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第三章
14.大道組
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ようやくして表通りの一つへと出てすぐ右手に喫茶店はあった。
店内をちらりと窺うと奥の喫煙エリアの席に男性が一人、目深に帽子をかぶってコーヒーを飲んでいる。
おそらく彼で間違いないだろう。
店に入ると片言のお姉さんが接客をしてきた、待ち合わせをしていると告げると奥へ案内してくれた。
レトロチックで、コーヒーの香りが鼻腔を優しく満たしてくれる居心地の良い空間だった。
クラシックの音楽もこの店の雰囲気に実に合う。座り心地の良さそうなふっくらとした皮の椅子と、こげ茶色の木製テーブルを照らす淡い橙色の光は視覚から既に味わわせてくれる。
「初めまして、特務の多比良です。こちらは木崎」
「ああ、どうも。組織犯罪対策部の河原だ。まあ座ってくれ」
仕事上、特務は嫌われる立場になりやすいが彼はどうだろう。
歳は五十代? 無精髭を蓄えていて帽子から漏れる髪は白髪が多い。猫背気味で全体的にくたびれている印象を得る。
「煙草、いいかな」
「ええ、どうぞ」
「どうも」
煙草に火をつけ、ゆっくりと煙を天井へ向けて吐く。
「何か注文はするか?」
「ではコーヒーでも頼みますか」
先ほどの店員を呼び、三人分のコーヒーを頼むとすぐにコーヒーは運ばれてきた。
他に客はいないために俺達だけに集中できているからだ。表通りに店を構えているとはいえ客が少ないな。昼間は別の店を選ばれがちなのか、たまたま今が空いているのか、定かではないが経営のほうを少し心配してしまう。
けれども、そんな心配も、コーヒーの美味さがかき消してくれた。
ううむ……普通に、美味いな。事務所で淹れているインスタントコーヒーとは天と地との差がある。
香りもさる事ながらこのほどよいブラックの苦味、コクもあり深い味わいを口の中に広げてくれる。
淹れている人物を見ると初老の、威厳のある男性だった。
「うめぇよなあここのコーヒーは」
「ええ。本当に、美味しいですね」
木崎君も思わず目を見開いてコーヒーを味わっていた。
「いや、驚きました。普段は喫茶店にはあまり足を運ばないのですが、こんなにも美味しいコーヒーを提供する店があるとは」
「今は人が少ない時間帯なんだ、だからここを選んだ」
「なるほど」
それなら遠慮せずに話ができるし、コーヒーも静謐の中でじっくり味わえるな。
店の名前も覚えておこう、入る時にちらりと見た、店名は『シュガー』。砂糖を入れたほうがいいのだろうか、半分ほど飲んだら少し入れてみよう。
「それで? 話を聞きたいと連絡があったが」
「はい。大道組についてなのですが」
木崎君に視線を送る。
彼女はすぐにノートパソコンを取り出しそっとテーブルに置いてパソコンを開いた。
これから話す内容を文字にして打ち込む準備をしてもらい、何かあればパソコンから情報を取り出してもらう。
「特務が一体何故大道組を? まあ……教えられんかそれは」
「いえ。とある方から天国教団と反社会的勢力との関係が示唆されていまして、このあたりとなれば……」
「大道組しかおらんわな」
「はい。何か情報は得ておりませんか?」
「……天国教団は、大道組の先代が関わっていたという話は裏が取れている」
「先代が?」
大道組全盛期を背負っていた先代はまさに武闘派そのものだった。
今の組長とは違って血気盛んで組の稼ぎ方も大きく違い、毎年何かしらの事件を起こすか関わっているかで問題視されていた。自分が警察時代の頃は組織犯罪対策部に所属してなくてよかったと、正直思っていたね。
「今の五代目からも直接話は聞いている、組の中でも先代と当時の一部の幹部が天国教団と何かしていたようだが、詳細は不明らしい」
「では現在も天国教団と組との関係で考えられるのは……その一部の幹部が引き続き関係を結んでいる、とか?」
「かもな。しかしそう思わせているだけかもしれん」
自分達に手が及ばないようにするために二分した可能性も考えられる。
今の大道組が天国教団と関わっていない、そう判断するにはまだ早い。
「先代と天国教団が関係を築くきっかけとなったのは、今岡夕貴という男だ」
「今岡夕貴? 一体何者なんです?」
「大道組のお抱え弁護士が紹介してきたらしい、その男が先代に天国教団について教えたと俺は見ている。先代と一部の幹部でしか扱わない極秘の仕事も増えていったのもその時期からだ」
「彼の写真か何かありますか?」
「まともなものはないな、あるとしても後姿とかで見ても何も参考にならんものばかりだ。俺らも調べているんだが、何も掴めていない」
今岡夕貴か……気になるな。
ささみちゃんに一応名前検索をかけてもらおう。全国に同姓同名の人間がどれほどいるかは分からないが、怪しそうな人物が見つかる事を祈ろう。
「知っていると思うが先代は自殺している。一部の幹部は行方不明。幹部の下についていた人間も一緒に組から離れて大道組は大きな打撃を受けた。原因と思われる今岡夕貴は組も何が何でも探したいだろうな」
「大道組はそういった捜索の動きは?」
「大々的にはやっていない。奴は今海外の連中が土地を買い漁って密かに乗っ取ろうという企みの妨害や、マフィアやギャングを相手にしていて忙しいようだ。下っ端の連中にはちょくちょく探させてはいるらしいが、まあそう簡単に見つかるもんじゃあないだろう」
「なるほど……良い情報が聞けました、ありがとうございます。大道組を探るより今岡夕貴を探したほうがいいかもしれないな」
「それともう一つ。先代の裏家業の一つに薬物関係の稼ぎがあったが、一部の幹部ってのは多くがその責任者だったらしい」
「薬物関係の責任者……ですか」
「田舎や山奥に小さな工場を建てて、野菜や果物の収穫工場のように見せかけて薬物を作っていたりしたと一時期のみ関わった下っ端が言っていた。平輪山のどこかにも探せばあるかもしれないが、天教真神会が構えてるのもあって大規模捜査がしづらいんだよなあそこは」
「工場……」
消えた一部の幹部。
責任者とあれば薬物関係で製造や運用の知識も相当あった者達。
……今岡夕貴に引き抜きにあった?
「一つお聞きしても?」
「ああ、なんだ?」
「先代の自殺について、把握しているだけでもいいので詳しくお聞かせ願えますか」
詳細が抜けている部分が多い。
これも人数不足や組織間の軋轢が原因か、この際に不明な点は明らかにしておきたい。
「……遺書には、五代目を大道全秋にするという旨が書かれていたのみだったそうだ。死因は分析不明の薬物で、一部にドラッグが使用されているくらいしか分からなかったと聞いている」
「ドラッグが? ではその自殺で使われた物こそが……」
「お前らの予想通りのものだよ。最初に作られた――自殺薬と見ている」
まさか、そこに行き着くとは。
特務ではこの疑惑に関しては浮上はしていたが、直接の調べは進んでいなかった。
一応五代目もマークしておくべきか? 悩ましいな。
今の話を聞いた限りだと、優先的に調べるべきなのは今岡夕貴と消えた幹部の行方であろうが。
「当時の特務にこいつは報告してねえ」
「え、どうして……」
困惑の色を見せる木崎君を横目に俺は分からなくもないと、心の中で呟く。
矜持もあるだろうし、当時を遡ると俺はまだ警察時代だったが特務特権という言葉は知っていた、仕事を横取りされるという印象が強かった。
木崎君はまだ警察官でもなかった頃だ、当時の特務と警察官との間に生じていた軋轢は知らない。
「お前らに特務特権で仕事を奪われると思ったからな。こっちも追い込みかけたいところで、はい受け渡し――は避けたかったんだよ。まあその後は別にこれといったもんは見つけられなかったがよ。特務とはやりとりも接触の機会も無かったから随分と間が空いちまったな」
「あの、天国関係であればですね――」
「いいんだ木崎君、いい」
「で、ですが……」
当時の特務に報告して天国管理委員会が調査をすれば何か発見できたかもしれないが、今更掘り返してもしょうがない。
ここは話を過去に戻すより先に進めようじゃないか。
「今の大道組はまだドラッグ家業に手を出しているのですか?」
「いいや、薬はご法度としたらしい。五代目は反社とは思えねえくらい全うな仕事に幅を広げているよ、どうせ見せ掛けだろうがな」
しかしここ数年は大道組はこれといった事件は起こしていない。
血の気の多い連中も多いだろうに、その管理能力や管理体制は相当に優れているのではないだろうか。
「では街で密かに売られているドラッグは……」
「外人の売人だろうな、売っているのもどうせ粗悪品だ。大道組に知れたらただでは済まねえってのによくやるもんだよ」
「これは捜査上で得た情報なのですが――」
伊部さんから聞いたドラッグの取引に関する情報を河原さんに話してみた。
もう得ている情報かもしれないが、一応のためだ。
「ほう、そのような取引をしているのか……。いい情報を聞いた、助かるよ」
「いえ。捜査の役に立てて光栄です」
どうやらこの情報はまだ得ていなかったらしい。頂いた情報のお返しが少しでもできてよかった。
今後は報告漏れは防いでいきたい。情報を与えれば返す、そういった助け合いで良い関係を作っていかなければ。
――ふと喫茶店へ一人の男性客が入ってきた。
我々と同じくスーツ姿、しかし高級感ある煌き滑らかなその生地は相当なブランドスーツだと一目で分かる。
店内はカウンター席もテーブル席もまだ空席が目立つ。
そんな中であるのに、我々の隣の席へと座る。着席してすぐに煙草を吸っていた、なるほど喫煙者か、とは一瞬思うものの喫煙席を選ぶとしても、ずっと手前の空席全てを無視して隣に座るのは些か妙だ。
「そう警戒しなさんな、俺はここのコーヒーを飲みに来ただけなんだぜ。あんたらもおかわりが欲しけりゃあ大人しくしてなよ」
「……貴方は?」
「大道組五代目組長、大道全秋だ」
店内をちらりと窺うと奥の喫煙エリアの席に男性が一人、目深に帽子をかぶってコーヒーを飲んでいる。
おそらく彼で間違いないだろう。
店に入ると片言のお姉さんが接客をしてきた、待ち合わせをしていると告げると奥へ案内してくれた。
レトロチックで、コーヒーの香りが鼻腔を優しく満たしてくれる居心地の良い空間だった。
クラシックの音楽もこの店の雰囲気に実に合う。座り心地の良さそうなふっくらとした皮の椅子と、こげ茶色の木製テーブルを照らす淡い橙色の光は視覚から既に味わわせてくれる。
「初めまして、特務の多比良です。こちらは木崎」
「ああ、どうも。組織犯罪対策部の河原だ。まあ座ってくれ」
仕事上、特務は嫌われる立場になりやすいが彼はどうだろう。
歳は五十代? 無精髭を蓄えていて帽子から漏れる髪は白髪が多い。猫背気味で全体的にくたびれている印象を得る。
「煙草、いいかな」
「ええ、どうぞ」
「どうも」
煙草に火をつけ、ゆっくりと煙を天井へ向けて吐く。
「何か注文はするか?」
「ではコーヒーでも頼みますか」
先ほどの店員を呼び、三人分のコーヒーを頼むとすぐにコーヒーは運ばれてきた。
他に客はいないために俺達だけに集中できているからだ。表通りに店を構えているとはいえ客が少ないな。昼間は別の店を選ばれがちなのか、たまたま今が空いているのか、定かではないが経営のほうを少し心配してしまう。
けれども、そんな心配も、コーヒーの美味さがかき消してくれた。
ううむ……普通に、美味いな。事務所で淹れているインスタントコーヒーとは天と地との差がある。
香りもさる事ながらこのほどよいブラックの苦味、コクもあり深い味わいを口の中に広げてくれる。
淹れている人物を見ると初老の、威厳のある男性だった。
「うめぇよなあここのコーヒーは」
「ええ。本当に、美味しいですね」
木崎君も思わず目を見開いてコーヒーを味わっていた。
「いや、驚きました。普段は喫茶店にはあまり足を運ばないのですが、こんなにも美味しいコーヒーを提供する店があるとは」
「今は人が少ない時間帯なんだ、だからここを選んだ」
「なるほど」
それなら遠慮せずに話ができるし、コーヒーも静謐の中でじっくり味わえるな。
店の名前も覚えておこう、入る時にちらりと見た、店名は『シュガー』。砂糖を入れたほうがいいのだろうか、半分ほど飲んだら少し入れてみよう。
「それで? 話を聞きたいと連絡があったが」
「はい。大道組についてなのですが」
木崎君に視線を送る。
彼女はすぐにノートパソコンを取り出しそっとテーブルに置いてパソコンを開いた。
これから話す内容を文字にして打ち込む準備をしてもらい、何かあればパソコンから情報を取り出してもらう。
「特務が一体何故大道組を? まあ……教えられんかそれは」
「いえ。とある方から天国教団と反社会的勢力との関係が示唆されていまして、このあたりとなれば……」
「大道組しかおらんわな」
「はい。何か情報は得ておりませんか?」
「……天国教団は、大道組の先代が関わっていたという話は裏が取れている」
「先代が?」
大道組全盛期を背負っていた先代はまさに武闘派そのものだった。
今の組長とは違って血気盛んで組の稼ぎ方も大きく違い、毎年何かしらの事件を起こすか関わっているかで問題視されていた。自分が警察時代の頃は組織犯罪対策部に所属してなくてよかったと、正直思っていたね。
「今の五代目からも直接話は聞いている、組の中でも先代と当時の一部の幹部が天国教団と何かしていたようだが、詳細は不明らしい」
「では現在も天国教団と組との関係で考えられるのは……その一部の幹部が引き続き関係を結んでいる、とか?」
「かもな。しかしそう思わせているだけかもしれん」
自分達に手が及ばないようにするために二分した可能性も考えられる。
今の大道組が天国教団と関わっていない、そう判断するにはまだ早い。
「先代と天国教団が関係を築くきっかけとなったのは、今岡夕貴という男だ」
「今岡夕貴? 一体何者なんです?」
「大道組のお抱え弁護士が紹介してきたらしい、その男が先代に天国教団について教えたと俺は見ている。先代と一部の幹部でしか扱わない極秘の仕事も増えていったのもその時期からだ」
「彼の写真か何かありますか?」
「まともなものはないな、あるとしても後姿とかで見ても何も参考にならんものばかりだ。俺らも調べているんだが、何も掴めていない」
今岡夕貴か……気になるな。
ささみちゃんに一応名前検索をかけてもらおう。全国に同姓同名の人間がどれほどいるかは分からないが、怪しそうな人物が見つかる事を祈ろう。
「知っていると思うが先代は自殺している。一部の幹部は行方不明。幹部の下についていた人間も一緒に組から離れて大道組は大きな打撃を受けた。原因と思われる今岡夕貴は組も何が何でも探したいだろうな」
「大道組はそういった捜索の動きは?」
「大々的にはやっていない。奴は今海外の連中が土地を買い漁って密かに乗っ取ろうという企みの妨害や、マフィアやギャングを相手にしていて忙しいようだ。下っ端の連中にはちょくちょく探させてはいるらしいが、まあそう簡単に見つかるもんじゃあないだろう」
「なるほど……良い情報が聞けました、ありがとうございます。大道組を探るより今岡夕貴を探したほうがいいかもしれないな」
「それともう一つ。先代の裏家業の一つに薬物関係の稼ぎがあったが、一部の幹部ってのは多くがその責任者だったらしい」
「薬物関係の責任者……ですか」
「田舎や山奥に小さな工場を建てて、野菜や果物の収穫工場のように見せかけて薬物を作っていたりしたと一時期のみ関わった下っ端が言っていた。平輪山のどこかにも探せばあるかもしれないが、天教真神会が構えてるのもあって大規模捜査がしづらいんだよなあそこは」
「工場……」
消えた一部の幹部。
責任者とあれば薬物関係で製造や運用の知識も相当あった者達。
……今岡夕貴に引き抜きにあった?
「一つお聞きしても?」
「ああ、なんだ?」
「先代の自殺について、把握しているだけでもいいので詳しくお聞かせ願えますか」
詳細が抜けている部分が多い。
これも人数不足や組織間の軋轢が原因か、この際に不明な点は明らかにしておきたい。
「……遺書には、五代目を大道全秋にするという旨が書かれていたのみだったそうだ。死因は分析不明の薬物で、一部にドラッグが使用されているくらいしか分からなかったと聞いている」
「ドラッグが? ではその自殺で使われた物こそが……」
「お前らの予想通りのものだよ。最初に作られた――自殺薬と見ている」
まさか、そこに行き着くとは。
特務ではこの疑惑に関しては浮上はしていたが、直接の調べは進んでいなかった。
一応五代目もマークしておくべきか? 悩ましいな。
今の話を聞いた限りだと、優先的に調べるべきなのは今岡夕貴と消えた幹部の行方であろうが。
「当時の特務にこいつは報告してねえ」
「え、どうして……」
困惑の色を見せる木崎君を横目に俺は分からなくもないと、心の中で呟く。
矜持もあるだろうし、当時を遡ると俺はまだ警察時代だったが特務特権という言葉は知っていた、仕事を横取りされるという印象が強かった。
木崎君はまだ警察官でもなかった頃だ、当時の特務と警察官との間に生じていた軋轢は知らない。
「お前らに特務特権で仕事を奪われると思ったからな。こっちも追い込みかけたいところで、はい受け渡し――は避けたかったんだよ。まあその後は別にこれといったもんは見つけられなかったがよ。特務とはやりとりも接触の機会も無かったから随分と間が空いちまったな」
「あの、天国関係であればですね――」
「いいんだ木崎君、いい」
「で、ですが……」
当時の特務に報告して天国管理委員会が調査をすれば何か発見できたかもしれないが、今更掘り返してもしょうがない。
ここは話を過去に戻すより先に進めようじゃないか。
「今の大道組はまだドラッグ家業に手を出しているのですか?」
「いいや、薬はご法度としたらしい。五代目は反社とは思えねえくらい全うな仕事に幅を広げているよ、どうせ見せ掛けだろうがな」
しかしここ数年は大道組はこれといった事件は起こしていない。
血の気の多い連中も多いだろうに、その管理能力や管理体制は相当に優れているのではないだろうか。
「では街で密かに売られているドラッグは……」
「外人の売人だろうな、売っているのもどうせ粗悪品だ。大道組に知れたらただでは済まねえってのによくやるもんだよ」
「これは捜査上で得た情報なのですが――」
伊部さんから聞いたドラッグの取引に関する情報を河原さんに話してみた。
もう得ている情報かもしれないが、一応のためだ。
「ほう、そのような取引をしているのか……。いい情報を聞いた、助かるよ」
「いえ。捜査の役に立てて光栄です」
どうやらこの情報はまだ得ていなかったらしい。頂いた情報のお返しが少しでもできてよかった。
今後は報告漏れは防いでいきたい。情報を与えれば返す、そういった助け合いで良い関係を作っていかなければ。
――ふと喫茶店へ一人の男性客が入ってきた。
我々と同じくスーツ姿、しかし高級感ある煌き滑らかなその生地は相当なブランドスーツだと一目で分かる。
店内はカウンター席もテーブル席もまだ空席が目立つ。
そんな中であるのに、我々の隣の席へと座る。着席してすぐに煙草を吸っていた、なるほど喫煙者か、とは一瞬思うものの喫煙席を選ぶとしても、ずっと手前の空席全てを無視して隣に座るのは些か妙だ。
「そう警戒しなさんな、俺はここのコーヒーを飲みに来ただけなんだぜ。あんたらもおかわりが欲しけりゃあ大人しくしてなよ」
「……貴方は?」
「大道組五代目組長、大道全秋だ」
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