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第四章
023 微かな異変
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渓谷の近くへと到着し、馬車から降りて次は徒歩での移動だ。
天候は曇り空、雨が降るほどの空模様ではなさそうだがその代わりに少し気温が低くほんの少しだけ肌寒かった。
「ハス、風邪引かないようにな」
「はい、お気遣いありがとうございます」
「マスクも一応つけておけ」
「は、はい……」
ちょっと嫌そう。
でもこればかりは我儘を言っていられないしな。
「それは噂の天国病対策?」
「そうそう」
「俺達も買っておくべきかなぁ?」
ハスのペストマスクをクオンは吟味するように全体を見ていた。
「大げさじゃない? 死ぬ病なんて言われてたけど、感染者はほとんどいないんでしょう? 依頼が終わったら浄化魔法をかけておけばいいじゃない」
「でも浄化魔法は病気を直接治せるわけでもないじゃん? 治療魔法だって免疫力を高めるだけだし、罹らないようにこうしてガッチガチに対策したほうが安全じゃないか?」
「あんたはそのマスクをつけて魔物を退治できるの?」
そう言われるやクオンは口籠り、反論できず。
視界もいいとはいえないこのマスクをつけて魔物退治だなんてそりゃあ無理に決まっている。
「手洗いうがいが一番じゃ」
「一番ニャ~」
やはり感染者の少なさが危機管理を低下させている。
だが現時点では明確な対策もないし国もこれといった発表も出来ていないのだから彼らができる対策と言えば手短なものになる。
早く天国病について突き止めなければならないが、どこをどう調べようものか足踏みしている今、やはり敵を誘い出すしかない。
このタイミングで来たりしないだろうな。
……人数も多いし流石に来ないか。
「あれ……?」
依頼書を頼りにして現場へとようやく到着……したのだが肝心のノシイシがいなかった。
「どうなってるのよ、全然いないじゃない」
川のせせらぎが漂う静かな渓谷。
近くまで来ると、意外と深い。
まるで大地を割ったかのような大きな亀裂、数メートル底には川が流れており、手前では丸く小さな湖が出来上がっていた。渓谷の最終地点といったところであろう。
「依頼書によれば……そこの水場にノシイシがいるはずなんだけどなあ……」
「群れどころか一匹もおらんぞい」
「降りてみるニャ~?」
「いや、もう少し奥に行ってみよう。降りた途端に群れと遭遇したら厄介だ」
この渓谷には頑丈なロープが所々につけられており、冒険者用に昇り降りできるようになっていた。
渓谷の左右には道も用意されており、整地されているために歩くのは問題ない。
だが奥へと進むたびに渓谷の幅は広がっており、真ん中には縫うかのように別の山が入り込んでいて俯瞰で見ればV字、ここから見ればW字の変わった渓谷を作り出していた。
「奥に逃げ込んだかなぁ……」
「仕方ないわね、二手に分かれましょう」
「それじゃあ……」
誰と組む? と視線を送るもシスティアはすぐに言う。
「私はクオンと組むわ。そっちは?」
「じゃあうちはシマヂュと組むニャー」
シマヅだよ。
「じゃあそのハイラアも必然的にそっちね。ロッゾじい、介護してあげるわ」
「ぬかせ」
自然と組み合わせは決まった。
パニアは無垢な笑顔を浮かべては尻尾を左右に振り振りしている。
こちらも釣られて笑顔になってしまう。好意的な感情に、心をほぐしてもらっている感覚。
二人一組になって、とか班を作ってなんていう状況になった時、内心ではいつも孤立を過ぎらせ怯える自分がいたが、率先して組んでくれると、それだけで単純に……とても嬉しい。
「それじゃあ奥を調べてこよう。ノシイシも二手に分かれていれば数も少なくて対処できるだろうけど、もし分かれていなかった場合は一度合流しよう」
「でも八角形ボードの貴方なら一人で終わらせられちゃうかもね」
「それなら楽じゃのう」
「シマヅ、その時は俺達の仕事を残してくれよな。共同依頼なんだからさ」
「ああ、分かったよ」
「真ん中の小山に渡れる橋も奥には設置されているからそこでも合流できるが合流前に見つけた時は、そうだな……こいつで合図を送ってくれ。魔力石で反応する飛翔発炎筒だ」
赤い筒を渡された。
車に乗せていたものと似ている、事故を起こした時に後続車へ前方に障害物がある事を知らせるために置くものだ。
筒の底には魔力石がついている。
赤い色を宿しているとなると、炎属性が付与されているのだろう。
「魔力石に魔力を注ぐと空に撃ち上がるようになってるんだ」
「こういうものもあるんだな」
「パーティを組む上で飛翔発煙筒は持っていて損はないから是非購入をお勧めするよ。結構安いんだぜ」
「今度買ってこよう」
準備も終えて、二手に分かれる。
俺達は右側から渓谷を進んでいくとした。
少し奥へと進めばロープを使わずとも降りられるような傾斜が作られているのだとか。
そのあたりには水場もある、ノシイシがいるとすればそういった水場付近らしい。
「うちは鼻が利くけど、ノシイシは意外と綺麗好きであまり匂いが辿れないニャ」
「へえ、綺麗好きなのかぁ」
「しかもノシイシは肉質も良いから捌くのもありニャ」
「えっ、魔物って食べれるの?」
「勿論食べれるけど生で食べるのは駄目ニャ。普通にお腹壊すニャ」
もし食料に困ったらノシイシを倒して捌いてみよう。
「――むむっ、こっちに匂いが!」
「本当か! 行ってみよう」
奥へと進むにつれて渓谷の足元も荒れてきている。
歩道として作られてはいるものの、左手側は崖で落下防止の措置は無し。
以前の俺なら恐れていたけれど、今なら死なないのが分かっているから特に恐怖は感じない。
下を何度か見てみたがノシイシは全然いないな。
もっと奥に進むしかないな。
意外とこの依頼、時間が掛かるかも。
天候は曇り空、雨が降るほどの空模様ではなさそうだがその代わりに少し気温が低くほんの少しだけ肌寒かった。
「ハス、風邪引かないようにな」
「はい、お気遣いありがとうございます」
「マスクも一応つけておけ」
「は、はい……」
ちょっと嫌そう。
でもこればかりは我儘を言っていられないしな。
「それは噂の天国病対策?」
「そうそう」
「俺達も買っておくべきかなぁ?」
ハスのペストマスクをクオンは吟味するように全体を見ていた。
「大げさじゃない? 死ぬ病なんて言われてたけど、感染者はほとんどいないんでしょう? 依頼が終わったら浄化魔法をかけておけばいいじゃない」
「でも浄化魔法は病気を直接治せるわけでもないじゃん? 治療魔法だって免疫力を高めるだけだし、罹らないようにこうしてガッチガチに対策したほうが安全じゃないか?」
「あんたはそのマスクをつけて魔物を退治できるの?」
そう言われるやクオンは口籠り、反論できず。
視界もいいとはいえないこのマスクをつけて魔物退治だなんてそりゃあ無理に決まっている。
「手洗いうがいが一番じゃ」
「一番ニャ~」
やはり感染者の少なさが危機管理を低下させている。
だが現時点では明確な対策もないし国もこれといった発表も出来ていないのだから彼らができる対策と言えば手短なものになる。
早く天国病について突き止めなければならないが、どこをどう調べようものか足踏みしている今、やはり敵を誘い出すしかない。
このタイミングで来たりしないだろうな。
……人数も多いし流石に来ないか。
「あれ……?」
依頼書を頼りにして現場へとようやく到着……したのだが肝心のノシイシがいなかった。
「どうなってるのよ、全然いないじゃない」
川のせせらぎが漂う静かな渓谷。
近くまで来ると、意外と深い。
まるで大地を割ったかのような大きな亀裂、数メートル底には川が流れており、手前では丸く小さな湖が出来上がっていた。渓谷の最終地点といったところであろう。
「依頼書によれば……そこの水場にノシイシがいるはずなんだけどなあ……」
「群れどころか一匹もおらんぞい」
「降りてみるニャ~?」
「いや、もう少し奥に行ってみよう。降りた途端に群れと遭遇したら厄介だ」
この渓谷には頑丈なロープが所々につけられており、冒険者用に昇り降りできるようになっていた。
渓谷の左右には道も用意されており、整地されているために歩くのは問題ない。
だが奥へと進むたびに渓谷の幅は広がっており、真ん中には縫うかのように別の山が入り込んでいて俯瞰で見ればV字、ここから見ればW字の変わった渓谷を作り出していた。
「奥に逃げ込んだかなぁ……」
「仕方ないわね、二手に分かれましょう」
「それじゃあ……」
誰と組む? と視線を送るもシスティアはすぐに言う。
「私はクオンと組むわ。そっちは?」
「じゃあうちはシマヂュと組むニャー」
シマヅだよ。
「じゃあそのハイラアも必然的にそっちね。ロッゾじい、介護してあげるわ」
「ぬかせ」
自然と組み合わせは決まった。
パニアは無垢な笑顔を浮かべては尻尾を左右に振り振りしている。
こちらも釣られて笑顔になってしまう。好意的な感情に、心をほぐしてもらっている感覚。
二人一組になって、とか班を作ってなんていう状況になった時、内心ではいつも孤立を過ぎらせ怯える自分がいたが、率先して組んでくれると、それだけで単純に……とても嬉しい。
「それじゃあ奥を調べてこよう。ノシイシも二手に分かれていれば数も少なくて対処できるだろうけど、もし分かれていなかった場合は一度合流しよう」
「でも八角形ボードの貴方なら一人で終わらせられちゃうかもね」
「それなら楽じゃのう」
「シマヅ、その時は俺達の仕事を残してくれよな。共同依頼なんだからさ」
「ああ、分かったよ」
「真ん中の小山に渡れる橋も奥には設置されているからそこでも合流できるが合流前に見つけた時は、そうだな……こいつで合図を送ってくれ。魔力石で反応する飛翔発炎筒だ」
赤い筒を渡された。
車に乗せていたものと似ている、事故を起こした時に後続車へ前方に障害物がある事を知らせるために置くものだ。
筒の底には魔力石がついている。
赤い色を宿しているとなると、炎属性が付与されているのだろう。
「魔力石に魔力を注ぐと空に撃ち上がるようになってるんだ」
「こういうものもあるんだな」
「パーティを組む上で飛翔発煙筒は持っていて損はないから是非購入をお勧めするよ。結構安いんだぜ」
「今度買ってこよう」
準備も終えて、二手に分かれる。
俺達は右側から渓谷を進んでいくとした。
少し奥へと進めばロープを使わずとも降りられるような傾斜が作られているのだとか。
そのあたりには水場もある、ノシイシがいるとすればそういった水場付近らしい。
「うちは鼻が利くけど、ノシイシは意外と綺麗好きであまり匂いが辿れないニャ」
「へえ、綺麗好きなのかぁ」
「しかもノシイシは肉質も良いから捌くのもありニャ」
「えっ、魔物って食べれるの?」
「勿論食べれるけど生で食べるのは駄目ニャ。普通にお腹壊すニャ」
もし食料に困ったらノシイシを倒して捌いてみよう。
「――むむっ、こっちに匂いが!」
「本当か! 行ってみよう」
奥へと進むにつれて渓谷の足元も荒れてきている。
歩道として作られてはいるものの、左手側は崖で落下防止の措置は無し。
以前の俺なら恐れていたけれど、今なら死なないのが分かっているから特に恐怖は感じない。
下を何度か見てみたがノシイシは全然いないな。
もっと奥に進むしかないな。
意外とこの依頼、時間が掛かるかも。
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