神様はラノベ作家を目指すようです。

智恵 理陀

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第一部

その14.人外同士の戦闘は

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 それだけなら問題はなかった。
 けれど俺を見るその視線は見るというよりも睨むというもの。
 殺意、それが一番に感じられる。また何か怒らせちゃった?

「クラスメイトの方ですか?」
「うん、クラスメイト」

 今日は急に学校が休みになったから街中で同じ学校の生徒をよく見る事になるだろう。
 事実、先ほどから通行人の中には同じ学校の生徒は何人か見かけた。
 皆が学校から自宅への流れだが、豊中さんはどうして俺と鉢合わせになったのか。学校が休みになったのを知らず、しかも遅刻してきたとか?

「人外の方が学校にいると気配は感じていましたが、あの方のようですね。気をつけてください」
「えっ?」

 今、なんて?

「そういうお前も人外じゃん。それより私は忍野に用があるのだけれど」
「用ですか。私も一緒に聞いてもいいですか?」
「駄目だね、お前は帰りな。忍野にも近づくんじゃない」
「聞けませんね」

 互いの視線がぶつかり合って火花が散っている。
 俺はどうしていいのか分からずおどおどとするのみ。

「あの、豊中さんって……何者?」

 使乃さんに小声で聞いてみる。

「人外の何かは分かりませんが、異様な気を感じます」
「異様な気……ねえ?」

 そんな事言われても俺には何も感じないので分からん。
 豊中さんが人外、それを聞いてあんまり驚かなくなってしまっている自分。探せばそこらに人外がいるんじゃないかな。
 本当に、世の中は意外とファンタジーだった。
 一番驚くとしたらこの事実しかない。

「忍野、お前はノア様じゃ飽きたらずこんな人外の女にも手を出していたの? 女なら見境なくなの? 馬鹿なの? 死ぬの?」
「見境なくなんかじゃ……」
「はぁあん?」

 すみません、睨まないでください。

「どうやら、ただでは済まなそうですね。この道、彼女の作り物です」

 どういう事?
 そう――聞こうとした。
 その一瞬。
 周囲を歩いていた人々、道路を走っていた車、先ほどまで街灯にとまっていた鳥もすっかりと消えうせて静かな街へと変貌した。

「嘘~?」
「本当~。ゆっくりとお話できるわねえ」
「お話、ですか」

 にしては豊中さんは指の骨を鳴らしていてお話って雰囲気じゃない。

「ええ、お話」

 鞄から彼女はなにやら鉄製感じられるグローブを取り出して両手に装着、拳をあわせると金属音が鼓膜を激しく刺激した。

「私、いい事考えたの」
「いい事?」
「君さあ、蔵曾に選ばれて主人公として君臨してるのよね。君が倒されれば倒した奴が君の立ち位置を頂けるんでしょう? ならぁ話は早いよね」

 彼女も蔵曾は知っていると。
 それだけなら特に思うところはなかったが、問題は俺が倒されればっていう話が知られているのはまずい。
 もう人外とやらの存在に知れまわっているんじゃないだろうな。

「そ、そうだね……俺を倒そうって事だね」
「うん、そう」
「させません!」

 間に入ってきた使乃さんは両手を彼女に向けて構えた。
 ファンタジーな世界が目の前で繰り広げられようとしている、これが現実? 現実、なんだな。
 俺が知らなかっただけで。
 退屈なんてない、過激な現実。

「それにお前はノア様とべったりくっついてるのもムカつく、ノア様がいない時は別の女? 私に喧嘩売ってるのよね?」
「違う違う! とりあえず落ち着いてくれっ! そのごついグローブもしまってよっ」
「はぁあん? 私は落ち着いてるけど? お前を倒して蔵曾をうまく丸め込んで私はノア様と素敵な学校生活を送るわ」

 目的もすっかり固まったようで、言葉による説得はもはや無意味らしい。
 さてどうする?
 使乃さんは戦闘態勢になっているが、二人が今から戦闘するとしてどのような戦闘になるのか俺には想像できん。
 どうするのが正しいのかすら分からないときた、使乃さんの背中にくっつくしか今のところやれる行為は思いつかなかった。
 だからといって迷い無く背中にくっついたら男として情けないところを豊中さんにたっぷりと見せて逆鱗に触れてしまいそうでもある。

「僕は彼を守って蔵曾さんがいいものを書けるよう手伝うつもりです」
「知らないわよあんなの。あの馬鹿は変な事ばっかりするんだから振り回される周りの気持ちになれってのよ。つーかあんたは蔵曾の何なの?」
「関係者です」
「へー、じゃあ私も関係者。同業同士仲良くしましょ」
「仲良くしたいのならば今すぐにそのグローブをはずしてください」
「やだ」

 話し合いで解決してもらいたいが、俺の希望は儚く散りそうだ。
 ため息をついた。
 同時に、目の前から風圧。

「えっ、ちょっ……!?」

 前髪が後方へ靡き、あまりの風圧に倒れそうになった。
 目の前には、豊中さんのグローブがあり、俺の鼻に1センチほどでつきそうな距離。

「惜しい、あとちょっとで悶絶できたのにっ」
「速いですね」

 使乃さんは彼女の手首を掴んで止めてくれていたが、二人の動きを俺はまともに見れなかった。
 早送り、いいや……シーンをスキップしたかのような速さ。
 グローブを握る手を振り払った豊中さんは使乃さんへと攻撃対象を変えて、左手で二撃、使乃さんはそれを弾きつつ俺の手を引いて距離を取った。

「的確、点数をつけるなら90点ってとこかしら」
「ありがとうございます、戦闘は自信がありますので」

 この空気、耐え難いものがある。

「し、使乃さんっ……これから戦うの?」
「はい、逃げるのは難しいです。彼女が作り出したこの道は結界と同じようなもの。彼女を倒さねばなりません」

 今度は使乃さんから動いた。
 回し蹴りから始まり、スカートが靡いて俺は思わず目を逸らした。使乃さんはパンツを見られる事に何の躊躇も無いのかね。

「蔵曾はまだうちらを見てないわね、その間に片付けなきゃ」
「豊中さん、話し合おうよっ」
「拳で語り合いましょう」

 それだと基本的に俺が痛い目に遭うんですが。

「俺に何かあったらノアが悲しむと思うんだ、ね? 俺が怪我でもしたらきっとあいつは落ち込むよ」
「私がちゃんとフォローして慰めるから大丈夫よ。むしろ落ち込んだノア様も見てみたい!」

 くそう、この人……何が何でも俺を倒してノアの好意を自分へ引き寄せようとしてやがる。

「あぁ、ノア様は本当に綺麗で仕草一つ一つが可愛らしい。たまらないわぁ……前は近寄りがたいものがあったけど、話してみるともう天使!」

 前はっていうのは蔵曾に変化させられる前と捉えていいのかな。
 どうせなら本物の天使と語り合えばいい、目の前にいるんだから彼女と平和的解決へと現状を導いていただけるとありがたい。
 豊中さんは街灯をまるで雑草を引き抜くかのように地面から取り出すと、宙に投げて自分の目線まで落ちたところで殴りつけて飛ばしてきた。
 使乃さんに誘導してもらって避ける事はできたが、滅茶苦茶すぎてさっきから口が開いたままだ。
 即座に距離をつめた豊中さんの拳は俺へ向けられるも、使乃さんは巧みにそれを逸らしてくれる。風圧が頬を撫でるたびに俺は青ざめた。

「豊中さん、でしたか。貴方は彼の立ち位置を奪ってノアさんと素敵な学校生活を送るとおっしゃっておりましたが、蔵曾さんはそれで満足すると?」
「あいつが満足しようがしまいがどうでもいいの。他人を振り回す事しかしないんだから、好き勝手やるならこっちも好き勝手やってやるわよ」

 分からなくもないと思ってしまう自分がいる。
 あいつにどれだけ振り回されているか。
 俺だって振り回されっぱなしは嫌だ、あいつへの些細な反抗はあるけど大きな行動は取っていない。
 主人公らしからぬ振る舞いで困惑させてやるなどやりようは色々あるが、何一つとしてやっておらず、蔵曾への暴言くらいしかしていない。

「どうやって蔵曾を丸め込んだのかは知らないけど、あんたも好き勝手やってくれたわね」
「好き勝手? 何が?」
「二年には魔術師っぽい奴が生まれちまった、あんたが人外を信じ始めたせいで立ち位置が影響してこの街に人外が集まってきてる、蔵曾は調子に乗って街を駆け回って観察中さ」

 そうなのか……一応、俺のせい?
 ほとんど蔵曾のせいって言っていいと思うんだけど。

「だからあ」
 また街灯を引き抜いて、

「マジでえ」
 宙に投げて、

「死ね!」
 殴りつけて飛ばしてくる。

「うぉぉぉお!」
「大丈夫です!」

 使乃さんは街灯を両手で受け止めた、数センチほど後方へと体が動くも難なくといった様子で街灯を地面へ落とした。
 重さが込められた音と衝撃、そのか細い両手でよく受け止められるもんだな。

「あ、殺しちゃ駄目なんだっけ?」
「そうですね、そうなったら蔵曾さんは何をするか……」

「半殺しは倒した事になるかしら」
「なるのではないでしょうか?」

 二人とも、冷静に話し合わないで。

「なるとしてもやめてくれないかな……」
「あっ、すみません……」
「はぁあん?」

 豊中さんに至っては言下に鼻で笑っていた。
 さて、どうしたものか。
 この状況を上手くやり過ごすには、何をすればいい?
 言葉による説得?
 使乃さん頼りの力による説得?
 俺ができるのは後者、前者も試みるくらいはできるがさっきから玉砕ばかり。
 こちらが言葉による説得をするにあたって最大の武器はノアだ。
 彼女の名前を出してうまく抑制できないものか。

「豊中さん、これ以上やるとノアに言っちゃうからな」
「じゃあ喉を潰しておこう、一生喋れなくしてやる」
「ごめんなさいやめてくださいっ」

 駄目だ、何が何でも口封じしようという思考。
 何か手は、と考える時間も無く、豊中さんは拳を地面へと勢いよく振り下ろして地面を破壊し、衝撃を響かせた。
 一瞬にて。
 俺の眼に写ったのは、大きな破片を一つ一つグローブで殴りつけてくる豊中さんと、それを一つ一つ弾き返す使乃さん。
 二人の姿はぶれているもやっている事は辛うじて分かる。
 俺の瞬きが終える頃には、破片は全て弾かれて、使乃さんのおかげで無傷だ。
 使乃さんは次なる攻撃の前に、空へと手を翳した。

「忍野君、伏せてください」
「わ、分かった!」

 何をするつもりなのかは分からんが言う通りにして損は無い。

「はぁあん?」

 使乃さんは手に宿した光を空へと放つ。

「何よそれ」

 雲が一瞬にして消失。

 しかし、豊中さんへ何かしらの攻撃がされたわけでもない。
 伏せたものの、衝撃すら来ないので俺は伏せる意味があったのかクエスチョンマークをとりあえず浮かべて使乃さんを見た。

「攻撃のつもり?」
「いいえ、全然」
「じゃあ今の何よ」
「信号弾と同じ用途で行いました」
「「信号弾?」」

 俺と豊中さんの声が被った。
 豊中さんはそれが嫌だったのか、眉間にしわを寄せて俺を見てくるが、俺はすぐに使乃さんの背中へ避難。

「仲間でもいるの?」
「心強い仲間がおります」

 マジかっ。
 それならすぐにでも仲間と共に豊中さんをやっつけてもらうとしよう!
 助かったぜえ……。
 うーん、保身しか考えてない俺ってほんと主人公とは程遠い存在だ。

「何をしてるの」

 その時、ガラスが割れる音と共に、空から落ちてきたのは少女――蔵曾だった。
 空には亀裂が入っており、別の空が写っていた。
 雲や鳥が見える、元の世界ってやつに違いない。

「ぞ、蔵曾……!」

 蔵曾は重力なんてどこかに放り投げちまったかのような軽い着地音で地面に両足をつけて俺と豊中さんを交互に見た。

「二人とも、喧嘩?」
「……別に」

 豊中さんの構えが解けた。
 蔵曾をにらみつけて、ため息をついている。

「あ、さっきぶり。君は、一人?」

 一人?
 俺なら使乃さんと一緒に――

「えっ、あっ……あれ? 使乃さん?」

 この間、数秒。
 ああ、数秒だった。
 振り返ると、使乃さんの姿は消えうせていた。

「ど、どこに行ったんだろう……?」
「はぁあん……もう、最悪!」
「貴方は」
「うっさい、話しかけんな問題児馬鹿めっ。こうなったら何も出来ないじゃない! 帰るわ!」
「……酷い」

 使乃さんが消えてしまったものの、

「まあ、いいや、ああ、助かった……」

 何とかなった。

「何があったの」

 へたり込む俺と、ご立腹で踵を返す豊中さんを交互に見ても今までの状況など把握できまい。

「忍野、今日の事は秘密。言ったらぶち殺す。そいつに言うのも禁止!」
「えっ……」

 両手のグローブを激しくぶつけて音を立てる豊中さん。

「あ、うん、はい、分かりました」
「よろしい、また明日」

 そう言って豊中さんはどこかへ行ってしまった。
 建物の角に曲がり、姿が見えなくなるや周囲は一斉にパリンッとまたガラスの割れる音と共に、道路は車両が、歩道は人が、空には鳥がいる喧騒な街へと戻った。

「私、嫌われてる?」
「あいつには相当嫌われてるようだな」
「傷つく」

 そうすか。

「君は、大丈夫?」
「大丈夫じゃない」

 蔵曾、お前がいないとな、人外って奴らが俺を狙ってくるんだよ。それくらい察しろよ馬鹿。

「襲われた?」
「うん」
「そう」

 お前のその無感情無関心無表情の三点セットが今はとてつもなく俺の殺意を刺激するぜ。

「他に誰か、いた?」
「ああ……いたけど、どこ行ったのかな」
「その人にも、嫌われてた?」
「かもねー」

 その猫耳付きフードがどうなってるのかは知らないが、落ち込むと猫耳も垂れるようだ。
 くそっ、こうして見ると可愛いっつーか萌えるっつーか。
 けどこいつのやる事が憎たらしいのでそんな感情を生むたびに悔しくなる。

「主人公らしく、なってきた?」
「ドタバタな感じは、そうかも……」
「やったね」
「うるさい馬鹿アホボケカス」
「酷い」

 知らん。
 俺は蔵曾には構わず、どっと朝から疲れたのですぐに家へ向かった。
 蔵曾が見ている間なら俺の身は多分、安全だ。
 一人でも帰れるが、人が周囲にいるとはいえ不安は拭えない。

「一緒に帰る?」
「十メートル離れてくれるなら」
「それは一緒に帰っていると言える?」

 言えないかもな。

「やる事は途中だけど、何があったか気になる。聞かせて」
「……簡単な説明だけでいいなら」
「うん」

 小さく頷く蔵曾。
 蔵曾の関係者と名乗る女性が現れて、クラスメイトが現れて、戦って、助けを呼んで、お前が来た。
 こんな説明に蔵曾はなるほど、とか言ってメモをとりだした。

「お前がちゃんと見てないからこうなる」
「申し訳ない」
「そんなんでいいラノベを書けると思ってんの?」

 この際、ボロクソに言ってやろう。

「……」
「甘いよなあ、名作を書いた作者はこういう取材は力入れてるもんだぜ。誰かさんみたく主人公のモデルにしようとしている奴から目を離して、その結果重要な場面を逃すなんてありえない」
「……」
「それにメモばっかとってるけどそれだけじゃあいいラノベは書けないぞ。舐めてるレベル」
「……」
「ベリアルドを使ってうまく演出してラノベ的な事をさせようっていうにもお前のやり方は古臭いしありきたりすぎるんだよ」
「……」
「斬新なアイデアの一つくらい出して演出して見せろってんだ。今のままじゃ敵とただ戦うだけじゃん。お前はそんな戦闘の日々を描いたラノベでも書きたいわけ?」
「いや」
「じゃあもっと俺を驚かせるような演出よろしく。そしたら俺もノリノリで演じてお前がいい作品書けるように立ち振る舞ってやるさ。少しは考えて行動しろよな」
「してる」
「してんの? へえー。その結果俺はただ襲われる日々なんだが。斬新なアイデアもクソもない。こんなのがラノベになったらつまらない、つまらなすぎる」

 すると、蔵曾はメモ帳をポケットに入れて、無言で俺に弱々しくパンチしてきた。
 効果音をつけるなら「ぽこっ」
 そんくらいだ。

「何だよ」
 もう一度パンチ。

「傷つく」
「ざまあ」
「酷い人」
「……悪かったよ、言いすぎた」
「良い人」
「嘘だよばーか」
「酷い人」
 最後にまたパンチして彼女はどこかへ行ってしまった。
 何なんだ。


 ちなみにその夜、風呂上りに身長を測ってみたら3ミリ身長が伸びていた。
 あいつに次会ったらとりあえず頭を叩いてセンチ単位で身長を伸ばすよう訴えようと思う。
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