異世界帰りのダメ英雄

智恵 理陀

文字の大きさ
18 / 45
第一部:第四章

18.怒り心頭。

しおりを挟む

「英雄になるまで、大変、だった?」
「まあね。修行が特に。あっちの世界の神様にビシバシ鍛えられたりしてそりゃもう穴という穴から血が吹き出るレベル」
「すごそう」
「魔王に困ってるなら神様が自分でやれっていったらすんげえブチ切れされてさあ、神様っていうか悪魔だったよ」

 異世界の話は流れるように出てくる。
 最初の魔物はどんなのだったとか、一番危険な旅はどういう場所だったとか、魔王はどんな奴だったか、剣はどうやって手に入れたとか、英雄になって何か変わったことはだとか。
 彼女も興味深々で聞いてくれて止まらない止まらない。
 でもこれ普通のデートで出てくる会話の内容じゃないよね。


「長居しちゃったね。そろそろ出ようか」

 次はどうしよう。
 行きたいところ、行きたいところ……。
 石島さんから周辺のチェックした店を教えてもらうも、どうしていいものやら。

「ボウリング」

 苑崎さんが指差す先にはボウリング場。
 ほほう、ボウリングか。
 ちなみに俺は人生で数回しかやった事がない、おそらくボウリングに一番行くであろう時期は異世界で過ごしていたからね。

「よし、ボウリングしようか!」

 どこか彼女の頷きは今までよりも大きかった気がする。

「ちなみにボウリングの経験は?」
「脳内で数十回」

 つまりそれは未経験なのでは?
 ボウリング場に入るとやはり平日の午前中となると人は少なく、すんなりと席を取れた。
 苑崎さんは実際に店でボウリングをするのも初めてなのか、シューズや玉の選択に戸惑いつつもなんとか準備は済んだ模様。

「よし、やろうか!」
「やれる自信しかない」

 その自信はどこから来るんだろう。
 それに一番軽い玉か子供用かで悩んでたよね?
 いざ始まるや、予想通りといえば予想通りで。
 苑崎さんは玉を片手で投げるも重さに耐えられなかったのか、レーンの一番手前で落ちて力なくガーター。

「こんなはずでは」
「初めてならそんなもんだよ」

 ボウリングは久しぶりだ。
 異世界では絶対にやれなかった娯楽。
 昔はうまく投げれなかったが今なら重い玉でも軽く感じる。
 カーブとかはできないけど、まっすぐになら容易く投げられるぜ、半ば力任せだ。

「よしっ、ストライクだ!」
「むっ……」

 ハイタッチはするも、苑崎さんの表情はどこか渋い。
 負けず嫌いなのか、しかし玉の重さには勝てず彼女は両手でまっすぐいくように奮闘。

「ぐぐ……」

 半分終わって彼女が倒したピンは十二本。
 方や俺は六十三本、まっすぐ投げるだけでも意外といけるものだな。
 口をへの字にしてスコアを見る苑崎さん、この表情はかなりレアなほうに入るのではなかろうか。

「これから逆転する」
「ふふっ、かかってきなさい」

 こんな苑崎さんを見るのは初めてだ、彼女の瞳に闘志が宿っている。
 だが両手で投げてへろへろとガーターへ向かっていく、現実は残酷だ。

「ボウリング、クソゲー」
「そこまで言う?」

「現実、クソゲー」
「生きてれば神ゲーって思うときもきっとあるからめげないで!」

 少し手加減してやろう。
 だけど彼女のこれまでのスコアから察するに、手加減をしたとしても彼女が俺のスコアに追いつくことはないだろう。
 にしても、投げるときは前半と違って力んでいる。
 スカートが、こう、ね?
 ひらひらと靡くわけだ。
 そりゃあ目線はそっちに行っちゃうわけで。

「見た?」

 くるっと振り返る苑崎さん。

「え、あ、ごめん、見てない、見てないですっ!」
「初の五ピン倒しだった」

 ああ、そっちかあ。
 安心した……。

「ごめんごめん、次はちゃんと見るから!」

 これはスカートの中を指しているのではない。
 結局苑崎さんのスコアは然程伸びず、自分のスコアが刻まれた紙を睨みつけるように見ていた。

「次こそは」
「それまでまた脳内でイメトレしよう」
「そうする」

 それが結果に繋がるかはさておき。
 午後になってもセルファが現れる様子はない、デートで彼女をおびき出そうというこちらの魂胆が見切られたか?
 午後は二人でアイスを食べながら公園でぷらぷら。
 ここの公園は動物を管理しているのでちょっとした動物園気分も味わえる。



「そのアイス、美味しい?」
「美味しいよ、イチゴとバニラミックスも中々だ」

「いい?」
「あ、うん」

 咄嗟に返答してしまった。
 いい? という質問、それは彼女が一口食べても? という要求だった。
 ぱくりと小さくその口でアイスを食べる。
 これは、間接キスに、なるのではないだろうか。
 彼女は気にしていないようだが。

「お返し」

 俺の口元にアイスを近づける。
 チョコとバニラのミックスだったか彼女のは。

「い、いただきます」

 極上である、アイスも気分も雰囲気も。
 恋人ができたらこんな風にデートするのかなあ。

「さ、さす、がに、ね……」

 ん?
 どこからか声が。

「そ、それ以上、は、許せません、わ」

 バキバキと、何か音を立てて、静かな公園に雑音を与える。
 離れたところの木陰に何か近づいてくる。
 女性――ああ、おそらくはセルファ。
 着ている服は異世界のものではなく、こちらで手に入れたもののようだ。パーカーのフードを深々と被っていたが、俺達の前に出るやフードを取り、その長い金の髪があらわになった。
 手に持っているのは半壊した双眼鏡。
 粉々になって地面へと落ちていき、彼女は静かに近づいてくる。
 その表情は、鬼気迫るものがあった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...