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第一章
005 ボードは人生そのものであり、人生はボードにより定められる。
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「助けたなんて大げさな。俺はただ攻撃されただけだし」
「そ、そういえばお体のほうは大丈夫なのですか?」
「うん、大丈夫らしい。あれくらいの攻撃は、もう耐えられるようだ」
「首が、二度ほど吹き飛ばされていたような……」
「ああ、吹き飛ばされたけど、俺が死ねる方法じゃあなかったようでね」
「死ねる方法ではなかった?」
彼女――ハスは顔を上げては目をまんまるくさせていた。
まあこんな説明を聞いて、はいそうですかと理解できるほどの包容力の持ち主などそうそういるはずもない。
逆の立場であったならば俺もきっと彼女と同じ表情を見せていただろう。
「ご覧の通り死ねない身でね、死ねる方法はあるらしいんだが。一応は不死者って事なのかな俺は」
「ふ、不死者……なのですか?」
「ちょっとした、事情があってね」
信じられないだろう? でも信じるしかないんだ。
俺も未だに信じられないけれど、こうして死ねないのは体験しているし、君も俺が死んでいないのはその目で見ている。
世の中、信じられないものであれ直接見たものならば受け入れるしかない。
「はわ……これも神様のお導きですね。まさか、アルヴ教の言い伝えにあったようにアルヴ様の使いである不死者様が顕現なされるとは……」
「いや使いではないんだけど、ん? 今アルヴって言った?」
「はい、唯一神様でございます」
ハスは両手で輪を作ってお辞儀をする妙な祈り方をしてきた。
宗教的な挨拶はそのようにするのだろうか。仏教でいう両手を合わせるやつの派生みたいな感じだな。
しかしそんな事は重要ではない。唯一神――そしてアルヴ、思わず苦笑いを浮かべている自分がいた。
「そういえばなんか言ってたなあいつ……」
私の作った世界、とか。
唯一神として周知されているのか。信仰者もさぞかし多かろう。キセルぷかぷか吸ってるロリババァみたいな奴だぜって言ったら怒るかな。
「まさか、神様とも面識があるのですか?」
「……あるといえばあるかな」
「嗚呼、であれば本物で間違いございませんね! なんという僥倖……ありがたや……」
そんな熱心に頭を下げて祈りを捧げられても困るのだが。
「あの獣は一体なんだったんだ?」
「あれは獣ではなく、魔力を持つ獣――魔物でございます。名前はヴァフベアといいます。本来このあたりでは出現しないはずなのですが……」
「魔物ねえ……」
そんでもって魔力やらヴァフベアとはこれまた異世界感のある単語が出てきたな。
「貴方様は相当な魔力の持ち主のようですね、ヴァフベアが警戒して去っていきましたよ」
「相当な魔力? そうなの?」
「はい。ご自身の魔力を把握しておられないのですか? 魔力の分析は少しできますが、その……首が飛ばされるたびに魔力が上がっていたようでして、そのような固有魔法の持ち主なのかと思ったのですが」
「うーん……その魔力自体もよく分からないんだけど」
「ええっ!? 魔力をご存じないのです!?」
いい具合に手に収まる太さの木の枝を取り、荷台の屋根布だったものから布を取り出して巻き付けた。
ランプのオイルを染み込ませて火をつけて簡易な松明を完成させる。
「……別大陸の、魔力性質のない種族、ですか?」
「別大陸というか……別の世界から来たって言ったら信じる?」
「別の世界……! はわっ……やはり神々の世界からでしょうか。ようこそこの世界へ……」
「あ、うん。信じてくれて何より。よかったら色々と基本的な事を教えてくれると嬉しいな。とりあえずその魔力から聞いていい?」
ついでに荷台に積んでいたものを漁ってみよう。
死にたい身ながら、空腹は嫌なもので……転がっていた林檎らしきものを見つけてすぐに齧りついた。彼女にも一個あげよう。
ハスはぺこぺこと頭を下げて、その小さな口でしゃりしゃりと林檎を懸命に食べていた。空腹だったようだ。
他の荷物も漁るか。商人が手放す程度ならあまりいいものはないのだろうけれど。
「は、はい! 魔力というのは人間の持つ第二の力と言われておりまして、ご自身の能力の源でございます」
「魔力ねえ……」
ある程度漁り終え、水の入った革水筒に肉類と紫の宝石みたいなものが入った袋に保存食であろう菓子類、それに少数であるが硬貨も手に入った。
魔物に襲われた衝撃でいくつか散らばり回収されなかったものだ。
硬貨は歪ながらも円形の銅貨であり、価値はあまり感じられないがしかしお金には変わりないだろう。
文明としては俺の住んでいた世界よりは発展していないようだ。
ローブがあったので着てみたが、黒スーツにこげ茶色のローブは合わない気もするが羽織らないよりはマシだろう。
ハスは魔物を恐れてこの場から離れたがっているために、話は歩きながらするとした。
どこへ向かうかは何も決めてない、どこへ向かうべきなのかは何も分からないが。
死ねそうなところがあったらすぐにでも飛び込みたい。
「ボードもさぞかし優れていらっしゃるのでしょうね」
「ボードっていうのは?」
「はわっ!? ご、ご存じ、ないのですか?」
「残念ながら」
「不死者様にとってはボードは特に重要なものではないという事でしょうか……」
「それはどうやって見るんだ?」
「こう、手をかざして、そこに自分の魂があるのを想像する感じで……」
ハスは目の前に手をかざすと、三角形の板が出現した。
淡い青の色、半透明で何やら複雑な模様が刻まれている。
俺も同じように目の前に手をかざしてみる。
すると――八角形の板が出現した。
「おおっ……」
彼女のものと同様に、複雑な模様が刻まれていた。
文字らしきものもあるが読めない。
「は、八角形……」
「えっ、何か意味があるの?」
「そのですね……ボードは自身の能力や将来性までもが映し出されております、多角形であればあるほど優秀であり、将来有望とされております」
「へえ、じゃあこれは相当いいの?」
「八角形は初めて見ました……。名を馳せるお方であれ六角形といったところでしたが……」
ボードに何が書かれているかも分からないのだが、少なくとも有名な奴でも六角形であるならそれ以上の俺は恵まれているようだ。
とはいっても死にたがりがこんなものを持っていても宝の持ち腐れだ、嬉しくもなんともない。
彼女は俺のボードを見るなり祈りを捧げていた。
何かと祈らないと気が済まないんだろうか。
「私は三角形で自身の魔力も高くなく、刻まれている将来性もいいものはありません。シマヅ様のボードがとても、うらやましく思います」
「おいおい、何もこんなよく分からないもんで将来性が決まるもんじゃないだろう?」
「私のボード内に示されているこの模様も全体の四分の一程度しかないので、二十五くらいで成長性は皆無……その頃には死ぬ運命なのかもしれません」
「えぇ……? んなまさか」
「ボードに刻まれているのは人生そのものと言っても過言ではございません。なのでボード次第で地位や就ける職業ですら変わってきます」
ハスは自分のボードを見て、小さなため息をついてはボードを消した。
彼女のボードには、それほどいいものは刻まれていないのか。
「そ、そういえばお体のほうは大丈夫なのですか?」
「うん、大丈夫らしい。あれくらいの攻撃は、もう耐えられるようだ」
「首が、二度ほど吹き飛ばされていたような……」
「ああ、吹き飛ばされたけど、俺が死ねる方法じゃあなかったようでね」
「死ねる方法ではなかった?」
彼女――ハスは顔を上げては目をまんまるくさせていた。
まあこんな説明を聞いて、はいそうですかと理解できるほどの包容力の持ち主などそうそういるはずもない。
逆の立場であったならば俺もきっと彼女と同じ表情を見せていただろう。
「ご覧の通り死ねない身でね、死ねる方法はあるらしいんだが。一応は不死者って事なのかな俺は」
「ふ、不死者……なのですか?」
「ちょっとした、事情があってね」
信じられないだろう? でも信じるしかないんだ。
俺も未だに信じられないけれど、こうして死ねないのは体験しているし、君も俺が死んでいないのはその目で見ている。
世の中、信じられないものであれ直接見たものならば受け入れるしかない。
「はわ……これも神様のお導きですね。まさか、アルヴ教の言い伝えにあったようにアルヴ様の使いである不死者様が顕現なされるとは……」
「いや使いではないんだけど、ん? 今アルヴって言った?」
「はい、唯一神様でございます」
ハスは両手で輪を作ってお辞儀をする妙な祈り方をしてきた。
宗教的な挨拶はそのようにするのだろうか。仏教でいう両手を合わせるやつの派生みたいな感じだな。
しかしそんな事は重要ではない。唯一神――そしてアルヴ、思わず苦笑いを浮かべている自分がいた。
「そういえばなんか言ってたなあいつ……」
私の作った世界、とか。
唯一神として周知されているのか。信仰者もさぞかし多かろう。キセルぷかぷか吸ってるロリババァみたいな奴だぜって言ったら怒るかな。
「まさか、神様とも面識があるのですか?」
「……あるといえばあるかな」
「嗚呼、であれば本物で間違いございませんね! なんという僥倖……ありがたや……」
そんな熱心に頭を下げて祈りを捧げられても困るのだが。
「あの獣は一体なんだったんだ?」
「あれは獣ではなく、魔力を持つ獣――魔物でございます。名前はヴァフベアといいます。本来このあたりでは出現しないはずなのですが……」
「魔物ねえ……」
そんでもって魔力やらヴァフベアとはこれまた異世界感のある単語が出てきたな。
「貴方様は相当な魔力の持ち主のようですね、ヴァフベアが警戒して去っていきましたよ」
「相当な魔力? そうなの?」
「はい。ご自身の魔力を把握しておられないのですか? 魔力の分析は少しできますが、その……首が飛ばされるたびに魔力が上がっていたようでして、そのような固有魔法の持ち主なのかと思ったのですが」
「うーん……その魔力自体もよく分からないんだけど」
「ええっ!? 魔力をご存じないのです!?」
いい具合に手に収まる太さの木の枝を取り、荷台の屋根布だったものから布を取り出して巻き付けた。
ランプのオイルを染み込ませて火をつけて簡易な松明を完成させる。
「……別大陸の、魔力性質のない種族、ですか?」
「別大陸というか……別の世界から来たって言ったら信じる?」
「別の世界……! はわっ……やはり神々の世界からでしょうか。ようこそこの世界へ……」
「あ、うん。信じてくれて何より。よかったら色々と基本的な事を教えてくれると嬉しいな。とりあえずその魔力から聞いていい?」
ついでに荷台に積んでいたものを漁ってみよう。
死にたい身ながら、空腹は嫌なもので……転がっていた林檎らしきものを見つけてすぐに齧りついた。彼女にも一個あげよう。
ハスはぺこぺこと頭を下げて、その小さな口でしゃりしゃりと林檎を懸命に食べていた。空腹だったようだ。
他の荷物も漁るか。商人が手放す程度ならあまりいいものはないのだろうけれど。
「は、はい! 魔力というのは人間の持つ第二の力と言われておりまして、ご自身の能力の源でございます」
「魔力ねえ……」
ある程度漁り終え、水の入った革水筒に肉類と紫の宝石みたいなものが入った袋に保存食であろう菓子類、それに少数であるが硬貨も手に入った。
魔物に襲われた衝撃でいくつか散らばり回収されなかったものだ。
硬貨は歪ながらも円形の銅貨であり、価値はあまり感じられないがしかしお金には変わりないだろう。
文明としては俺の住んでいた世界よりは発展していないようだ。
ローブがあったので着てみたが、黒スーツにこげ茶色のローブは合わない気もするが羽織らないよりはマシだろう。
ハスは魔物を恐れてこの場から離れたがっているために、話は歩きながらするとした。
どこへ向かうかは何も決めてない、どこへ向かうべきなのかは何も分からないが。
死ねそうなところがあったらすぐにでも飛び込みたい。
「ボードもさぞかし優れていらっしゃるのでしょうね」
「ボードっていうのは?」
「はわっ!? ご、ご存じ、ないのですか?」
「残念ながら」
「不死者様にとってはボードは特に重要なものではないという事でしょうか……」
「それはどうやって見るんだ?」
「こう、手をかざして、そこに自分の魂があるのを想像する感じで……」
ハスは目の前に手をかざすと、三角形の板が出現した。
淡い青の色、半透明で何やら複雑な模様が刻まれている。
俺も同じように目の前に手をかざしてみる。
すると――八角形の板が出現した。
「おおっ……」
彼女のものと同様に、複雑な模様が刻まれていた。
文字らしきものもあるが読めない。
「は、八角形……」
「えっ、何か意味があるの?」
「そのですね……ボードは自身の能力や将来性までもが映し出されております、多角形であればあるほど優秀であり、将来有望とされております」
「へえ、じゃあこれは相当いいの?」
「八角形は初めて見ました……。名を馳せるお方であれ六角形といったところでしたが……」
ボードに何が書かれているかも分からないのだが、少なくとも有名な奴でも六角形であるならそれ以上の俺は恵まれているようだ。
とはいっても死にたがりがこんなものを持っていても宝の持ち腐れだ、嬉しくもなんともない。
彼女は俺のボードを見るなり祈りを捧げていた。
何かと祈らないと気が済まないんだろうか。
「私は三角形で自身の魔力も高くなく、刻まれている将来性もいいものはありません。シマヅ様のボードがとても、うらやましく思います」
「おいおい、何もこんなよく分からないもんで将来性が決まるもんじゃないだろう?」
「私のボード内に示されているこの模様も全体の四分の一程度しかないので、二十五くらいで成長性は皆無……その頃には死ぬ運命なのかもしれません」
「えぇ……? んなまさか」
「ボードに刻まれているのは人生そのものと言っても過言ではございません。なのでボード次第で地位や就ける職業ですら変わってきます」
ハスは自分のボードを見て、小さなため息をついてはボードを消した。
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