死ねば死ぬほど強くなる不死者は死ぬ方法を探している。

智恵 理陀

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第四章

021 現世の業火は彼をどこにも導かない。

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 作戦は色々と練って行動に移ってみたりはした。
 例えばひと気の無い道を選んで移動したり、夜中に誰もいない広場でぽつんと立ってみたり。
 しかし二日三日程度では敵が食いついてくる事もなかった。
 警備を手薄にさせてみたがやはり駄目。食いついてきてほしいというのにこちらの状況を察してか、動きはない。
 王女と再び相談したいところだが多忙のためにあれから中々会えずにいた。
 仕方がないので龍関連の依頼を受けては龍と対決して何度か殺され、飽きられたので素材を回収し、三度目の今日も同じくして再び龍と対決をしている。

「来ちゃった♪」
「龍相手に言う台詞ではないと思いますよ」

 二日前に来たばかりだからか、龍は俺を見るなり露骨に嫌そうな顔をしていた。
 なんだよつれないな。

「今日は着替えを持ってきたんだ」
「……」

 気さくに話しかけてみたが、龍の表情はよろしくない。
 明らかに不機嫌だが、どうしたのだろう。

「ほら、俺って君の攻撃じゃあ死なないのは大体検証したけどさ、まだ一つだけやってもらってない事があるじゃん?」
「……」
「……」

 ああ、ちなみに増えた沈黙はお隣さんだ。
 俺をジト目で見ている。最近ハスは俺をよくジト目で見る機会が増えたような気がする。

「君は炎を吐く、そりゃもう骨も残らない素晴らしい火力の炎だ。けれど前回も、前々回も上半身しか焼いてない。まだ全身は試していないんだ。もしかしたらもしかすると、全身を焼いてもらって灰すら残らないのならば、死ねるんじゃないかな俺は。どう?」
「……」

 答えてくれない。けれど眉間にしわが寄り、敵意はにじみ出ている。
 ハスはすぐにそれを察して岩陰へと逃げ込んだ。

「ハ、ハスはシマヅ様が生きてくださる事を願うばかりです~!」
「俺が死んで灰も残らなかったら後は任せるぜ!」
「私には荷が重いです~!」

 そんなやり取りの間に、龍は既に口を開けていた。
 俺は両手を広げて全身で受ける準備をする。

「さあ、ばっちこい!」

 ――業火のような、その咆哮と共に、空気が歪む熱量が洞窟内を熱していく。
 天井はここ二回ほどの炎で黒ずんでいる、今日で更にその黒ずみは濃くなるであろう。

「グァァァァァァァア――!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁあ――!」

 龍の炎を、受ける。
 熱いのは一瞬だ、その後は何も感じない。
 全身を焼かれれば流石に死ねるだろう、そんな期待を最後に、視界は暗転。

「……マジか」
「シ、シマヅ様……すっぽんぽんです~」

 ――すぐに、視界は回復。
 体の再生はしたのだろうが、服は当然再生しないので全裸だ。

「おい~、ちゃんと全身焼いたのか~?」

 龍は黙って頷いた。
 こいつ、言葉が通じるから意外と意思疎通ができるんだよな。

「焼きが甘かったんじゃないの?」

 俺の言葉にカチンときたのか、龍はすぐさまに後方へと振り向き、勢いよく尻尾をぶつけてきた。

「ぶへぁ!」

 ハスの頭上を越えて、天井にぶつかりそして背中から着地。
 今のは……中々効いたぜ……。死にはしなかったけど。

「あぁっ、ハスの視点からではもうなんとも言葉にできない光景です……はい、お着がえでございます」
「ありがとう……でも……」
「でも?」
「洞窟のほどよい空気を全裸で感じるのは、悪くない」
「早く服を着てください」

 あっ、いつもはジト目を向けてくるのに今日は冷たい視線になってる。
 いや……外で全裸って意外と気持ちよくてだね。うん、ごめんなさいね、すぐ着替えます。

「さて。どうしたものか」
「それは龍の台詞だと思いますよ」
「とりあえず素材の回収も済ませておこう」

 不機嫌に奥へと行く龍の後ろをそっとついていき、鱗や爪を回収してはハスへと渡していく。
 ひと暴れしてくれると素材も落としてくれるもんだからある意味一石二鳥なんだよね。
 ある程度素材を回収し終えたので、俺は再び龍と接触するとした。

「おーい、そんな奥に行かないでくれよー」

 龍は立ち止まり、本当に嫌そうな顔で俺を見ていた。
 あんまり冷たい態度を取られると傷つくぞ。

「実は最近、魔法を使えるよう練習してるんだ。付き合ってくれないかな。ついでに殺してみてもいいからさ」
「りゅ、龍を練習相手にするなんて初めて聞きますよ~」

 龍は俺のほうへと振り返り、ふしゅーと鼻息を鳴らして見下ろしていた。
 これまでこれといった攻撃はしてこなかった。
 片手剣で斬りかかった事はあったけど本気の攻撃ではない。
 なんか強化魔法を付与するか上質の剣じゃないと折れるらしいから、今はまだ剣のほうでの攻撃は龍相手には早いかなと思っている。
 であれば、やはり魔法。
 魔法なのだよ魔法! 折角の異世界、魔法の一つくらい放たなきゃね。

「俺は全部の属性に適性があるからどれも使えるらしいんだけど、加減や調整がまだ掴めなくてね」

 魔法指南書も読み始めていたりもするんだぜ。
 昨日は治療魔法についての書物も買ったばかりだ。
 治療魔法は自分には不要な魔法だが、ハスのために覚えようかなと思っている。
 他には分析魔法かな、あれは割りと簡単に覚えられるらしい。
 けれどどちらも攻撃魔法ではない。そして敵を攻撃する魔法といえばやはり炎系は欠かせない。
 欠かせないといっても、俺個人が抱いている印象からくるものであるだけなのだがね。

「ええっと……この本によると、なんだっけ? さっき翻訳してもらったばかりだから、ちょっと待っててね」
「つい先ほど買ったばかりなのに依頼現場で試す人はおそらくシマヅ様が初めてなのでは?」
「そうかな~?」
「そうですよ」
「よかったらハスも一緒に練習しない?」
「適性もございませんしそもそも龍の前で魔法指南書を読む事自体、私には恐れ多くて無理です!」

 そんなに恐れなくてもいいと思うんだがな。
 こいつだって俺達と顔を合わせるのはもう三度目、そろそろ愛着くらい湧いてくるんじゃないだろうか。

「確たる想像と、初心者は魔力を指先に、と……。悪いね、道中に要所要所を翻訳はしてもらったんだけど、やっぱり全文翻訳してもらわないとちょっと分かりづらいな……」

 ちらりと後方のハスを見やる。
 彼女と目が合うや首を勢いよく横に振る、岩陰から出てくるのは無理そうだ。
 もう少し詳しく翻訳してもらいたいんだけど、駄目そうだ。
 まあいい、難しい魔法でもないようだから十分やれるだろう。

「こうかな……?」

 人差し指を龍へと向ける。
 指先に集中、魔力の流れも自分で把握でき、魔力自体も練られていれば視認する事ができる。
 こう、体中を巡る血液のような感覚をきちんと理解し、確たる想像と共に意識する。
 すると指先が少し熱くなり、淡く青い光が包み込んでいる。魔力が指先へときちんと集中されている証だ。
 これなら、できる!

「――フレイム!」

 すると、炎が放たれた。
 想像していたものよりも広く大きい。
 龍は驚いて上体を逸らすが、おそらく全然効いてはいないはず。
 そもそも炎を扱う龍に炎が効くわけもないしな。

「あぢぢぢぢっ!」
「シ、シマヅ様! 大丈夫ですか!?」
「あ、ああ! 大丈夫大丈夫、袖に火がついただけっ」

 こういうのもきちんと調整しなくては。
 失敗例の絵が描かれているのだが、中には明らかに丸焼けになってる奴もいるようだ。
 さて龍のほうは……。

「ど、どうだった?」
「グルルルルルル……」

 あ、すっごく不機嫌そう。
 少しは熱かったのかな?

「ちょっと待ってね」

 ボードを開いてみる。
 空白のところに今使用した魔法を、発動する感覚で触れてみる。
 すると燃え上がる炎のような模様が空白を埋めた。
 これで一応、この魔法は言葉のみでの発動がしやすくなったのかな?

「えっ、もうその魔法をボードに刻む事ができたのですか!?」
「うん、そうみたいだけど……」
「す、すごいです! 本来はもっと発動や鍛錬などを重ねないといけないのですが……」
「これも八角形ボードの賜物かねえ」

 自分の才能というよりも、単純にボードのおかげに違いない。
 ボードを眺めていると、鼻息が頬を強く撫でた。
 見上げてみると龍がすぐ目の前まで顔を近づけていた。

「よし、もう待たなくてもい――」

 同時に、龍は口を開けて即座に炎を放つ。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

 不意打ちの熱さ!
 そして本日二度目の全裸である。
 最終的に龍はまた奥へと引っ込んでしまい、本日も素材回収のみとなった。今日は結構付き合ってもらったのもあって鱗を落としてくれたな。地面をひっかいたときに残った爪の欠片もゲットだ。
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