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第八話.国王
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「ガベル殿、彼を独り占めするのはよくないのでは?」
「ジュヴィか、なんだ? お前も彼と話をとな。はて、私は恋路の障害物になっていかね?」
そこへ現れたのはジュビィさんだった。
甲冑はつけておらずドレス姿、町での彼女とは違い、鎧を解いた事で大人の魅力が解放されたかのようで見蕩れてしまう。
似合ってるなあ、綺麗な人は甲冑でもドレスでも何でも着こなしちゃうね。
「こ、恋路などとは、違います! 他の方とお話しする機会を設けてあげてはいう話です!」
「他の、といってもお前が一番話をしたいのだろう?」
「なっ、い、いえ、否定はしませんが……」
しかし他にも俺と話したそうにしている人の視線は感じる。
俺が刺青の者であるのは着実に広まっている、ほんの少しずつではあるけど国中に広がるのだけは避けたいなあ。
そんな彼らを一瞥してガベルさんは声を潜め、
「奴らは自分の派閥に刺青の者を取り入れたい、刺青の力を利用したい、政治を大きく動かせる可能性のある者として見て、醜い考えしか持っておらん。話させるだけ損だ」
「ガベル殿、誰かに聞かれでもしたら大変ですよ」
「構わん、剣を握らん者共など眼中にない。民の叫びを聞かぬ者は欲に飢えた豚としか私は思わん」
酒を飲み干して堂々と彼は語る。
ミシミシと音が聞こえるのは何だろう。
ミネリルルさんのほうからだ、俺の使う予定だったナイフがやや曲がっている。
ガベルさんが語りながら見やる人達の中には彼女が慕っている人物も入っていたわけで。
……見なかった事にしよう。
「今日は国の重要役員も多いですね。ガベル殿、やはりこれは……」
「刺青の者を問題解決に引きずり込むのが目論見なのは言うまでもない。かくいう私もその一人だが」
「しかし貴方は国の事をちゃんと考えて、でしょう?」
「奴らよりはそれなりに、な」
この人は協力を求めている。
他の人達は、利用を企んでいる。
これは大きな違いだ。
それにこの人は協力を拒まれたらそれはそれでいいと思っている。
国の事はなるべく国の者で解決を、この人はそういうタイプだ。
「国王は――別の目的で近寄ろうとする者がいれば国の不穏分子の炙り出す、そのような目論見もあるに違いない。どこかで見ているであろうよ」
「つくづく嫌になりますね」
「嫌になるなら私だけにしておけ、彼を引き入れようと私が真っ先に名乗り出ているのだからな」
「むしろ尊敬に値します」
「そんなもの吐き捨てろ」
「呑み込みます」
「ゲテモノが好きなのか?」
「クセがあるものは」
仲の良さからくる二人の流れるような会話。
俺の入る余地もない。
「しかしこのような場は彼らにはいい勉強になるんじゃないかねえ?」
「いい勉強?」
「悠斗、見ろ彼らを」
言われて、俺は周りの人達に意識を移した。
「オルランテはいい国だが、どす黒く醜い部分もある。こそこそ端で喋ってる奴なんかは特に黒いもんさ。人の白黒を見分けるには最適な場だろう? 人間観察の勉強会になるぞここは」
「ガベル様、ほどほどに」
流石に我慢ならなかったのか、ミネリルルさんは睨みつけて彼に言う。
「ふっ、すまんな。酔いもあって今日は口が滑る」
この人はジョッキ十杯以上飲んでやっと酔うような肝臓の持ち主だ――絶対酔ってないんだよなあ。
この食事会には様々な目論見も絡んでくる。
単純に食事を楽しむ人はごく一部に過ぎない。
誰が黒なのかは俺ならすぐに分かるな、当然どんな奴を悪い奴にするかは俺の想像から設定させているのだから。
アリアは何人か見つめては照準を定めて、
「悠斗様、あのふくよかなおじさんはきっと悪い奴です!」
なんて悪人探しをしていた。
存分に人の見極めを学んでもらいたいものだね。
ちなみにそのふくよかなおじさんは多分、人畜無害の貴族だよ。
「ミネリルル、国王はまだ来ないのか?」
「はい、少々遅れるとお聞きしております」
裏で俺の監視や身の安全を確保すべく魔法師と兵士を潜ませて、何かあったらすぐに動ける位置に配置が完了した上で、確実に安全が保障されるまで国王は待機中。
先ほど会話中にそれらしい奴らは配置されていたのが見えたし、そろそろだとは思うのだが。
「多忙なお方ですので――あら、噂をすればなんとやら」
彼女の視線の先には、複数の護衛に囲まれてやってくる長髪白髪の男性。
冠や豪華な装飾をふんだんに施された服によって荘厳な外見となっていた。
誰がどう見ても国王、俺の物語はこういうところが幼稚かもしれない。
奥の扉から現れるや皆の視線は国王に集まっていき、合図もなく一斉に頭を下げていた。
遅れて俺とアリアも頭を下げる。
そうだった、国王が現れて皆頭を下げる流れは食事会では毎回決まりごとのようにされているのを忘れていた。
次はグラスを持って、国王に合わせてグラスを目線の高さまで上げる。
先ほどまで賑やかであったこの大広間に静寂が訪れた、誰もが口を開くのは無礼に値すると理解しているのだ。
「毎日に、人生に、幸福を得られぬ時があっても、今この時は幸福と思える時間を過ごそう……皆よ」
国王は長くは語らず。
グラスを上げて乾杯を促し、皆と共にワインを喉へと流し込む。
一つ一つの動作に、威厳がある。
しかしこれも皆がいるからそうしているだけ。
中身は割りと、腑抜けだったり。
「楽にしてくれ」
同時に、静寂から賑々しさが戻り始め、国王へ何人かが歩み寄る。
この食事会は乾杯後であれば短い時間ながら誰でも国王と話をする機会が設けられる。
真っ先に近づく者の中には純粋に国王を尊敬している者もおれば商談や交渉の持ちかけをする者など様々だ。
「さて、俺はそろそろ行くとしよう。悠斗、楽しむだけ楽しめよ。またな」
「はい、またどこかで」
ガベルさんは食事会を楽しみつつ周囲を歩き回って警戒に当たるのだ。
何気に仕事熱心な方である。
「悠斗、近くまで行くか? 国王様と話が出来るかもしれんぞ」
「じゃあちょっと近づいてみますか」
別にわざわざ近づかなくても国王から話しかけてくるんだけどね。
国王の近くへと寄りたいものの、やはりそう簡単にはいかない。
これはあれだ、例えるならば芸能人に寄っていくファンみたいなものだ。
国王は落ち着いた様子で一人一人丁寧に対応している、そんな中であるも彼の視線は一瞬俺のほうへと向けられる。
目が合った――国王の行き先は定められた。
「おや? こっちに来るようだ」
「ひゃっ、き、緊張しますっ」
周りにいる人達も自然と道を開けてくる。
いよいよ国王とご対面、か。
それとアリア、国王の前なんだから食べるその手に持ってる大皿その辺に置いたらどうかな。
誰も盗ったりしないよそれ。
「彼が……例の?」
「はい、陛下」
刺青の者、とははっきりとは言わず。
周りにもなるべくは伏せたい国王の意思をジュヴィさんも汲み取って言葉にはしなかった。
「私の名はエムブ・トウ・オルランテ、歓迎するよ。ゆうと、だったかな?」
「はい、最上下悠斗です。お会いできて光栄です」
アリアは俺の背中から顔を出して会釈していた。
直接話すのも恐れ多いといった様子で、小さな声で自己紹介。俺を盾にされても困るんだが。
「場所を変えよう、二人きりで話がしたい」
「陛下、それは……」
「心配するでない」
初対面の、それも国外の人間と二人きり――本来ならば考えられない話だが、これも刺青の者であるからこそ、というものだ。
「陛下、せめて私を」
とはいえ如何なる場合であっても二人きりにさせるというのはそうそうない。
周りの反応も大きく、何人かは既に俺が何者かと話し合っていた。
「目の届く場所にいる。問題なかろう?」
ジュヴィさんの申し出も断り、彼はバルコニーへ――俺もついていくが皆が注目していてどうにも肩身が狭い。
「ゆ、悠斗様っ」
「アリア、心配しないで」
「ジュヴィか、なんだ? お前も彼と話をとな。はて、私は恋路の障害物になっていかね?」
そこへ現れたのはジュビィさんだった。
甲冑はつけておらずドレス姿、町での彼女とは違い、鎧を解いた事で大人の魅力が解放されたかのようで見蕩れてしまう。
似合ってるなあ、綺麗な人は甲冑でもドレスでも何でも着こなしちゃうね。
「こ、恋路などとは、違います! 他の方とお話しする機会を設けてあげてはいう話です!」
「他の、といってもお前が一番話をしたいのだろう?」
「なっ、い、いえ、否定はしませんが……」
しかし他にも俺と話したそうにしている人の視線は感じる。
俺が刺青の者であるのは着実に広まっている、ほんの少しずつではあるけど国中に広がるのだけは避けたいなあ。
そんな彼らを一瞥してガベルさんは声を潜め、
「奴らは自分の派閥に刺青の者を取り入れたい、刺青の力を利用したい、政治を大きく動かせる可能性のある者として見て、醜い考えしか持っておらん。話させるだけ損だ」
「ガベル殿、誰かに聞かれでもしたら大変ですよ」
「構わん、剣を握らん者共など眼中にない。民の叫びを聞かぬ者は欲に飢えた豚としか私は思わん」
酒を飲み干して堂々と彼は語る。
ミシミシと音が聞こえるのは何だろう。
ミネリルルさんのほうからだ、俺の使う予定だったナイフがやや曲がっている。
ガベルさんが語りながら見やる人達の中には彼女が慕っている人物も入っていたわけで。
……見なかった事にしよう。
「今日は国の重要役員も多いですね。ガベル殿、やはりこれは……」
「刺青の者を問題解決に引きずり込むのが目論見なのは言うまでもない。かくいう私もその一人だが」
「しかし貴方は国の事をちゃんと考えて、でしょう?」
「奴らよりはそれなりに、な」
この人は協力を求めている。
他の人達は、利用を企んでいる。
これは大きな違いだ。
それにこの人は協力を拒まれたらそれはそれでいいと思っている。
国の事はなるべく国の者で解決を、この人はそういうタイプだ。
「国王は――別の目的で近寄ろうとする者がいれば国の不穏分子の炙り出す、そのような目論見もあるに違いない。どこかで見ているであろうよ」
「つくづく嫌になりますね」
「嫌になるなら私だけにしておけ、彼を引き入れようと私が真っ先に名乗り出ているのだからな」
「むしろ尊敬に値します」
「そんなもの吐き捨てろ」
「呑み込みます」
「ゲテモノが好きなのか?」
「クセがあるものは」
仲の良さからくる二人の流れるような会話。
俺の入る余地もない。
「しかしこのような場は彼らにはいい勉強になるんじゃないかねえ?」
「いい勉強?」
「悠斗、見ろ彼らを」
言われて、俺は周りの人達に意識を移した。
「オルランテはいい国だが、どす黒く醜い部分もある。こそこそ端で喋ってる奴なんかは特に黒いもんさ。人の白黒を見分けるには最適な場だろう? 人間観察の勉強会になるぞここは」
「ガベル様、ほどほどに」
流石に我慢ならなかったのか、ミネリルルさんは睨みつけて彼に言う。
「ふっ、すまんな。酔いもあって今日は口が滑る」
この人はジョッキ十杯以上飲んでやっと酔うような肝臓の持ち主だ――絶対酔ってないんだよなあ。
この食事会には様々な目論見も絡んでくる。
単純に食事を楽しむ人はごく一部に過ぎない。
誰が黒なのかは俺ならすぐに分かるな、当然どんな奴を悪い奴にするかは俺の想像から設定させているのだから。
アリアは何人か見つめては照準を定めて、
「悠斗様、あのふくよかなおじさんはきっと悪い奴です!」
なんて悪人探しをしていた。
存分に人の見極めを学んでもらいたいものだね。
ちなみにそのふくよかなおじさんは多分、人畜無害の貴族だよ。
「ミネリルル、国王はまだ来ないのか?」
「はい、少々遅れるとお聞きしております」
裏で俺の監視や身の安全を確保すべく魔法師と兵士を潜ませて、何かあったらすぐに動ける位置に配置が完了した上で、確実に安全が保障されるまで国王は待機中。
先ほど会話中にそれらしい奴らは配置されていたのが見えたし、そろそろだとは思うのだが。
「多忙なお方ですので――あら、噂をすればなんとやら」
彼女の視線の先には、複数の護衛に囲まれてやってくる長髪白髪の男性。
冠や豪華な装飾をふんだんに施された服によって荘厳な外見となっていた。
誰がどう見ても国王、俺の物語はこういうところが幼稚かもしれない。
奥の扉から現れるや皆の視線は国王に集まっていき、合図もなく一斉に頭を下げていた。
遅れて俺とアリアも頭を下げる。
そうだった、国王が現れて皆頭を下げる流れは食事会では毎回決まりごとのようにされているのを忘れていた。
次はグラスを持って、国王に合わせてグラスを目線の高さまで上げる。
先ほどまで賑やかであったこの大広間に静寂が訪れた、誰もが口を開くのは無礼に値すると理解しているのだ。
「毎日に、人生に、幸福を得られぬ時があっても、今この時は幸福と思える時間を過ごそう……皆よ」
国王は長くは語らず。
グラスを上げて乾杯を促し、皆と共にワインを喉へと流し込む。
一つ一つの動作に、威厳がある。
しかしこれも皆がいるからそうしているだけ。
中身は割りと、腑抜けだったり。
「楽にしてくれ」
同時に、静寂から賑々しさが戻り始め、国王へ何人かが歩み寄る。
この食事会は乾杯後であれば短い時間ながら誰でも国王と話をする機会が設けられる。
真っ先に近づく者の中には純粋に国王を尊敬している者もおれば商談や交渉の持ちかけをする者など様々だ。
「さて、俺はそろそろ行くとしよう。悠斗、楽しむだけ楽しめよ。またな」
「はい、またどこかで」
ガベルさんは食事会を楽しみつつ周囲を歩き回って警戒に当たるのだ。
何気に仕事熱心な方である。
「悠斗、近くまで行くか? 国王様と話が出来るかもしれんぞ」
「じゃあちょっと近づいてみますか」
別にわざわざ近づかなくても国王から話しかけてくるんだけどね。
国王の近くへと寄りたいものの、やはりそう簡単にはいかない。
これはあれだ、例えるならば芸能人に寄っていくファンみたいなものだ。
国王は落ち着いた様子で一人一人丁寧に対応している、そんな中であるも彼の視線は一瞬俺のほうへと向けられる。
目が合った――国王の行き先は定められた。
「おや? こっちに来るようだ」
「ひゃっ、き、緊張しますっ」
周りにいる人達も自然と道を開けてくる。
いよいよ国王とご対面、か。
それとアリア、国王の前なんだから食べるその手に持ってる大皿その辺に置いたらどうかな。
誰も盗ったりしないよそれ。
「彼が……例の?」
「はい、陛下」
刺青の者、とははっきりとは言わず。
周りにもなるべくは伏せたい国王の意思をジュヴィさんも汲み取って言葉にはしなかった。
「私の名はエムブ・トウ・オルランテ、歓迎するよ。ゆうと、だったかな?」
「はい、最上下悠斗です。お会いできて光栄です」
アリアは俺の背中から顔を出して会釈していた。
直接話すのも恐れ多いといった様子で、小さな声で自己紹介。俺を盾にされても困るんだが。
「場所を変えよう、二人きりで話がしたい」
「陛下、それは……」
「心配するでない」
初対面の、それも国外の人間と二人きり――本来ならば考えられない話だが、これも刺青の者であるからこそ、というものだ。
「陛下、せめて私を」
とはいえ如何なる場合であっても二人きりにさせるというのはそうそうない。
周りの反応も大きく、何人かは既に俺が何者かと話し合っていた。
「目の届く場所にいる。問題なかろう?」
ジュヴィさんの申し出も断り、彼はバルコニーへ――俺もついていくが皆が注目していてどうにも肩身が狭い。
「ゆ、悠斗様っ」
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