俺は君に恋をする、君は俺を怪異にする。

智恵 理陀

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8.発砲

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 田島が学校を休んで四日になる。
 風邪ではないとのことで、どうやら登校拒否――不登校らしい。鼎ちゃんの言う通りに、なっていっている。
 ……鼎ちゃんは銅鐸を叩くとなにか――なんでも? 願いごとが叶うのか?
 いきなり高校生になったり、いきなり隣に引っ越してきたり、村での崇められ方も普通じゃないし願いごとを本当に叶えてくれる存在なのだとしたら、これまでの疑問に納得がいく。
 残る大きな疑問はやはり、鼎ちゃんは何者なのかということだ。
 そんな俺の心情とは裏腹に、高校生活は普通に楽しく過ごせているわけなのだから折角心の中に巣食った疑問も有耶無耶になっていく。

「そういえばクラスで早速不登校が出ちゃったね」
「そ、そうだね……」
「元から学校に来たくはなかったのだろう」

 原因は俺にある。
 きっとでも、おそらくでもなく、確実に。
 俺をきっかけに鼎ちゃんが銅鐸を鳴らして、何かしたのだ。

「来ない者の話をしても仕方ない、別の話をしよう」
「あ、そういえば部活はどこか入るか決めたりしたー?」
「ふむ、部活か……」
「鼎ちゃんは何か部活動に興味があるのー?」

 今日は屋上で春音さんも交えて三人での食事だ。

「長らくこれといったスポーツはやってこなかった、今は様々な部活動があって興味深いが多すぎてのう」

 鼎ちゃんがどこかの部に所属して運動している姿は中々想像できないな。

「董弥はどこか気になる部はあった?」
「いいや、俺はどの部にも所属しない――いわゆる帰宅部で過ごすつもり」
「折角だから何か初めてもいいんじゃないか? わたしと一緒にスポーツで青春しないかい?」
「うーん、今更始める気にもなれないんですよねえ……」
「そうかー、お前さんと青春の汗を流したかったぞう」
「それは申し訳ないですね、青春の汗を流すのは体育の時間だけで我慢してください」

 弁当を食べ終えて片付けつつ、奥のベンチでまた横になっている松野くんを一瞥。彼は……あの様子なら運動部にも所属していないか。
 放課後になるやのそのそと歩き出して消えていくし。

「春音さんはどこか運動部に入るの?」
「まだ悩んでるんだー。何か始めてみたいんだけれどねっ、テニス部とか!」
「テニス部かぁ」
「漫画でもよく題材にされてるから、面白そうなんだけど、いざやってみるとなると難しそうよね」
「うむ。確かに、よく題材にされていたな。エースになれ! という漫画なんかはもう最高だった」
「あっ、知ってるそれ! めっちゃ昔の漫画よね!」
「う、うむ……そんな昔だったか……」

 これは時間の感覚に差異が生じているのではなかろうか。
 ちょっとしたカルチャーショックに鼎ちゃんは頬を掻いていた。

「今はどんなテニス漫画が流行なのだ?」
「やっぱりてにぷりかなー?」
「てにぷり?」
「テニスで王子様ってやつよ、聞いたことあるでしょー?」
「お、おー! あれかー」

 あ、知ったかぶりだなこれは。
 やはり鼎ちゃんは世代自体が違う。最近のものに関しては疎いと見た。流行りについていこうと必死だ。素直に知らないなら知らないでいいんだよ。
 その辺に関しての勉強をするべきかもしれない。
 それから午後の授業を終えて放課後。
 部活の見学をするという春音さんに、興味津々の鼎ちゃんはついていってしまった。
 俺はというとやはり部活には興味が湧かないために断りを入れて先に帰るとした。
 やはり帰宅部が最高だよ、うん。
 今日は一人での帰宅となる、少しそれは寂しいな。
 鼎ちゃんが何か部活を始めたら一人で帰る日が増えるとなると、それはちょっと嫌だ。
 願わくばどの部にも所属しないでもらいたい。
 これも俺の願いごとだ、鼎ちゃんに届くのだろうか。
 自宅近くまでたどり着くと、ふといつも通る空き地に目がいった。
 空き地にはなじまない、黒スーツのスキンヘッドの男性が立っている。眉毛もなく、見た目の威圧感が半端ではない。
 しかもなんだろう、まるで切り取ったかのように雰囲気が違う。
 そういえば夕方時なのにここらは人っ子一人いない、世界が変わってしまったかのようだ。

「――きみ」
「は、はいっ?」

 この雰囲気から早く脱出すべく速足で通り過ぎようとしたその時、話しかけられて軽く肩が上下した。

「鼎の、友人かい?」
「えっ、鼎ちゃんを知ってるんですか……?」
「ふっ、ちゃん付けとはこれまた親しい仲のようだな」

 恐る恐るながら、空地へと歩み寄る。

「わたしの名前は木造隆元、きみは?」
「も、最上下董弥です」
「最上下家の子か」

 俺の家族についても知っているようだ。
 俺の知らない親戚……か?

「鼎が街にやってくるとは思いもよらなかったよ、君が願ったのか?」
「……っ!?」

 鼎ちゃんの、あの妙な力を知っているのかこの人は……。
 だとしたら鼎ちゃんがどのような存在についても、聞けるか?

「その反応、そうか……君が願ったんだな」
「願いごとについて、鼎ちゃんのあの力について何か知ってるんですか……?」
「知っているとも。あの子の正体もな、君は聞かされていないのか?」
「え、ええ……」
「そうか、まあいい。どうせいじくりまわされているだろうな、鼎の側近となると」
「いじくりまわされている……?」
「あの子は危険だ、既にこの街で力を行使している」

 一方的に話をされてこちら側の疑問が解消されない。
 少しは会話のキャッチボールをしてもらいたい。

「きみはあの子とはどれほどの付き合いになる?」
「ん……子供の頃からなので、十年ほどは」
「そうか、それほど付き合いが長ければ異変には気づくだろう」
「異変……」

 見た目の変わらない、少女。
 それは確かに、異変だ。

「あまり詳しくは聞かされていないようだな、珍しい」
「鼎ちゃんについて何か知っているんですか?」
「知っているとも、十分に知っている。あれは恐ろしい怪異だ」
「怪異……?」

 なんか、妖怪とか幽霊とか、そういったもの、だったか?
 鼎ちゃんもそのような存在だと?

「先ずはご挨拶をしておかなくてはな、宣戦布告というか……ああ、サラリーマンが名刺を渡すようなものだ」

 すると木造さんは、スーツの内側から何か取り出した。
 木製でできたそれは――見た目からして小型の、ショットガン。映画だかで見たことがあるぞ。確かマッドマックスとかいう銃だ。
 服のふくらみは気になっていたが銃を隠していたなんて――ていうか本物? エアガン? エアガンだよな流石に。
 にしてもよくできているな、本物のような重厚感がある。

「えっ」

 ――唐突に彼は銃口を、俺の頭部に向けた。
 そこからは、耳を劈く銃声と、視界が暗転した。
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