かないでくれ」

(はあ!?)

「え!? なんでよ?」

 刎野も不満の声をあげた。

「そりゃ、海洋型グールからの防衛任務があるからだよ。新ミナトミライ都市は今回は何とかなったけど、また侵攻されるかも知れないし。他の都市への侵攻、それにここにも敵が来るかも知れないさし。S級隊員は都市から離れさせる訳にはいかないでしょ」

 吻野がかなり不機嫌な顔をしている。
 セイヤと離ればなれになるのが嫌なのだろう。

「……その場合は阿倍野さんが頑張ればいいだけなのでは?」

「モモ! ギルドマスターがいきなりでしゃばれないでしょ!」

(何か前もそんな事を言ってたな)

「まあ、このメンバーだけではいろいろと戦力不足だと思うからね、東班も同行してくれ」

「オレたちがですか?」

 ずっと後方で静かに話を聞いていた東が返事をした。

「ああ、君たちでなら年内にはこの都市に戻ってこれるでしょ」

「……」

(え? 年内って……ずいぶん想定期間が長いな……。向こうに行ったら開発が終わるまでは帰れないとかなのか……? そんな提案、東さんたちが飲んでくれる訳ないな……)

「まあ、わかりました。了解です」

 オレの心配をよそに東が事も無げに言った。

「え? 了解なんですか?」

 オレは驚いて東を見た。

「ん? まあ、な。こんな経験はめったにできないだろうし。新しい技術の為、ひいては人類の為なら、オレは別に構わんよ」

「そ、そうですか……いや、ありがとうごさいます! 本当に!」

「別に佐々木に為ではない」

(少し、照れ隠しがあるかな? でも本当にありがたいな)

 オレは心の中で東に深く感謝した。勿論、セイヤ、ユウナ、アオイ、吻野にもだ。
 
 東はオレたちを中央に推薦してくれたり、あまり口数はないがオレたちに目をかけ本当に良くしてくれる。感謝しかない。

「じゃあ、決まりだね」

 阿倍野は明るい声で手を叩いて話を続けた。

「出発は来月だ。まあ、準備や昇級試験もあるし。バタついてるからね。少し準備には時間を貰おうかな」

 阿倍野が話を切り上げようとしている。

「……分かりました。阿倍野さん、色々とありがとうございます。ただ……」

「ん? なんだい佐々木くん?」

「100年前に戻る方法は阿倍野さんは知らないということでしょうか? その、宝条さんに聞いてみろと、そう理解していいんですか?」

「……ああ。宝条さんが力になってくれる」

(何か、含みがあるな……だけど、これ以上問い詰めてやぶ蛇になっても……だけど、チャンスは今しか無いかもしれない)

「オレは、元の時代に帰る方法があれば、今すぐ知りたいんです! どうか知っていることがあれば教えて貰えないですか!?」

「……」

 阿倍野はしばらく沈黙してしまった。

(な、なんだ、やっぱり何か言えないことがあるのか?)

「……佐々木くん、君のとるべき行動には段階があると、オレはそう思うね」

「?」

「今は新オオサカ都市に向かい、宝条さんに会うべき段階だよ」

(……何を言ってるんだ?)

「まずは、強くなることだね」

「そう……、ですか。阿倍野さんの言うことはオレには正直わかりませんが……」

「大丈夫、オレを信じてよー」

「……」

(まずは、従うしかないか……)

「あ! あと、小見苗くん」

「は、はい?」

 オレを見ていた小見苗が突然名前を呼ばれて焦って返事をした。

「君たち小見苗班は、新マクハリ都市に帰還することになるわけだけど、それまでに異動試験を受けていってね」

「異動試験?」

「うん。1月に異動してもらうと思うけど。君たちは出身は新マクハリだけど、離れて久しいだろ? こういう場合、向こうでの位置付けを決める試験を行うんだ。規則の関係でね。まあ、まだ先だし正式には来月に辞令を出すよ」

「わ、分かりました。ありがとうございます!」

 小見苗班の面々は改めて喜びを噛み締めているようだ。
 ついに家族のいる故郷に帰れるのだろう。オレも嬉しく思う。

「ああ、あとは今回の論功としてだけど、S級グールの討伐賞与はタモンにあげることになったよ」

「本当ですか! 嬉しいです!」

「うん。まあ、取り巻きのグールは東班、刎野班、小見苗班の働きで討伐しているという点は別の形で賞与が与えられるから。皆も喜んでいいよ」

「別の形とは何でしょう?」

「結城くんー、君は知りたがりだね」

(うざっ)

「来月の昇級試験だよ。まあよっぽどのことがない限り、刎野班のみんなはランクアップするね」

「そう、ですか」

 セイヤは静かに答えたが、喜びを隠しきれないようだ。

「小見苗班も似たような形での賞与が与えられるし、東班は装備や施設使用権などが与えられる予定だね」

(施設使用権とかもあるのか……いろいろな恩賞がもらえるんだな)

 オレたちはその後、ひとまずギルドマスターの部屋を後にした。

 次は、新オオサカ都市だ。
 
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