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知らなかったのは自分だけ
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榊から予備の抑制剤をもらってから帰宅した蒼は、次の日学校を休んで母と一緒に検査に行った。一通りの身体検査と血液検査、それからMRIなどを受け、
「病院って意外と疲れるなぁ~」
蒼はぐったりとしながら待合室でひとりごちた。
検査の結果は――やはり【Acquired Omega(アクオメガ)】だった。子宮もほぼ出来上がっている状態だった。分かっていたこととは言え、正式に認定されてしまうとやはりショックで。「うわぁ……やっぱりかぁ……」と落胆する蒼を看護師が励ましていた。その後担当医からオメガの身体について説明され、心構えなど色々書かれた本をもらい、それから何種類かの薬を処方してもらって帰って来た。
「俺……子宮があるのか……」
部屋で姿見を見ながら自分の下腹部を擦る。自分は男でありながら、女性としての機能も備わってしまった。もし将来アルファと結婚した場合、それが男性にしろ女性にしろ、子供を産む役目を担うのは自分なのだ。また、ベータの男性と結婚した場合もそうだ。
底知れぬ不安が蒼の胸に押し寄せる。
「将来子供産むとか……怖ぇよ……。俺、これからどうなっちゃうんだろう……」
今までの自分の人生観が一八〇度無理矢理転換させられてしまったことに、蒼はただただ混乱するばかりだった。
ため息混じりで迎えた夕食後、美穂子が改まった顔で言った。
「蒼、お父さんとお母さんからも話があるのよ」
「何?」
「どうしてお母さんたちが蒼がオメガになったことにびっくりしなかったのか、不思議に思わなかった?」
そう聞かれ、確かに榊が説明した時に母が全然驚いておらず、むしろ前から知っていた風の態度をしていたことを思い出した。翆でさえ静かに榊の話を聞いていたくらいだ。
「なんで? 知ってたの?」
「それはね、蒼のこの状況が、蒼の大叔父さんにそっくりだったからなの」
「大叔父さん? ……って、この間亡くなった? だって俺とは血がつながってないだろ? 大叔父さんの方は」
「ううん、違うの。本当はね、蒼と血がつながってる大叔母さんはね、男性だったの」
(えっと、大叔母さん。この間亡くなった大叔父さんの奥さん、ってことだよな。その奥さんが……)
「男……? ってことは……」
「そう、大叔父さんはアクオメガだったのよ。蒼にアクオメガのことを説明することになっちゃうから、あえて大叔母さんと呼んでいたけれど」
「アクオメガ……俺とおな……じ?」
父と母が二人で頷いた。
父・伸曰く。蒼の大叔父・総司は小さな頃から蒼と同じくあまり背が伸びなかった。全身の体毛も薄く、男っぽさがあまり見えなかった。その頃はアクオメガについてのデータがあまりなかったため、総司を含めた家族はまさか彼がオメガの因子を持っているなんて思いもしなかった。
ある日、総司は運命の番であるアルファの鷹臣と出会い、初めは特別な感情など微塵も抱いてはいなかったのだが、ある日突然鷹臣の前で発情期を迎えてしまったらしい。鷹臣は総司を抱いてそのまま番となった。鷹臣は総司と初めて出会った時から、彼がオメガであり自分の番であることに気づいていた。必然的に鷹臣は総司に恋い焦がれ心の中で求めるあまり、彼のオメガ因子を目覚めさせてしまったのだ。
「私たちが聞かされていたその当時の総司さんと、今の蒼の成長の様子があまりにもよく似ていたから、蒼も大きくなったらオメガになるんじゃないか、って私たちは覚悟はしていたの。まさかこんなに早いとは思っていなかったけれどね」
美穂子はオメガの蒼に嫌な顔一つすることなく、変わらない笑顔で見つめていた。
「どうして……俺には今まで話してくれなかったの? 小学生の時の検査で既に分かってたんじゃないの? 俺が……その……オメガの因子を持っている、ってこと」
「何も知らずにベータとして普通に過ごせるなら、それに越したことはないと思っていたからだよ。それに変に話して意識させて、そのせいで覚醒してしまわないかと心配していたから」
伸が答えた。
「勘違いしないで欲しいのだけど、私たちは決してオメガを否定しているわけではないの。ただ、生まれてからずっとベータとして生きてきて、突然オメガになってしまったら、蒼が受け入れられないんじゃないかと心配していたの。私たちが大丈夫だ何だと言ったところで、実際にその身体とつきあっていくことになるのは蒼なんだもの。――蒼、大丈夫?」
美穂子の言葉に、蒼はうっかり泣きそうになった。父と母が自分のことをずっと心配して考えててくれていたのだと思うと、嬉しかったのだ。
「蒼、これからその身体のことで悩むことも多くなると思うが、お父さんとお母さんは、蒼がどんな身体になろうと変わらずおまえのことを愛しているし、家族として全力でサポートするし守るからな。もちろん翆だってそう思っているよ」
「そうよ。蒼はやっぱり私の可愛い可愛い弟だもん。ベータだろうがオメガだろうが変わらないの」
そう言って翆は蒼をぎゅっと抱きしめた。胸に顔を埋める形になって息苦しくなったが、その苦しさも今は嬉しかった。
(俺の家族はやっぱり愛情過多な気がするぞ)
──だけど、今の蒼にとってはその愛情深さが本当にありがたかった。頭の中で絡み合った混乱の蔦が、両親と姉の言葉で解けていくのを感じた。この家族となら、自分はオメガとしてもやっていける──そう思えたから。蒼はすん、と鼻を鳴らし、
「ありがとう……」
と、噛みしめるように言った。何だか照れくさかった。
蒼はその夜、ベッドに入って病院からもらったオメガについての本を読んだ。そこには【発情期は[ヒート]とも呼ばれ――】と記載されていた。蒼は保健室で鳴海が言ったことを思い出した。
『お願いします、診てやってください。二年四組の末永蒼――多分、ヒートです、初めての』
(鳴海はあれが発情期の始まりだって分かっていたんだな)
風紀委員なのでそういう現場にい合わせたことが、前にもあったのだろうか。ずいぶんてきぱきと蒼を助けてくれていたように思う。
【基本的に、アルファはオメガが発情期に発するフェロモンに抗えない――】そう書いてある。しかし鳴海は蒼には全然反応していなかったように思える。【オメガに発情を抑制する薬があるように、アルファにもオメガのフェロモンにあてられないよう本能を抑制する薬がある】とあるので、薬を飲んでいるのかも知れない。
まだまだオメガとアルファについては知らないことばかりで、もっと知識を吸収する必要があった。
(アルファのことは鳴海に聞いてみようかな。うちの学校のアルファの中では多分いろんな面でトップだもんな、鳴海。あんなにカッコイイのに頭もいいし、しかも性格もいい。多分性種関係なく引き手数多だろうな)
助けてくれた時に抱きしめられた感触が、未だに残っている。思い出しただけで胸が痛くなる。
(だめだ。さっきから鳴海のことばかり考えてしまう。――だって、もしかしたら、もしかすると……)
「いやいやいや、それはないだろう、いくら何でも!」
頭に浮かんだことを打ち消すように、蒼はかぶりを振った。
「おはよ、蒼」
朝玄関を出ると、充が待っていた。家の前に充が来るのは珍しかった。いつもなら途中で合流するというのに。
「お、はよ……どした?」
「一昨日のこともあるし、しばらくは一緒に登下校するわ」
(薬を飲むようになったから大丈夫なんだけど……)
と、思いながらも、充には心配をかけたし、したいようにさせてやろうと蒼は思った。
駅まで歩きながら、蒼は充に尋ねてみる。
「なぁ……充はさ、知ってたんだよな? 俺がその……オメガかも知れない、ってこと」
保健室で榊の話を聞いた時、母と姉同様、充もまったく動揺していなかった。それに、今までの充の過保護っぷりと態度を鑑みるに、蒼の事情を知っているとしか思えなかったのだ。
「……確か中一の頃かな。おばさんと翆ちゃんから蒼がアクオメガである可能性を聞いていたんだ。その上で、蒼のことをそれとなく見ていてくれないかって頼まれていたから」
「だからやけに俺の面倒見ていたんだな」
(母さんと姉ちゃん、そんな前から充を巻き込んでいたんだな)
「それから俺なりにアクオメガのことを調べてみたんだ。蒼に覚醒の予兆があったら気づけるようにって。だから、最初に蒼の身体からうっすら甘い匂いがした時に、もしかしたらと思ったんだ。それで、翆ちゃんと連絡取って気をつけてたんだけど、まさかこんなに早く覚醒するなんて思わなかった」
充はまるで家族のような扱いをされてはいるが、末永家とは血縁関係など一切ない他人である。にもかかわらず、こんなに重い事情に巻き込んでしまい、蒼は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
でも実際のところ、充が末永家の家族と連携してまでこうしてそばにいて冷静に蒼のことを考えてくれているからこそ、蒼は今の状況に取り乱さないでいられるのも確かなのだ。
(ありがとう、充)
いつか俺も充のために役に立つことが出来ればいいのにな、と蒼は思った。
「凪と涼真には話した方がいいかなぁ……」
ふと思いつき、口にする。いきなりそんな話をして引かれても嫌だな……と思いつつ、前もって話しておかないと、もし先日のようなことが二人の目の前で起こってしまったら、それこそドン引きされかねないと心配していた。
「ん~、それはおまえ次第だろ。まぁ……俺は凪はおまえと同類だと思ってるから、話しても差し支えないと思うけどな」
「え、凪ってオメガなの?」
蒼は目を見開いた。充の口から思いもかけない言葉が出たからだ。
「俺の勘、だけど。凪はオメガで、凪の彼女はアルファなんじゃないか、って俺は思ってる。しかももう番になってるんじゃないか。今考えると、凪が道場やめる前に組んだ時に、この間のおまえみたいにいい匂いがした覚えがあるんだよなぁ」
充が顎に手をやって考えるように空を仰いだ。
「へぇ……」
充は頭がいいし、やたら勘が働く。人をよく見ていて細かいことなどによく気がつく。ベータであってもこうなのだから、もし彼がアルファだったならとんでもないエリートになっていたんじゃないかと思うと、少し惜しく思う。でもベータだから蒼とこうして親友をやってくれているのであって、もし充がアルファだったとしたら、自分には見向きもしなかっただろうことを思うと、やっぱりベータでよかったと、蒼は思い直すのだった。
「病院って意外と疲れるなぁ~」
蒼はぐったりとしながら待合室でひとりごちた。
検査の結果は――やはり【Acquired Omega(アクオメガ)】だった。子宮もほぼ出来上がっている状態だった。分かっていたこととは言え、正式に認定されてしまうとやはりショックで。「うわぁ……やっぱりかぁ……」と落胆する蒼を看護師が励ましていた。その後担当医からオメガの身体について説明され、心構えなど色々書かれた本をもらい、それから何種類かの薬を処方してもらって帰って来た。
「俺……子宮があるのか……」
部屋で姿見を見ながら自分の下腹部を擦る。自分は男でありながら、女性としての機能も備わってしまった。もし将来アルファと結婚した場合、それが男性にしろ女性にしろ、子供を産む役目を担うのは自分なのだ。また、ベータの男性と結婚した場合もそうだ。
底知れぬ不安が蒼の胸に押し寄せる。
「将来子供産むとか……怖ぇよ……。俺、これからどうなっちゃうんだろう……」
今までの自分の人生観が一八〇度無理矢理転換させられてしまったことに、蒼はただただ混乱するばかりだった。
ため息混じりで迎えた夕食後、美穂子が改まった顔で言った。
「蒼、お父さんとお母さんからも話があるのよ」
「何?」
「どうしてお母さんたちが蒼がオメガになったことにびっくりしなかったのか、不思議に思わなかった?」
そう聞かれ、確かに榊が説明した時に母が全然驚いておらず、むしろ前から知っていた風の態度をしていたことを思い出した。翆でさえ静かに榊の話を聞いていたくらいだ。
「なんで? 知ってたの?」
「それはね、蒼のこの状況が、蒼の大叔父さんにそっくりだったからなの」
「大叔父さん? ……って、この間亡くなった? だって俺とは血がつながってないだろ? 大叔父さんの方は」
「ううん、違うの。本当はね、蒼と血がつながってる大叔母さんはね、男性だったの」
(えっと、大叔母さん。この間亡くなった大叔父さんの奥さん、ってことだよな。その奥さんが……)
「男……? ってことは……」
「そう、大叔父さんはアクオメガだったのよ。蒼にアクオメガのことを説明することになっちゃうから、あえて大叔母さんと呼んでいたけれど」
「アクオメガ……俺とおな……じ?」
父と母が二人で頷いた。
父・伸曰く。蒼の大叔父・総司は小さな頃から蒼と同じくあまり背が伸びなかった。全身の体毛も薄く、男っぽさがあまり見えなかった。その頃はアクオメガについてのデータがあまりなかったため、総司を含めた家族はまさか彼がオメガの因子を持っているなんて思いもしなかった。
ある日、総司は運命の番であるアルファの鷹臣と出会い、初めは特別な感情など微塵も抱いてはいなかったのだが、ある日突然鷹臣の前で発情期を迎えてしまったらしい。鷹臣は総司を抱いてそのまま番となった。鷹臣は総司と初めて出会った時から、彼がオメガであり自分の番であることに気づいていた。必然的に鷹臣は総司に恋い焦がれ心の中で求めるあまり、彼のオメガ因子を目覚めさせてしまったのだ。
「私たちが聞かされていたその当時の総司さんと、今の蒼の成長の様子があまりにもよく似ていたから、蒼も大きくなったらオメガになるんじゃないか、って私たちは覚悟はしていたの。まさかこんなに早いとは思っていなかったけれどね」
美穂子はオメガの蒼に嫌な顔一つすることなく、変わらない笑顔で見つめていた。
「どうして……俺には今まで話してくれなかったの? 小学生の時の検査で既に分かってたんじゃないの? 俺が……その……オメガの因子を持っている、ってこと」
「何も知らずにベータとして普通に過ごせるなら、それに越したことはないと思っていたからだよ。それに変に話して意識させて、そのせいで覚醒してしまわないかと心配していたから」
伸が答えた。
「勘違いしないで欲しいのだけど、私たちは決してオメガを否定しているわけではないの。ただ、生まれてからずっとベータとして生きてきて、突然オメガになってしまったら、蒼が受け入れられないんじゃないかと心配していたの。私たちが大丈夫だ何だと言ったところで、実際にその身体とつきあっていくことになるのは蒼なんだもの。――蒼、大丈夫?」
美穂子の言葉に、蒼はうっかり泣きそうになった。父と母が自分のことをずっと心配して考えててくれていたのだと思うと、嬉しかったのだ。
「蒼、これからその身体のことで悩むことも多くなると思うが、お父さんとお母さんは、蒼がどんな身体になろうと変わらずおまえのことを愛しているし、家族として全力でサポートするし守るからな。もちろん翆だってそう思っているよ」
「そうよ。蒼はやっぱり私の可愛い可愛い弟だもん。ベータだろうがオメガだろうが変わらないの」
そう言って翆は蒼をぎゅっと抱きしめた。胸に顔を埋める形になって息苦しくなったが、その苦しさも今は嬉しかった。
(俺の家族はやっぱり愛情過多な気がするぞ)
──だけど、今の蒼にとってはその愛情深さが本当にありがたかった。頭の中で絡み合った混乱の蔦が、両親と姉の言葉で解けていくのを感じた。この家族となら、自分はオメガとしてもやっていける──そう思えたから。蒼はすん、と鼻を鳴らし、
「ありがとう……」
と、噛みしめるように言った。何だか照れくさかった。
蒼はその夜、ベッドに入って病院からもらったオメガについての本を読んだ。そこには【発情期は[ヒート]とも呼ばれ――】と記載されていた。蒼は保健室で鳴海が言ったことを思い出した。
『お願いします、診てやってください。二年四組の末永蒼――多分、ヒートです、初めての』
(鳴海はあれが発情期の始まりだって分かっていたんだな)
風紀委員なのでそういう現場にい合わせたことが、前にもあったのだろうか。ずいぶんてきぱきと蒼を助けてくれていたように思う。
【基本的に、アルファはオメガが発情期に発するフェロモンに抗えない――】そう書いてある。しかし鳴海は蒼には全然反応していなかったように思える。【オメガに発情を抑制する薬があるように、アルファにもオメガのフェロモンにあてられないよう本能を抑制する薬がある】とあるので、薬を飲んでいるのかも知れない。
まだまだオメガとアルファについては知らないことばかりで、もっと知識を吸収する必要があった。
(アルファのことは鳴海に聞いてみようかな。うちの学校のアルファの中では多分いろんな面でトップだもんな、鳴海。あんなにカッコイイのに頭もいいし、しかも性格もいい。多分性種関係なく引き手数多だろうな)
助けてくれた時に抱きしめられた感触が、未だに残っている。思い出しただけで胸が痛くなる。
(だめだ。さっきから鳴海のことばかり考えてしまう。――だって、もしかしたら、もしかすると……)
「いやいやいや、それはないだろう、いくら何でも!」
頭に浮かんだことを打ち消すように、蒼はかぶりを振った。
「おはよ、蒼」
朝玄関を出ると、充が待っていた。家の前に充が来るのは珍しかった。いつもなら途中で合流するというのに。
「お、はよ……どした?」
「一昨日のこともあるし、しばらくは一緒に登下校するわ」
(薬を飲むようになったから大丈夫なんだけど……)
と、思いながらも、充には心配をかけたし、したいようにさせてやろうと蒼は思った。
駅まで歩きながら、蒼は充に尋ねてみる。
「なぁ……充はさ、知ってたんだよな? 俺がその……オメガかも知れない、ってこと」
保健室で榊の話を聞いた時、母と姉同様、充もまったく動揺していなかった。それに、今までの充の過保護っぷりと態度を鑑みるに、蒼の事情を知っているとしか思えなかったのだ。
「……確か中一の頃かな。おばさんと翆ちゃんから蒼がアクオメガである可能性を聞いていたんだ。その上で、蒼のことをそれとなく見ていてくれないかって頼まれていたから」
「だからやけに俺の面倒見ていたんだな」
(母さんと姉ちゃん、そんな前から充を巻き込んでいたんだな)
「それから俺なりにアクオメガのことを調べてみたんだ。蒼に覚醒の予兆があったら気づけるようにって。だから、最初に蒼の身体からうっすら甘い匂いがした時に、もしかしたらと思ったんだ。それで、翆ちゃんと連絡取って気をつけてたんだけど、まさかこんなに早く覚醒するなんて思わなかった」
充はまるで家族のような扱いをされてはいるが、末永家とは血縁関係など一切ない他人である。にもかかわらず、こんなに重い事情に巻き込んでしまい、蒼は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
でも実際のところ、充が末永家の家族と連携してまでこうしてそばにいて冷静に蒼のことを考えてくれているからこそ、蒼は今の状況に取り乱さないでいられるのも確かなのだ。
(ありがとう、充)
いつか俺も充のために役に立つことが出来ればいいのにな、と蒼は思った。
「凪と涼真には話した方がいいかなぁ……」
ふと思いつき、口にする。いきなりそんな話をして引かれても嫌だな……と思いつつ、前もって話しておかないと、もし先日のようなことが二人の目の前で起こってしまったら、それこそドン引きされかねないと心配していた。
「ん~、それはおまえ次第だろ。まぁ……俺は凪はおまえと同類だと思ってるから、話しても差し支えないと思うけどな」
「え、凪ってオメガなの?」
蒼は目を見開いた。充の口から思いもかけない言葉が出たからだ。
「俺の勘、だけど。凪はオメガで、凪の彼女はアルファなんじゃないか、って俺は思ってる。しかももう番になってるんじゃないか。今考えると、凪が道場やめる前に組んだ時に、この間のおまえみたいにいい匂いがした覚えがあるんだよなぁ」
充が顎に手をやって考えるように空を仰いだ。
「へぇ……」
充は頭がいいし、やたら勘が働く。人をよく見ていて細かいことなどによく気がつく。ベータであってもこうなのだから、もし彼がアルファだったならとんでもないエリートになっていたんじゃないかと思うと、少し惜しく思う。でもベータだから蒼とこうして親友をやってくれているのであって、もし充がアルファだったとしたら、自分には見向きもしなかっただろうことを思うと、やっぱりベータでよかったと、蒼は思い直すのだった。
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