神様はラノベ作家を目指すようです。

智恵 理陀

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第一部

その16.選んだ本当の理由。

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 最近田島先輩が襲ってこない。
 それはそれで平和でいいのだが、嵐の前の静けさみたいで不気味だ。
 同じ学校なのだからどこかで目撃する可能性もあるのに、それすらもまったく無く数日が過ぎている。
 使乃さんは依然休んだまま、彼女との接触もまた無し。
 俺の知らないところで何かが動いている気がする。
 ノアと薫は相変わらずの人気だ、豊中さんはノアとメル友になってからというものの上機嫌で表情が緩くなってしまっていた。
 本来の目的である俺の立ち位置をどうたらってのはどうしたのか、最近はノアの好きなものや趣味などを俺に聞いてきては情報収集をしてどこかへ行ってしまうの繰り返し。
 立ち位置奪うのはいいの?
 とかさ、怖くて聞けないけど今の状態が少しでも長く続いてくれるなら俺はそれでいい。
 学校帰りにて、いつ以来か俺は街へ足を運んだ。
 本屋で立ち読みでもしてから帰ろう。
 薫やノアは女友達に誘われて今日は一人での帰宅だ、悲しいねえ。けれど二人が今を楽しんでいるならそれも良し、か。
 蔵曾に振り回されているのは結局俺と蔵曾の関係者だけ、俺以外の奴らが楽しい思いをしているとなるとものすごく悔しいぞ。
 一人で帰宅するのは久しぶりだ。

「忍野君、しばらくぶりです」
「ん? あ、使乃さん!」
「この前はすみません、蔵曾さんとは顔を合わせるのはちょっとした理由で極力避けたいもので」

 ひょっこりとわき道から出てきた使乃さんは天使の微笑を浮かべた。
 豊中さんっぽく言うとマジ天使って感じ。
 そいやこの前豊中さんに絡まれて蔵曾を呼んだ時、使乃さんは既に姿を消してたな。
 ちょっとした理由、ねえ。
 アルバイトとやらが絡んでいるのかな、大変そうだ。

「最近学校に来てないようだけど……」
「申し訳ございません、忙しくて。ただ忍野君を陰ながら守る仕事はちゃんとこなしておりました」
「ありがとう、あれからも何も起きなくて平和そのものだよ」

 人外やらそういう奴らが襲ってくる気配も無く、田島先輩や豊中さんすら襲ってこない。
 俺の日常は使乃さんの働きもあって徐々に落ち着きを取り戻してきているのか、それとも嵐の前の静けさなのか。
 願わくば前者であってほしい。
 立ち話も通行の邪魔になるし、と彼女は肩を並べた。
 目的地まで一緒に、その提案は大賛成だ。嬉しいもんだぜ、この日常が変わってからの女子達との絡みの多さはね。
 ハーレム? これってハーレムなのか? 頭の中に思い浮かべる女子達、しかしそのうちの二人は俺に襲い掛かってきたわけなので素直にはそう喜べないがね。

「今日はこんな時間にどうしたの?」
「定期的に忍野君の周辺を見回っておりまして、蔵曾さんも近くにおりましたよ」

 あいつめ、最近姿を見せないが俺の近くにはいるようだな。

「あれから蔵曾さんは何か無茶な要求とかしませんでした?」
「特にしてこないね。説教したのが効いたかな?」
「説教?」
「ちょっとね。おかげでおとなしくなったよ」

 ふうむ。
 彼女はそんな声を漏らして顎に指を当てた。
 何を考えているのか、教えてもらいたいものだ。

「ああ、いえ。蔵曾さんはどうしてこうも貴方には素直に従うのかなと思いまして」
「そう? 全然従ってないと思うけどなあ」
「僕には蔵曾さんが貴方のためにやっているとしか思えないのですよ」

 俺のためねえ、だったらすぐにでも長身のイケメンにしてもらいたいのだがいつまで経っても俺の希望は叶ってない。

「気のせいさ」
「そうでしょうか?」

 そうそう。

「実は昔に蔵曾さんと特別な出会いをしていて縁があったり、とか」
「してないなあ」
「憶えていないだけ、とか」

 あんな奴に会ったら誰もが脳みそに直接刻んじまうくらいインパクトあるから嫌でも覚えてるはずだがな。

「では本当に偶然貴方を選んだだけでしょうか」
「偶然だ偶然」
「ラノベを書きたい理由も貴方にあるのかなと思いましたが僕の見当違いのようですね」
「あいつ、絵が苦手だとか言ってたな。だからラノベなんじゃないかな。そんなに大した理由は無さそうだよ」

 何もかも理由なく漂う雲のように動いている気がしてならない。
 そのうち飽きたら全部放り出しちまうんじゃないかな、ありうるよなあ。

「では、私はそろそろ」
「えっ、あ、ああ。うん、またね」
「それではまた」

 少ししか話できなかったな。
 まあいい、そのうちまた話できるさ。
 使乃さんは使乃さんで忙しいのだろうし俺のわがままで本屋まで話し相手になってとも言えない。

「雑誌でも読むか……」

 彼女の去る後姿をしばらく見守ってから俺は本屋へと足を運んだ。
 そんなに長居するつもりも無い、軽く読む程度ってならやはり雑誌、雑誌の中でも漫画が多数掲載されている週刊誌はいい。
 読みたいとこだけ読んで、まだ時間が空くようなら他のも読んで、大体が二十ページ前後なので時間と相談して切り上げられる。

「今日は週刊誌?」
「うん……ん?」

 隣からの声。
 聞き覚えのある淡々としたその声。

「……いつの前に」
「おひさ」

 蔵曾は俺と同じ雑誌を手に取って立っていた。
 読み始めて数分、いつから立っていたのかまったく分からない。それはこいつが特別な存在だからか、俺が単に気づかなかったかは定かではないがそれは今はどうでもいい。

「今まで何してたんだ」

 最近何をしていたのか、知りたいものだ。

「君の観察と、ベリアルドの練る作戦に口出ししていたり、意外と忙しかった」

 田島先輩は作戦よりも自分の戦闘力を上げたほうがよさそうなんだが。

「結構、インスピレーションが湧いてきた」
「そりゃよかったね」

 雑誌はあまりお気に召さないのか、蔵曾はすぐに棚へと戻して小さなため息。

「お前さ、そんなにラノベ書きたいの?」
「絵は下手」
「それは前にも聞いたけど、何でラノベにこだわるのかなって思ってさ」

 すると蔵曾は俺の袖を引っ張った。
 他のコーナーへ行こうって事らしい、口で言え口で。
 それにここへ来てまだ少ししか経ってないからせめて毎週何気に読んでる週刊誌の漫画くらい読ませてほしいものだ。
 もはや惰性で読んでいるだけではあるからどうでもいいっちゃあいいけど一週間読み飛ばすとそれはそれで何か嫌だ。
 そんな俺の意思などお構いなしに歩く彼女に、俺はため息を漏らしてついていった。
 歩くといっても数十歩といったほど。
 何処へ行くのかと思いきや、ラノベコーナーだった。

「昔ここに、私が最初に書いた本が置かれていた」
「えっ、出版したの!?」

 蔵曾は小さく頷く。
 本当かよ……だったら出版社の関係者と何かしらの縁があればいつだって執筆して出版できるじゃん。

「私が力を使って人気作にした」
「……って事は実力じゃないのか」
「そう。今思うと本当につまらない作品、けれど皆は面白いと思いこむよう本に力を宿した」
「へえ。じゃあまたその力を使って人気作でも作ったら?」
「やはりこういうのは、実力でなければ」

 ごもっともだ。

「それにもう本には使わないと決めた」
「どうして?」
「君は、憶えてない? “神々の足音”っていうタイトル」

 神々の足音だあ?
 何その中二病発病したついでに執筆しちゃいました的なタイトル。
 けど……。

「どこかで……ああ、中学の頃かな。大ヒットしたラノベ、だったか?」
「そう」
「あれをお前が……? けど」

 その本は面白いと思い込むよう蔵曾が力を宿したんだろ?
 俺は――

「つまらない。君はそう言った」

 憶えてる。
 確かに言った、数日前にもわずかな自分の回想にて懐かしみを込めて脳内で再生していた。

「私の力に反して、君は言ったの」
「……偶然お前の力が宿ってなかった本を手に取ったんじゃねーの?」
「なら君の友達も同じ感想を抱く」

 それは誰が読んでも自分の書いた本はつまらないと思うって言ってるようなもんだぞ。

「私はその時もここにいた。皆が目を輝かせて手に取るのが嬉しくて。自分の力だと分かっていても、皆の手に渡るのはどうしても嬉しかった。手に取った本を読んでる様子もわざわざ見に行った」

 ラノベは書かないが自分の創作したものを誰かが手にとって褒め称えるのは嬉しいってのはよく分かる。
 その様子を伺いたくもなるよなあ。

「君だけが、つまらないと言って私がどんなに力を込めなおしてもそれは変わらなかった」
「たまたま不調だったとか」
「それは無い」

 じゃあ俺には特別な力が……!? ってそれも無いか。
 自分で言うのもなんだが俺はどこにでもいるごく普通の人間だ、自信が持てるものは何ですかって面接官が説明したらごく普通の人間の中でもごく普通の人間としてよりごく普通さを極めた人間ですと答えられるくらいさ。

「私には理解できなかった」
「俺も理解できん」
「君は、本質を見極める才能があるのかもしれない」

 本質を見極める?
 ……んな馬鹿な。

「そうじゃなくても、みやぶる――ような、裏を探り当てる才能があるのかも」
「重要なようで日常ではあんまり使わない才能だな……俺のそれがあるかどうかも分からないけどさ」
「きっとある」
「もしかしてその中学時代の俺の発言が原因でお前は力を使わずに一から本を書こうと?」

 蔵曾は小さく頷いた。

「主人公のモデルがどうたらとかで俺を選んだのは偶然とか言ってたけど、それも実は違う?」

 同じように小さく頷いた。

「ああそう……」
「君は主人公のモデルでもあり、私の担当編集者でもある」
「御免こうむる」

 お前の考えた物語を編集するなんざ俺には絶対無理だ。
 ましてや主人公のモデルとしてお前の考えた演出に付き合ってやるってのも渋々引き受けてるに過ぎない――が、楽しんではいる。
 複雑な心情なのだ、今のところは。
 退屈しないのならばそれはそれでいいけど、危険が絡むのならそこは嫌。
 どうしようもなくわがままなのだ。

「困った奴だなほんとに」
「君は主人公らしく振舞ってくれるだけでいい、そんなに困りはしない」
「実際困ってるんだよ」
「何故?」

 襲われたりしているのを知っていての発言か? 頭にげんこつでも食らわせてやろうか?

「先輩に襲われて、人外に襲われて、お前の関係者にはお前に付き合ってほしいってお願いされて、もう心労の連チャンフィーバーだ」
「私の関係者?」

 どうしてそこで首を傾げる?

「……あ。うん、いた」

 すっかり忘れてましたって間があったぞ、使乃さん泣いちゃうぞ。

「あまり会わないから」
「少しは言う事聞いてあげてもいいんじゃないかな」
「頭ごなしに叱る、嫌」

 頭ごなしに?
 使乃さんがそんな叱り方するかねえ……?
 蔵曾には使乃さんもこれまでの自己中心的な行動を思うと激昂しちゃうのかな。
 俺なら確実にするな、激昂しちゃっても仕方が無いな。

「それはお前が皆を振り回したりしてやりたい放題してるからだろ」
「私はそうしていい存在」

 そうですね、神様ですもんね。
 ふざけるな馬鹿。

「私の親戚だって、そうしてる」
「親戚? いるの!?」

 蔵曾の頷きに、俺は頭の中で彼女の親戚を思い浮かべる。
 一体どんな奴なのか、てか神様にも親戚とかいるんだな。
 ……蔵曾がこんな奴だ。
 親戚もろくな事してなさそう。

「兄は私より過激。原稿書いてて私より文章力はあるかも」
「過激な時点で会いたくないな」
「会わないと思う。今は忙しいから」

 そうなんだ、ほっとしたよ。
 いきなり親戚ですとか言い出して二人で俺の人生を面白おかしく変化させてきたらそれは流石にキレてたな。
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