グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅱ

第86話 柊ミイ

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四重帝級衝撃剣クワトロテラインパクト!!」 

スドオオオン!!

(うおお!? 今のは何だ? 柊さんか?)

 オレたちの援護に来てくれたユウナ達のいるあたりから激しい攻撃が放たれたのが見えた。

 強力な一撃でグールが十体以上吹き飛んでいく。

「おお! さすがだミイさんや!」
「今ので5、6体はやったやろ!」
「これでなんとかなるな!」

(柊さんて、オレに何か変なことを言ってきた人だよな……こんなに強かったのか……)

 こうして見ている間にも柊はどんどんグールを吹き飛ばしている。遠目だが、柊、ユウナ、アオイの攻防が見えていた。少しずつこちらへ向かってきているようだ。

「もしかして柊さんて武蔵野くんたちより階級上なのか?」

「お? そうや! ミイさんは……確か……」
「AA級やろが!」
「アサヒ、忘れたんかい!」

(AA級なのか! すごいな!)

「オレらも攻撃を続けるで!」
「そうや、このままだとミイさんにみんな持っていかれるで!」
「おお! 助けがなくても大丈夫だったってことを見せたる!」

(助けが無かったらかなりやばかったと思うけど……)

「ああ! 了解!」

 オレたちとユウナたちの攻撃により、A級飛行型の群れは完全に挟み撃ちをする形となり、その数を減らしていった。
 敵の残りの数も40を切ったというところでオレたちの結界、ライフシェルにとうとう柊達が入ってきた。

「みんな無事ね?」

「「「当たり前や!」」」

(みんな強がりだなー、オレはもう疲労で震えが止まらないんだけど……)

「佐々木さん!」
「佐々木!」

 ユウナとアオイがオレのところへ駆け寄った。
 結構、傷を負ってしまっている。

「ユウナ! アオイ! 助かったよ! ケガは大丈夫か?」

「ああ、それより今度は飛行型の群体に襲われてるのかよ! お前といると退屈しないな!」

「アオイ! またそんなこと言って! 佐々木さん、無事で何よりです。今、回復を!」

 ユウナはそう言って杖を掲げた。

上級治癒結界メガヒールドーム!」

 パアッと光がオレたちを包み、ライフシェルの治癒結界との相乗効果で体が軽くなるのを感じた。

 治癒の心地よさに身を委ねていると、柊がオレのことを見ているのに気付いた。

「佐々木くん、あなたはやはり呪われているようね」

「え?」

 突然、柊がオレに話し掛けてきた。

「あなたは宝条マスターを気安くちゃん付けで呼ぶような重い罪を犯した。その罪の深さは計り知れないわ。そのミソギとして、この飛行型群体に襲われていると、こういうことね」

(いや、違うし! 何を言ってるの??)

「いや、ただオレはグールに狙われやすい体質みたいで、そのせいで……」

「ああ!!」

(な、何だ)

「グールに狙われている!? あなたはそこまでの呪いを受けてしまったのね。でも仕方ないわ。罪は罪。諦めなさい。受け入れるのよ」

「……」

(だ、ダメだ。この人。会話にならない)

「と、とにかく! 話は後で! グールを倒しましょう!」

「まあ、いいわ。そうしましょう。あなたは罪を悔い改めなさい」

(こ、こえぇ。カルト宗教みたいだ……) 

 柊はオレの怯えを意にも介さず、結界の外へと剣を向けた。

「行くわよ!」

 そしてそこから柊たちと激しい攻防をさらに続け、さらに2時間ほどでグールの群れを倒しきることができた。
 途中から、ライフシェルの結界の効果は切れてしまったが、オレたち8人が一丸となり、敵を撃退した。
 猫のような形の指令型のグールも1体倒したが、さらにもう2体が群れに混じっていたのを感知はしていた。
 だが、飛行型が残り少なくなるとその2体も逃走していった。
 
 オレはずっと気になっていたのだが、とうとうS級グールは現れなかった。

 オレたちはこの場のグールを何とか討伐しきることができた。



「や、やった! 倒した! もう、動けない!」

 オレは地面に寝転がり、勝利を喜んだ。

「な、情けないのう、セイくん」
「そうや、み、ミイさんの前やで」
「お、オレらみたくシャキっとせい」

(いや、3人とも膝が笑ってるし、剣で体を支えないと立ってられないぐらい疲弊してるじゃん)

「こ、今回も何とかなりましたね」
「ま、全く。佐々木はまるでグールの呼び寄せ装置みたいだな」

 ユウナとアオイも息を切らせて勝利を噛み締めていた。

「い、いや、やっぱりオレのせいなのかな……?」

「はあ? そんな気にすんなよ! こっちが気にしちまうだろ!」

(じゃあ、呼び寄せ装置とか言うなよ)

「いえ、やはりこれは佐々木くんに降り注ぐ呪いのせいよ。間違いないわね」

 また突然柊がこちらに声を掛けてきた。

(しつこいな! もういいよ!)

「え、ええなあ、セイくん」
「お、おお。ミイさんに気に入られとるやん」
「お、オレらはそんなに話しかけてもらえへんで」

(武蔵野くんたちは今まで何を見てたんだ? 疲れてるから判断が鈍ってるのかな?)

「聞いて。佐々木くん、あなたは100年前から転移してきたと言っていたわね?」

 柊が先程までと少し違う口調でオレに話し掛けてきた。

「え? ええ。そうですけど」

「転移というものは超高等魔術よ。隊員でいうとS級でも扱えない。今この技術を使えるのは私達の中では阿倍野マスター、それに宝条マスターの2人くらいじゃないかしら」

「……?」

(な、なにが言いたいんだろう?)

「転移という魔術は門と門を繋ぐ技術になるの。2つの門をくぐり抜け、長距離を移動する。その門と門の間に何かしらの異物があると、転移者の体に融合してしまうらしいわ」

「異物?」

「ええ。技量の低い者が転移術を使うと、異物が門同士の中に入り込み、それが体内に取り込まれ、転移者は即死してしまうらしいの」

「ええ!? そうなんですか!?」

 そんな危険があったとは初耳だ。

「そうよ。でもギルドマスター達は十分な技量を持っているから、その点については問題はないわ」

「は、はあ。そうですか……」

(こ、この人の話は要領を得ないな。言いたいことが分からない)

「異物と言うのは物理的な物だけとは限らない。魔素やウイルス、何かしらの術式のようなものが混じることも考えられるの」

「ああ、なるほど」

「佐々木くん。私はこう考えているわ。100年前、何者かがあなたをこの時代に転移させた。そしてその際にあなたの体に特殊な術式を組み込んだんじゃないかと」

「ええ!? 100年前に……!?」

(いや、思っても見なかった……でもそんなことがあるのか? オレが転移した100前はまだグールもいなかったし、魔術も発展していないし……)

「あなたの言いたいことも分かるわ。だけど、あなたの体に組み込まれた術式が、呪いなんだと私は思っているの。それによってあなたはグールに狙われるようになったんだと」

「そういうことか……でもそんなことができる人がいたんでしょうか?」

「……それは分からない……、それに100年前のこととなると、一番詳しいのは宝条マスターよ。何かは知っているんじゃないかしら」

「まあ、そうですね……」

「それに……」

「?」

「あなたは宝条マスターをちゃん付けで呼んだ罪の呪いもあるわ。いつかグールの大群に囲まれて死ぬわね。諦めなさい」

「あ、結局そうなるんですね」

 ユウナとアオイはもう数週間柊と一緒で慣れているのだろう。柊の毒舌には苦笑しているだけだ。

(でも、だれかがオレを転移させた……もし本当なら100年前にギルドマスタークラスの能力者がいたってことになるな。そんなことがあるのか? まだまだ分からないことだらけだ……)


 オレは悩みながら、『君のとるべき行動には段階がある』オレは阿倍野のその言葉を思い出していた。
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