神様はラノベ作家を目指すようです。

智恵 理陀

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第二部

その39.キタコレ

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 おかしい。
 最近蔵曾が現れない。
 現状、鬼全は今の生活が安定するまでは襲ってこないようで、これといった敵とバトルするとかいう戦闘も無く、平穏な日々を過ごしていられている。
 これは蔵曾にとって大問題だ。
 だから何かと敵を嗾けたり俺にもっと主人公らしくとか注文してくるはずなのだが、何も無いのだ。
 煙のように消えてしまった。
 今日は蔵曾のアパートに顔を出しに行こうかな……?
 ――なんて考えていた午後の科学の時間。
 好きな人と組んで班を構成して実験となり、四人組となるとあらたか面子は予想できる。
 さあて誰と組もうかとクラスメイトを見回した数秒後には俺の周りにはノア、薫、豊中さんが立っていた。
 丁度良い、クラスメイトの反応はぎすぎすしてどろっどろな雰囲気だがそれは気にしないとして。

「豊中さん、ちょっといい?」

 ノアの助手と化していた豊中さんは、俺に声を掛けられるや眉間にしわをきざんだ。
 俺にはほんと君って態度冷たいよねぇ。

「なによ」

 俺にはほんと態度冷たいよね君。

「最近蔵曾見なくない?」
「そうね、見ないわ」

 ノアにビーカーを渡しながら言う。

「蔵曾のアパートに行ったりは?」
「最近は行ってないの。鬼全って子いるでしょ? あの子はね、調べたら稀少種に分類される怪異だったの。私達が守らなきゃならなくてね。仕事が増えて大変なのよ」

 言下に俺を睨んで続けて、

「誰かさんが呼んだせいで、ええ、大変なのよ」

 大事な事なので二回言いました的な。

「へー、稀少種ねえ」
「す、すごそう」

 ノアと薫は相変わらず無関係であるが故にどこぞの国で事件があったみたいなニュースを見る感じの反応。

「き、稀少種かあ……」

 チョップしちゃったよ、それくらいは大丈夫?

「だから今回ばかりはあいつの期待通りにはさせたくないの。あんたと鬼全を戦わせる? 絶対駄目! あの子がこの街に住み始めたのなら私達は全力でバックアップしてあの子の生活を守るわ」

 それはそれで俺としては嬉しい。

 蔵曾がどう動くか気になるがね。

「言うならば生きる金塊」
「金塊?」
「あの子の角は怪異の万能薬、高く売れる。だから存在を知られれば他の怪異に狩られる可能性だってある」

 へえ、あの角が……。
 欠片くらいもぎ取ってくれば今頃俺は最新のゲーム機変えたかな?

「変な事、考えてないでしょうね?」
「「いやいやまさかっ!」」

 俺と薫が同時に首を振る。

「「ん?」」

 同時に顔を見合わせた。
 ノアは若干苦笑い。

「……はあ」

 豊中さんは深いため息をついて、俺達をまるで道端に落ちている石ころを見るような目で見つめた。
 そんな目で見ないで……だって、誰もが少しはそんな欲望抱くでしょ?
 ……ノアは抱かなかったようだけどっ!
 放課後、俺達はすぐにアパートへ向かった。
 日に日にノア達と一緒に帰りたい勢が増えている気がするが、気のせいにしておきたい。
 後方から送られる殺気、落ち着かないぜ。
 豊中さんはノアの隣で彼女らしくない笑顔を浮かべていた。
 相当嬉しいのだろう、加えて皆とは違って私は一緒に帰れるもんねみたいな優越感がにじみ出てる。
 最近は一緒の帰宅もご無沙汰だったから嬉しさ倍増かな?

「喫茶店には最近あいつ来た?」
「ここ数日は来てないなあ。俺のバイトの時はいつも来やがるのに」

 引きつった笑顔で蔵曾に萌え萌えキュン☆をやる薫の姿が思い浮かぶ。

「残念だな」
「……残念ではないぜ」

 薫と話をしている間、隣ではどうでもいい世間話から自分の事までマシンガントークばりに豊中さんはノアに話をしていた。
 横目でそれを観察。
 ノアは聞き上手だよな、どんな話題であれ晴れ晴れしく美しい笑顔で聞いてくれている。
 何でも話したくなっちまうよほんと。
 薫は聞くより話したがり、ノアと仲良くなったのも互いの相性が合った結果からかもしれない。

「お前さ、よく神様といるよな」
「ん? ああ、そうだな。観察対象だから……」
「神様もさ、女だよな」
「一応な」

 なんだその確認は。

「神様ってさあ、お前の事どう思ってるんだろ」
「どうって?」

 何を聞きたいんだ薫。
「ほら、だって、なあ?」
 薫は俺の肩に手を置いて、その低い視点から俺を見上げた。

「好き、とか」
「好き?」

 好きって。
 あいつが俺を?

「いやいやいや」
「いやいやいや」
「い、いやいや、いや?」

 俺に続いて豊中さんが、それにノアがつられて言葉を繋げた。

「こんな凡人の塊みたいな冴えない奴をあいつが好きになるわけがないっ」

 豊中さんのその自信たっぷりの発言ムカつく。

「誰かを好きになるなんてもう何百……あっとなんでもないわ」
「何百?」
「何百って言った?」
「な、何百?」

 俺達三人は何百という単語の続きを一瞬で導いた。

 何百年。

 これだ。
 蔵曾はあれでも神様だから年齢はすっごい事になってるはずだ。
 本人からは自分がどんな神かとはっきりとは聞かされていないが箕狩野蔵曾――逆から読めばそうぞうのかみ、この時点で想像の神じゃないかと候補がある。
 想像の神といえばそりゃあすごい神様だ。
 俺達の前では薫やノアを美少女にして、ノアは巨乳にまで簡単にしやがるときた。
 是非強敵が現れたら可愛くか弱い少女に変化させて俺の代わりに撃退してもらいたいね。
 それより重要なのは……神様にも恋愛感情はある――豊中さんが漏らした言葉から恋愛対象もあったと伺える。

「誰を好きになったん? やっぱり神様同士!?」
「知らない!」
「ここだけの話で」
「嫌よ!」

 そっぽを向いてしまった。

「き、気になる……」

 ぼそりと呟くノアの声に、豊中さんはすぐに顔を元の角度に戻して、弱ったなあと言わんばかりに眉間をふにゃりと曲げていた。
 そりゃあノアの上目遣いはもはや兵器、豊中さんはどうするのやら。

「くっ……」

 耐えてる、頑張って耐えてるっ。

「ちょっとだけでも!」
「豊中さん! 世界一! 可愛いよ!」
「黙れ」

 あっはい。

「ね、熱愛?」

 よしいけノア!
 お前の言葉は豊中さんにクリティカルヒットするんだ!

「……あのですね」

 お? 言っちゃう? 言っちゃうの?

「……やっぱ言えません!」

 豊中さんは全力で走り出した。

「逃げた!」
「逃げやがった!」
「あっ、うっ」

 追いかけようっ!
 向かっているのは蔵曾のアパート? 逃げる先を考えてなかった結果、目的である蔵曾のアパートへ無意識に向かっちゃってるのかな。
 追いかけっこは十数分間。
 天使の身体能力は尋常じゃない。
 いとも容易く逃げられてしまい、やっとこさ蔵曾のアパートへ到着すると電柱の影に隠れて待機していた。

「その話を再開したらすぐ逃げるから」
「わ、解ったよ……」
「たとえノア様であっても、逃げます」
「あ、は、はいっ……」

 どうしても言いたくないようだ、無理には聞かないでおくとしよう……。
 聞かないけど、気になるのは変わりない。
 いつか蔵曾に直接聞いてみようかな?
 気を取り直して蔵曾の部屋へ。
 豊中さんは軽くノックして様子を伺うも反応は無し。
 かすかに物音は聞こえる、蔵曾は中にいるのは間違いない。
 ドアノブを回してみるも鍵が掛かっていた。

「おい蔵曾、いるんだろ?」

 沈黙。

「「「「おーい」」」」

 全員で扉をノックしてみた。
 中で何やってるんだ?
 いくらノックしても出てくる気配が無い、どうしようかと豊中さんに指示を仰ぐと、豊中さんはドアノブに手を伸ばし――

「ふんっ!」

 回した、二百七十度くらいの角度で。
 バキンッとドアノブが外れ、扉の開放は叶ったが……それは開けたのではなく壊したという表現がいい。

「入るよ」

 豊中さんに俺達も続いて入った。
 カーテンは閉められて日光はほぼ遮断されているも、室内には青白い光が灯されていた。
 その光を辿ると、小さな人影と四角く光るもの。
 ――蔵曾とパソコンだ。

「ふひひ……」

 不気味な笑い声が聞こえた。
 耳に当てているのはヘッドホン?
 アパートならお隣さんを考えると音量を抑えるには必要な道具だね。
 パソコンを置くテーブルに座椅子も買ったようで、その近くには羽無しの扇風機が置いてありかなり充実した環境となっていた。

「おい」

 豊中さんは蔵曾のヘッドホンを剥ぎ取った。

「はっ!?」
「何してんの?」
「……」

 俺達の存在にようやく気づいた蔵曾は、固まった。

「何してんのって聞いてんの」
「……」

 画面の電源を切る蔵曾。
 何をしていたか、その答えは画面にあるらしい。

「別に」
「嘘つけ」

 カーテンを開けて光の補充、この部屋は暗すぎる。

「眩しい」

 光を嫌う吸血鬼のように蔵曾は呻いた。
 ゴミが散らかった室内があらわとなり、ノアは癖なのか掃除を開始。
 俺達も手伝いたいが蔵曾のな、パソコンがものすごく気になるんだよ。
 ヘッドホンからは音楽が流れてるけど曲ではなくBGM、ゲームでもしていたのか?

「パソコン手に入れてから、全然外出てないわよね」
「出た」
「いつよ」

 尋問が始まった。

「ヘッドホンを買いに行った時」
「それ以外は?」
「ご飯を買いに行った時」

 そのご飯というのもコンビニ弁当ばかり、簡単なもので済ませてしまっている。

「あとは?」
「ない」

 キリッと答えたが、その結果蔵曾の両頬は抓られた。

「いふぁい」
「どこの駄目人間よ」

 まったくだ。
 頷く俺と薫。
 本来の目的を忘れてパソコンに没頭する神様はこのままじゃ働きたくないでござるとか言いそうだ。
 普段仕事や学校に縛られていないからこれまたタチが悪い。

「画面、見せて」
「嫌」
「なんで?」
「事情が」

 どんな事情ですかね?

「すみませーん、蔵曾さんですか?」
「えっ、あっ、違いますっ」

 来客のようだ、ノアが対応しているが五秒後には口篭ってしまって対応失敗。
 俺が代わりに対応してやろうとすると、蔵曾は動き出した。

「わたしっ」

 早い、かなり早かった。
 するりと俺達の間をすり抜けて、玄関へ。
 配達員のようだ、やや大きめで梱包されていて何かは解らないが蔵曾の背中はどこか陽気さを感じる。

「……おい」
 豊中さんの背中はどこか殺意を感じる。
 俺達は避難も兼ねて端っこで座り、じっと様子を見るとした。

 まさに触らぬ神に祟りなしだ。
「キタコレ」
「何がキタコレなの?」
「……なんでもないコレ」
「その包みをぶっ潰したら貴方はどんな顔するかしら?」

 鞄から取り出したのは豊中さんおなじみ鉄製グローブ。

「阻止」

 蔵曾は覆いかぶさった。
 必死すぎる……。
 俺はテーブルを寄せて、

「ノア、お茶用意してくれる?」
「えっ? でも……」

「蔵曾なら気にするな、戸棚に茶葉あるから」
「わ、解ったっ」

 二人の攻防はまだ時間が掛かりそうだ。
 膠着状態の中、お茶が用意され、テーブルに置かれた湯飲みを俺は口へ運ぶとした。
 神様と天使の攻防を眺めて飲むお茶もまたオツなものよ。
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