怪異飯!

智恵 理陀

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プロローグ

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 道路端でしゃがんでいる少女が目に入った。
 彼女の名前は知っている、同じクラスの――小鳥遊葵だ。
 クラス内での所属するカーストは上位、ショートボブがよく似合う可憐な少女。俺と彼女との接点は特になし。印象的に、高嶺の花といった感じ。
 彼女の足元には何かが倒れていた。
 黒と茶が全体に入り混じった模様の体、耳と尻尾――猫だ、猫が横たわっている。猫の口からは血が出ているように見える。ここからでは遠くてはっきりとは確認できないが、あの赤は、血で間違いない。
 状況からして、車に轢かれたってとこか。
 そんな猫を彼女は見つめ、鞄から何やら取り出していた。箱、のようだが、それを額に当てて、祈るように目を閉じていた。
 その瞬間、彼女の周辺が歪んだ。真夏日のコンクリートが熱を帯びて地面が歪んで見えるような――あれ、なんていうんだっけな、えっと、そう、陽炎、陽炎だ――陽炎のような、歪み。
 その歪みが収まると、子猫はむくりと起き上がった。
 先ほどまで生気もなく倒れていたというのに、尻尾を振って元気そうにしていた。
 彼女は猫に人差し指を向ける。
 猫は彼女のその細い指をくんくんと嗅いで、舐めて、すりすりしていた。
 人懐っこい猫らしい。
 それはいい、それはいいとして。
 その前の、一連の流れ。そこが重要だ。
 瀕死だった子猫を彼女は、治した?
 ……治した。多分、治したのだ。
 彼女は子猫に手を振って見送っていた。子猫の足取りはしっかりしていてすっかり元気だ。
 しかし彼女のほうはというと、歩き出して数歩ほどで上体がぐらつき、近くの塀へともたれこんでいた。
 口を抑えている、咳をしているようだ。
 俺はすぐに駆け寄って彼女に声を掛けた。

「大丈夫?」
「だ、大丈夫……」

 かすれた声。
 顔色が悪くなっている、とても大丈夫そうには見えない。

「貴方は……えっと、羽島……冬弥くん?」
「はじまじゃなくはしまね」
「あ、ご、ごめんなさいっ……」
「別にいいけど」

 よく間違えられる。
 はしま、はじま、はねじま、はねしま――まあ……俺の名前は、今はどうでもいい。
 彼女の身を心配するも、彼女は微笑を浮かべて大丈夫、心配ないと繰り返す。
 何度も頭を下げて、さっと箱を隠すように身をよじり、彼女は箱を鞄の中へと入れる。
 一瞬、その箱がちらりと見えた。
 長方形の木箱だった、様々な形の模様が入り混じるように彫られており、所々が黒ずんでいたり欠けていたりしているのもあって古めかしい。
 ぱっと見た時の印象は、なんというか……禍々しい感じ。

「それじゃあ……」
「あ、うん」

 立ち去る彼女を、しばらく見送った。
 本当に大丈夫なのだろうか。
 ……否、大丈夫じゃあないだろう。
 あれは確実に、異様、異質、――怪異。
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