男になりすましている武衛衆最強の長は、陰陽師の冷酷陰陽師に秘め事を暴かれ執愛される

大和ラカ

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8.揺らぐ心

 ヒズミが部屋を出てから、カレンは一人布団の中で丸くなっていた。
 胸の中で渦巻く感情を整理しようとするが、次から次へと沸き上がってくる感情に翻弄される。

 昨夜の行為。
 あの時感じた快楽。
 そして今朝、ヒズミが見せた微かな笑み。
 それらが頭の中で繰り返し再生され、カレンの心臓は落ち着くことを知らない。

(私は一体……どうしてしまったのだ)

 五年もの間、男として生きてきた。
 父の跡を継ぎ、武衛衆に入り、長として部下を率いてきたのだ。
 女であることを捨て、女としての喜びも楽しみも全て諦めたはずだった。

 だが今、自分の中で何かが変わり始めている。
 ヒズミに抱かれたことで、封じ込めていた女としての自分が目覚めようとしているのだ。

 しばらくすると、身体の怠さも少しずつ和らいできた。
 元より鍛えており、体力は充分にあるため、肉体の回復はそれなりに早い。
 カレンはゆっくりと身を起こし、部屋の中を見渡す。

 簡素でありながら品のある調度品が並ぶ客間。
 ヒズミの趣味が現れているのか、どこか冷たげな印象を受ける。

 掛け布団を畳み、カレンは立ち上がった。
 昨夜のうちにヒズミが用意してくれた着物が、部屋の隅に置かれている。
 それは、淡い紅色の生地に、白い花の刺繡が施された、女物の着物だ。

(……女の格好など、いつぶりだろうか)

 カレンは着物に袖を通す。
 柔らかい生地が肌に触れる感覚が、妙に新鮮さを感じた。
 姿見が無いため自分の姿は視認できないが、恐らく誰が見ても女であると思うはずだ。

 カレンは襖を開け、廊下へと出た。
 ヒズミの邸宅は想像以上に広く、手入れが行き届いているのが分かる。
 ヒズミが言っていた書庫を探して歩いていると、突然背後から声をかけられた。

「その着物、似合っているな」

 カレンは驚いて振り返る。
 いつの間にか戻ってきていたヒズミがそこにおり、カレンの方へと近寄ってきた。

「っ! い、いつ戻ってきたのだ……!」

「たった今だ。統主へはきちんと伝えておいた」

「そ、そうか……」

 ヒズミはカレンの前まで来ると、静かに立ち止まった。
 その視線がカレンの姿を上から下まで眺める。
 どこか柔らかく、カレンは思わず視線を逸らした。

「何をしていたんだ?」

「あ、あぁ……まだ本調子ではないが、このまま寝ているのも退屈でな」

「そうか。ならば書庫へ案内しよう」

 ヒズミは先に立って歩き出す。
 彼に見透かされている様な感覚に落ち着かず、カレンはその後を追う。

 書庫は邸宅の奥にあり、壁一面に本が並んでいた。
 霊術に関する専門書から、歴史書、詩集まで様々な分野の本が整然と収められている。

「好きなものを読むといい。ここの本は自由に使って構わない」

「……ありがとう」

 カレンは本棚を眺めながら、疑問に思っていたことを尋ねる。

「クジョウ殿はなぜ私にここまでするのだ」

 傷を負い、毒に侵されたカレンを自らの邸宅へ連れ帰った。
 それだけではなく、瘴気による影響への対処の件や、女であることを露見しないよう配慮までしてくれたのだ。
 カレンからすれば、ヒズミにそこまでされる理由が思い浮かばなかった。

「なぜ、と聞かれてもな」

 ヒズミは本棚の一角を眺めながら静かに答える。

「放っておけなかった。それだけだ」

 その言葉に、カレンはあまり納得がいかなかった。
 そんな理由だけではあまりに弱すぎる。

「……わ、私と、情を交わしたのも……良かったのか……?」

 自分でも驚くほど小さな声だった。
 なぜそんなことをきいてしまったのか、カレン自身にも分からない。
 ただ、理由が知りたかった。
 ヒズミはカレンの方を向き、じっと見つめるとゆっくりと口を開く。

「あぁ。貴女だから良しとした」

「私……だから……?」

「そうだ」

 ヒズミは一歩、カレンに近づいた。

「俺はお前に惹かれていた。ずっとな」

 その言葉に、カレンの心臓が跳ね上がる。
 惹かれていた、という言葉にどこか嬉しさすら感じてしまう。

「ひ、惹かれて……って……」

 言葉が上手く出てこない。
 顔が熱く、心臓の音がうるさい。
 恥ずかしさと、それ以外のまだ名前のつけられない感情が、カレンの中で渦巻いた。

「元より、お前が女であれば美しいだろうと思っていた」

 ヒズミはカレンの頬にそっと手を添えた。

「だが実際は、想像以上だった。見惚れるほどに美しい」

「っ……!」

 カレンは思わず顔を背ける。
 そんなことを言われたのは、生まれて初めてだった。
 男に成りすましていたのだから、言われないのは当然であるが、それ以前でも言われたことなどなかったのだ。

(な、何を言っているんだ……この男……!)

 だが、カレンは心の奥底で、その言葉に歓びを感じていた。
 誰かに自身の容姿を褒められるのは、誰だって嬉しいもの。
 それは、無意識化では否定できない。

「そ、そんな素振り一度も……」

「お前のあり方を尊重したまでだ」

 ヒズミの声はとても穏やかで、普段の冷たい口調ではない。

「否定するつもりは毛頭ない。俺はただ、何か覚悟を決めて奮闘しているものに口出しするつもりがなかっただけだ」

「……」

「だが、お前が自分を『女』だと告げた以上、俺が気持ちを隠す理由はなくなった」

 ヒズミの腕がカレンを包む。
 幻氷と呼ばれる者とは思えない温もりを感じ、その腕の中でカレンの心臓が激しくなり続ける。

 胸が苦しく、上手く息ができない。
 ヒズミに抱かれているだけで、身体が、身体の奥底が熱くなる。

(わ、私は……どうしちゃったの……)

 カレンは自分でも理解できない感情に、ただ翻弄されていた。
 この感情が何なのか。
 今まで誰かと親密になることが無かったカレンには、それを判断する術が存在しない。
 
 ただ一つ分かることがあるとすれば、ヒズミの腕の中が不思議と安心するということ。
 そして、この温もりを手放したくない自分がいることに、カレンは再び戸惑うのだった。
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