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第一部:第四章
18.怒り心頭。
しおりを挟む「英雄になるまで、大変、だった?」
「まあね。修行が特に。あっちの世界の神様にビシバシ鍛えられたりしてそりゃもう穴という穴から血が吹き出るレベル」
「すごそう」
「魔王に困ってるなら神様が自分でやれっていったらすんげえブチ切れされてさあ、神様っていうか悪魔だったよ」
異世界の話は流れるように出てくる。
最初の魔物はどんなのだったとか、一番危険な旅はどういう場所だったとか、魔王はどんな奴だったか、剣はどうやって手に入れたとか、英雄になって何か変わったことはだとか。
彼女も興味深々で聞いてくれて止まらない止まらない。
でもこれ普通のデートで出てくる会話の内容じゃないよね。
「長居しちゃったね。そろそろ出ようか」
次はどうしよう。
行きたいところ、行きたいところ……。
石島さんから周辺のチェックした店を教えてもらうも、どうしていいものやら。
「ボウリング」
苑崎さんが指差す先にはボウリング場。
ほほう、ボウリングか。
ちなみに俺は人生で数回しかやった事がない、おそらくボウリングに一番行くであろう時期は異世界で過ごしていたからね。
「よし、ボウリングしようか!」
どこか彼女の頷きは今までよりも大きかった気がする。
「ちなみにボウリングの経験は?」
「脳内で数十回」
つまりそれは未経験なのでは?
ボウリング場に入るとやはり平日の午前中となると人は少なく、すんなりと席を取れた。
苑崎さんは実際に店でボウリングをするのも初めてなのか、シューズや玉の選択に戸惑いつつもなんとか準備は済んだ模様。
「よし、やろうか!」
「やれる自信しかない」
その自信はどこから来るんだろう。
それに一番軽い玉か子供用かで悩んでたよね?
いざ始まるや、予想通りといえば予想通りで。
苑崎さんは玉を片手で投げるも重さに耐えられなかったのか、レーンの一番手前で落ちて力なくガーター。
「こんなはずでは」
「初めてならそんなもんだよ」
ボウリングは久しぶりだ。
異世界では絶対にやれなかった娯楽。
昔はうまく投げれなかったが今なら重い玉でも軽く感じる。
カーブとかはできないけど、まっすぐになら容易く投げられるぜ、半ば力任せだ。
「よしっ、ストライクだ!」
「むっ……」
ハイタッチはするも、苑崎さんの表情はどこか渋い。
負けず嫌いなのか、しかし玉の重さには勝てず彼女は両手でまっすぐいくように奮闘。
「ぐぐ……」
半分終わって彼女が倒したピンは十二本。
方や俺は六十三本、まっすぐ投げるだけでも意外といけるものだな。
口をへの字にしてスコアを見る苑崎さん、この表情はかなりレアなほうに入るのではなかろうか。
「これから逆転する」
「ふふっ、かかってきなさい」
こんな苑崎さんを見るのは初めてだ、彼女の瞳に闘志が宿っている。
だが両手で投げてへろへろとガーターへ向かっていく、現実は残酷だ。
「ボウリング、クソゲー」
「そこまで言う?」
「現実、クソゲー」
「生きてれば神ゲーって思うときもきっとあるからめげないで!」
少し手加減してやろう。
だけど彼女のこれまでのスコアから察するに、手加減をしたとしても彼女が俺のスコアに追いつくことはないだろう。
にしても、投げるときは前半と違って力んでいる。
スカートが、こう、ね?
ひらひらと靡くわけだ。
そりゃあ目線はそっちに行っちゃうわけで。
「見た?」
くるっと振り返る苑崎さん。
「え、あ、ごめん、見てない、見てないですっ!」
「初の五ピン倒しだった」
ああ、そっちかあ。
安心した……。
「ごめんごめん、次はちゃんと見るから!」
これはスカートの中を指しているのではない。
結局苑崎さんのスコアは然程伸びず、自分のスコアが刻まれた紙を睨みつけるように見ていた。
「次こそは」
「それまでまた脳内でイメトレしよう」
「そうする」
それが結果に繋がるかはさておき。
午後になってもセルファが現れる様子はない、デートで彼女をおびき出そうというこちらの魂胆が見切られたか?
午後は二人でアイスを食べながら公園でぷらぷら。
ここの公園は動物を管理しているのでちょっとした動物園気分も味わえる。
「そのアイス、美味しい?」
「美味しいよ、イチゴとバニラミックスも中々だ」
「いい?」
「あ、うん」
咄嗟に返答してしまった。
いい? という質問、それは彼女が一口食べても? という要求だった。
ぱくりと小さくその口でアイスを食べる。
これは、間接キスに、なるのではないだろうか。
彼女は気にしていないようだが。
「お返し」
俺の口元にアイスを近づける。
チョコとバニラのミックスだったか彼女のは。
「い、いただきます」
極上である、アイスも気分も雰囲気も。
恋人ができたらこんな風にデートするのかなあ。
「さ、さす、がに、ね……」
ん?
どこからか声が。
「そ、それ以上、は、許せません、わ」
バキバキと、何か音を立てて、静かな公園に雑音を与える。
離れたところの木陰に何か近づいてくる。
女性――ああ、おそらくはセルファ。
着ている服は異世界のものではなく、こちらで手に入れたもののようだ。パーカーのフードを深々と被っていたが、俺達の前に出るやフードを取り、その長い金の髪があらわになった。
手に持っているのは半壊した双眼鏡。
粉々になって地面へと落ちていき、彼女は静かに近づいてくる。
その表情は、鬼気迫るものがあった。
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