異世界帰りのダメ英雄

智恵 理陀

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第二部:第三章

39.決別

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 にしても、寛容ねえ。その辺りはトゥルエ次第ではあるな。
 あいつなら心神の能力を抑えるとかできるんじゃないだろうか、聞いてみるか。

「……悪いようにはしないよ、約束する。それで、心神は?」
「昨日から帰っていない」
「えっ」

 まるで家出した我が子に「手が焼けるわ」と言いたげに腕を組んで溜息一つ。

「居場所も分からん、それより早く魔物の位置を教えろ、話している時間がもったいない」
「それもそうだけど……」
「心神なら探してやる、急げ」

 セルファに視線を送る。
 既に探知は終えているようだが、素直に教えていいものかと躊躇している様子。

「じゃあ魔王、教えてやるから俺と一緒に行動しろ」
「ふん、わざわざ監視せずともいいものを」

 それもあるけど一番は稼ぎが減るのを避けたいってのが大きいかな。

「では急ぎましょう、残りは二体ずつで動いているようです。近いほうからお教えします」
「道案内頼むぞ」
「英雄様、やっぱりこの方には教えたくないです!」
「我慢して!」

 魔王の偉そうな態度には多少目をつむってほしい。
 なんとかセルファを頼りに魔物の元へとたどり着けた。
 今日はキギラトカばかりだ、厄介な魔物ではあるもののやはり魔王の力は絶大だ。
 魔物を目視するや魔王は剣を出して一閃、縦に割ってわ続く魔物の攻撃は目にも留まらぬ速さの斬撃を繰り出して細切れにしてしまった。
 魔物二体をたった五秒で処理するとは……恐れ入ったよ。

「さ、流石魔王、ですね……」
「俺とやりあった時とは鈍っちゃあいないようだな」

 ――魔剣セルギスフ、聖剣イグリスフに対抗し得る魔王のみが持つ事を許される剣もそうだが、何よりも魔王の身体能力と洗練された剣術がセルギスフの性能を十分に引き出している。
 魔王とやりあったら今ではどうだろう、鈍っていない魔王に対してきっと全盛期とは程遠いであろう俺は、果たして勝負になるのか。

「おい勇者」
「な、何?」
「貴様は日々魔物退治をして過ごしているのか?」
「ああ、そう、だね」

 毎日じゃあないけど、ここは忙しいんだぜ的な雰囲気を醸し出しておこう。

「ご苦労な事だな」

 褒めてくれてるのかな?
 どうなんだろ、そのしかめ面では何を考えているかも分からない。

「ついでだ、残りも我がやる。おい、次の魔物はどこだ」
「……次は、北西に向かいます」
「いいのかよ、誰かに見られたら大変だぜ?」
「人払いは十分されているのは理解している、それに誰かに見られていたとしても、この世界の人間は疑り深い者ばかりだ。逆に堂々としていたほうがよかろう」

 それ一理あるかも。
 こそこそしていたほうが不審がられそうでもある。
 とはいえ表通りを堂々と剣を持って歩いたりするのは止めておこう。
 あくまでも人のいない道を通って、だ。
 残る魔物は二体、管理人さんが囮になって動いてくれているとの連絡が入ったのは数分前。
 激しい戦闘音のするほうへと向かうと、ひっそりと裏通りで店を構えていた居酒屋前。
 店主不在ながら看板が宙を舞い、装飾品が粉々になっている。

「この魔力は……」
「こ、浩介君! すんごいのも釣れちゃったわぁ!」

 踵を返してやってくる管理人さんは大慌てで俺達の裏へと隠れた。

「すんごいのて?」
「ほら、うどんとそば!」

 魔物二体は確認できた。
 その後ろにいるのは奇抜なシャツを着た二人組。

「うどんとそば!」
「うどんとそばですね!」
「ウドェンとソヴァンだ!」

 二人とも声を揃えて少々の苛立ちを込めて名乗ってくる。
 怒りに任せて魔物をけしかけてくるかと思いきや、魔王を見て二人は動きを止めた。
 魔物も同時に止まり、ある程度のコントロールは出来る様子。

「……その剣は」
「まさか、魔王様、なのか……?」

 魔王の持つセルギスフを見て気付いたようだ。
 あまり、会わせたくはなかったが、これも時間の問題だったかもしれない。
 魔王はどう動くか、最悪な形は幹部と手を組む事だが今のこの状況は――そうなるかは微妙なところではないだろうか。
 そう、願いたい。

「久しいな、うどん、そば」
「ウドェンとソヴァンです」
「ああ、うむ、間違えた」

 もううどんとそばでよさそうな気がする。

「やはり魔王様でしたか!」
「しかし魔王様……何故その者達と行動を共に?」

 魔王の友達が危機にさらされた原因を突き詰めればこいつらにある。
 そこを魔王がどう思うか。
 そして、幹部達と共に歩む道を選ぶのだとしたら魔王の学生生活は送るのは難しいであろう。

「え、英雄様……魔王が彼らと手を組んでしまったら、危機的状況へと瀕するのは避けられないかと。ここは――」
「いや、待て。様子をみよう」

 下手に動くのは悪手だ。
 俺達は、この状況を冷静に見極める必要がある。

「その前にウドェン、ソヴァン、貴様達に聞きたい。魔物を放ったのは貴様達か?」
「はっ! ノリアルと繋がる穴と、魔物を呼び込む魔道具を利用して放ちました! これも我々がこの世界に来ているという魔王様へのお言葉を兼ねて!」
「ご無事でなによりです魔王様、我々と共に参りましょう。その者達は我々の敵です、お離れを」
「……貴様らは」

 何かを言いかけ、魔王はセルギスフを強く握った。
 ゆっくりと振り上げられ、俺もイグリスフを構えた。
 振り返って斬りかかってくる可能性も、否定できない。

「ま、魔王様!?」

 身構えたものの、魔王のセルギスフは魔物二体へと向けられた。
 選んだ――とみて、いいのだろうか。
 岐路は、もう過ぎたとみて、いいのだろうか。

「不愉快だ、貴様らは!」
「なっ……!? ま、魔王様、何を……!?」
「我の友を危険に晒した、その罪は重い!」

 よかった。
 ああ、これで……はっきりした。

「手を貸そうか?」
「いらぬ、身内との問題だ」
「そっか。じゃあなるべく目立たないように済ませてくれよな」
「言われなくとも、そうする」

 ちょいと離れたほうがいいかもしれないな。
 魔王の背中から感じ取れるその怒気は魔力の質も変化させるほどのものだ。
 肌を突き刺すような威圧感、こりゃあ近寄りがたい。

「魔王様、何故!?」
「五月蝿い!」

 魔王は渾身の一撃を振るう。
 わけも分からぬまま、ウドェンとソヴァンは吹き飛ばされる。

「魔王様、お気を確かに!」
「我は正気だ」
「この世界に来て、心身ともに変わられた……のか」
「変わったかどうかは、我とて分からぬ。だが、貴様らの行いは、ただただ我を不快にした」

 もう一撃を――命を刈り取るつもりのような、これ以上一歩たりとも近寄れないほどの覇気を放ち剣を振り上げる魔王。
 しかし……躊躇しているのか、振り下ろされるには時間を要していた。
 その隙をついて二人は飛び立った。

「目をお覚ましください魔王様!」
「とっくに覚めておる」
「くっ……何かされたのか?」
「分からないわ、でも、今日は退いたほうが良さそうね」

 あいつらには魔王の思考など読めないだろう。
 根本的なものから違うのだ、きっと。

「追う必要は、ないか」
「無闇に刺激はせんほうがいい」

 さて。
 一先ず今日の魔物騒動は一件落着といったところではあるものの。

「ご苦労であったな、借りができた」
「これからどうするんだ? あいつらを敵として見るのか?」
「我が友やこの生活に被害が及ぶのであればな」
「そうかい。ああ、あと心神の件、頼むぜ」
「うむ。奴が戻ってきたら知らせよう」

 人の気配を察するや魔王は、
「我は行く、我の事は誤魔化しておけ」
 なんて言って去ってしまった。

 どう説明していいものやら。
 ともかく魔王が敵にはならないと判断できただけでも大きな収穫だ。
 後は心神と、ウドェンとソヴァンがどう出るかといったところか……。
 うーん、嫌な予感が未だに消えないのは何故だろう。
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